男勝りロリコンドマゾ女退魔師 赤坂燈火 作:お金ナイダー1号
「フゥー……ッ」
妖魔を切り伏せた後、赤坂燈火は深く息を吐いた。
今回は前回の仕事より楽だったと言える。
妖魔の系統こそ、攻撃に特化しやすく手強い『憤怒』系であった点は同じだが、前回は上級の中位くらいの力があった。
能力も3つめを解放しかけており、もし完全に能力を解放されていたら、退魔師から死人が出るのも覚悟すべき難敵だった。
対して、今回は中級中位クラスだ。
能力こそ『爆発』という、被害が出やすい上に一撃必殺の強力なモノではあった。
だが、それに気をつけてさえいれば他の攻撃はワンパターン。
すでに十年近い戦闘経験を持ち、ベテランの域に入っている燈火からすれば戦いやすい相手だった。
とはいえ一撃必殺の攻撃をもった敵は、それだけで気を張るものだ。
すぐ近くに民間人がいるとなれば、なおさらである。
「……」
燈火は気を失っている緑髪の少女にチラリと視線をやった。
そして少女の横に腰を下ろすと、その体を来ていたジャケットで包んでやった。
もちろん邪な行動ではない。
純粋な憐憫の情からの行動である。
(さっきの……爆発に巻き込まれてたのが母親だよな)
その瞬間は燈火も目撃していたのだ。
あと一歩だったが、間に合わなかった。
(とすると、アタシと同じ境遇か……)
さなぎの年齢は8歳。
燈火が母親を失ったのは10歳のときだ。
(父親は……仇とか言ってたし、たぶん殺されたんだろうな。母親と二人だったってことは、たぶん兄弟もいない)
燈火の妹は死別というわけではないが、一緒に住んでいたのは12歳までだ。
目の前の少女は、それより4年も早く天涯孤独の身になったことになる。
不幸中の幸いと言うべきか、教会が主導する、妖魔災害孤児に対する救済制度は手厚くはある。
衣食住は完全に保証されるし、教育だって現状と同じレベルを受けられる。
何なら退魔師やシスター・神父になりたいのであれば、普通の生活をしている者より、孤児として教会で育った方が遙かに有利だと言う者さえいるほどだ。
しかし、だからといって、両親を立て続けに失った痛みが和らぐわけではない。
それも8歳という年齢で経験したら、どれだけの心の傷になるか。
計り知れないものがある。
「フゥー……」
燈火は再び深く息を吐き出す。
(いっそのこと、アタシが引き取ってやろうか……?)
一瞬、それは良い考えに思えた。
教会といえど、そのリソースは無限ではない。
というより、この近辺の教会の経済状況は軒並み悪いのだ。
その原因は、この近辺の教会の統括者であり、当時12歳だった燈火を保護してくれた張本人マザー・セレシアにある。
もちろん彼女に浪費癖があるというわけではなく、むしろ
「いいですか、燈火?
もし困っている人を見かけたらどんなことをしてでも助けないといけません」
という博愛精神にある。
この精神を周辺にバラまき、しかも教会の指導者層すら感化してしまうおかげで、この辺りの教会の台所事情は例外なく逼迫しているのだ。
それでも保護した子は例外なく育てきってしまうのがマザーの凄いところではある。
しかし、さらに負担を増やすのは直に苦労を目の当たりにしてきただけに気が引ける。
その点、燈火は金持ちである。
もともと物欲がうすい上に、腕利きの退魔師である燈火には、すでに一生かかっても使い切れないような蓄えがある。
子供一人を成人させて、大学まで進ませてやるくらい全く問題ない。
同じように家族を失った者として、多少なり支えになってやれる部分もあるだろう。
持てる者は持たざる者に施さなければならない。
そういう教会の教義にかけても引き取ってやるべきなのだろう。
燈火は心を決めかけた。
さなぎの方に顔を向けた。
そして自分の目が、真っ先にジャケットから覗く少女の白い足を追いかけたのを自覚して、苦い顔をした。
そんなこと、できるわけがない。
退魔師の仕事の忙しさは家政婦でも頼めば解決する。
年下の世話は妹で慣れている。
しかし“病気”はどうしようもない。
さなぎの顔立ちは、燈火から見てかなり“好み”だった。
目鼻立ちが整っていたし、何より大きな緑の瞳がいい。
『退魔師さん! お父さんとお母さんの仇を取って!』
あのとき、その綺麗な瞳に正面から射貫かれた瞬間。
平静を装いはしたが、内心ドキッ♡とした。
ツインテールという髪型も、燈火の好みド真ん中を打ち抜いていた。
あの左右にまとめられた髪の束が動く度にヒョコヒョコ揺れる姿など、さぞ可愛らしいことだろう。
そして『可愛らしい』と思ってしまうような少女に、自分のような人間は近づいてはいけないのだ。
そもそも、これまで一度も考えたことがなかったのに、いま孤児を引き取とうとしてるのは何故なのか?
その理由の中に“あわよくば”という欲望がなかったと言えるのか?
自信はなかった。
そんなつもりはなかったが、たしかに頭の片隅に“あわよくば”を狙う打算があった気もする。
それに気付かないフリをして、都合の良い理由で穢れた欲望を正当化していたのだろうと言われたら強くは否定できない。
現に、今はどうだ。
頭の片隅で、この緑髪の少女の裸体を想像している。
それがチラつく度に打ち消すが、手を変え品を変えて、その映像は次々と脳内で再生されている。
やはり自分は、この少女に近づくべきではない。
燈火は結論した。
「あっ、燈火! さっすが仕事が速い!」
しばらく待っていると、腐れ縁シスター・トーレの声がした。
「お前が遅せぇんだよ」
この親友とマザーがいる以上、少女にとっても悪い未来にはならないだろう。
燈火は現場の顛末を報告し、少女を親友に任せると、帰宅の途に着いた。
帰路、何度も浮かんでくる、この少女と一緒に暮らして“幸運”に恵まれる妄想を頭の中で打ち消しながら。
(……ああ、くそぉっ♡)
日中の訓練の帰り道から、ずっと燈火の病気は燻りつづけている。
こういう夜は“夢”を見てしまうことがある。
何度目かの妄想を振り払い、やっとの思いでマンションについた燈火は“夢”を恐れながらも、長い一日の疲れに導かれるまま眠りに落ちていった。