「誰のことを思い浮かべてたのかな」
「肉体関係を続けてる実の妹?」
「復縁した元カノ?」
「自分のことを好きでいてくれるマグロな子?」
「それとも縋ったらうっかり孕ませちゃった年上のお姉さん?」
「……女の敵だね」
「うるさい」
「こわーい。図星をつかれたからって怒らないでよ。こんな時間に何してるの?」
「海を眺めてるんだよ」
「君がこんな時間に海にいると身投げでもするんじゃないかと思うね」
「だからこっそり来てるんだよ…」
「明け方にこっそり来るなんてやましい事でもしてるみたい。ふふっ」
「笑うな。自覚はある」
「浮気相手と会ってる方が余程安心するだろうね、あの子達は」
「そんなこと…ないだろ」
「ある感じだね」
「過保護にされてる気はする」
「丁寧に飼育しないと死んじゃう動物と同じ扱いに見えるよ。雌たちが出来るだけ種を残そうとしてるのを含めて」
「雌って言うな、雌って」
「つがいとでも?今のこの国でそれがまかり通らないのに」
「それを言われると…正直何も言い返せない」
「笑える」
「黙れ」
「ふふっ」
「何がおかしいんだ?」
「失せろ、とは言わないんだね」
「命の恩人に言うほどは流石に堕ちてない」
「覚えてたんだ」
「神様でも人工呼吸で助けるんだな」
「あー、あぁ…そういう解釈か」
「なんだよ。違ったのか?」
「人工呼吸で抜けかけた魂は戻らないよ」
「マジで死にかけてたんだな…じゃあアレは俺の勘違いか…」
「ううん、口付けたのは本当だよ」
「意味がわからん」
「それは良くないよ。乙女心に気付いておいて気付かないふりをするのは最低な男の振る舞いだよ?」
「自惚れと思い知るのが怖い男心にも少しは理解を示してくれ」
「面倒くさいな君は。とりあえず自惚れじゃないのは確かだね」
「それはそれでなんて返せばいいんだ」
「やったとか思っておきなよ。私も役得だと思ってしたし」
「うわ」
「うわとか言わない。傷付くから」
「だって…お前…散々煽ってきて」
「神様が人間の男と容易く恋仲になってもいけないでしょ。そういう悲劇は古から枚挙に暇が無いから」
「意図的にああいうムカつく物言いしてたのかよ」
「半分は」
「残り半分は?」
「向いてない間違った道を懲りずに走る愚か者への嫌味」
「いちいち理由が俗っぽくて生々しい」
「こんなものだよ」
「俺の中の神様の正しい姿が粉々だ。もう初詣に行く気がしねーよ」
「君の思う神様像も、正しい神様像も知らないけど、人の妄想でしょ所詮」
「公私混同過ぎるだろ」
「そんなものだよ。八百万が統制取れてると思う?みんな好き勝手だよ。お気に入りがいれば執着するし」
「パトロンみたいだな…」
「タニマチって言って欲しいな愛久愛海」
「今、あくあうみって言ったろ」
「君達が思ってる以上に神様っていうのは気まぐれで、嫉妬深くて、無慈悲なのさ。
少なくとも、トラックで撥ねられたからってつまらない人間に平身低頭謝罪してたくさんの土産を持たせたりなんてしないね」
「現実逃避くらいさせろよ」
「別に否定はしないよ。神様を都合よく想像して縋るのは弱い人間が生きていく為の手段だし、そういう営みが結果として芸能になっていく温床になるから」
「少しは芸能の神様っぽいこと言えるんだな」
「私は導く役目だから、芸能には興味無いけど」
「見直して損した」
「ふふっ。見直す必要も無いよ。君の見込みの通り私を含めて、君達の価値観ならロクデモナイ連中なのは事実だし。
君を苦しめてたあの道化が重みを感じたがってたから、とりあえず捕まえておいた自殺したストーカーの魂を重石がわりに括り付けて奈落に落としてケラケラ嗤ってるくらいには」
「そこまでされる罪なのか?」
「……君という人は呆れるほど優しいね。信賞必罰は人の理屈でしょ。私たちの知ったことじゃない。虫を一匹殺しても問答無用で奈落に落とす事もあれば、人を殺しても美しければ再起の機会を与える」
「人によっては耳を塞ぎたくなることを言ってるな」
「君は私の推しだから、多少の罪には目を瞑るよ?
何人もの女の子の価値観を歪めて縛り付けるとかね」
「罪か?」
「罪だね。君の父親とたまたま方向性が違ってただけで」
「その通り過ぎて何も言えないな」
「建前だけどね」
「は?」
「本当は私が面白くないだけ」
「おい」
「言ったでしょ?神様は君が思ってるより、ずっと嫉妬深いって ──── ッ」
「 ──── ……ん、んんっ…ぷは……避けなかったね」
「避けたら怒るだろ」
「怒らないよ。……でも、泣くかも」
「もっと最悪じゃねーか」
「浮気してるね結局」
「ノーカンだ。お前は含めないだろ」
「特別扱いってこと?照れる」
「ポジティブが過ぎる。少し羨ましいわ」
「別にいいでしょ。少しくらい浮かれても」
「浮かれてたのか?全然わからん」
「まだまだ自分に無頓着なのは直らないね。
だから気付かないんだよ?」
「もう、すっかり朝になったよね」
「そういえば」
「こんなところに来てて、誰も心配しないかな〜?」
「……げ」
「うわ、着信すご…しまっちゃっていいの?」
「どうせGPSで居場所は割れてるから」
「ふふっ、管理されてるね」
「もはや共有物と化してるな」
「ふぅ〜〜ん?」
「なんだよ」
「幸せそうだね、口調の割に」
「…そうだな」
「それで」
「ん?」
「ここまで私に話してくれるのは、私に結構心を開いてくれてるということなのかな?」
「ああ」
「……」
「なんだよその目は」
「そういうところだろうね。あの子達がヤキモキするのは。不快だけど理解できたなぁ」
「聞かれたことに答えただけなのに理不尽過ぎるだろ神様」
「ふん、だ」
「おい、膝に乗るな」
「もっと聞かせてもらおうか?死にたがりの間違いだらけのロクデナシの君がどう変わったのか?
お医者さんになるのかな?それとも役者になるのかな?」
「手短に…と言っても聞かなさそうだな」
「よくわかってるじゃない」
「やれやれ…どこから話そうか…」
「焦らなくても私は構わないよ?」
「君には、まだ時間はたくさんあるんだから」