男勝りロリコンドマゾ女退魔師 赤坂燈火 作:お金ナイダー1号
ロリおかずオナニーをやめられない話1
明晰夢とは夢を見ていると自覚した状態で見る夢のことである。
「やめてっ! 痛いっ! 痛いよっ!」
といっても、はじめから明晰夢だったわけではない。
巷では「明晰夢を見る方法」なるものを研究し、実践している者もいるが、彼女はそういう方法論とは無縁だった。
繰り返し見るうちに自然と明晰夢になっていたのだ。
それに燈火の場合、そういう訓練をした者ができるように夢の流れを自分の意思でコントロールできるわけでもない。
夢の流れの通りに体が動く。
燈火の意思はそれを傍観している。
それが燈火の明晰夢だった。
「やめてっ! ぁぁぁあぁぁあああああああああッ!!!」
燈火がいるのは、むかし住んでいた家の玄関だった。
家の奥で少女が悲鳴を上げていた。
聞いているだけで身を引きちぎられるような悲鳴だった。
燈火は一瞬身動きを止めて、それから何かを察し、何かを決意したように機敏に動いた。
台所に向かい、そこで包丁を取り出し、声の方に駆け出した。
それでその先にいるであろう、悪魔の息の根を止めてやるつもりだった。
燈火は“それ”が行われている部屋の扉の前に付くと、立ち止まった。
これは退魔師だった母が残した遺産と言えるものだ。
母は訓練の度に言っていた。
燈火、いい?
妖魔はとても強く、狡猾よ。
だから私たち退魔師は慎重でなければいけないわ。
退魔師が敗れれば、誰もみんなを守れなくなってしまうのだから。
だから機会を窺わないといけない。
このときの燈火にも、それがわかっていた。
……わかってはいたのだ。
扉の向こうから、一際大きな悲鳴が聞こえるまでは。
「助けてっ! お姉ちゃんッ! 助けてぇぇぇええええええええッ!!!」
勝手に体が動いていた。
扉を蹴破るような勢いで部屋に突っ込んだ。
そして、最愛の妹の華奢な体に覆い被さるような姿勢になっていた悪魔の──実の父親の──脇腹に、手にした包丁を深く、深く刺し込んだ。
この行動が間違っていた。
それに気付いたのは
「あら? 随分と勇敢なお嬢さんね?」
部屋のさらに奥にいた、やたらとスタイルが良く、やたらと露出の多い格好で、人ならざる黒い翼を生やした女妖魔を見たときだった。
***
と、ここで今回の燈火の明晰夢は終わりを告げる。
いま燈火が住んでいる家のインターホンが喚いていた。
『おーい燈火! 燈火起きろー! 親友のシスター・トーレちゃんがお仕事を持ってきたぞー!』
ベッドから降りて、インターホンに向かって怒鳴り返す。
「うるせぇよ! 行くから待ってろ!」
赤坂燈火は寝間着を脱ぐと、いつも着ている服に着替える。
トレードマークになっている赤いシャツ。
黒いジャケット。
黒いスカート。
黒いタイツ。
赤い髪を適当にポニーテールにまとめて、対妖魔装備をベルトに着ける。
それで準備は完了だ。
『燈火ー♪ 燈火―♪ 起っきて起きて―♪』
「だから、うっせぇんだよ!」
もう一度インターホンに怒鳴って、燈火は家を出た。
***
この世界には妖魔と呼ばれる者たちがいる。
彼ら、彼女らは太古の昔から存在し、神の眷属たる人類を魔性の力で堕落の道に引きずり込もうとしてきた。
かつて人類は、妖魔の誘惑によって完全に堕落の道に進みかけたことすらあった。
しかし人類も易々と妖魔たちの思い通りにはならなかった。
人類の主たる神の力。
大自然がもつ霊力。
人類がそもそも持っていた精神の力。
これらを借り、活用することで、妖魔の人知を超えた魔性の力にすら対抗する術を身につけてきたのだ。
そういう力を持つ者たちを退魔師と呼ぶ。
そして、そんな退魔師の中でも
「彼女に任せれば、どんな妖魔も一時間で片が付く」
と言われる、凄腕の退魔師がいる。
赤坂燈火という名の退魔師である。
「いやー、今日も楽勝でしたな燈火ちゃんや」
今回の仕事を終えた燈火を真っ先にねぎらったのは修道服に身を包んだ、青い髪の女性。
燈火を今回の仕事に巻き込んだ張本人。
シスター・トーレだった。
「何が“楽勝でしたな”だ。お前がアタシを叩き起こした時間を言ってみろ」
「午前3時でーすっ」
「で、いまは?」
「4時でございます☆」
「午後のな」
歳は二十代の前半で、燈火と同じくらい。
背丈もほぼ同じで平均的。
