「ギーク!クリスとシェバを援護するよ!」
巨大なタコやイカのような怪物と化したアーヴィングがクルーザー船の周りで暴れ回る中、それが起こす波に耐えながら私はギークに向かって叫ぶ。
「ぐぉっ!それは分かっているけど……こんな波、サーファーでもなけりゃ無茶だぞ!?」
「さっき口の中に居た本体を見たでしょう!あれに攻撃を入れて怯ませられれば、きっと2人が船の砲台で狙える隙を作れるかも!」
「なるほど……俺としても、そんな分の悪い賭けは嫌いじゃない!」
すると、そんな私達の声が聞こえたのかジョッシュもボートを近づけてきて、こっちのボートへ大きなバッグを投げ入れてきた。その中身を見ると、なんとRPG-7の弾頭が……!
「2人共、コイツを使え!今さっき見せたお前達の腕なら、きっと彼らの役に立つハズだ!」
「ジョッシュ、ありがとう!ここまでしてもらっちゃ、私も帰ったら1番高いメニューを奢らなきゃだね!」
「そんな事を言ってる場合じゃない、メーズィさん!そろそろクルーザーに近くなるぞ!」
そうギークが言った矢先、クルーザー船の後ろに出たアーヴィングが起こした大波で、私達のボートは大きく揺らされる。
「船縁に掴まれ!振り落とされるな!」
「うっ、ぐぅぅ……っ!」
そんな大きな揺れによって胃の内容物が喉まで込み上げてくるも、私は姿勢を深く落として装填を終えたRPG-7を構える。
「食らえ!タコ野郎!!」
放ったRPG-7の弾頭が一つ目のような塊へと刺さり、アーヴィングは苦しむような咆哮を上げながら大口をクリス達の前に曝け出した。
「よし!ナイスタイミングだ、メーズィ!」
「これなら奴に……!!」
その隙をクリスやシェバは逃す事なく、砲台からガトリングやグレネード弾を発射し、その丸出しな本体に強烈な攻撃を浴びせていく。
「ぐぁぁぁ!この……クソ女が!!こうなったら……まず、お前からジックリいたぶってやる!!」
すると、アーヴィングは私達のに狙いを定めて触手をボートの周りに張らせてきて、船縁やモーターを締め上げてきた。
「まずい!このままじゃ、ボートが……!」
「ギーク!ジョッシュさんの舟に飛び乗って!ここは私が何とかしておく!!」
「だけど、それじゃメーズィさんが――うわっ!?」
それでもボートに残ろうとするギークを私は無理やりジョッシュのボートに突き飛ばし、それからバッグに残っていた弾頭を見て自虐的に少し笑った。
ゲームの世界に転生したとはいえ、こんな事するなんて初めてだな……!
「さ〜て……ここまでは折り込み済みだけど!」
意を決した私はピンを抜いて手榴弾をバッグに放り込み、ほとんどダメ元でジョッシュ達のボートへとジャンプする。
――その瞬間、ボートの飲み込もうとしたアーヴィングの触手達は大爆発によって盛大に吹っ飛んだ。
「うぉぉっ!?なんて真似するんだ!!」
「うぐっ……!メーズィさん、掴まれ!!」
「わぶぶっ……!!」
だが、運良く私はギークの手へ掴まる事に成功して、そのまま一気にボートへと引き上げられた。
そしてクルーザー船の方を見ると、その一撃によって大きく怯んだアーヴィングをクリス達が仕留めた様子も見えた……!
「あ〜よっしゃ〜!!何とか勝った〜!!」
ようやく一息つけた事に私は勝利の声を上げ、そのままギークの膝を枕にしてゴロンと横になる。
――だが、クリス達の方からは喜ぶような様子は一切見られない。一体、どうしたんだろう……?
ひとまず私とギークもクルーザー船に乗り込むと、そこにはタコみたいなプラーガから切り離されて肉塊同然となったアーヴィングの本体の姿が横たわっていた。
それを見たギークは、半ばキレ気味に奴へ銃口を突きつけた。
「この野郎……何を企んでいる!?」
「エクセラめ……"二流品"を押し付けやがって……!」
その言葉に思い当たりがあった私とシェバは、ついつい互いに顔を見合わせた。
「エクセラ?」
「それってトライセルのアフリカ支社を任されてる人、だよね……!?」
すると、そんな中でもクリスは迷わず携帯端末を取り出し、そこに映っているデータをアーヴィングに見せつけた。
「この実験施設は何処だ!?それに、ウロボロス計画とは何だ!?」
それを見た途端、虫の息だったアーヴィングは少し驚きながらも面白そうな表情を浮かべてくる。
「B.S.A.A.か……おめでたい連中だ。もうすぐ世界のバランスが変わるってのによぉ……!」
「何だって?世界のバランスが、変わる……?」
「そんな話、前に何処かで聞いたような……まさか!?」
ふと、そこで私は死んだレイナードさんから聞いた噂話の事を思い出した。それと同時にシェバも同じ結論に至ったらしく、その計画の名前を私より先に口にした。
「――ウロボロス計画ね!?」
「今更知って、どうする?……手遅れなんだよ、ウロボロスが世界を変えちまう……うぁぁあ!!」
「クリス!気を付けて!」
「まだ何かするつもりかも……!」
しかし、そんな私とシェバの心配を他所にアーヴィングは苦しみながらも、それでも私達に対して憐れむような嘲るような笑みを浮かべてみせた。
「クリス……?お前が、あのクリスか……あっははは!」
「何がおかしい!何を知っている!?」
「クリスよぉ……この先の洞窟に、答えはあるぜ……お前にとっては、地獄だがな……!」
そう言ってから、アーヴィングは酷く愉快そうな笑い声を上げる。クリスは時間の無駄だと言わんばかりにハンドガンの銃口を向けようとするが、それを咎めるようにシェバは彼の腕を下げさせた。
「悪くねぇ気分だ!……先に逝ってるぜ!お前らはせいぜい、もがいてみせな!!あっははは……は……」
そして、その言葉を最後にアーヴィングだったモノはズブズブ……と激しい豪雨と共に溶けて消え去っていった。
「一体、この先に何が待ち受けているんだ……?」
――そう呟いたギークの声は、私以外に聞こえる事は無かった。
私だって完全に思い出せてはいないものの、とてつもなく嫌な予感がするのは間違いない……!
