※この作品はR-18です。

俺とB小町とあかねの7日間戦争   作:FOOO嘉

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貴方となら 貴方となら

 

 

「ご予約の星野愛久愛海様と瑠美衣様ですね。お部屋にご案内いたします」

 

仲居に案内されて通されたのは、値段に見合うだけの広さと質を持った部屋だった。

各部屋に備え付けられた露天風呂からは、満天の星空が一望できる。

 

「芸能人がお忍びで使うんだってここ」

「なるほど…どうりで」

 

俺はともかく、映画にバラエティにライブ、それに28時間テレビにまで出演したルビーを見ても少しも動揺や好奇心を見せずに、隙のない所作で対応をする従業員を思い出す。

品質は高いが立地は都心部から離れたこの旅館は、自然を堪能できることが謳い文句らしいが、どちらかといえば芸能人が羽を伸ばすことが目的として利用されているのだろう。此処に来るまでも安全対策は万全だった。

 

「多分、交際を公表してないタレントのカップルや大御所が不倫旅行にでも使うんだろうな」

「うわ…すぐそういう発想するのおっさんくさいよおにいちゃん?」

「精神年齢はアラフィフだぞ?そしてお前はアラサーだ」

「言ってはいけないことを!!」

「ははっ」

 

雨宮家を後にする頃にはすっかり日が暮れていた。

 

『旅館予約してるよ』

 

ルビーは宿泊施設を既に決めていたらしい。

きっと、さりなちゃんの墓参りをするつもりだったから、もしかして雨宮吾郎の家にも来るつもりだったのかもしれない。

窓から星空を見上げているルビーの横顔は、俺のよく知る妹のもので、ついさっきまで雨宮の家でキスをしていたことが嘘のようだ。

俺の視線に気づいたのか、ルビーがちらりとこちらを見た。

 

「さっきからずっと見すぎ」

 

頬を染めて、口を尖らせる。

その唇につい目がいってしまうのは仕方がないだろう。

よく知る妹、そう思っていたのが自分の勘違いだと知る。

頬を染めて見つめてくるルビーは、知っているようで知らない女の子の表情で、俺は自分でも情けないくらい動揺する。

 

「……お風呂、入ってくるね」

「あ、ああ…」

 

不意に気恥ずかしくなって目をそらす。

距離感がバグっていると自分でも思う。元々有馬に言わせれば距離感がバグっている兄妹ではあるらしい。

俺もルビーも前世で兄妹なんて知らない。

生まれ変わった時には自我があるせいか、おそらく世間一般の兄妹の感覚とは違うのだろうと、最近わかってきた。

 

たまたま同じ所に生まれ変わっただけの他人。

 

かつてルビーに言われた言葉を思い出す。嫌われても構わないと思っていたころは受け止められていたが、今思い返すと軽く死にたくなるが、あれは案外的を射ていたのかもしれない。

俺とルビーの持つ感情は家族だけれど肉親の情とは違うのだろう。

同じ時と想い、転生という唯一の秘密を共有した家族だったが、それは秘密を共有した仲間意識に近いのかもしれない。

だから、驚く程キスをしたことに嫌悪感も拒否感も無いのだろうか。

 

「ねぇ、せんせー」

 

着替えを準備していると、ルビーに呼びかけられる。

 

「ん?どうし…っ」

 

言い切る前に、唇を奪われた。

我ながら隙だらけだとは思うが、あっさりと不意打ちをかましたルビーは恥ずかしそうに自分の唇を指でなぞっている。

 

「えへへ」

「お前なぁ…そんな気軽に…」

「せんせーにしかしないよ、さりなは」

「…っ」

「だって、ずっとドキドキしてるんだもん」

 

頬を薔薇色に染めて、さりな/ルビーが笑う。

 

「さっき、星野アクア様、ルビー様って宿の人に言われた時ね、夫婦みたいって思っちゃった。兄妹なんだから当たり前なのにね」

 

それだけ言うと、恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、ルビーは足早に脇を通り抜けるように露天風呂に向かう後ろ姿を見やる。

 

 

「……俺もだよ」

 

 

我ながらどうかしてる。

いや、どうかするのはこれからか。

本当なら生物としてセーフティーがかかるはずなのに。

近親相姦を防ぐために生物にかけられたプログラム。

近親者との行為に生理的に嫌悪感を抱くように作られている。

作られているはずなのに、俺もルビーも嫌悪感など無く、ただ互いを求める欲求だけに支配されつつある。

窓際の座椅子に腰掛けると、憎らしい程眩しく輝く月を睨み付ける。

多分、今日、これから、俺はあの子を抱く。

雨宮吾郎としてさりなを抱く。

けれど、紛れもなくアクアがルビーを抱くのだ。

兄が妹を。

 

俺たちはきっと生まれた時から壊れてたのかもしれない。

 

自嘲でも自己嫌悪でもなく、事実として不思議と腑に落ちてしまった。

 

・

 

・

 

・

 

互いに露天風呂で冷えきった身体を温めて、浴衣を身に付けた状態で、俺とルビーは向かい合っていた。

 

『こういうの、何度も想像してたの。せんせぇと結婚して、新婚旅行行ったら…初夜ってこんな感じかなって…』

 

そんなことをさりなちゃんが言うものだから、こちらまで緊張してしまった。

 

「まだ、間に合うよ?」

 

ルビーが伺うような、試すような眼差しを向けてくる。

耳まで赤くして、拒絶を恐れるようにその声は震えている。

 

「今更かもしれないけど、仲良く二人で寝て、朝起きて観光して帰っても ─── んッ!?」

 

言葉ごと呑み込むようにさりなの唇を塞ぐ。

拒まれれば傷付くとわかっているくせに、泣き出す寸前の顔でそれ以上健気なことを言わせたくなかった。

我儘で奔放に見せて、いつも人の感情に敏感だったこの子に、子供時代の大半を大人の顔色を伺うことに使ってしまったこの子から、今の俺は我儘以外の言葉を聞くつもりはなかった。

 

「ん…はっ、ん、ふ…」

 

薄く目を開けて、身体中を赤く染めて、懸命に唇を受け止めてる健気な姿を堪能する。

襟を掴んで必死に追い縋ろうとする姿にたまらなく愛しさが込み上げる。

身体を包み込むように抱きしめると、柔らかく華奢な肢体の感触が浴衣の薄い布地越しに伝わる。

 

