『夜遅くにごめんね。ゆきに相談があるの』
それは、珍しくあかねちゃんからゆきちゃん個人にLINEが入った時のことでした。
今ガチメンバーは仲良しなのですが、グループLINEに各々が書き込むことが主で、個々人と絡むことはそこまで多くはありませんでした。
ゆきちゃんはノブくんという彼氏がいるので個人でやり取りすることは多かったり、MEMちょのチャンネルにゲストで出る事もぼちぼちあるので、そんなことはないのですが、あかねちゃんが、何というかレベルの高いぼっちとでも言うのでしょうか、所謂高嶺の花のままぼっち期間が続いちゃった系女子だったので、その辺の距離感の詰め方が上手くありません。
ぶっちゃけ下手くそです。
雑魚雑魚です。
ゆきちゃんとMEMちょの性格がもっと悪かったら、今ガチはそれはもう大変だったでしょうし、この二人がコミュ強じゃなかったらあかねちゃんが今ガチメンバーと交流を持てていたのかも甚だ疑問です。
当時彼氏だったアクアくんも、その辺の配慮が微妙に出来ないというか、女同士のコミュニティーに基本関わらないスタンスですから、フォローは望み薄だったでしょう。
そんなあかねちゃんから、ゆきちゃん個人にLINEが来たのです。
日課のストレッチを切り上げて、すぐにゆきちゃんは「通話にする?」と一言LINEで断りを入れます。
相談内容がセンシティブであればあるほど、形に残るのは避けるべきという判断です。
LINEの内容が流出して大惨事になっている業界関係者は後を断ちません。
先日も、島監督が未成年の少女とのLINEで、
『◯◯ちゃんのツルツルスベスベおまんまんに興味津々だなボクは』
などというメッセージを送っていたことが明るみに出て大変なことになっています。
ネットでの島監督のあだ名が『島ンマン』になる有様です。
余談ですが、島監督の映画で主演が内定していたかなちゃんは撮影延期に軽く泣きました。
超余談ですが、かなちゃんはまさにツルツルスベスベおまんまんです。
閑話休題
今ガチの頃から、最年少にも関わらず高いネットリテラシーを誇っていたゆきちゃんはこの辺の配慮が出来る子でした。
万が一にも『アクアくんの赤ちゃんが出来たの』なんてメッセージが流出しようものなら大変ですし、『メムちゃんに相談しようかな。お母さんの先輩だし』なんて続こうものなら大惨事なんてものではありません。吊し上げられます。
アクアくんが。
『ありがとう。出来れば、直接会って相談したいから、都合のいい日とかあるかな?』
ゆきちゃんはいよいよ居住まいを正しました。
あかねちゃんは基本的に賢く何でもこなせる子です。天才女優というよりも天才が女優をやっていると言い表す方が正しい子です。苦手なのは恋愛リアリティショーやバラエティー番組くらいでしょう。どうしてそんな子を今ガチに出したのか、パワハラ事務所の考えることはよくわかりません。
そんなあかねちゃんが、会って相談をしたい。ゆきちゃんはこれは一大事だと確信しました。
ゆきちゃんはあざとく、計算高い子ですが、嫌な子ではありません。
寧ろ面倒見が良く、優しい子です。
自分を可愛く見せることにかけてはとことん拘り抜く子ですが、自分をより輝かせる為にどう動くかを意識はしても、他者を落として自分を上げるような子ではありません。
ほら、よくあるでしょ、自分より可愛くない子達をそばに置いて相対的に自分を可愛く印象付ける子。ああいうのとは違うのです。
ゆきちゃんはあかねちゃんを家に呼ぶことにしました。
何処で誰が何を聞いているのかわからない以上は自宅が一番安全です。
あかねちゃんの家に行く事も考えたのですが、家族に聞かれたくないことかもしれないという点を考慮した結果です。
なお、MEMちょにも声を掛けるか、という愚問をゆきちゃんは口にしたりしません。
今ガチ女子グループLINEを使わなかった事実が全てを物語っているからです。
MEMちょに関することなのか、MEMちょには聞かれたくないことなのか、いずれにせよMEMちょは抜きで、そういうことなのでしょう。
願わくば、今ガチメンバーの絆に罅が入るようなことにならなければ良いなというのが、ゆきちゃんの本音です。
「いらっしゃい、あかね!」
「ごめんね、せっかくのオフなのに」
「いいよ、いいよ。オフだから友達と遊ぶんじゃん」
お互いのオフが重なる日、朝からあかねちゃんがゆきちゃんの家を尋ねました。
