やろうと思えばエッチはだれでもデキるっ!—1— 作:浅見智幸
再就職が決まったことを理由に彼 下条幸太郎は陶芸教室を辞め、ついでに木下美智子からも離れていった。
幸太郎とはそんなふうに別れてしまったが、いったん性の快楽に目覚めた美智子には、セックスなしの生活はたまらなく寂しいものだった。
その寂しさを紛らわすために、次から次へと趣味を増やしていき、いろんなサークルに出入りしては、パートナーを漁るようになっていったのだった。
きょうはカラオケ教室。明日は俳句サークルと、美智子が毎日のように外出しても、淳一が気に留める様子はみられなかった。
淳一自らも、毎日が外で適当に遊んでいるので、美智子が機嫌よく暮らしてくれるなら、
(それはそれで良し)
くらいの軽い気持ちだったのだろう。
世間一般の女性は、お祖母(ばあ)ちゃんになったとたんに、
「孫の顔を見るのだけが楽しみ」
と言ったりするが、美智子に言わせれば、それではあまりにも味気ない人生ではないのか。
美智子にとっての暮らし。
子供も独立し、淳一に干渉されることなく、あり余るほどの自由があるというのに、みすみす孫の世話に費やすなんて愚の骨頂なのだ。
女は死ぬまでオンナだと、美智子はつくづく思うのだった。
いくら綺麗に咲いている花だって、水を与えなければすぐに枯れてしまう。女も同じなのだ。
自身がいつまでも若く美しくと心がけていれば、男なんていくらでも、女性の放つ魅力に吸い寄せられてくるものだ。
妻に無関心な淳一は気づいていないかもしれないが、美智子は会う人ごとに、
「若いわね。いつまでもキレイね」
と言われているのだ。
それというのも、彼女が常に恋をしていたから・・・・・・。
恋というのが適当でないとするなら、
「肉欲」
と呼ばれても一向にかまわないと思っていた。
カラオケ教室でも、俳句サークルでも、美智子がそれとなく水を向けると、男性は必ずと言っていい程に、好色な鼻の下を長く伸ばして誘ってきていた。
60代になっても、彼女は週に2度は男性と性交渉をもっていた。
美智子が、そういったことを赤裸々に語っていた時の、同級生たちの驚きようといったら、口をアングリと開いて、今にも涎をたらさんばかりの人や、中にはあからさまに眉をひそめる人もとうぜんながらいた。
あくまで、美智子の持論は、
「かまうものですかっ! どうせ一度きりの人生。楽しんだ方が徳」
しかし、そんな話をしていた時に美智子の胸がすいたのは、郁代の反応を見た時だった。
小さい頃から、皆に可愛いと言われていた郁代。十代の娘盛りには ○○小町 と、もてはやされてきたほどの美人。
しかし、昔から美貌を鼻にかけたところがあり、美智子は彼女のことを快く思ってはいなかった。
旅行先の温泉地で美智子が話題の中心になっていた時、郁代は眉をひそめソッポを向いていたが、若い頃は美貌で鳴らしたその顔も今では一変し、シワシワの肌でバサバサの頭髪だった。
郁代は美智子の華やかな男性遍歴が羨ましく想い、わざと、無関心を装っていたのだろう。
温泉地に集まった同級生の中には、ツンと澄ました郁代とは逆に、興味もあらわに根掘り葉掘り聞きたがる同級生たちも多くいた。
「だけど、60代でもできるものなの? 閉経したら、もうオンナではなくなっちゃうんじゃないの?」
「そんなことないわよ」
「でも、・・・私なんか、生理が上がってからというもの、アソコは干からびちゃった感じよ。ほら、若い頃は生理の時でなくても、オリモノや何かで下着が汚れていたでしょう? そんなこともなくなったし・・・・・・」
ひとりの発言からひとしきり、何歳で閉経を迎えたかと言う話題が中心になり、たいていの同級生が50歳前後で、閉経を迎えたようだった。
「それは私も一緒よ。49歳くらいから、だんだん生理の間隔が長くなって、51歳でとうとう打ち止めだったわ」
美智子がそう言うと、皆はどこかでホッとしたような表情でうなずいた。
すっかり身なりを構わなくなった同級生たちでも、やはり心の奥底では美智子の若さを羨ましく思っていた。
「それじゃあ、旦那さん以外の人と付き合うようになったのは、閉経したあとなのね。だけど、アレができるものなの?」
「濡れるかどうかということで言えば、気分が高まってくれば自然に濡れるものよ。でも、たしかに若い頃のようにはいかないわね。そういう時は、潤いを足してやればいいのよ」
「潤いを足すって、どうするのよ」
「あっ、わかったっ! ゼリーか何かを塗るんでしょう?」
「わ~、なんだか刺激的っ!?」
美智子を取り囲んだ3~4人は、すっかりその話題に夢中になり、わいわいキャーキャーとはしゃぎ、嬌声はまるで女学生に戻ったような高い声だった。
いっぽうで、郁代を含む3人ばかりは、呆れたとでもいうように、楽しく話をしている同級生たちの輪にくわわることなかった。
それでも、耳だけはしっかり美千代のほうに向けていた。
3)ラブ・ローション
閉経後でも女性は興奮すればちゃんと濡れるものだ。
実際、陶芸教室で知り合った幸太郎と美智子が58歳で初めて浮気した時、もう長いあいだセックスから遠ざかっていたにも関わらず、自分でも驚くほど濡れていたし、確かに快感も得ていた。