「あっ…」

 

小さく漏れた声に笑みが溢れる。

自分よりも高いさりなの体温が、抱きしめると更に高くなった気がした。

上昇した体温によって、ふわりと甘い、さりなの香りが鼻腔をくすぐった。

 

「さりなちゃん…凄くいい匂いがする」

「せ、せんせと同じシャンプーだよ」

「本当に?」

 

旅館の備え付けのシャンプーを使ったのだから当たり前かと、自分の質問の間抜けぶりに思わず苦笑する。

しかし、そう問いたくなるほど、抱きしめた身体から香る匂いは甘く胸を疼かせる。

腕の中で小さく身じろぎするさりなの首筋に鼻を埋める。蜂蜜色の髪をかき上げてやると、ふわりと柑橘類のような甘く爽やかな香りが濃くなる。

よく知っている匂い。

小さな頃から嗅いでいる匂い。

いつでも安心するルビーの匂い。

この匂いが俺は、アクアは好きだった。いつも自分のそばに寄り添ってくれる気持ちが落ち着く匂い。

今はそれだけじゃないのは、さりなの香りだと思うからなのだろうか。

洗剤と、少しだけ消毒液の匂いのする病室の記憶は既に遠いが、抱きついてきた時のさりなからは病院の匂いしかしなかったことに酷く胸を締め付けられたことはよく覚えている。

 

『せんせ、お外の匂いがするね』

 

何気なく言われたさりなの言葉がいたく堪えた。

その切なさが、ルビーの甘い香りに上書きされている。そのことが嬉しくも、さりなの記憶すら上書きされるような気がして、抱きしめる腕に力が籠る。

 

「ん…せんせ、どうしたの?」

 

感傷的になっていることを悟られたくなくて、さりなの唇を再び塞ぐ。

 

嘗ては何よりも愛しく、何よりも大切に大切に扱っていた幼気な少女が羞恥と歓喜にあてられながら俺からの口付けを受け止めてる姿に、背筋を鑢で舐められるような嗜虐心が湧き上がる。

もっと恥じらいと悦びの感情に溺れさせてやりたい。

 

つくづく雨宮吾郎という男は度し難い。

さりなちゃん相手にそんな感情を抱いてしまうとは。

 

「んっ…んん、ちゅ、んっ、んっ…」

 

唇を甘噛みしてから、ぺろりと舐める。

唇を舌で突くと、身体をぴくんと震わせる。

舌を絡めて、唾液を流し込む。こくこくと喉がなるのを感じながら、さりなの唾液を吸い、舌の上で転がす。ぬるぬると熱い泥の中で這いまわる絡み合う蛇のようにさりなの舌と絡め合う。

 

「……ぷはっ…はぁ、は、はっ……はぁ、はぁ…」

 

息を荒げたさりなの口から俺の口へとつぅっと絹のように細い糸が走る。

蕩けた顔でだらしなく口を半開きにしたさりなの唇の端を舌で拭ってやると。紅葉のように首筋まで紅く染めたさりなが胸元に顔を埋めてくる。ぐりぐりと不平を訴えるように頭を捻る度に、金紗がさらさらと揺れる。

 

「どうする?今なら間に合うけど?二人で仲良く寝て、観光して帰るかい?」

 

意趣返しに、同じ問いかけをしてやる。

もっとも、ここまで昂った以上、隣で眠られても何もしないでいるのは生殺しにも程があるのだが。

 

「イジワル…」

 

恨めしそうに見上げてきた紅玉の瞳が、期待と不安に揺れている。

よくもまぁ、ここまで純粋でいてくれたものだ。

 

「…そういう顔、誰にでもしちゃダメだからな」

「え?」

「男を確実に惑わせて、勘違いさせる。良くない顔だ」

「言い掛かりだよ」

「いいや、妥当な意見だね。どうしてそんなに無防備なんだ?危ないだろ。俺は心配だよ」

「…だとしたら、おにいちゃんのせいじゃん…過保護にするから」

 

散々甘やかして、大事に大事に守って来たくせに、そう瞳にありありと感情が浮かんでいた。

確かに、それも一理ある。

 

「心当たりは…なくもない」

「往生際悪いな〜」

「じゃあどうしろと?」

「責任取って。せんせが、さりなに教えて?無防備だとどう危ないのか?」

 

紅が妖しく煌めく。

 

「男の怖さを教えて?」

 

普段の幼さが嘘のような妖艶さに、背筋が粟立つ。

抑えていた男の本能がぶるりと身震いしたのがわかる。

 

「どこで覚えた?そんな男を煽る言葉を」

「んんっ!?」

 

噛み付くように口付ける。

 

「んんっ」

 

「ん」

 

「ふっ、んむ」

 

「んちゅ。はっ、は」

 

「れろ、むぁ…ふ、ふ、あむ」

 

眩い程の月明かり照らされた和室のなかで、さりなの吐息が、ルビーの喘ぎが、妹の粘膜の音が薄闇に溶けていく。

戸惑い混じりの吐息を無視して、何度も何度も貪る。

幼子のように胸元を掴む手が微かに震えている。

それでも、手を離そうとしないさりな/ルビーに、愛しさが込み上げる。

抱きしめた手をそのまま帯の結び目に掛けるとさりなが短く声を上げた。

 

「あ…」

 

ほんの僅かだった。

 

帯に伸ばした手を少しでも跳ね除けようとするなら、行為をすぐさま止めるつもりだった。

 

躊躇はほんの僅かだった。

 

さりなの躊躇をさりなが押し切ったのか。

ルビーの躊躇をルビーが押し切ったのか。

ルビーの躊躇をさりなが押し切ったのか。

さりなの躊躇をルビーが押し切ったのか。

彼女の/彼女達のなかで何があったのかは俺にはわからない。

けれども、躊躇はほんの僅かだった。

 

こくんと、小さくさりなが頷いた。

名前のように真っ赤な顔でルビーが俺を真っ直ぐに見つめる。

後悔も、不安も、恐怖も、喜びも、期待も、幸福も、痛みも、快楽も、全てを飲み込んだ覚悟の焔に押されるように、帯を一息に解く。

 

「着けてなかったか」

 

