男勝りロリコンドマゾ女退魔師 赤坂燈火 作:お金ナイダー1号
燈火が自分の“病気”を自覚したのは10歳のとき。
父が夜の行為を求めてくるようになったあと。
それまで漠然とした知識でしかなかった燈火にとっての“性”が、父によって具体性と現実性をもたされたあと。
「おねえちゃん、おふろ入ろー?」
無邪気な妹が、そう言いながら下着姿で燈火の部屋に入ってきたときだった。
たぶん、それまでにも兆候はあったのだと思う。
あとで知識をもってから気付いたことだが、普通の人間は小さい子供の裸を見て
『綺麗だ……』
などと考えはしない。
しかし燈火にとって、妹の裸体は昔から特別『美しいもの』だった。
ごく自然に、妹の裸体よりも美しいものは存在しないとすら思っていた。
『美しい』という認識の奥で『別の感情』が動いていたのも感じていた。
その『別の感情』の正体が、このときわかった。
それは父が夜になると向けてくる感情と同じ物だった。
急に心臓が大きく鼓動し出した。
手足が冷たくなってきて、震えてきた。
逆に、下腹の奥が燃えるように熱を持ちはじめた。
「……? おねえちゃん、どうしたの?」
姉が反応してくれなかったのが不審だったらしい。
妹は愛らしく小首を傾げ、朝に燈火が結んでやった明るい茶色のツインテールをピョコンと揺らしながら言った。
「い、いや……な、なんでもないっ」
燈火の声は上ずっていて「なんでもない」風に聞こえるものではなかった。
妹もそれは感じただろう。
しかし姉を絶対的に信頼している彼女は、今回も姉の言葉を信じたらしかった。
「じゃあ、はやくいこっ♪」
と、姉の手を引いて元気に歩き出した。
まさか姉が、自分の尻を見て欲望を募らせているなどと想像もしていない様子で。
***
「……っ!」
新人たちへの訓練の帰り道。
燈火は下腹を抑えて、ギュッと服を握りしめた。
もちろん腹痛のためではない。
下腹部を襲っている甘い疼きから気を逸らすためだ。
(はぁ……♡ はぁ……♡ あぁ、クソっ……♡)
燈火の横を通って、元気な少女の一団が走り去っていく。
燈火の目は無意識にそれを追ってしまう。
風でめくれ上がるスカートの裾。
ホットパンツの上からわかる尻の形。
そこからストッキングまで露出している滑らかな肌。
手提げ袋の持ち手を大事そうに握る細く小さな手。
風でなびく黒髪。
真白なうなじ。
それら『美しいもの』を一つたりとも見逃すまいとするかのように、燈火の目は少女たちを追っていた。
***
訓練が終わったのはトーレから追加の訓練を頼まれてから30分後だった。
トーレの終了の合図と同時に下校のチャイムが鳴った。
「じゃあ燈火、みんな、お疲れ様ー!」
そういうトーレの挨拶で解散したのは、さらに10分後。
子供たちが学校から雪崩をうって出てくる時間だった。
このときも、まだ燈火には二つの選択肢があった。
そのまま訓練場を出て“発作”の引き金になる子供たちに囲まれるか。
はたまた、教会に残って時間を潰すか。
という選択肢だ。
それは客観的に見れば考えるまでもない問いのはずだった。
教会に残る口実はいくらでもあったのだ。
新人たちの訓練が終わったから、次は自分の訓練をする、とか。
教会にいる知人たちに挨拶をする、とか。
トーレから話の続きを聞く、とか。
さっき訓練をつけた新人に追加で訓練をしてやってもよかった。
おあつらえ向きに、この教会には知り合いの退魔師が所属していた。
挨拶がてら30分も時間を潰せれば子供は減る。
そうすれば“発作”の危険も減る。
残らない理由など一つもなかった。
燈火自身、それに異存などなかった。
実際、教会に残ろうとしたのだ。
しかし外から甲高い子供の声が聞こえてきた。
それは聞く人間によれば、耳障りとさえ思う声。
「きゃっ!」
「わー!」
と、同時に燈火の中に住む、もう一人の燈火が囁いた。
おっ、下校時間だなー♡
これは子供たちが無事に帰れるように“見守って”やらないとなー♡
なに? アタシの“病気”?