実家暮らしのあかねちゃんと違い、ゆきちゃんは高校卒業と共に一人暮らしをしています。
ノブくんとの同棲も一瞬脳裏をよぎりましたが、清い交際中の2人にはまだまだ先の話です。というか、ノブくんがゆきちゃんの想像していた以上に奥手です。
なんなら、本当はたまのオフだから家に来ないかというゆきちゃんの誘いに対して、
『ごめん!今日あっくんとつけ麺食べに行ってから、ケンゴん家に集まるんだわ』
とにべもなく断られたところです。
ノブくんは彼女だからと何でも優先しないタイプなのでしょう。
義理堅いのですが、彼女としては些かもどかしくもあります。
それにしても、まさか恋愛経験も女子力も大きく劣るあかねちゃんが先に大人の階段を登るとはお天道様にもゆきちゃんにも予想出来ませんでした。
ゆきちゃんのジャングルの奥は未開の地です(隠喩)
ゆきちゃんは今ガチの時の右往左往していたあかねちゃんが今では立派にアクアくんの後方腕組み正妻面をするまでに至った成長ぶりに感慨深くなります。あの頃の人生どん詰まり感全開のあかねちゃんを見ていた身としては先を越されたことよりも今とても幸せそうにしている喜びの方が遥かに大きいのです。
ゆきちゃんはあかねちゃんにハーブティーを淹れてあげます。
ハーブティーには心を落ち着かせる作用があります。あかねちゃんが落ち着いて相談が出来るようにというゆきちゃんの心遣いです。
「あのね…と、友達の話なんだけどね」
あ、これは自分のことだなと瞬時に察します。
あかねちゃんに特定の友達は殆どいません。
けれど、察しても口にしないゆきちゃんはいい女です。
「うん」
「その子は今まで家庭の事情で修学旅行とかに行ったことがなかったの」
「家庭の?お家が貧乏とか?」
「じゃなくて、お仕事…かな」
100パーあかねちゃんです。
あかねちゃんは小さな頃から劇団に所属していたので、そういうこともあるのでしょう。
ちなみに、ゆきちゃんはその辺のスケジュール管理が上手いので修学旅行には参加しているくちです。
その辺が芸能人だからといってお高く止まっていると同性から揶揄されるあかねちゃんと、上手く友人関係を築けているゆきちゃんの違いでしょう。
「それで、その子がどうかしたの?」
「それでね、その子今までお友達とお泊まりとかもしたことが無くて、最近初めて仲の良い子達と旅行に行ったの。一昨年くらいかな」
宮崎旅行のことか、とMEMちょからも話を聞いていたゆきちゃんは察します。
「それで、同年代の子達と初めて一緒にお風呂に入ったの…その子」
「あぁ…」
全てを理解したが故の「あぁ…」でした。
初めての裸の付き合い、初めての同年代の同性の裸。
色々とギャップがあったことは想像に難くありません。
おそらく2択だなと、ゆきちゃんは予想します。
「それでね、一緒に入った子はツルツルだったの…ツルツルっていうのは、その、デリケートな場所なんだけど」
「皆まで言わなくて良いよ」
「うん…で、でも、そういうの個人差があるって知ってたし、その一緒に入った子は年齢の割に幼い見た目だから、その子が特別なんだろうなって、わた友達は思ったの。けど、そうしたらね、かなちゃんが『アンタ、結構濃いのね…ちゃんとケアしてるの?』って…酷いと思わない!?」
ダァン!!とあかねちゃんがテーブルを叩きます。
清楚を信条とするあかねちゃんらしくない振る舞いです。
というか、かなちゃんて言っちゃってます。
「有馬かなはツルツル」というどうでもいい情報を更新しつつ、ゆきちゃんは黙って頷くことで先を促します。
「私もね、もしかしたらって思わなかったことが無いわけじゃないんだよ?でも、そういう動画って、撮影の為に処理してるんだろうなって思ってたし。それで、別の日にルビーちゃんとメムちゃんとも一緒に入ったの」
あかねちゃんは興奮しているのか、もはや取り繕えていません。というか動画を見てるあたりやっぱりムッツリでした。アクアくんとの来るべき日の為の予習のつもりなのでしょう。予習に洋モノは悪手ですが。
「そうしたら、2人とも薄かったの。ルビーちゃんは薄っすら生えてるくらいで、最後の砦のメムちゃんも生えてはいるけどそんなにだったし…しかも、2人とも一瞬私の方を見てそっと目を逸らしたの。でもね、一瞬『あっ』て顔したの。それって何?気まずいの?そんなに私って濃いのかなぁ!!」
「あかね、ハーブティーおかわり要る?要るよね?ささ、飲んで」
