「昨夜はお楽しみでしたね」
全く目が笑っていないあかねの笑顔からそっと目を逸らす。
「そうよね、アンタがスカウトしてきたんだから、そりゃ好みの女だものね」
「結局、B小町ってお兄ちゃんのカキタレ集団なんだ。美少女コレクションなんだ」
人聞きが悪いが、有馬の口が悪いのは今更だし、全く以て事実でもあるから反論が出来ないとして、ルビーはどこでそんな汚い言葉を覚えてきた。
年頃の女の子がカキタレなんて口にするんじゃありません。ネットで口にしようものなら下手すりゃ炎上だぞ。
「おい、MEM、何とか言え」と視線で訴えるが、「アクたんがどうにかしなよ」と目で訴えかけてきやがった。
無関係面しているのが大変腹立たしいが、MEMと睨めっこをしていても始まらないし、「なに見つめ合ってんのよ」「MEMちょやっぱりアクア君と…」「せんせ…やっぱり大人の女の人の方が…」、なにやら女性陣から向けられる眼差しが冷たくなっていく。
「落ち着け。まず、MEMには話したが検証をしたかった。あのふざけたカウントが何処で判断されるのか。男女が寝室で一夜を共にすればカウントされるなら、一晩同室で過ごすだけでカウントされるんじゃないかと思ってな」
ちなみに、MEMと寝室に入ってまず最初にしたことは隠しカメラの存在を確認すること。寝室に置かれたスタンドや壁紙の切れ目、天井の角やベッドの端、小物や引き出しの取っ手何かにも小さなカメラを仕込むことは出来るという。
結論から言えばやはりカメラは無かった。
或いは盗聴器の可能性も考えたが、ベッドの下を含めてそれらしいものは見当たらなかった。
部屋は至ってシンプルで、物を隠す余地がそもそも殆ど無かった。
まるで、部屋を用意した人間に「寝ること以外やること無いだろ?」と挑発されているような気さえする。
昨日は、俺の考えをMEMに説明した上で、適当に雑談をして一晩を過ごした。
意識しなかったかと言われれば嘘にはなるが、置かれた状況の異常さを前にして速攻で思考を放棄して性欲に走るほど理性を手放してはいないつもりだ。
しかし、結果は「予想通り」芳しくなかった。
【4】
忌々しい気持ちで変動の無い数字を睨む。
「変わってないわね…」
「うん。日付ってことも無さそうだね」
端から信じてはいなかっただろうが、それでも縋りたかったというように、あかねの呟きは虚ろな響きを持っている。
だが、その気持ちはよくわかる。
俺だってワンチャン監禁日数なのではないかという希望的観測を捨てきれずにいたのだ。
今の時刻はまだ昼の11時を回ったばかりだ。
昨日この部屋に通されてから24時間はまだ経っていない以上、その可能性は0になったわけではないが、おそらく日付ではないのだろうという漠然とした思いがある。
女4人に囲まれて、どれだけ理性を保ったままで居られるかの人間モニタリング、そんな番組であってくれた方がまだマシだ。
しかし、その可能性は昨日MEMとも話していたが、限りなく0だろう。
人気上昇中の女優やアイドルのスケジュールを抑える手間と、傷つける可能性のあるイメージ、それらに対して確保されていない撮れ高ではリターンが見合わなさすぎる。
今日あまや今ガチの頃の俺達ならばともかく、「あの映画」を成功させた今となっては、事務所が黙っていないだろう。
というかミヤコさんがルビーや有馬達をそんな現場に送るはずがない。
「テレビはつくのね…てか、全然私たちのことニュースになってないわね」
「幸いオフと重なってたからな」
「でも、一週間とか二週間になってきたら、騒がれ出すんじゃないの?」
MEMは「そもそも配信が2、3日途切れるのも結構ダメージ大きいんだけどね…」と配信者らしい落ち込みを見せている。
「ご飯足りるかな…」
この部屋に送られた目的や今後のリスクを各々が考えている中、ルビーだけは冷蔵庫をのぞき込みながら不安げな顔をする。
食料について不安ならその手にしたプリンを戻しなさいと言いたいが、満足に人生を謳歌することが出来なかったさりなちゃんが美味しい物を食べて幸せな気持ちになっているのは邪魔できない、尊い、もっとお食べと言いたくなる。
「アンタ呑気ねぇ…こんな時にご飯の心配?」
「だって、スマホ使えないんじゃウーバーも呼べないし、5人も居たらご飯すぐに無くなっちゃうよ?」
単純な様でそれは重要な問題だった。
この部屋にある冷蔵庫の内容量からして、おそらく。
「食材を無駄なく使って、食べ過ぎないようにしても、5人だと1週間から保たせても10日くらいかな」