バーカ、そんなのアタシの都合じゃねーか♡
子供の安全とどっちが大切なんだよ♡
子供を“見守る”のも退魔師の立派な仕事だろ♡
最近はこの仕事だけサボってたからな♡
今日こそはしっかりやらねぇとよー♡
もう一人の自分の欺瞞に、燈火は気付いていた。
気付かないわけがなかった。
しかし、もう一度、外から子供たちの声が聞こえると。
「きゃっ、もう! スカートめくりなんてやめてよー!」
「えへへ♪ りんちゃん可愛いからつい、ねー♪」
何てことはない、子供たちがふざけている声。
しかしその声が聞こえると、燈火はフラフラと訓練場の外に足を踏み出していたのだ。
「はぁぁーーっ♡ はぁーーっ♡」
燈火はより一層息を荒くしながら、ある歩道橋の下までやってきた。
ここまで来れば、家まであと少し。
ここを越えさえすれば、大丈夫。
そう思える場所だ。
しかし同時に、最難関とも言える場所だった。
それを知っているもう一人の燈火が言う。
なあ、ここでちょっと休憩しようぜ♡
10分……、いや5分でいいからさー♡
ほら、転んだりしたら誰かが助けてやらないと、だろ♡
燈火の足が止まる。
もちろん燈火には、もう一人の燈火の意図はわかっている。
これが上辺だけの言葉であることも。
退魔師失格の醜い欲望を満たすための提案であることも。
それでも燈火の足は止まった。
2分後にはミニスカートの少女二人が燈火の横を通っていった。
一人は黒髪ロングの、いかにもお嬢様といった少女。
もう一人は明るい茶髪で、小さなギャルといった雰囲気の活発そうな少女。
二人とも燈火の好みからは少し外れていたが、それでも十分に美少女といえる可愛らしい顔立ち。
この高学年らしい二人は、話しに夢中で足下がおろそかになっているようだった。
(お……♡)
燈火の目が少女たちの後ろ姿を追う。
二人の腰の高さが、だんだんと目線を越えていく。
燈火に見える絶対領域の面積が広がっていく。
(も、もうちょっと……♡)
すっかりもう一人の自分に自我を乗っ取られた燈火が視線を上に向ける。
穢れた欲望と醜い期待で、口元がだらしなく緩んでいる。
そのとき茶髪のギャル少女の方が
「きゃっ……!?」
と声を上げた。
階段に躓いたのだ。
燈火には、その後の光景がスローモーションに見えた。
少女の体が前に倒れていく。
同時にスカートはまくれ上がり、中身が顕わになる。
小ぶりな尻と、それを包む薄ピンクの下着。
隠れていた綺麗な桃型の尻も、左太ももの付け根にほくろがあったことも、下着に子猫のプリントがしてあったこともハッキリと見えた。
やがて少女が階段に手を付いた。
そこで少女の体は止まり、スカートもふわっと降りてきて、もとの下着を隠すという役割を果たしはじめる。
「めーちゃん、大丈夫っ!?」
「う、うん。えへっ、転んじゃったよー」
つまずいた少女は恥ずかしそうに言うと、キョロキョロと辺りを見回した。
今のを誰かに見られてしまったのではないかと思ったのだ。
しかし幸いなことに歩道橋の下には誰もいなかった。
(あれ……?)
少女の脳裏に疑問が浮かぶ。
(さっきまで赤い髪のお姉さんがいたよね? どこにいったんだろ?)
少女が顔をあげて、辺りを見回す。
すると、歩道橋から少し離れたところで赤い髪を捕らえた。
(さっきのお姉さん、だよね?)
その赤い髪は忙しない足取りで、近くの公衆トイレに駆け込んでいった。
チラッと見えた横顔は、こころなしか髪と同じ色に染まっているようだった。
(……? おトイレ我慢してたのかな?)
また小さい疑問。
しかしこの疑問はすぐに消えた。
恥ずかしいところを見られていないなら、あとは別にいい。
「うん、大丈夫。帰ろ?」
友達に答えると、少女たちは再び帰路についた。