抱きしめた時の柔らかさ、胸に当たる2つの固い感触に予感はあった。

しかし、想像など、目の当たりにした現実の前に容易く吹き飛ぶ。

 

「うぅ…ジロジロ見ないでよ」

「いや、見るだろ…コレは…」

「目がいやらしいよ」

 

何を言っているんだ。

いやらしく見るなという方が無茶な話だ。

こんなにも、綺麗な身体に見惚れるなという方が理不尽だ。

さりなの両腕を床に縫い付けて、俺は不躾に目の前の裸体を視界に収める。

 

大きく形の良い胸の先につんと尖った桜色の蕾。

優美な腰までのラインの先には何も邪魔なものは無い。

下を覆い隠すものなど何もないそこには、形よく整えられた小さな繁茂が月明かりを浴びて秋の小麦畑のように、黄金に輝いていた。

 

「綺麗だな…」

 

磁力を帯びてるように、俺の視線はルビーの身体から離れない。

俺が、星野アクアがずっと大切に守り続けてきた極上の果実から目が離せない。

この熟す寸前のような瑞々しく甘い香りの果実を、当の俺自身の手で捥ぎ取るのだと、下卑た優越感が去来する。

 

「バカ…」

 

恥ずかしげに顔を背けたので、赤く染まった頬に唇を落とす。

 

「あっ」

 

頬に、こめかみに、顎に、首筋に、鎖骨に、音を立てて口付けを落としていく。

 

「あっ」

 

「あっ、や、あっ」

 

「んっ、あはっ、やんっ、んんっ」

 

鍵盤のように、唇を落とすたびに鼻にかかった甘い声が短く上がる。淫らな楽器は奏でる度に、弾き手の理性を蕩かしていく。

つるりとした腋に唇を寄せる。

 

「や、そこっ」

 

抗議の声など聞こえない。

ちゅっと、吸い付くと、微かに浮かぶ汗を舐めとる。

腋から胸元へと舌を這わせると、「はぁぁ…ぁぁ」と、蕩けた吐息がさりなの喉から漏れ出た。

弓なりに仰け反った首筋に歯を当てると、一際高く甘く鳴く。

なんて甘い音で鳴く楽器だろうか。

他の誰にも触れさせたくない。

嬌声に合わせて揺れる豊かな乳房に手を伸ばす。

 

「んっ」

 

短く甘い鳴き声にぞくりとくる。

僅かに固く、弾力のある胸をゆっくりと揉んでいく。

手のひらに収まりきらない双丘は張りがあり、薄らと汗ばんだ肌が手に吸い付く。手のひらからも快感は得られるのだと、小さな驚きに息を呑む。

双丘の頂きにある桜色の小さな突起に息を吹きかけてやるとぴくんと身体をしならせる。

 

頂きには直接触れることなく、ひたすらパン生地のごとく捏ねて行くと、手のひらから伝わる体温がどんどん上がって行くのがわかる。

 

「やん、あっ、んん、んふ、くっ」

 

目をギュッと閉じて、ひたすら快感に声を殺して耐え忍ぶ姿は、初心で嗜虐心を擽る。

そこで、散々焦らした頂きを少し強く摘まむ。

 

「んあっ!!」

 

喉の奥から甘い悲鳴が飛び出た。焦らされたのはこっちも同様だ。

堪らず固くなった薄桃色の頂きに吸い付く。舌を巻きつけるように頂を包み、軽く歯を当てる。

 

「やぁんっ!!」

 

音を立てて吸ってやる。

 

「んひゃぁっ!?」

 

ばねのように体が跳ねる。思わず喉から飛び出た声が自分のものだと認めたくないのか、ルビーが耳まで真っ赤にして震える。

俺に組み敷かれ怯える姿はお仕置きを待つ従順な飼い犬のようで、庇護欲と罪悪感を呼び覚ます。

 

「……ん!?せんせ、そこは」

「もうドロドロだな」

「やあぁ…言わないで」

 

月明かりに照らされて、艶かしく輝く髪と同じ薄い色素の繁茂を指でさわさわと撫でる。

奥から溢れた蜜でしっとりと濡れた毛を指で梳いてやりながらチラリとさりなを見やれば、ぎゅっと目を閉じて必死に羞恥心に抗っている。

綺麗に整えられたそこを手のひら全体で撫でてやると、その奥にある閉じた割れ目に指を押し進める。

 

「んく…は、ぁ……あぁ…」

 

喉の奥から、熱い吐息に混じって絞り出されるルビーの切なげな声を心地良く聴きながら、指を丁寧にゆっくりと抽送していく。

 

「やぁぁ…んふぅ…あっ、あ、あ、あ、やだ…アクア…」

 

慎重に指を抜き挿ししようとしても、ルビーのそこは、とろりとした熱い蜜を吐き出しながらうねり、蠢き、容易く指に吸いつき呑み込もうとしてくる。

卑猥な水音と、可愛らしい吐息が夜闇に溶けていく。

より濃くなっていくルビーの甘い匂いにくらくらする。

溶けそうな微睡に浸っているような心地がする。

 

「あ、あ、あ!あん!や!あ、あ、あっ…」

 

煽られるように自然と早くなっていく指に、さりなの声も途切れ途切れに搾り出されていく。

 

「ルビー…」

「おにいちゃん…んっ」

 

涙の膜に包まれた紅玉が堪らなく愛しい。

濡れた目元に軽くキスをすると、そのままそっとねだるように突き出された花びらのような唇を塞ぐ。

今日だけでこの可憐な唇を何度塞ぎ、吸い、食んだのだろうか。

小さく、ぷるりと柔らかい唇は甘美な味わいで、一向に飽きることはない。

 

「んちゅ…や、ん、んん…あむ…ンンンっ!!」

 

熱いルビーの舌を絡め取り、唇で挟み、吸う。

角度を変え、深さを変え、唾液を流し込み、さりなの唾液を飲む。

手は蜜壺を掻き回すことは止めず、何度もえぐり、擦り、固く尖った宝珠をくりくりと指先でかねてやると、電流が走ったように小刻みに痙攣を繰り返す。

 

「あっ!や!やだッ…あ、あ、あ、あぁ!ダメ、待って、あん!!もう、も、せんせ、ちょ…んむぅ!!!」

 