「一日一食にしても、賞味期限がねぇ」
料理が得意なあかねとMEMの意見は、概ね俺と同じものだった。
つまり、あまりモタモタしている暇はないということだ。
この状況に置かれて、ある程度戸惑うことは考慮しているが、そんなに悠長にしている時間は無い。
俺はMEMを見る。
MEMは一気に顔を赤くする。
既にMEMには一度説明しているとはいえ、内容的に仕方がない。
「今夜、検証したいことがある。MEM、また付き合ってくれ」
「…う、うん」
もじもじと俯くらしくないしおらしさを見せるMEMに、ルビー、あかね、有馬の目がつり上がるのを、俺は見ない振りをすることにした。
「お前、もう少しリラックス出来ないのか?」
「ん…だって、む、無理だよぅ…アクた…んんっ」
ちゅっと、音を立ててアクたんが首筋を啄む。
こっちの恥ずかしさを高めるために、わざと音を立ててるんじゃないのかなと聞いてしまいたくなる。
「あのときも、お前めちゃくちゃガチガチだったよな」
首筋から、舌をゆっくりと胸に這わせるアクたんは、どこか楽しげだ。
「う、うるさ…んぁッ」
「すげぇ尖ってる」
「ふっ…ふっ…歯、立てちゃ…」
「もっとだな」
「ちが…んんんっ」
喉の奥で微かに笑うと、アクたんが胸の先に軽く歯を立てる。
散々じらされたせいで、敏感になっていたところに一気に与えられた刺激に、思わず仰け反る。
散々お姉さんぶって、大して経験が無かった私を揶揄ってるのだと、わかるけど、反論する余裕が悔しいことに無い。
「MEM…お前、ホントにアラサーか?」
「はぁはぁ…デリカシーが無いよぉ。文句あるの?」
「反応が初々しいなって」
「そういうアクたんは全然初々しくないよね」
甘さと苦々しさが一緒になった、初体験の思いでが不意に蘇る。
出会いはよくあるバイト先の同僚。
年が同い年で、私と同じ家の事情で大学には行けなかった人。
でも、十代の若さのせいか向こうは性欲が先行してガツガツ来るし、私は私で、バイト三昧で男性経験どころか男の子との交流すら殆どなかった訳で、ガチガチに緊張してリラックスなんで出来るわけが無い女の子と、早く挿入したいばかりの男の子の初体験は、それはもう痛くて、痛くて、痛いばかりの結果になった。
「まぁ、手慣れてる感出されるより、可愛いけどな」
「言ってることがおっさん臭いよアクたん」
「可愛いってのだけ素直に受け取ってくれ」
「ん」
言い募ろうとした言葉は、アクたんの少しひんやりとした唇に優しくふさがれる。
軽く触れると、ノックするように何度も唇でタッチをしてくる。
おそるおそる唇を開くと、するりと舌を差し込まれた。
「んん、んふぅ、ちゅ、んちゅ…」
水音が吐息が交互に耳朶を震わせる。
胸を執拗にこね回していたと思ったら、アクたんの指がそっと耳をなぞってくる。
あ、キスしながら頭撫でられるの結構好きかも。
可愛がられてるって気がして、凄くそれが新鮮。
「お前、マジで可愛いな」
「揶揄わないでよぉ」
「本気だって。嘘で女をその気にさせることは言わない」
「……本気で言ってるから性質悪いんだと思うなぁ」
「?」
わかってないなこれ。
きょとんとした顔は、年相応で可愛い。
でも、アクたんの指は全然可愛くない。胸を執拗にこね回してたと思えば、柔らかな手つきでお腹をゆるゆると撫でてくる。
なんか、女心には疎いくせに、女の子の身体の扱い方を知ってるって感じの優しくて柔らかな手つき。
ていうか、十代とは思えないくらいアクたんはねっとりと攻めてくる。
「ん……ふっ……んん…」
「MEM…力抜いて」
耳元でそっと囁かれて、耳たぶを甘噛みされると、一際高く声が出ちゃった。
つぷりと、アクたんの指がアソコの中に沈み込む。
縁をなぞってから、ゆるやかな異物感がお腹を突き上げてくる。
抑えようとしても、手はシーツを握るのにいっぱいいっぱいで、抑え切れない。
「あ、あん、んんんっ、あ…っっ!!」
隣の部屋に聞こえてるんだろうか。そういえば防音は試してなかった。
ごめん、あかね。
いや、別れたからごめんじゃないのか。
じゃあ、ごめんかなちゃん。
いや、付き合ってないから謝る必要ないのか。
ルビーごめんね。
いやいや、何でルビーにゴメンって言うの。
思考がまとまらないや。もう訳がわからなくなってくる。
わざとなんじゃないかってくらいに響く水音に顔が熱くなる。
多分、アクたんは上手いんだろうな。
比較対象が一人しかいないから断言は出来ないけど。
「指、増やすぞ」
そんな宣言要らないよぉ!!
