男勝りロリコンドマゾ女退魔師 赤坂燈火 作:お金ナイダー1号
退魔師とは、妖魔から無力な民衆を守る仕事である。
妖魔は摩訶不思議、強力無比な能力をもつ人類の敵であり、それと戦う退魔師には当然ながら命の危険がついて回る。
だから退魔師は厳しい戦闘訓練を積む。
とくに腕利きの退魔師が指導する戦闘訓練には積極的に参加する。
そして赤坂燈火は、この『腕利きの退魔師』に分類される。
「おら、そこっ! ボサっとしてんじゃねぇっ!」
「てめぇもだっ! 実戦だったら死んでんぞっ!」
「ビビんなッ! 踏み込めッ! 死にたくなかったら一撃で殺せっ!」
燈火の住むマンションの近く。
教会が所有する訓練施設の中に、5人の退魔師があった。
一人は燈火だ。
彼女は愛用の退魔刀に見立てた竹刀を振るい、ときに残りの4人を叱咤し、ときにその竹刀で容赦なく打ち据える。
4人はいずれも燈火より年下だ。
中には高校を卒業していない者もいた。
彼女たちは満身創痍と言った様子で、何とか燈火の激しい動きに食らいついていた。
しかし、それも限界が近いようだった。
四人の目には、どこか諦めの色がにじみ出ていた。
「はぁ……はぁっ……すごい、これが“鮮血の燈火”……」
「だめ、私たちじゃ歯が立たない……」
そして、燈火はそんな後輩たちの隙を見逃さない。
「無駄口叩いてんじゃねぇッ!」
急激に踏み込んだ燈火。
その竹刀が後輩の腕を激しく打ち据える。
「きゃっ!?」
「諸子ちゃんっ!」
打ち据えられた仲間を庇おうと、一人が燈火に突っ込む。
しかし、この動きに他の二人の後輩が乗り損ねた。
「うっ!?」
「一人で突っ込むな!」
燈火は単独で突っ込んできた後輩を容赦なく叩き伏せると
「うぎっ!?」
「ああぁっ!?」
さらに怯んだ残りの二人も料理した。
と、そこで
「勝負ありっ!! そこまでっ!」
この訓練を監督していた燈火の親友、シスター・トーレが終わりを宣言した。
燈火は綺麗なままの服装で、ただ一度、ふぅと息を吐き出す。
時計を見ると、午後二時になったところだった。
***
「パンデモニウム教?」
訓練が終わり、シスター・トーレと二人で話しはじめたとき。
そんな言葉が出てきたので、燈火は聞き返した。
もちろん一つ一つは知らない言葉ではない。
パンデモニウム。
原義としては『全ての悪魔』
それが転じて、秩序の崩壊や、またそうした状況を指すようになった言葉。
またさらに転じて、約80年前に発生し、封印された、史上最悪の妖魔にして、最強の淫魔『大淫魔パンデモニウム』に付けられた名。
こんなことは退魔師なら誰でも知っている。
もちろん『教』とは、そのまま宗教の意味だろう。
それも想像が付く。
しかし、この二つ繋がった言葉ははじめて聞いた。
トーレは「そっ」と言葉を継いだ。
「最近、違法アダルトビデオ会社の一斉検挙があったでしょ?
で、調べてみたら、その会社のバックにそんな名前の組織がいたんだって」
後半はともかく、前半の話は燈火も聞いていた。
通常犯罪を担当する他の部局ではなく、妖魔犯罪を担当する警視庁退魔部が事件にあたったという話も漏れ聞いていた。
ちょうど
(どうして退魔部が?)
と疑問に思っていたところだ。
が、大淫魔パンデモニウムを奉じる宗教の犯罪なら、ギリギリわからないではない。
それよりも、いま疑問なのは別のことだった。
「なんでアタシにそんな機密情報を回してくんだよ」
優秀な退魔師の供給源として、警視庁とも関係の深い『教会』
そこに所属して、しかも意外なことに結構なエリートコースを歩んでいるこの腐れ縁が知っていることに不思議はない。
しかしながら燈火は外野である。
たしかに教会とは縁があった。
あの忌まわしいアルメリアの事件の後、しばらく教会に保護されて修道院に住んでいたし、一応はシスターとしての名前も持っている。
しかし、いまは民間の退魔師でしかない完全な外野だ。
本来なら機密情報を教えるのは重大な規律違反。
それなのに教えてくるということは、つまり……
「うん、燈火にも手伝ってもらいたいなって」
そういうことだろう。
燈火は「チッ」と舌を鳴らして、腐れ縁の青い瞳を睨み付けた。
「断る」
「ええーっ、ここまで聞いといて、それはないでしょー」
「てめーが勝手に話したんだろうが」
「ふっふっふっ……、話を聞かれたからにはコチラも無料で返すわけにはいかんのだよなぁ……!」
「あん? 返り討ちにしてやるよ」
「あっ、それはダメ……暴力反対です」
竹刀に手を伸ばした燈火に、トーレは「どーどー……」と暴れ馬を宥めるような仕草をした。
そのどこか滑稽味のある仕草に毒気を抜かれた。
燈火は竹刀を手放すと、当然の疑問を口にした。
「つーか、なんでアタシなんだ?」
話を聞く限り、その案件は捜査が主になるはずだった。
そして燈火は戦闘なら大得意だが、その手の細かい仕事は苦手だ。