◇◇◇
それから私達はアーヴィングの遺した"洞窟"に当てはまる場所がある運河の上流に赴き、そこでクリス達と共にジョッシュを残してボートから降りる。
「あのボート……どうやら、既に先客が来ていたみたいだな」
「シェバ、メーズィ……それにクリスとギークも、本当に行くんだな……?」
心配そうにボートから見守るジョッシュへ、私達は少し笑顔を浮かべながら"自分達の答え"を返す。
「ああ……勿論だ」
「ジルの事だけじゃないわ……私、ウロボロス計画も気になるの。きっと、これ以上にない脅威かもしれないわ」
「うん、シェバの言う通りだよ。世界のバランスを変える程の力……私達もクリス達もB.S.A.A.として、そんなものを放ってはおけない!」
「同感だ。それに、俺は……皆にプラーガを植え付けた、トライセルの事もあります」
そう返した私達に、ジョッシュは何処か不安を残しつつも信頼の眼差しを向けてくる。
「……どうやら、止めても無駄みたいだな。それなら、俺は本部に撤退命令の撤回と応援の要請を掛け合ってくる」
「ジョッシュさん……俺達の為にそこまでしてくれて、ありがとうございます」
「だから……お前らは、それまで死ぬんじゃないぞ」
そう言って、ジョッシュはボートを船着場から離し、洞窟の外へと戻りながら私達へ「健闘を祈る」と右手でジェスチャーを送ってくれた。
「行こう、皆……ここまで来たら、もう引き返す訳にはいかない……!」
クリスが少し辛そうに先頭を進んでいく中、不意にギークはシェバと私へ質問を投げかけてくる。
「アーヴィングが言っていた、あのエクセラという名前……俺には未だ信じ難いんですが、お2人は?」
「エクセラって名前で思い浮かぶとすれば基本、あのトライセル・アフリカの支社長だよね。だけど、そこの女社長がアーヴィングと繋がってるなんて……普通に考えたら変じゃない?」
「でも、さっきのテントでの書類を見たでしょう?まだ確証がある訳ではないけれど、きっと無関係では無いわ」
「ええ、俺もシェバさんとは同じ意見です。プラーガの改良……そんなもの、もし世界に流出でもすればロクでもない事になるのは確かだ」
「なるほど、今まで制御不能だったB.O.W.を指揮出来るって事に……それは確かに放っておけないかもね」
プラーガにはウィルスに対する強い耐性がある……つまり、それの裏を返せばB.O.W.が更にテロリスト達とかの格好の武器になるのは目に見えている。
嫌な話ではあるけど……トライセルからすれば、良い商品なのは間違い無いだろうね。
すると、そこへクリスも会話に割って入ってきた。
「だが……もしそうだとしたら、奴らはアフリカで何を企んでいる?」
「そこが分からないんだよね……アーヴィングがウロボロス計画の事を知っていたのにも、何か引っかかるような感じがするし……」
「……でも、この先に進めば分かるハズよ」
「そうですね……少なくともプラーガについては、言い逃れなんてさせないぞ……!」
そんな黒い雰囲気を漂わせるギークやシェバに寒気を感じながらも、私達は暗い洞窟の先へと歩いていく。
◇◇◇
少し進んで明るい場所に出た時、そこには入り組んだ洞窟の様相とマジニ達が残したであろう人骨の飾り付けがアチコチに見えてきた。
――だが、それに気を取られるより前に地面からは、1m近くあるクモのようなプラーガの変種"ブイキチワ"が姿を現した。
「何だ、これは……!?」
「プラーガだ!コイツら、宿主が居なくても生き延びられるように進化してきてる!」
「くっ……面倒な!!」
その私の言葉にクリスは動揺しながらも、的確な照準でハンドガンを撃ってブイキチワの数を減らしていく。
「おらおらおら!私のUMPの前に平伏せ〜!!」
「数は多いけど……よし!そこまで強くはない!」
「2人共、こっちは片付いたわ!今の内に行きましょう!」
そうして洞窟内を進んでいくと……またしても私達を分断するかのように、その途中で分かれ道に出くわした。
「また分かれ道ね……」
「さて……皆、どうする?今度は全員で行ってみるか?」
苦笑いをしながらクリスが冗談を言うと、ギークは真面目な様子で首を横に振ってくる。
「いや……ここもさっきと同じく、二手に分かれた方が良いでしょう。クリスさんとシェバさんは、そっちの方をお願いします」
「ここでも分断という訳か……だが、今は悠長にしていられる状況でもないからな」
「ええ、そうね……ジョッシュが掛け合ってくれているとはいえ、本部の撤退命令を無視している訳だから」
「まぁ、それは後で叱られる前提として……今は何としてでも、前に進む事を考えよう!」
そう私が皆を励まそうと大声を上げると、3人は大きな溜め息を吐いてから、フフッと一様に笑顔を浮かべたのであった。