体型には気を配っているのか、身にまとった修道服に浮かび上がる体のラインが美しい曲線を描いているのも似ていた。
ただ、相対したときに相手に与える印象は対照的だ。
燈火はどこか威圧的で怖がられやすい。
これに対して、この修道女の雰囲気は明るくて、柔らかい。
妖魔の殲滅を謳い、ストイックな禁欲・清廉を旨とする『教会』の修道女としては軽すぎるほどだ。
しかし彼女の雰囲気は、全体として好ましく受け取られるものだった。
「13時間もかかった仕事は久しぶりなんだが?」
「それはそれは。25時間、366日神に仕えている私どもとしては羨ましい限りですな」
「チッ……」
「いや……ごめんて。でも舌打ちはやめなよ。普通にしてても顔怖いんだk痛いッ……、仕方ないじゃん! 長引いたのも私のせいじゃないもんっ!」
トーレの足に蹴りを食らわせて、燈火は憮然と黙り込んだ。
たしかにこの腐れ縁シスターが悪いわけじゃない。
まず、長引いた原因の一つ目。
これは妖魔が現れたのが深夜の住宅密集地だったことだ。
妖魔は人の感情を食らって成長する。ゆえに人口密度の高い場所に現れた妖魔は、それだけで危険だ。
しかも成長した妖魔がどんな力を発現するかはわからない。発現した能力によっては、一つの自治体が全滅してもおかしくない。
逆に言えば、感情を摂取できないなら妖魔は成長しない。
例えば深夜など、ほとんどの人間が寝ている場合は、避難勧告を出して住民を怖がらせるよりも迅速に妖魔を処理してしまった方が被害が小さいことがある。
今回の現場の責任者は、このケースに該当すると判断したのだ。
ここで二つ目の原因だが、これは不運というしかない。
妖魔が現れた家に、たまたま親戚の少女が遊びに来ていたのだ。
対妖魔作戦は想定被害が計り知れないため、個人情報を含めたあらゆる情報の収集が許可される。
その中に、現場は青年が一人で暮らす一軒家という情報があった。
それによって現場に生存者はいないと想定された。
通常、妖魔の発生には
「人間が妖魔になる」
「妖魔が魔界から直接現れる」
という二つのパターンがあるが、妖魔になっているのなら言わずもがな。魔界から直接現れたのなら青年が生きているはずがない、というわけだ。
しかし“子供が遊びに来ていた”という要素が入ると、話が変わってくる。
妖魔は子供特有の大きな感情を好むのだ。
好むがゆえに、子供は殺さない。
こうして、いないはずの生存者という第一の誤算が生まれた。
子供の感情が妖魔を成長させるという第二の誤算も生まれた。
妖魔を“迅速に処理”するために先行した退魔師たちが、想定外の人質に混乱して敗れるという第三の誤算が。
騒ぎを聞いて起き出した周辺住民の恐怖で、さらに妖魔が成長するという第四の誤算が。
トーレが燈火を呼びに来たのが第三の誤算が生じたとき。
燈火が到着したのは第四の誤算が大きくなった後だ。
結局、妖魔の処理には警視庁退魔部の精鋭と、寺社・教会系退魔師のトップであるヘブンズの出動を待たなければならなかった。
こうなれば流石に『一時間で片を付ける退魔師』こと赤坂燈火にも荷が重い。
妖魔を足止めするのと、人質になっていた少女を救出するので精一杯だった。
ここまで考えたとき、燈火の思考が止まった。
思考の過程でよみがえった"感触”が思考を止めた。
「……ッ」
「……? 燈火、どうかした?」
燈火の頬が、うっすらと赤くなっている。
荒げるというほどではないが、呼吸も少し乱れていた。
「……何でもねぇよ。それよりガキは?」
妖魔と戦うのが燈火たち退魔師の仕事。
被害者のケアなどの後方支援は、教会や寺社に所属するシスターや巫女といった人々の仕事。
つまり、目の前の腐れ縁の仕事である。
「いや、ガキはやめろて、女の子ぞ。……あの娘なら最初は怖がってたけど、すぐ落ち着いたよ。親も迎えに来てたし一件落着って感じ」
「……そうか」
「でもあの娘、可愛かったなぁ。燈火が連れてきたときなんて、もう、ぎゅーって燈火にしがみついちゃって。迎えが来たときも『トーレお姉ちゃん、ばいばい!』って、手なんか振ってくれちゃって♡」
「……っ」
また燈火の様子が変わっていた。
さきほどよりも息が乱れ、心持ち熱っぽい表情になっている。
さらに手がもどかしげに自分の下腹の辺りを撫でていた。
「……? うんこか?」
痛でッ!
燈火はそんな悲鳴を背にして、足早に去っていった。