シザーテイルに犯されかけた所をユウに助けられた後、私達は比較的安全な仮眠室で自分が持っている物と彼が拾ってきた道具を合わせて即席の武器を作っていた。
「よい、しょ……っと。ベリー、こっちの槍は完成したぜ!それにしても、棒きれの先端にナイフを括り付けて槍にするとか大胆な考え方だな!」
「まぁ、付け焼き刃的な感じだけどね〜。でも、これならユウの斧みたいに多少の距離を取りながらゾンビと戦えるでしょ?」
そう言って、私は「よくも調理用ナイフを寄越しやがったなテメー」とユウに視線で訴える。
すると、やはり彼も何かしら申し訳なく思っていたらしく、少しヘコんだ様子でスポーツバッグからスプレーを取り出してきた。
「ユウ、これってまさか……」
「あぁ!殺虫スプレーだ!」
「――って、いや救急スプレーじゃないんかい!」
なんという事でしょう、このクソガキめ……こんな状況で見間違えそうな代物を寄越してくれやがりましたよ!
「え?いや、だって……さっきみたいな奴が線路や構内にウヨウヨしだしてたから、きっと役に立つと思って拾ってたんだよ……」
「あ〜、分かった!分かったから!泣かないの!いい歳した青年がチワワみたく目をウルウルさせるんじゃありません!」
泣きそうになるユウを宥めながら、私は半ば強引に彼の手から殺虫スプレーを受け取るのであった。
全く……こんな子に助けられて、少しでも胸がキュン♥としちゃった私が恥ずかしいよ……。
◇◇◇
ハーブの調合も終えて戦闘の準備を整えた私達は息を潜めつつ、ノミをそのまま巨大化させたような"メガバイト"やシザーテイルの蔓延る駅構内を進む。
どういう訳か、私の頭の中にはラクーンシティどころか、ゾンビや虫の化け物についての知識が僅かにあるのだが……こんな状況だ、利用出来るものは利用させてもらうとしよう。
「うっ……アイツら、ゾンビの血を吸ってやがる……」
「ユウ、静かに……あまり音を出すと見つかるよ」
ゾンビに飛びかかって押し倒したり、ユウが片付けたゾンビの死体を食らっている様子からすると……どうやらあの化け物は、死体を食べた事による二次感染か何かで生まれた存在のようだ。
それ故、奴らも元となった昆虫程度にしか頭は回っていないのが救いではあるが……。
「だけど、どうするよ?あんなに数が居たんじゃあ、電車に乗り込もうにも見つかっちまうぜ?」
「それが問題なんだよね……あと3分くらいしかないっていうのに、上手く切り抜けられる方法が……」
ふと、そこで私はさっき仮眠室で準備を整えていた時にユウが酒の入った瓶も拾っていた事を思い出した。
「ユウ、バッグから酒瓶を出して……私に良い考えかあるの」
「へ?別に構わないけどよ……こんな物を使った、良い方法なんてあるのか?トランスフォー○ーよろしく、司令官が爆発みたいなのは止めてくれよ?」
おぅ、コ○ボイ司令官のトラウマを掘り起こすのは止めてやれユウ君。いくら私でも、ホワァァァ!!は勘弁したいですよ?
