あなたたちは人間牧場に転移してしまった! 作:上出淫愚☆ウェディング
――人間。
それは、我ら化物にとっての【究極の素材】である。
その頭の先端から足の爪先の一本に至るまで、余すところなく我ら化物に無限の富を与える金の肢体である。
人間とは。
人間とは、とても狡猾で、賢くはあるが……我ら化物が有する【ケイオス】を一切有していない。
故に。
人間は化物ではない。
故に我々は、人間を、【家畜】として扱うのだ。
このもじばけは・ばめんのきりかえ・してんのへんこうなどを・あらわしているよ
「……禁断の山、コリピサ山……親父に何度も行っちゃダメだと教えられた。人間がいるからって……」
まだ空が暗い中、一体の赤い鱗を持つ竜族の男が山を目前にしてバイクを止めていた。
男は思い出していた。まだ若き頃の記憶を。
幼き、父との約束の記憶だ。
男の父は言っていた。
〚コリピサ山には人間が暮らしている。500年前に絶滅寸前に追いやられたAランクの人間だ〛
500年前、人間牧場が今よりさらに盛んだった時代では、今よりも良質な素材に恵まれていたという。
中でも、Aランクの素材。あれは格別だ。
それを用いれば、男が乗るこのバイクはさらにスピードを増すだろう。
人間が生み出す素材は、化物の生活に根強く繋がっていた。
しかし。
だからこそだろうか。
当時の人間牧場は、利益を追い求めすぎてしまい……人間を絶滅寸前まで追い込んでしまったのだ。
人間は生きているだけで金を生む。
だというのに、その命を無駄に奪い、その命と身体を売ることで大金を得る人間牧場が増えてしまったのだ。
それゆえに、500年間政府は人間牧場に対し低級のEランク人間を家畜として育てることのみを認め、それ以上のランクの人間は特定の地区で監視。
放し飼いにして自然の中で繁殖させるという処置がとられたのだった。
男は、その話を幼い時から聞いてきた。
100年間、飽きながらも聞き続けたお話だ。
そんな物語の舞台の1つである、コリピザ山。
男は、この山の麓の駐車場にいた。
「この山に……Aランクの人間が……」
「どうしたの、レジュミん?」
「うおおおっと、ハールファリュムか。驚かせんなよ」
赤い鱗を持つ竜族の男――レジュミオン・ヴァラクスレーヴァは突如として、山を見つめていた自身の視界に入ってきた水の顔に驚いた。
その言葉は比喩でも何でもない。直喩だ。
ハールファリュム。水の頭に鱗の肌を持つ彼女は化物であり、水族の中では美少女と呼ばれている。
だが、暗い空と山肌を通した水の顔は少なくともレジュミオンにとって驚くべき事案であり、美しさを感じることはなかった。
「相変わらずだねっ、レジュミん!」
「何がだよ。……来てくれたんだな」
「うん! レジュミんの頼みだからね!」
ハールファリュムは、自身の胸部についている鱗に包まれた大きな水の塊2つを弾ませて、レジュミオンと久しぶりに出会えたことを喜んでいた。
レジュミオンは224歳、ハールファリュムは219歳。5歳差の彼らは幼馴染で、100年近く前までは一緒に公園で遊んでいた仲であった。
「……遅れた、か?」
「お、ローカロン! お前も来てくれたのか」
「先輩の、頼み、だからな」
片言で喋る碧肌で巨体の大男、オーク系鬼族のローカロンヴアルが、大きな馬に跨って駐車場へとやって来た。
彼は220歳で、レジュミオンと同じ学校に過去通っていた間柄であり、今でもレジュミオンのことを先輩と呼ぶ友情を忘れない男である。
「……本当に集まってるのね。こんな得体のしれない儲け話なんかに」
「RE-YU!? お前、来てくれたのか!?」
「来たくて来たんじゃないわよ。詐欺だった場合、誰があんたたちのような脳タリンの代わりに通報できるのかって話よ」