しかし、その後は歳を重ねていくうちに、しだいに濡れかたは少なくなっていた。
気持ちの上では高まっていても、肉体がおいついてくれないのであった。
美智子自身もそれが悩みだった。
見かけはいくら若くても、肝心な時に濡れないのでは、快感を得ることができない。
そんなとき、ある男性が美智子に秘薬をプレゼントしてくれたのだった。
それは小さな瓶に入ったピンク色の乳液で、大人のオモチャを扱う店で手に入れたものだそうだ。
「催淫剤が入れてあるそうで、これをアソコに塗るとすごく気持ちいいそうだよ」
と男性が教えてくれた。
催淫剤の効果は媚薬としても、トロリとした乳液を陰部に塗りつけたところ、確かに交合はスムーズにいった。
ヌルヌルした感触に興奮を煽られたのは、美智子だけではなく、65歳になる相手の男性のモノも、普段以上に逞しく漲(みなぎ)っていた。
美智子にとって、ラブ・ローションの存在はまさに最高の味方となってくれた。
これさえあれば濡れ方が少ないのを心配する必要もなく、思う存分セックスライフを謳歌(おうか)できると思うと、期待に胸がふくらんだ。
70歳を過ぎた今も、美智子が現役でいられるのも、ローションという強い味方のお陰だった。
いらい、美智子はいろんなローションやゼリーを試してみたが、いちばんピッタリくるのは通信販売で求めたローションである。
説明書きに ムスクの香り とあるのはジャコウのことらしいが、とにかく香りと使い心地がよくお気に入りのローション。
ローションという百万の味方を得て、ますます パートナー漁り に意欲を燃やした美智子。
64歳の時から社交ダンスを習いはじめ、その楽しさにたちまち夢中になっていた。
それまでも、いろいろな趣味の教室やサークルを渡り歩いていたが、ダンスほど楽しいものはない。
年配の男女でも、なに憚(はばか)ることなく身体を触れ合うことが出来るから、親密になるのにも時間はかからない。
とくにラテン系のダンスだと密着度も増し、踊っているだけでセクシーな気分に美智子はなれた。
ひと通りのステップをマスターすると、美智子は積極的にあちこちのダンスパーティーに参加した。
かって、ダンスを題材にした映画がヒットして以来、ダンス人口は急増し、各地で盛んにダンスの催しが開かれていた。
参加者のほとんどが50代以上の年配者で、特に男性より女性の方が圧倒的に多いのが特色だった。
それでも美智子がパートナー探しに苦労したことはない。
ドレスや化粧にも人一倍気をつかっている彼女は、どのダンス会場でもモテモテなのである。
さすがに、映画の主人公みたいなステキな男性はなかなか見つからないが、男性の参加者にもハント目的で来ている人は多く、身体を密着させて躍るうちに以心伝心で、その後のつき合いにつながることも珍しくはない。
美智子は、ダンスパーティーと温泉をセットにした一泊旅行に、先月も行ってきたばかりだった。
チラシで見つけたこの企画は、有名な温泉ホテルに一泊し、その間にダンス会場として提供されたホールで、思う存分にダンスを楽しめるのが売りだった。
教室単位で参加した団体もいたので、ホールに集まった男女は70人あまりと盛大なものだ。
美智子は個人参加だったが、例によって次々にパートナーを変えながら、適当な相手を物色していたが、最終的に彼女が選んだのは、かなり年下で65歳の男性。
しかし、その男性は美智子のことを同じ年齢くらいと思っていたそうだ。
「ダンス経験は何年くらいですか? とてもお上手ですね」
ステップを踏みながら、岸田というその男性が最初に美智子に話しかけたのは、そんな言葉だった。
「いいえ、私なんかまだ初心者です。あなたこそとてもお上手ですわ。なんといってもダンスは男性のリード次第ですもの。下手なかたと踊っても、まるでリズムに乗れないけれど、アナタにリードされてステップを踏むと、身体が軽くなったみたい」
「もともとお身体がそんなにスマートなんですから、ステップが軽いのもあたり前ですよ。それにお美しい・・・・・・。さっきお相手を努めたオバチャンとは、月とスッポンで比べ物にならない。初めにこの会場に入ったときから、アナタと踊れるチャンスを待っていたんですよ」
ダンスをしながらの会話は、そのあと発展するかどうかの大きな決め手なのだ。
岸田という男性は、打てば響くという感じで美智子にはお似合いで、彼とたて続けに4曲踊った。
踊りつかれたふたりは誘い合わせ、同じホテルのなかにあるバーに行き、カクテルを注文した。
「今夜、いちばん美しい花を僕が連れ出してしまったのだから、今ごろホールでは男性陣が皆がっかりしているでしょうね」
「まぁ、お上手だこと」
「お世辞なんかじゃありませんよ。あなたのような色っぽいご婦人を腕に抱いて踊れるなんて、最高の思い出になりましたよ」
歯が浮くようなセリフを平気で言えてしまうのも、彼が熟年だからこそのことだった。
「少し酔ってしまったみたいだわ」
頃合いを見計らった美智子がそう言うと、打てば響くタイプの岸田は、
「じゃあ部屋までお送りしましょうか」
と、さりげなく美智子の手をとった。
つづく