そう言おうとしたけど、口から出たのは、恥ずかしくなるような悲鳴だけだった。
「水、飲むか」
「……ん」
冷たい水が心地よく喉を滑り落ちていく。水がとっても美味しい。
散々鳴かされて、泣かされて、啼かされまくってもう色々と水分を出し尽くしてしまったのだから、身体が水を求めてるんだろう。
涼しい顔で頭を撫でてくるアクたんが余裕綽々で少し癪だが、実際始終リードされていたのだからなにも言えない、お姉さんとして振る舞っていたのに、もうすっかり立つ瀬もない。
「アクたんはいいの?」
「なにが」
「その…出さなくて」
「さっきシャワーついでに処理してきた」
「おおう…」
アクたんは寝室の時計を見ている。
深夜の3時。ということは…と行為に割いた時間が思ったよりもエグくて
、30の足音がそろそろ聞こえてくる年になって、9歳も年下の男の子に時間も忘れていたのだと思うと軽く死にたくなる。
「MEMの方こそ大丈夫か?」
「…一応聞くけどなにが?」
「いや、尻の穴を…」
「言わなくていいよぉ!!」
自分で聞いておいて、と不満げなアクたん。
顔にステータスを振った分デリカシーに割くステータスが足りなかったのだろうか。
大丈夫な訳がない。
あそこはそもそも出す為の穴だ。
そりゃあ、知識としては知ってるし、経験している子から話を聞いたこともある、あるけれど。
「慣れないから、びっくりしたと思う。申し訳なかったとも思う。だけど、準備は必要だから」
「準備?それって、今日しなかったのと関係あるの?」
散々泣かされてあれだけど、私たちはいわゆる本番行為はしていない。
彼が童貞で中折れしたとか踏ん切りがつかなかったとかではないのは知っている。
「明日、性交渉のボーダーを見極める。一応はセックスと表示していたが、どこまでをオーケーと判断されるのかは把握しておくに越したことはない。最悪、あの数字が人数だとしたら…」
「あー…まぁ、そうかぁ〜」
「少しでも心の傷は軽い方がいいだろ」
「傷…になるかな」
アクたん的には嫌がる子にそういう行為をすると捉えてるのかもしれない。
「なるだろ。どれだけ仲が良くても友達だし、ルビーにとっては兄貴だからな」
そりゃ友達だったら嫌だ。どれだけ仲が良くてもただの友達とこういうっことはしたくない。気にしないって開放的な子も要るけど、少なくともあの子達は絶対にその一線を許さないタイプだ。
だけど、アクたんを嫌がることは無いだろう。あかねもかなちゃんも、寧ろアクたんさえその気ならいつでも…
「それと私のお尻を散々弄んでくれたのは?」
「もし、本番行為じゃなければノーカンだった時は、そっちを使う」
「……マジ?」
「マジだ。妊娠の可能性は避けるべきだろ」
「別の意味で裂けちゃうよぉ!!」
「だから、散々ほぐしたんだろうが。最後の方は結構感じてたろ」
「ちょ、そういうこと言っちゃうかなぁ普通!!」
確かに、まぁ、こういうのもありかなと思ったけど。思ったけども!!
「…まぁ、納得は出来ないけど、理解はしたよ。アクたんが悪足掻きしたくなる気持ちもわかるし」
万が一にも妊娠したら大変だ、あの子達はこれからもっと人気が出ていく子だから、スキャンダルは最小限に抑えたい、そう思ってるんだろう。
もう今更感はあるし、じゃあ私はいいのかっていう話なんだけど。
「すまん」
「でも、ちょっとホッとしたかな」
「なにが」
「いやぁ〜凄くドSな顔で、生き生きと私のお尻をイジメてくれたから、てっきりアクたんの趣味かと思ったよぉ〜あははは」
「…」
「何で目を逸らしたの?」
「……ソンナワケナイダロ」
「アクたん!?」
その後、すっかり疲れ果てていたのか、私もアクたんもぐっすり眠りについてしまった。
仮眠のつもりがすっかり眠りこけてしまっていたらしい私たちを迎えたのは、3対の憎悪すら籠もった視線。
それとーー
【4】
ある意味予想通りの数字。
「MEM…すまん」
その謝罪は私というより私のお尻に向けたものだろう。
でも、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、どうなってしまうのかという興味が湧いてしまったのは否定できない。
お尻が疼いたのは気のせいだと思いたいけど。
まだまだMEMちょ