AV会社のバックにいた宗教組織の捜査などに出る幕はないように思えたのだ。
しかしトーレは今までのふざけた雰囲気を打ち消し、真剣な表情になって否定した。
「妖魔が主犯だからだよ」
燈火も真剣な表情になる。
「……なんでそう言える?」
「もう警視庁退魔部は3つもパンデモニウム教のアジトに踏み込んでるの。もちろん現場にいたのは大半が人間。けど3つの全ての現場に淫魔も混じってた」
燈火の表情が真剣味を増す。
それは本来ありえてはならないことだ。
話が本当だとしたら、淫魔が人間社会に溶け込んでいることになる。
人間を堕落させ、破滅させる人類の敵が。
それがどれだけ危険なことか。
燈火は身に沁みて知っている。
トーレが自分を呼びたがっている理由もわかった。
人間社会に溶け込むほど頭のある妖魔が相手となれば、どれだけ周到な用意をしているかも未知数だ。
だからこちらも可能な限り戦闘要員が欲しいのだろう。
「……」
正直なところ、仕事を受けてしまってもよかった。
なかなか面倒そうな仕事だが、そんな危険な状況なら退魔師として見過ごせない。
断る理由の方がなかった。
ただ一つの事柄を除けば。
(淫魔……)
燈火の脳裏を記憶がかすめる。
『燈火ちゃん、いまなら舐めてもいいのよ?』
『おねえちゃん、どうしたの……?』
燈火の下腹部にピリッ……と甘い電流が走る。
燈火の舌先に、例えようのない独特の甘美な酸味がよみがえる。
「まっ、今はいいや!」
燈火の沈黙をどう解釈したのか。
ことさら明るい声でトーレが言った。
「今すぐ返事が欲しいわけじゃないからさ。
返事は次に燈火が修道院に来たときでいいや。
マザーも心配してたよ?
『最近、燈火が来てくれないけど、また無茶をしてないかしら……』ってさ」
「マザーが?」
「そっ。あー、わたしもマザーに心配されたーい!
子供のころみたいにヨシヨシされたーい!
母性が欲しぃ! 甘やかされてぇ!
というわけで燈火、ママって呼んでいい?」
今日の話は終わりということなのだろう。
いつものふざけた口調でトーレは言う。
それに合わせて、燈火もいつもの調子で言った。
「やめろ、気持ち悪ぃ」
言いつつ、時計を見た。
時針が3、分針が15を指している。
ちょうどそのタイミングで、キーンコーンカーンコーン……とチャイムが鳴った。
これは近くにある小学校で、今日の授業が終わったことを指すチャイム。
「!」
それと同時に燈火の心臓がドクンと跳ねる。
この時間はまずい。
早く帰らなければ。
「あっ、燈火。みんな復活してきたみたいだから、最後に一本お願いしていい?」
再び燈火の目が時計に向く。
遅くとも、あと30分以内に帰らなければ。
30分後の下校のチャイムがなる前に帰らなけば、マズい。
今から帰れば間に合う。
しかし一本付き合えば、確実に間に合わない。
断ろうと思った。
すでに燈火の頭には桃色の霞がかかり始めていた。
“病気”を刺激する映像が脳裏にチラつき出していた。
「……」
燈火の頭の中で、二人の燈火が論戦を始める。
友達の頼みだぞ?
後輩の訓練に付き合ってやらなくていいのか?
そんなことは気にすることじゃねぇよ。
最初に訓練の頼まれてた回数は終わってんだ。
契約は完了、サービスなんてする義理はねえよ。
しかも“病気”は仕方ねえだろ。
いやいや、親友の頼みだぞ?
それくらい融通聞かせろよ。
“病気”なんか我慢すればいいじゃねえか。
……我慢なんかできねぇだろ。
頭の中の声が増える。
もはや聴きなれた声だ。
中級淫魔、淫夢のアルメリアの声。
あらあら、大丈夫よ♡
いつも2回に1回はちゃんと我慢できるじゃない♡
ねっ♡
今回もきっと大丈夫よ♡
……。
ほら、親友と後輩が返事まってるわよ♡
いいじゃない、今日くらい♡
もう一週間も我慢してるんでしょ?
オカズ探しくらい大丈夫だって♡
別に手を出すわけじゃないんだから♡
自分へのご褒美よ♡
ご・ほ・う・美♡
……はぁ♡ ……はぁ♡
ああ、言い方が悪かったかしら♡
別にオカズ探しがしたくて訓練に付き合うわけじゃないでしょう?
訓練につきあったら、偶然そういう時間になってしまうだけ♡
そうでしょ♡
訓練に付き合って、後進を育てるのは退魔師の義務だもの♡
……ハァッ♡ ……ハァッ♡
まあ?
帰り道で、たまたま“刺激的な”光景を見てしまうこともあるかもしれないけど♡
そんなのは事故でしょう♡
燈火ちゃんが悪いわけじゃないわ♡
まっ、時期的にミニスカとか、ホットパンツが増えてるけど♡
それだって、燈火ちゃんが悪いわけじゃないもん♡
「……燈火? ごめん、予定とかあった……?」
「いや……わかった。付き合ってやる」
燈火は竹刀を構え直し、訓練場に立つ。
4人の後輩退魔師も、顔を引きつらせながらもそれに続いた。
「それでは本日の最後の訓練……始めっ!!」
トーレの合図で、燈火と後輩たちは訓練を始める。
これで燈火が“間に合わない”ことが決まった。