「ありがとう!……はぁ…美味しい…落ち着くねコレ」
空いたあかねちゃんのカップにお茶のおかわりを注ぎながら、もはや隠せていないあかねちゃんの暴露話をゆきちゃんは飲み下します。
「ちなみに…そのお友達の彼氏、もしいればだけど、彼氏は何か言ってるの?」
世の中には様々な需要があります。
オーソドックスなものもあれば、まぁまぁマニアックなもの、ニッチ過ぎるものまで多岐に渡ります。
もし、仮にあかねちゃんが彼氏であるアクアくんの性癖をピンポイントど真ん中時速160キロストレートならば気にすることはないのではないか、それを言外に忍ばせます。
あかねちゃんは察したのか、首を振ります。
「アク…その子の彼氏は、とってもカッコよくて優しくて大人っぽいけど子供っぽいところが可愛い人なんだけど」
「その辺の下りいいから」
惚気は脇に置いとけと、若干イラッとしながらゆきちゃんは先を促します。
「その彼氏は、全然気にしてない…ように思えるの。特に変とかは思ってない…と思う…けど」
「けど?」
「他の子とする時に『あ、やっぱあかね濃いんだ』って思われてるのかと思うと、もう耐えられなくて」
ゆきちゃんから見たアクアくんは、女の子のコンプレックスを笑うような男の子には見えません。
ルッキズムの傾向こそあるものの、かといって可愛くない子をバカにするような性根は無い男の子です。
ゆきちゃんはその辺の見る目に関しては自信があります。
けれど、それとこれとは話が別なのでしょう。
げに複雑で面倒くさいのは乙女心、一度恥じらい、気になら始めればキリがないのでしょう。
特にあかねちゃんは今ガチ後にゆきちゃんからのアドバイスが無ければ未だに垢抜けない少女のままだったに違いありません。
「わかったよ。じゃあ人気モデルの鷲見ゆき直伝のVIO処理のコツを教えてあげよう!」
ゆきちゃんは人気モデルです。
何なら人気トップモデルであるという自負すらあります。
故に、このVIOの処理については一家言あると言っても過言ではありません。
というか、モデル云々を抜きにして、ゆきちゃんとムダ毛の処理との戦いは長きに渡って繰り広げられて来たと言えるでしょう。
「まず用意するのはハサミ、電気シェーバー、コーム、それと絶対必要なのはヒートカッターと保湿剤。あかね肌弱かったよね?私のオススメ一つあげるから」
「いいの?」
「たくさんあるから大丈夫。で、あかね的にはまずどうしたいのかっていうのはある?」
「それって…つ、ツルツルにしたいかどうか…だよね?」
「そう。私としてはハイジニーナにするのは清潔だし悪くないと思ってるけど、一回それすると少し伸びてきただけで気になっちゃうし、恥ずかしいっていう子もいるからね。水着撮影でも無いなら無理してVラインをハイジーナにしなくてもいいかな」
「ツルツルは…ちょっと…」
元々がツルツルならともかく、いきなり濃い目の自分がツルツルにしたら、めちゃくちゃ気にしてたんだなと思われてしまうのではないか、あかねちゃんにはそんな不安と羞恥心があります。
ゆきちゃん的にはアクアくんは若干ロリコンの気があると睨んでるので、ツルツルあかねちゃんにムラッと来るんじゃないかな、と思ったりもするのですが、賢いゆきちゃんは余計なことを言わずにお口をミッフィーちゃんのように閉じます。
沈黙は金なり、この辺かなちゃんも見習った方が良いですね。
「少し残すならヒートカッターは必須だね。コレがないとチクチクしちゃうから。まずはハサミでカット。ハサミは小ぶりで尖ってないのが良いよ。それから、ハサミに限らないけど、必ず器具は消毒しとくこと。ワックスとか脱毛クリームとかでも良いけど、肌に合うかどうかはちゃんと確認しておかないとね」
気配りゆきちゃんはオススメのメーカーのURLをあかねちゃんに送ります。
ヒートカッターの有り難みは半端に伸びた毛先のチクチクの不快さを知った者にしかわからないのです。
「残すならまずどういう形にするか決めて、水性ペンでラインも引いとくんだよ?慣れないうちは特に。こんなところがアシメなんてみっともないから」
あかねちゃんは頷きながらメモを取ります。
ライン引きのところに小さく、
『アクアくんにいっそ書いてもらう?剃りも?』
と書いてあるのからは目を逸らします。
恋人の数だけスキンシップの形がある、そういうものだと納得させます。
「ちなみに、慣れないうちからハート形とかそういう小洒落たことやんない方が良いからね」