……と、それはさておき。私はユウから受け取った酒瓶の蓋を開け、その口に新聞紙を突っ込んで端だけを導火線のように露出させた。
「はい、これで即席の火炎瓶が完成です♪」
「おぉ〜流石ベリーさん、こんな物まで作れちゃうのか!」
「後は、こいつが上手く着火してくれるかだけど……よし!」
私は先程ユウから貰ったライターで即席火炎瓶の導火線に火を着け、それが瓶の口へ達する直前にシザーテイルやメガバイト共が集まっている方に投げつけた。
――ガシャン!と瓶が割れた瞬間、導火線の炎が中の酒に引火して激しく燃え上がる。
その火炎は死体に群がっていた虫の化け物共を一瞬で火だるまに変え、ギィギィと悲鳴のように鳴き声を上げながらビタン!バタン!と四方八方に跳ねたり暴れだした。
「ははっ!化け物虫のローストが山盛りだ!」
「ユウ、行こう!今のうちに電車へ!」
「おうともよ!」
奴らがパニックに陥った瞬間に、私達はピンポーンと発車のアナウンスを始めた電車へと乗り込み、そのまま急いで扉を閉じるスイッチを連打する。
だが、扉が閉まり始めたと同時に1匹のメガバイトが私の存在に気付き、大きく飛び跳ねて扉の隙間から上半身を乗り込ませてくる。
「くっ……早く閉まって――きゃあ!?」
しかも、そいつは前足をバタバタとさせて扉の近くにいた私を押し倒し、吸盤のように変化した口吻で胸に吸い付いてきたのだ。
「う、くぅ……♥は、離して……ひぐぅっ♥」
すぐさま抵抗しようと槍を構えるが、ぢゅ♥ぢゅう♥ぢゅ……ぢゅう♥と音を立てながら激しく左右交互に胸を吸われる度、私の頭は快感や熱っぽさがスパークして腕の力が抜けてしまう。
すると――
「駆け込み乗車はお止めくださいクソ虫がぁ!!」
ユウが斧を思いっきり振るって、無防備だったメガバイトの頭に突き刺す。
そして相手が怯んで私から前足を離した瞬間に強くキックして、奴を電車の中から蹴り落としてくれた。
「はぁ、はぁ……ベリー、またギリギリセーフだったな……大丈夫か?」
「う、うん……だけど、何か頭がボーッとする……」
「そうか、それなら少し座席で寝てると良い。到着するまで、俺が周りを警戒しておくよ」
ユウに抱きかかえられ、私は下半分が破けかかった胸元を押さえながら電車のシートに寝かされた。
心做しか、シザーテイルに噛まれてから胸どころか身体の中心が、イった直後みたいにジワジワって熱くなっていく感じがする……。
◇◇◇
「――おい!おい!ベリー、しっかりしろ!」
ふと目が覚めると、何故か慌ただしい様子でユウが私を揺さぶっていた。
「もう着いたの?随分と早かったね……」
「そんな訳ないだろ!何か「線路上で事故があった〜」とか放送が鳴った途端、急に電車が止まっちまったんだ!」
「えぇ、線路上で事故だって……?」
そう言って身体を起こそうとした時、ブルンッ♥タプッ♥と私の胸元が重くなっている事に気付く。
見ると、なんと服の破けていた部分でギリギリ隠れていたハズのC程度だった胸は、乳首の下半分がハミ出そうな程にまで大きくなっていた。
「あ、ははは……はぁ?な〜んじゃ、こりゃあ!?」
「うわぁ!ご、ごめんベリー!今のは見なかった事にするから!」
顔を真っ赤にしたユウが慌てて両手で目を隠したのを見て、私も慌てて電車の座席に散乱していたカーディガンでモロ見えしかかっていた胸元を隠す。
いかんいかん……Eカップくらいまでデカくなってしまった今の私の胸は、もはや青少年には刺激が強すぎる絵面だよ。
「ユウ、私の胸……いつからデカくなってたの?」
「いや、それがあんまり……うたた寝して放送が聞こえた時には、もうそんな感じになってたぜ」
「むぅ……マジですか」
そうなるとやはり、さっき虫共に噛まれたり吸われたりしたのが原因と見て間違いなさそうだ。
でも、いくら奴らが毒を持ってたからって……こんな短期間に胸がデカくなるような事なんてあるのだろうか?