そう冷たく言い放つのはテレビモニターの頭をしたRE-YU。
テレヴィ系鉄族のRE-YUのモニターに写る顔画像もまた冷たい表情を浮かべているが、薄く、とても薄く赤いフィルターがかけられていた。
「私たちがピンチになったら助けてくれるんだ! ありがとうレユちゃん!」
「そ、そんなんじゃないわよ。私は、ただ……」
「ただ?」
「――っ、なんでもない!」
この4体はそろって幼馴染、と言える面子だ。
幼いころは共にやんちゃなことをした仲であり、今でもレジュミオンの昨夜の連絡に応じて今日の夜明け寸前に集結してくれるだけの仲の良さがある。
そんな4体の下に、1台の車が走って来ていた。
大分高級な車だ。
メタリックな光沢はもちろん、黒く塗られた車体はゴージャスな雰囲気を静かに醸す。
車体には金色の、貴族を示す紋章の他に銀色の狼の紋章が描かれていた。
「あの車は……?」
「政府の上院貴族の紋章……!」
「これはこれは、皆さんお早いお集まりで」
「あなたが俺に人間牧場のお誘いを送ったのか?」
「そうです! 私は靳・太狼。政府の農林省に所属する貴族でございます」
そう声高々に告げてきたのは銀色の毛をした狼頭の男。
見るからに高貴な出来のスーツに身を包み、メガネをクイッと上げていて、明らかに偉そうな雰囲気がある男だ。
「自己紹介はしたいところですが、もうすぐ夜が明けます。牧場の始まりの朝です」
「とっても胡散臭いと言うか……強引すぎないかしら。この話を聞かされたのが昨日の午後4時よ?」
「大変急な話なのは重々承知の上です。そうなってしまった理由も含め、人間がこの牧場に入った後にお話いたします」
「…………」
「まあまあ、とんでも急な話だったけど、収入はガッポガッポなんだろ? じゃあいいじゃねえか」
「そうだよ。Aランク人間の人間牧場を経営できるなんて、夢みたいなお話、逃さない手はないじゃん」
「うん、うん」
「…………はあ、ちゃんと説明してもらうからね」
「ええ、もちろんでございます」
彼らがここに集まったのはほかでもない。
Aランク人間を管理する人間牧場、その経営をこの靳・太狼から誘われたのだ。
昨日の午後3時に、レジュミオンの電話に繋がってきたのが最初だった。
あまりにも急な話。
翌日の夜明け前に集合なんて前日の午後にする話ではない。
しかし、人間牧場を経営するということはそれだけで大規模な収入を得ることが約束される黄金の仕事でもある。
故にレジュミオンはこれを受け入れ、旧友たちを誘ったのだ。
「それで、人間はどこにいるん、だ?」
「人間はあの山に。今回は3人捕らえてきてください」
「3人? 少なくないか?」
「まさか。3人だけでも黒字になるほどの経営ができますよ」
「へえ……なんで3人だけなんだ?」
「それ以上の捕獲はこのコリピサ山の人間の環境に強い影響を与えかねませんからね」
「前もって捕えていないのは何でかしら」
「あなた方に選定していただきたいからですよ。この山にいるのはどれもAランク人間として申し分ない逸材ですが、実際にあなた方のお眼鏡に敵うかは見ないことにはわからないでしょう。それを考慮した結果だとお考えくださいませ」
RE-YUが怪しそうに靳・太狼を警戒していると、彼らの背後が明るくなり始めていた。
夜明けだ。
「――では、お時間ですね。皆さま、この度はこの国家企業に賛同くださいまして、誠にありがとうございます! 長い挨拶は人間を山で捕獲した後にお話ししましょう! それでは、コリピサ人間牧場1日目の朝、人間捕獲作戦、スタートです!」
「「「うおおおおおっ!」」」
「……はあ。おーっ」
「皆さま、捕獲する人間は3人までですので! お忘れなきように!」