快楽に嬲られ、怯えるさりなの声を塗り潰すようにキスすると、背中に回された手が爪を立てる。

ずっと小刻みに痙攣を繰り返していた身体が、バネのように大きく弾かれたようにしなった。

浅く達し続けていた身体が、大きな波に攫われるように、快楽に飲み込まれたのが指を通して伝わってくる。

一番強い痙攣と共に、手のひらが吹き出た熱い蜜を浴びる。

絶頂に達したルビーの下腹部をそっと撫でてやる。

この撫でている先にある小部屋は今、男を受け入れようとうねっているのだと思うと言葉にできない優越感が広がる。

この美しい雌をこれから俺が食らいつくせることに、自分の中の浅ましい雄が涎を垂らして悦んでいる。

 

ルビーはじっくりと弄られることにより快感を覚えるようだ。一方で、少し意地悪にされることに悦んでいるのはさりなだろうか。

同じ少女のはずなのに、その違いを嗅ぎ分ける自分の予想に確信めいたものすらある。

いずれにせよ、今俺の腕の中で快楽に炙られ、小さく震える少女は、俺の知る誰よりも感度が高く、繊細な肉体なのだ。

他の女と比べるなど下種なことだとわかっているが、比較対象があって、初めてそのかけがえのない価値に気付くこともある。

7日間かけて、複数の女を抱いた俺が、今更下種かどうかなど論じるまでもない。

 

美しく成熟しつつあるルビーと、幼いままのさりなが俺の視界に同時に存在してることに、背徳感と罪悪感、そして飢餓感が煽られる。

 

ふと、気付けば荒い呼吸を繰り返しながら、ドロドロに溶けた飴のように甘く粘度を帯びた紅玉が俺を切なげに見上げてる。

 

音を立てて美しい曲線の双丘を咀嚼し、黄金色の繁茂を掻き分け、熱湯のように熱い蜜壺を吟味することにすっかり夢中になっていた。

 

どれくらいの時間が経っただろうか。

息も絶え絶えなさりなを見下ろすと、汗ばんだ肌が月灯りによって闇の中に艶めかしく浮かび上がっていた。

淫蕩を体現するように甘ったるく、生々しく、据えた匂いを放つルビーの肉体は、一方で息を呑むほど神々しく、穢れのない芸術品のようにも見えた。

月の灯りすら、それを引き立てるスポットライトでしかない。

 

「本当に…綺麗だな…」

「えへへ…」

「すぐ調子に乗る」

「むぅ」

「ま、そういうアホなところも可愛いけどな」

「ばか…」

 

チュッと唇にキスをされた。

 

照れ隠しの小鳥のようなキスだった。

はにかむさりなと目が合う。

全てを受け入れる覚悟のあるルビーの目と。

こんなにも淫靡な空気の中で、幼い子供のようなキスがやけに鮮やかに心を貫く。

 

今、この瞬間だ。

 

自分の中の欲望の一番深い場所を塞ぎ、ギリギリのところを食い止める箍が外れた。

 

・

 

・

 

・

 

ルビーの乳房を味わうにつれて、

さりなの啼き声を堪能するにつれて、

ルビーの肌を、腋を舐めていくにつれて、

さりなの羞恥心を楽しんでいくにつれて、

ルビーの蜜壺を弄んでいくにつれて、

さりなの渇望を開いていくにつれて、

膨らみ続けた雨宮吾郎と星野アクアの欲望の圧力に耐え切れなくなった箍が今外れた。

 

自身の欲望を堰き止めていた理性が決壊する音が聞こえたような気がした。

 

確信がある。もう歯止めが利かない、止められないのだと。

 

禁忌も、倫理も、もはや何の役にも立たない。

 

「せんせぇ…」

 

瞳から泪を零しながらさりなが蕩けた笑みを浮かべる。

 

「しよ?」

 

首に腕を回して力一杯に抱きついてくるさりなを、抱きしめ返す。

 

「さりなの想いを遂げさせて?せんせと結ばれたいよぉ…」

 

縋り付き、懇願する、甘く胸が痛くなるような、心の奥底から引き摺り出したような声が鼓膜を震わせる。

 

「おねがい…おにいちゃん」

 

甘く、抗いがたい蠱惑的な響きが耳朶を揺さぶる。

さりなの背に腕を回すと強く抱き寄せる。

しなやかで柔らかな、温かな身体に浮かぶ汗がぴったりと吸い付く様に強く抱き締める。

隙間が出来ないように強く。

微かな苦痛と、喜びに熱を帯びた吐息がルビーの口から洩れる。

このまま押し潰してしまおうか、自覚した凶暴な独占欲を噛み殺し、両手でさりなの背を肩甲骨の形をなぞり、そのままゆっくりと脇腹へと伝っていく。

 

「!?あっ、はぁぁ ──── ッ」

 

背筋が感じやすいのか絡み付くような甘い声を上げる。さりな自身予想していなかった性感帯への刺激に粟立った肌の感触が指先に触れる。

覆い被さって、抱き寄せたルビーの身体を軽く持ち上げる。

健啖家なくせに驚くほど軽い。

しっとりとして柔らかく弾力のある尻を両手で強く掴む。びくんとさりなの身体が弾けるように震えるのを無視して、尻の肉をこね回す。

さりなが俺の肩に顔を付けて、短く何度も何度も吐息を漏らす。

声を上げるのを我慢しているのだろう、恥じらいと快楽の熱によって炙られた肌は艶やかに染まる。

 

触れるだけのキスを何度も交わしながらさりなの両足をそっと開くと、卑猥な匂いが一層濃く立ち込める。

快楽に何度も達したせいで身体に力が入っていないのか、あるいは覚悟しているのか。

 

避妊具に手を伸ばす。

 

「ピル…飲んでるから」

 

声だけで避妊具に伸ばした手を止められた。

愛液に濡れた陰毛は恥丘に貼り付き、蜜を湛え薄く開いた陰裂の隙間から鮮やかな薄紅色が覗く。

そっと陰裂に手を沿えると指で開く。溢れる愛液を亀頭に擦りつけると、そっとあてがった。

 

「さりなちゃん…無理はするなよ?」

「する!」

 

さりなのやけに力強い声に笑ってしまう。

この期に及んで、この子の方がよほど覚悟が出来ている。

こんなに覚悟を決められたらもう日和ることなんて出来ない。

 