それとも、何らかのウィルス……?何となくだが、そっちの方が私の脳内では肯定寄りな考えだ。
「とにかく、一旦電車から出てみよう……ここにずっと居ても、いつ電車は動くか分からないし」
「OK!それにしても、線路上で事故って一体何が――って、こりゃ酷いな!!」
先に電車から出ていたユウが驚いた声をあげ、それに続いて私も外に出てみると……次の駅に停まっている私達の電車の前は、先行していた他の電車が瓦礫の山と衝突していたのか大事故の様相になっていた。
反対側の線路に電車は無く、構内の時刻表を見ても到着はしばらく先になりそうだ。
「これじゃあ電車が進めない訳だ……仕方ない、こうなったら駅の外に行くしかないな!」
「本当こんな虫だらけな所、早くオサラバしないとね!」
そして、私とユウは駅の構内で唯一開いていた扉から職員用の連絡通路へと進んでいった。
◇◇◇
それから十数分後……地下鉄から繋がっている排気塔を上り終えた私とユウは、ゼェゼェと息を切らしながら同時に疲れた溜息を吐いていた。
……排気塔の道中にもシザーテイルやメガバイトが沢山いた為、それらを追い払うのに殺虫スプレーが役立ったのが救いと言えば救いだ。
「はぁ〜……すっごく疲れた……ノミとかハサミムシとか、しばらく見たくないよ〜」
「まさか、排気塔から地上へ出る羽目になるなんてな〜……だけど、ここは一体何処なんだ?」
「さぁ、分からないよ――って、もうゾンビ共が来てる!」
「マジか!?クソッ、逃げるぞ!」
息をつく暇もなく私達はゾンビ共から逃げる事となり、高い建物で入り組んだ路地裏を右往左往と駆け抜けていく。
そんな中、ふと私はゾンビが近くにいない扉を見つけて指差した。
「ユウ、あそこ!あの扉の方に逃げ込もう!」
「ラッキー!このまま逃げ回ってたら、いずれ疲れて食われちまう所だったぜ!」
私達は残っていた2本の即席火炎瓶をゾンビ共の足元へ投げつけ、その隙に扉を体当たりで開いてからすぐさま急いで閉じる。
すると、今度は入ってきた扉の横から地響きのような音が鳴り響き、その瞬間にドカンッ!!と近くにあった扉が爆発と同時に吹っ飛んだ!
「きゃっ!?」
「ベリー、危ない!!」
ユウが私を抱えて飛び退いてくれた為に怪我は無かったものの……どうやら此処でも、とんでもない事態が起こっているようだ。
「いたたた……ユウ、怪我は無い?」
「OK、全然へーきだぜ。だけど今の爆発で、俺達が入ってきた扉は開かなくなっちまったみたいだな」
「うわ、本当だ……蝶番どころか、扉そのものが歪んじゃってるよ。これならゾンビは入ってこれないだろうけど、別なルートで脱出口を見つけるしかないね……とりあえず、すぐそこに建物の地図があるからメモっておくよ」
そうして構造をカーディガンのポケットに入っていたメモに書き写す中、ユウは顎に手を当てながら頷いていた。
「ふむふむ、ここは"アップル・イン"ってホテルなのか……懐かしいな〜」
「ユウは来た事があるの?」
「親と喧嘩した時に、一度だけだけどな。バックパッカー向けで安い所なんだけど、最近はオーナーが変わってセキュリティ面で大改装したって聞いたな……」
「へぇ〜、そのセキュリティっていうのは?」
「わっかんねぇ。泊まった人達の噂だと、何か客室にまでセットされてるみたいだから嫌われてるっぽいけど」
「な〜んですか、そりゃ……」
そんなガチガチセキュリティ、安い宿泊費が売りなホテルでやっちゃダメな案件でしょうよ。
どうりで入った時から人の気配も……とはいっても、今は街全体でゾンビになってる人ばかりだから気配もクソも無いかもだけど。
「とりあえず、まずは爆発した扉の方を調べてみよう。ひょっとしたら、中で誰か怪我をしてるかもしれないし」
「正気か?こう言っちゃアレだけど、あの爆発じゃ中に誰か居たら絶対に助からないぜ?」
「ユウったら……それでも行くの。こういう時こそ助け合いが大事だって、そう教わらなかった?」
「こんなゾンビか人かも分からないって状況で……はぁ、分かったよ。行けばいいんだろ、行けば……」
私達は恐る恐る吹き飛んだ扉の向こうを覗く。
