やろうと思えばエッチはだれでもデキるっ!—1— 作:浅見智幸
昨年の秋、今は廃校となって存続していない旧板倉小学校の同級生たちは、全員が古希を迎えた記念に小旅行を催した。
この年齢になると、すでに亡くなった同級生もいるし、病気療養中でやむなく入院を強いられている人たちもいるので、温泉地への一泊旅行に参加したのは、木下美智子を含めても8人足らずだった。
7人の同級生のうち、美智子と雅子とは家がわりあい近い事もあって、長年の付き合いを続けていたが、残りの6人と会うのは本当に久しぶりだった。
いちばんご無沙汰している人とは、実に小学校卒業以来の再会で、懐かしさに思わず涙してしまった美智子だった。
木々の鮮やかな紅葉を眺め、美味しい料理をいただいた後は、ゆっくり温泉につかり、思い出話に花が咲き・・・・・・と、楽しい旅行だったが、美智子が驚いたのは皆がずいぶんと老け込んでいたことだった。
70歳になれば容姿が衰えるのは仕方ないとしても、皆があまりにも身なりに構わず無頓着でいられる事に美智子は呆れた。
着ている服も地味な色合いで、華やかさは微塵も感じられないほど歳より臭い。下着にいたっては、いったい何年穿いているのかと、思わせられるようなゴワゴワの木綿だったりと・・・。
また、脂っ気のない白髪を振り乱して気にも留めない人や、三段腹を上下に大きく揺すりながら、大口を開けて笑う人。人前でも平気で入れ歯をはずす人までいた。
もう完全に オンナを捨てた と思わせる女性が多くいた。
別の言い方をすれば、美智子は他の同級生と比較すれば、グッとひと回りくらいは若く見えるほどだった。
孫のいる身で、
「今さら色気なんか」
と言う人もいるが、美智子はそうは思わない。
女はいつまでもきれいで色っぽいに越したことはない。早々とオンナを捨ててしまうなんて、もったいないではないか。
幼い頃のイタズラや小学校での遠足など、楽しくて懐かい思い出話も一段落すると、次に皆が口にすることと言えば、孫の自慢とか、嫁に対するグチばかりだった。
初めの頃は、懐かしい同級生との再会を喜んでいた美智子も、次第に、
(いい加減にしてよっ!)
と言う気分になってきた。
そんなとき、雅子が、
「みんな、美智子さんを見習わなきゃだめよ」
と言いだした。
雅子と美智子はいまだに親しくしている幼なじみで、年に数回は食事をしたり、一緒に連れ立って買い物に行ったりしている仲だった。
「美智子さんには旦那さんのほかにも、何人もの恋人がいるのよ。だから、見てごらんなさいよっ! ほら、お肌だって今でもこんなにツヤツヤでしょう」
ビールを呑んで、すっかりほろ酔いかげんの雅子はそう言いながら、皆の前で親指と人差し指で美智子のホッペタをつまんで見せた。
「恋人って!? えっ、どういうこと?」
雅子の爆弾発言が皆の興味をひいたことは言うまでもない。
「美智子さん、不倫してるの?」
「相手はどういう人なの?」
「恋人と言っても、食事したりするだけでしょう? まさか、それ以上の関係っていうことはないわよねぇ」
美智子は、たちまちその場の主役に祭り上げられてしまった。
「ねえ、ねぇ、詳しくおしえてよ」
「どの程度の付き合いなのよ。旦那さんはそのことを知ってるの?」
飯倉小学校の同級生たちはまさに興味津々。美智子を中心に、取り囲むようにして輪が出来あがったのである。
内心、美智子は鼻高々だった。
すっかり老け込んでいる同級生たちにくらべ、飛びぬけて若く見える美智子だった。
そして、複数の恋人と付き合っているという雅子による情報も事実だった。
優越感を覚えた美智子は、充実した熟年ライフを同級生たちに自慢してやりたくなった。
「はじめて浮気したのは50代だったかしら? 娘が結婚して家を出て行ってしまったあと、夫婦ふたりだけの生活が急に味気なくなって、陶芸教室に通い始めたの。そこで2歳年上の男性と知り合って・・・・・・」
美智子は同級生たちのまえで、自慢げに自分のアバンチュール体験を話はじめたのだった。
木下美智子がはじめて夫以外の男性と付き合ったのは58歳の時、相手の男性は還暦を迎えていた60歳。
同じ陶芸教室に通っていた彼 下条幸太郎は仕事を定年退職したばかりで、定年までは新聞社に勤めていたそうだ。
美智子いわく、幸太郎はインテリっぽい二枚目だったと言う。
美智子は、最初に会った時から、
(素敵な人だなぁ)
と思っていたが、はじめのうちはもちろんのこと、肉体関係を結ぶことなど考えてもいなかった。
ただ、久々に男性に胸のときめきを覚えた美智子は、幸太郎にいい印象を与えたい一心で、陶芸教室に行くときはいつも以上に服装に気をつかい、化粧も念入りに施し通っていた。
そんな美智子の想いが通じたのか、ある日、幸太郎にお茶を誘われた。
話題が豊富な彼は軽妙なユーモアも持ち合わせており、あっという間に2時間近くが過ぎた。
それからというもの、陶芸教室が終われば美智子と幸太郎は毎週のように、会話を楽しむようになっていった。
美智子の夫 淳一は幸太郎より1歳ちがいだったが、元々が自営業なので定年もなく、相も変わらず仕事中心の生活を送っていた。
淳一は若い頃から家庭のことは美智子に任せっきりで、仕事に打ち込む一方、外では適当に遊びまわり浮気を繰り返していた。
美智子が淳一の浮気を見て見ぬふりをしていたのは、一人娘可愛さから夫婦間に波風をたててまで家庭を壊したくはなかった。
しかし、その可愛い娘も良縁に恵まれて嫁いだ今、今度は、
「私にお鉢が回って来た」
と美智子は思い、陶芸教室で知り合った淳一と、何度目かのデートを楽しんでいたときだった、とうとう彼からラブホテルに誘われ、たいして考える間もなく頷いたのだった。
後ろめたさなど微塵も感じていなかった。
淳一を裏切るとか裏切らないとかいう以前に、美智子と淳一の間に夜の営みは途絶えていた・・・・・・。
後ろめたさよりも、
(私を女として見てくれている人がいたんだっ!)
という喜びのほうがずっと大きかった。
そして、美智子は幸太郎と男と女の関係を持った。
夫婦生活から遠ざかっていても別段の不自由を感じなかった美智子が、その時は自身でも驚くほどに興奮し、素晴らしい快感に酔い痴れたのだった。
しかし、幸太郎とは結局3カ月ほどしか続かなかった。美智子が性急に性愛を求めすぎたので、彼が恐れをなしたのだろう。
つづく