愛しく見守っていた花を散らそうとしている。

 

大切に守ってきた果実を摘み取ろうとしている。

 

あてがった先端をゆっくりと、押し進めて行く。

ちゅるっと、先端が呑み込まれた。

それだけで短く声が出る。

熱い感触に、背筋が粟立つ。入口はすぐに狭くなり、侵入を阻まれる。

さりなが苦しげに息を吐くのに合わせて、ゆっくりと押し込む。

みちみちみち、ぶちぶちと肉が裂けて行くのが伝わる。

 

ぶつん。

 

聞こえたわけではないが、一つの境界線を超えたのだと、押し込んだ腰と掴んださりなのお尻がぶつかったことが物語る。

 

「ひぃぐぅぅぅぅぅぅ────!?」

 

歯を食い縛って耐える泣き顔がそれを否が応にも罪悪感を煽る。

同時に、背徳的な悦びが沸々と浮かぶのを否定しきれない。

 

まっさらな新雪の上に足跡を残していくような幼稚な達成感。

 

柔らかく熱い粘膜が痛いほど締め付けてくる。

ざらざらとした膣壁が別の生き物のようにうねり、搾り取ろうと絡み付いてくる。

あまりの快感に目の前がチカチカとする。

すぐにでも無茶苦茶にしてしまいたい衝動を堪える。

 

「はぁ、ぐ、いぎ…」

 

さりなの痛みが少しでも紛れるように、力まないように背中を撫でる。

本当はすぐにでも杭を打ち込むように激しく腰を動かしてしまいたい。

細い腰を掴んで壊れるほど快感を貪りたい。

ルビーの子宮に欲望をぶちまけたい。

凶暴な本能を歯を食い縛ることでどうにか堪え、平気な顔を作ってみせる。

首筋に、耳たぶに、額に、口付を落としてやると、泪と涎でぐちゃぐちゃのさりなの顔にひきつったような笑みを浮かぶ。

ぎこちないのに、泪と涎と、そして鼻水さえ出ているのに、その笑みを美しいと思った。

 

目が合うと自然とさりなは唇を尖らせる。

可愛らしいおねだりに応える。

何度もちゅっ、ちゅっと音を立てて唇を重ねる。

唇を舐められる。

目を細めたさりが微笑む。

初めてさりなからのお誘い。

さりなの舌が口の中にするりと入る。

深く、より深く、口付けは軽いスキンシップから互いの口内を味わうための貪り合いへと変わる。

 

「ごく。んん、んんぅ…」

 

こくん、こくんと喉を鳴らす健気さに愛しさを覚える。

熱い別の生き物のように蠢く舌と共に流し込まれた唾液を甘露のように飲み干す。

 

ぐちゅ、ちゅぷ、じゅぽっと卑猥な水音を立てて、擦り続ける感触にさりなの喉から断続的に短く荒い呼吸が漏れていく。

 

「あっ、あっ、あ、ああ、あっ!!」

 

懇願するように俺に縋り付き、顔を摺り寄せるさりなに嗜虐心が煽られていく。

優しく、丁寧に慈しんでやりたいと思っているのに、強烈な快楽を与え、注いで、啼かせて、壊してしまいたいという凶暴な嗜虐心がそれを塗り潰そうとしていく。

さりなの悲鳴、熱く短い吐息、絶え間ない卑猥な水音だけが響く空間に、次第に理性が蕩かされていくのを自分の冷静な部分が観察している。

押し寄せる快楽の波に流されまいとするように、背に回された指が背中に食い込む。

わかっているのか。

そんな風に縋り付かれたら、そんな風に身を預けられたら、ひたすら嗜虐心を更に刺激するだけだということに。

この子はわかっているのか。

わかってなどいまい。

だから、こうして悪い男に食われることになるのだ。

いや、俺が悪い男なら、この子は悪い女だ。

狙っても出来ないほど男を煽り、惑わし、誘うのだから。

悪い子を咎める代わりに首筋を強く吸い上げる。

 

「んぁ!はぁ…っ」

 

喉の震えが唇に伝わる。

 

ずっと大切に思っていた。

愛しく思い、寄り添い、支え続けていた。

例えば憎まれても、疎まれても、蔑まれても、何ものにも代えて守り続けていた少女。

少女は今、ただ快楽という強いお酒に酩酊したように、だらしなくとろりとした表情を浮かべている。

下卑た達成感、黒い優越感に駆られ、思わず腰を強く押し付け膣壁をごりごりっと擦り上げる。

 

「ふひゃぁんっ!!」

 

さりなの身体が弓のようにのけ反った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ぁぁぁ」

 

焦点の合わない瞳が虚空を見上げ、口の端から涎を垂らしながら必死に喘ぐさりなを見下ろす。

荒い息に合わせて白い双丘が上下する。ルビーのの膣から溢れた愛液がとろとろと腰を濡らし、俺の身体にマーキングするように俺の肌を侵食していく。

汗と愛液と蒸した雌の匂いが溶け合ったようなねっとりとした空気に脳の奥が麻痺していく。

 

「いっ…つぅ……ぅ、っぅふぐぅううぅ~~」

「さりなちゃんッ…さりなッッ」

 

痛みと快楽に啼く少女を抱きしめる。

 

もっと優しく、丁寧にケアしながら抱きたかったのに、もう限界だった。

愛しさと独占欲が優しくしたいという儚い希望を粉々に砕いていく。

下半身から背筋に走る強烈な快感の前には、自分の気遣いなど紙吹雪も同然なのだと思い知る。

ごめん、すまない、謝罪を心の中で繰り返しながら、腰を何度も何度も押し付ける、何度も何度も叩き付ける。

 

肉が肉を打つ音が。

肉が粘膜を打つ音が。

粘膜が肉を打つ音が。

粘膜が粘膜を打つ音が。

 

俺とさりなを狂わしていく。

アクアとルビーを壊していく。

俺とアクアが一つに混ざり合って、さりなとルビーが一つに混ざり合って、

2人なのに4人の俺たちが淫臭と愛液と、肉がぶつかる音のなかで、熱い吐息と悲鳴と嬌声に塗れ、ぶつかり合う。

 

快楽と愛情と執着の境界線が無くなるなかで、

互いの境界線が曖昧な中で溶け合う。

 