上へ伸びている非常階段の先は爆発や火事によってアチコチがボロボロになってしまっているが、配管が繋がる機材から蒸気が吹き続けている様子からどうやら此処はボイラー室だったようだ。
すると、その蒸気の先を見たユウが何かを見つけた表情で指を差して叫んだ。
「ベリー、あそこを見ろ!消防士が倒れてるぞ!」
「もしかしたら生きてるかも!ちょっとそこで待ってて!」
私は急いで倒れている消防士に近づき、生きているか確認する為に肩を叩いて反応を伺う。
しかし、いくら叩いても反応が返ってこないばかりか、既に顔から生気が消えて白くなっている……分かってはいたけど、やっぱりダメか……。
「ベリー……どうだった?」
「ダメだった……でも、他の消防隊もこっちに向かってきてるみたい。さっき、あの消防士の近くに落ちてた無線機から聞こえてきたの」
「よし、それならやる事は決まりだ!消防隊がゾンビ共に襲われる前に、早くホテルから脱出できる場所を見つけとかないとな!」
「うん、そうだね!」
そして、私とユウはボイラー室から再び中庭に戻り、別な扉から繋がっていたホテルの回廊へと進んでいく。
だが……そこも先程ボイラー室が爆発した影響かアチコチが吹き飛んで炎上しており、一部は天井が抜けて2階の廊下すら見えてしまっていた。
「こりゃまた調べるのが面倒な感じだな……ベリー、ここは一旦分かれて別々に探索するか?」
「ううん、ここはまとまって行動しよう……さっきは虫に襲われた事もあるし、私としては少し不安なの」
「あー……そうだったよな、ごめん。じゃあ、まずはこの部屋から――うわっとぉ!?」
するとユウが開こうとした瞬間、その部屋の扉は先程のような爆発を起こして、私と彼の間に炎の壁を作ってしまった。
この現象は、まさか……!
「バックドラフトだ!ユウ、扉を開ける時は隙間から煙が吸い込まれてないか気をつけて!」
「そういうの先に言ってくれよ!あ〜もう……せっかく一緒に行動するって言ったばかりなのに、また分断されちまった!」
「仕方ない……こうなったら、それぞれ分かれて探索するよ。ホテルにセキュリティ関連の仕掛けがあるなら、その途中で合流出来るかもだし」
「OK、分かった……ベリー、くれぐれも気を付けて進めよ!」
その言葉に大きく頷いて、私は炎越しのユウへ手を振ってからホテル内の探索を始めた。
◇◇◇
「さて……それじゃあ裏方の準備をしときますか」
ベリーの姿が完全に見えなくなった事を確認したユウは、軽薄そうな雰囲気をガラリと変えて一直線に2階の客室204号室へと向かう。
その部屋の壁面にはラクーン周辺の地図が描かれた計9マスの電灯パネルが飾ってあり、その内の「No.1」「No.2」と書かれたパネルが消灯していた。
「事前の話によれば、ここに配電室の鍵がしまってあるハズだけど……こんなセキュリティだと、やっぱり一筋縄ではいかなさそうだな」
ユウは以前宿泊した際にベッドへ隠していた狩猟用ライフルを取り出しながら、そのセキュリティについて推理する。
このホテルが改装されてから数回利用した際、新しく壁に掛けられている絵画の題名は、確か「No.〇〇」となっていた……と、そう考えると自然に答えは浮かんできた。
「――なるほど、仕掛けは読めたぞ。その消灯しているナンバーと同じ絵画に、ここを開く為の何かを仕込んであるな」
仕掛けを解く為に部屋を後にしようとしたユウは、ふとホテルの窓からピックアップトラックがフラフラした動きでゾンビを轢き倒している様子を見かけた。
「なんつー荒い運転してんだか……今の状況じゃ、車で逃げるのは厳しいだろうになー……」
そう言いつつ彼は装填し終えた狩猟用ライフルを構え、1〜3体ほどゾンビの頭を撃ち抜いてそのトラックが少しでも逃げやすくしたのであった。
2話目にしてC→Eに膨乳です。
すまんね。(だが私は謝らない)
なお、時系列的にはOB主達が異界クリア後の駅を辿って、未解決な獄炎に突入した感じとなっております……まぁノリと勢いで書いてるんで、多少のミスは大目に見てくださいm(_ _)m