「さりなちゃん…っ」

 

「アクア、せんせ……せんせ!」

 

 

くるくると、意識が風見鶏のように裏表が代わる代わる切り替わっていく。

頭がどうにかなりそうだった。

 

俺の腕のなかで、快楽と痛みに顔を歪めて、ドロドロに蕩けて、甘い眼差しを向けてくるのがさりなでもルビーでもなかった。

さりなであり、ルビーでもあるのに、どちらでもないような。

二つの色が溶け合って、新しい色に変わったように、そこには俺がよく知る初めて見る女がいた。

 

 

「あ゛っ、あぁ゛っ、あ゛あ゛ぁぁぁぁ……あ゛ァァァァァァァーーーー!!!!」

 

 

蜂蜜色の髪を振り乱して、快楽の坩堝に叩き落とされた女が弾かれたように身体をしならせた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ぁぁ゛ぁぁ゛ぁぁ゛ぁぁ…ぁ…」

 

 

痛いほど堪えていた俺の我慢も限界だった。

眩暈がする程の凶悪な快楽が下半身から脊髄に、脊髄から脳に電流のように走り目の前で火花が散る。

 

「あ゛ぐぅぅ…ぅぅ!!!」

 

 

どぼり。

 

そんなら音が聞こえた気がした。

欲望が塊となって、痛いほど強烈な射精感と共に吐き出された。

塊が栓になっていたのかと言いたくなるほど、長く、勢いよく、大量の欲望の奔流がルビーの子宮を満たしていく。

ルビーの子宮は、俺から吐き出された欲望を貪欲にごくごくと呑み干す勢いでうねり、それが更に射精を促していく。

 

身体が溶けていく。そんな錯覚さえあった。

 

「はぁ…はっ、はっ、はっ…」

「あぁ…んん、うぅん…はぁ、は、は、は…」

 

互いの吐息の溶け合うなか、ゆるゆると引き寄せられるように重ねるだけの口付けを交わしていく。

 

ルビーはビクビクビクと身体を痙攣させ、緩み切った股からちょろちょろと水が流れていく。

 

乱れた金紗が張り付いた汗に濡れた身体をぐったりと布団に投げ出し、開いた股からはしたなく漏らしながら快楽に飛んだ焦点の合わない瞳を虚空に彷徨わせる女を心底愛しいと思った。

 

その姿は底知れないほど淫靡で、可憐で美しかった。

 

・

 

・

 

・

 

「う〜〜腰痛い〜〜」

 

腕にくっついたルビーが腰の痛みを訴えるのはこれで何回目だろうか。

 

「股もヒリヒリするし。お腹もなんか重いし」

「それについてはすまん」

 

少し歩き方がぎこちない姿に罪悪感が過ぎる。

可愛い妹の初めてを奪って、さらには気遣いをどこかへとうっちゃり夢中で貪ってしまった外道と言われれば何一つとして反論ができない。

 

「だから、宿で寝てれば良かったのに」

「それは嫌。残れるわけないじゃん。そもそも、おにいちゃんのせいでもあるんだよ?」

 

 

「あの宿暫く使えないよ…」

 

耳まで赤くして、少し潤んだ瞳が恨めしげに睨み上げてくる。

不平不満文句を無言で訴えかけてくるが、残念ながら少しも怖くないし、なんならひたすら可愛いだけだ。子猫の威嚇でももう少し迫力がある。

 

桃色のマフラーに口元を埋めて、マフラーの上で膨らんだ蜂蜜色の髪が陽光を浴びてキラキラと輝ている。

18歳になったというのに、あどけなさが残るルビーを見ていると、昨日の夜が嘘のようだ。

 

俺達の体の相性は良いというレベルではなく、互いが互いを埋め合う為に設計されてたかのようで、気絶するほどの快楽に我を忘れて何度も求め合ってしまった。

 

その結果どうなったかというと、部屋が凄まじい匂いに包まれた。

ずっと貪り合っていた俺達自身は鼻が麻痺していたが、2人で露天風呂に入って、上がって来た時に初めて気付いて愕然とした。

何食わぬ顔をして出れば良いのだろうが、ルビーは部屋を片付けに来た仲居達にどう思われるのかを想像したのだろう、チェックアウトの手続きの間中その名の如く顔を紅くして俯いていた。

せめてもの悪足掻きにと窓を全開にしたり、色々としていたが、無駄なことだろうな。

だって、お前漏らしてたし。勿論、羞恥心で卒倒しかねないほど真っ赤な顔をしていたので触れないでおいた。そうなるほどいじめた俺にも責任の何割かはある訳だし。

 

ルビーの様子を見て、何かを察したのだろう、ベテランの女将の表情には微笑ましそうな、そして懐かしそうな笑みが微かに浮かんでいた。

 

「…本当に良かったのか?」

 

少し険しい山道をゆっくりと歩きながら腕にくっ付くルビーを見やる。

木の根や草に足を取られないように、購入してきたキンセンカを手にするルビーは首を振る。

 

「過保護だよ?私も絶対行きたかったから」

「そうか」

 

流石にしつこかったなと、反省をしながら目的の場所へとたどり着く。

烏の鳴き声が木霊する。

気を付けなければ通り過ぎてしまいそうな小さな祠が目に留まる。

目当てはこの祠ではなく、その裏にある空間。

 

薄暗い空洞の奥。

あかねとルビーが見つけてくれた、俺の死体があった場所。

雨宮吾郎が16年間眠っていた場所。

 

 

「…ここ……だったよね」

 

腕にしがみつくルビーの腕に力がこもる。

何を思っているのだろうか。

もし、ここでアレを見つけた時のことを思い出しているのだとすれば、ルビーが怯えているのは俺の責任だ。

思えば、この子にもあかねにも無責任で無慈悲なことをしたものだ。

今、あのころの自分に会えたのならあの時の自分を殴り飛ばして、何時間かけても自分で探させていただろう。

 

「あれ…?」

 

久しぶりに訪れたそこには、既に先客がいた。

 

「あら?」

「貴女は…」

 

驚きに思わず声が漏れた。

傍らのルビーが不思議そうに見つめている。

 

いくつもの献花がされた場所にしゃがみ手を合わせていた女性が、俺たちに気づいたのか、不思議そうに振り返る。

他の枯れかけた花と違って、瑞々しいケイトウの花が薄暗い空間に鮮やかに映る。

この女性が供えてくれたのだろう。

 

しかし、そんなことは些細なことだった。

 

年の頃は40代にさしかかったころだろうか。

年月を経ても知的で静謐な眼差しは変わらず、すらりとしたスレンダーな容姿も、ぴんと背筋を伸ばした立ち姿も記憶のままだ。

 

「あの、もしかして、丘の上の病院で勤務していらっしゃいませんでしたか?」

「ええ?なぜそれを…失礼ですけれど、何処かでお会いしたことが…」

 

やはりそうだった。

俺があそこの病院に勤めていた頃に同僚だった看護師。

遠慮のない物言いが、キツくもあったが小気味よくて

目尻にうっすらと小皺が刻まれ、霞がかった記憶にある姿に20年近い年輪を刻んだ姿がそこにあった。

 

「あら?」

 

じっと見つめられて思わず後ずさる。

相変わらず考えの読めない硝子のような眼差しに、居心地が悪くなる。

 

「貴方……星野アクアさん?俳優の」

「え、ええ」

「じゃあ、そちらのお嬢さんが、星野ルビーさん?」

 

自分の知名度をすっかり忘れていた。

ルビーはともかく、自分はそこまで知名度があるとは思ってもいなかった。少なくとも中高生ならばともかく、40代の女性にまで知られているとは。

感情のあまり見えない表情を僅かに、おそらく親しい人間ではない限りそうとは気付けない程度に表情を綻ばせる。

 

「ウチの娘が貴方のファンなんですよ。それに、貴方はご存知ではないかもしれないですけれど。私、貴方達の出産に立ち会ったんですよ?」

「えぇっ!?」

 

ルビーが目を丸くする。

 

「あら、これ言って良かったかしら。でも、もう良いのかしら。映画もやってたし」

 

アイのことを言っているのだろう。

 

そうか、君は駆けつけられなかった俺の代わりに、ちゃんとアイの側にいてくれたんだな。

 

俺はアイとの約束を果たせなかったが、彼女が代わりに約束を果たしてくれたような気がして、少しだけ心が軽くなるのを感じる。

もちろん、彼女はあくまでも仕事を果たしただけにすぎない。

きっと雨宮吾郎が感謝をしようものなら、「仕事だからやっただけなんですけれど?それよりも、先生こそどちらに行かれていらしたのですか?」なんてチクチクと小言を付け加えるだろうが。

 

「どうしてこちらへ?」

 

ルビーが何処か警戒した表情で彼女を見る。

緊張しているのだろうか、俺の腕を抱きしめるルビーの力が強くなる。

というか、力込めすぎじゃないか?痛いんだが。

そんなにお前人見知りだったか。

ルビーの警戒心に気づいていないのか、どうでもいいのか、彼女は供えていたケイトウを横目に見る。

 

「……昔お世話になっていた先生が、ここで亡くなられたんです」

「そ、それは、恋人だったとかじゃなくて?」

「おい、ルビー失礼だぞ」

「だって」

「ええ、そうですよ。恋人だったんです」

「ちょ、ま」

「嘘!?」

 

とんでもねぇことぶっ込んで来やがった。

ルビーに抱えられた腕が万力のような力を受けて悲鳴を上げる。

取れちゃう、俺の腕が取れちゃう。

 

「嘘ですよ」

 

しれっと虚偽を認めると、露骨にうろたえた俺達を愉快そうに見てくる。

こういう意地の悪いところは20年近く経っても変わらないんだな、と少し懐かしくもなる。

からかわれたと思ったのか、ルビーはぷくーっと膨れている。可愛い。

 

「だって、あの人ロリコンだったんですもの。12歳の自分の患者の女の子を待ち受けにしてるんですよ?20代なんてきっとおばさんだったんじゃないかしら」

「……へぇ〜〜…えへへへ〜〜」

 

冤罪だよう!

 

とんだ風評被害だ。

もう弁明できないからって容赦が無さすぎないかこの人?

それから、ルビーはご満悦そうに笑わない。

 

 

「えっと…貴方達は?」

 

キンセンカを供えて、手を合わせるルビーを見ながら、彼女は怪訝そうに問う。

 

「…母から、聞いたんです。随分お世話になった先生がこちらにいらしたと。それが雨宮先生だったと、もうお亡くなりになったと知ったのは最近ですけれど」

 

自分で自分を先生呼びするのは随分と変な気分だ。

 

「僕たちの母は既に他界しております。母ならきっとここに来たがったと思ったので」

「そうですか…」

 

アイがもしも生きていたら、来てくれただろうか。

雨宮吾郎が死んだと聞いて、花の一つでも供えてくれただろうか。

願望混じりの嘘を吐く自分に苦笑する。

ふと、彼女が不思議そうに俺を見つめていた。

 

「不思議ですね」

「何か?」

「年齢も顔立ちも全然違うはずなのに、なんだかとっても似ていると思って」

 

目を丸くした彼女は、頬に手を当てて実に不思議な現象に出くわしたような、実に彼女にしては珍しいくらいに驚いた顔で俺を見つめている。

 

寧ろ、俺の方が動揺しているのだが。

 

何を考えているのかわからない、つかみ所の無い人だと思っていたが、こうも鋭いと心臓に悪い。

 

「だからなのかしら。雨宮先生とお話してるような気分になってしまうのは」

「その、ロリコンな先生に似ていると言われても」

「ふふふ、ごめんなさいね。怒らせちゃったかしら」

「複雑な気持ちではありますけど…まぁ、聞けば約束を破って母の出産をほっぽりだした先生みたいですから、貴方も思うところはあるんでしょうけど」

「そんなことありませんよ。私好きでしたし」

「は?」

「あ、嘘じゃないですよ。恋人というのは嘘ですけど。好きだったのは本当です。お人好しで、頑張りすぎるくらい頑張る先生だったので、端から見てていて心配になる人でしたから。家族じゃないから捜索願も出せなかったし。あの日に亡くなっていたと聞いたときは……泣いてしまいました」

 

憂いを帯びた横顔に、今更に罪悪感が芽生える。

俺はストーカーに殺された時、アイの子供に生まれ変わることができたことに浮かれて、前世には何の未練も持たず、思い返すことなんて殆どなかったのに。

この人は、そんな俺のことで心を痛め、泣いてくれていたのだ。

こんな薄情な男のために。

 

だからだろうか。

 

「君が…俺なんかの為に泣く必要なんてないさ」

 

気が付けばそう口にしていた。

 

「…先生?」

「なんて、その先生なら、言うんじゃないですか?」

 

思わず口を衝いて出てしまった言葉を、慌てて誤魔化す。

それをどう受け止めたのか、彼女はふっと口元に笑みを浮かべる。

 

「そうね…ふふっ。本当似てる。似すぎてて腹が立ってきたわ」

「腹立ちついでに、言いたいことを言ってみたらどうですか。俺を先生だと思って」

 

肩を竦めて見せる。

彼女が出きるだけ余計な気負いなんてしなくて済むように。

どこまで意図が伝わったのかはわからないが、彼女は楽しげに笑うと頷いた。

 

「……いつもいい加減で思わせぶりなことを言う貴方が少し嫌いでした。優しくて、患者さんに寄り添う貴方に憧れていました。

無理をしてばかりで、貴方にはもっと自分を大事にして欲しかった。

貴方が行方不明になってから、もっと…素直に話せていたらと後悔ばかりしていました。すぐにムキになって言い返してくれるのが楽しくて、辛辣なことばかり言ってごめんなさい」

 

よく彼女とは病院の屋上で話していたな。

懐かしさがこみ上げる。

 

「……僕も君と話をするのが楽しかったよ。遠慮も何も無い君だから、僕も何でも話せたんだ。多分、あの頃、僕が一番信頼していたのは君だったよ」

「雨宮先生…」

 

一瞬、僕らは確かにあの病院の屋上にいた。

雨宮吾郎として。彼女も20代のまだあどけなさの残る看護師として。

けれど、それは本当に一瞬のことだった。

互いに嘗ての姿で見つめ合ったのは刹那の時で、すぐに苦笑を浮かべ合う。

ここは丘の上の病院から少し離れた祠の裏で。

雨宮吾郎は死んで、今の俺は18のガキだ。

そして、彼女はその間も年月を重ねた大人の女だった。

 

・

 

・

 

・

 

「ありがとうございました」

 

祠を出て、公園の入り口まで降りたところで、彼女は深くお辞儀をした。

 

「役者さんは凄いんですね。本当に雨宮先生とお話しているようで…ようやく完全に吹っ切れそうです」

 

にこりと、初めて見る彼女の柔らかな微笑みに息を呑む。

 

「痛っ…お前」

「むぅ」

 

紅玉が怒りを漲らせた目で睨み付けてくる。

ルビーに抓られて、ようやく見惚れていたことに気づく。

俺達のやりとりを微笑ましそうに見ていた彼女はスマホに目をやる。

 

「主人の車が着いたそうなので、私はこれで」

 

そう言うと、もう一度浅いお辞儀をすると、そっと近づいて耳元に口を寄せる。

 

「女の子を誑し込むのは程々にしてくださいね……先生?」

「!?」

「なんて、冗談ですよ。星野愛久愛海さん?」

 

40代とは思えない、まるで悪戯好きの少女のように笑うと、彼女は立ち去って行った。

 

 

 

 

 

「…やぁ〜〜っぱり女誑し込んでたんじゃん。浮気者…ってさりななら言ってるよ、おにいちゃん」

「人聞きが悪すぎる」

 

東京へ戻る飛行機の中で、ルビーはずっとむくれていた。

どうも、先ほどの看護師の彼女とのやり取りをしっかり聞いていたらしい。

まぁ、あんな狭い洞穴の中なら聞こえるか。

 

「…でも、なんかすっきりした顔してるね」

 

流石にルビーは気づいてるようだ。

 

「ああ…吹っ切れたのは俺も一緒だよ」

 

雨宮吾郎の未練が完全に無くなった気がする。

ルビーもそれがわかっているのか、柔らかく微笑んで頷く。

 

「私もね、ようやくちゃんと言えたよ」

 

そっとルビーが指を絡めてきた。

 

「せんせぇにさようならって言えた。せんせと結ばれて、さりなの気持ちはもう報われたから。だから、ちゃんとお別れができたよ」

 

「そうか…」

 

少しの切なさと、抑えきれない寂しさを滲ませたルビーの声に、だけど同じくらい前を向こうとしているのもわかるから、俺は絡めた指先に力を込めて握り返すことで応える。

 

「何か、お互いを看取ったなんておかしな話だな」

「私達だけの秘密だけどね」

 

ルビーはくすりと笑って頭を肩に預けてきた。

程なくして、可愛らしい寝息が聞こえ始める。

 

 

 

不思議な旅行だった。

 

自分の墓参りのための旅行なんて、どこの世界にあるというのか。

 

だが、これは俺達にとって必要なことだった。

 

俺達兄妹が、前に進む為に。

 

明日を、明後日を、もっと先を見つめて進むために。

 

 

 

気が付けば俺も眠りに落ちていた。

 

 








不思議な夢を見た。

そこにはアイがいた。

さりながいた。

ゴローもいた。

『ちょっと、ゴロー、お皿出すの手伝ってよ。さりな、アクアとルビーを呼んできて。ご飯できたよって』
『えー、今ライブ見てるのに〜〜ねぇ、せんせぇ』
『そうそう。もうすぐサインはBが始まるんだからさ、もう少し』
『ゴロー、お願い』
『よし、片づけようかさりなちゃん』
『せんせ!?』


ルビーと俺は顔を見合わせて笑った。

食卓に着くと、5人の賑やかな食事が始まった。
ゴローが好き嫌いをするさりなを窘める。
ゴローのグラスにアイがビールを注ぐ。
アイの口元についたご飯粒をゴローが取ってやっている。


食事を終えた俺とルビーは、顔を見合わせると席を立つ。
他の三人は俺達を見送る。
まるでわかっているように。
ドアに手をかけた俺とルビーに向かって、アイと、ゴローとさりなが笑った。



「「「いってらっしゃい」」」



俺とルビーは笑って応えた。



「「いってきます」」



不思議で、楽しくて、幸せな夢だった。

不思議で、へんてこで、楽しくて、幸せな夢だった。

そして、少し悲しい夢だった。


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