それでも、あかねちゃんのメモ帳に書かれたデザイン案にはダメ出しをしておきます。
ハートは形のバランスが難しく、調節を繰り返した結果ハイジニーナなんてことにもなりかねません。
「ねぇ、毛抜きとかはしない方がいいのかな」
「ブブ〜〜ダメで〜〜す。一回こっきりなら良いかもしれないけど、これからもやるなら毛抜きは肌にダメージが蓄積するからやらない方がいいよ。カミソリもね。炎症の原因になるし、肌が荒れたり、黒ずんだりするよ?」
あかねちゃんが小さく「ヒッ」と声を上げます。
老いを何処かに置いてきたようなミヤコさんやMEMちょ、ロリロリなかなちゃん、反則級の天然素材ルビーちゃんに囲まれた中、アソコが黒ずんでいるなんて想像するだに恐ろしいことです。かなちゃんあたりに
『アンタ、黒川あかねじゃなくて、黒皮あかねって改名したら良いんじゃないの〜?マニアックな人気出るわよ〜〜?』
などと言われようものなら、手が出ない自信がありません。
ましてや、アクアくんに『あかね…黒ずんでるな…ルビーも有馬もMEMも綺麗なのに…あかねは黒ずんでるんだな…』などと思われようものなら、アクアくんを殺して自分も死にます。
なので、あかねちゃんはメモ帳に『カミソリダメ絶対!!』と強い筆跡で記します。
ゆきちゃんはそれを満足そうに見つめ、頷きます。
ゆきちゃんはVラインの次にIラインについても丁寧に解説します。
あかねちゃんが何か言いたげな顔をしていますが、完全にコーチモードに入ってるゆきちゃんは止まりません。
電気シェーバー、保湿剤、コレらの重要性はさることながら、Vと異なり、IとOはより粘膜に近いのでやり方が大切なのです。
「いい?デリケートなところだから、粘膜を傷付けないように注意しないとダメなんだからね?焦ったいかもしれないけど、ハサミでカットして、それからシェーバー。保湿剤は絶対必要なんだから」
そして、ゆきちゃんはハーブティーで喉を潤します。
一番肝心なのはここからです。
「それから最後にOライン」
Oライン
つまりケツ毛の処理です。
もちろん、女子力MAXで人気トップモデルのゆきちゃんの辞書のカ行にケツ毛なんてありません。
「一番難しいけど、ここは手を抜いちゃダメなんだからね」
抜くのは手ではなく毛、そういうことです。
「ここは残すとか無いから。もうハイジニーナ一択。鏡を見てやるんだけど、姿勢が大事だからね」
「ゆ、ゆき…」
「恥ずかしがってちゃダメ。鏡を跨いでやるのがオーソドックスだけど、時間が掛かるなら脚を載せる台が重要。万が一にもしゃがんでるのが限界になると傷付けちゃうから。やっぱりハサミがここでも大事なの。だから、尖ってなくてコンパクトで使いやすいのが必要なの。それと、Vラインからずっと処理するなら、切れなくなった時の為にスペアも用意しとこ。シェーバーの刃の替えも。場所が場所だから、皺を伸ばして慎重に、丁寧にやること。私はこうしてるかな」
「ゆき!?」
ゆきちゃんが椅子に片足を載せて「いつもの」ポーズを取ります。
あかねちゃんは思わず狼狽えます。
そんなポーズ、ゆきちゃんがしてるところなどゆきちゃんのグラビアでも見たことなどありません。というか、AVくらいでしかお目にかかったことがない姿勢です。
着衣状態とはいえ、ノブくんですら拝んだことのないあられもない、はしたないポーズです。
普段のゆきちゃんなら絶対しない、男なら垂涎もののポーズをするのは、やはり同性の気安さ、そして説明の熱の入りっぷりによるものでしょう。
そうです、今更ですが、ゆきちゃんのテンションは些かおかしなことになっています。
今ガチであかねちゃんにネイルを教えていた時の100倍の熱量です。
何故なら、ゆきちゃんはあかねちゃんに今まで感じたことのないシンパシーを今この瞬間に抱いているからです。
毛深さに悩む者同志の共感。
毛の濃さに悩む者同志の共鳴。
毛の処理に悩む者にしかわからない羞恥心は同志にしか理解出来ないのでしょう。
ゆきちゃんは再三口にしました。
『つまめる程長いならハサミでカット』と。
つまめるのです。
何なら油断すると指に絡めてしまえます。
タワシです。
ノブくんとの同棲、ノブくんが奥手だからと書きましたが、それだけなら権謀術数を巡らせてノブくんをその気にさせるよう仕向けるくらいゆきちゃんには朝飯前です。
踏み切れないのはノブくんだけではありません。
ゆきちゃんもまた踏み切れないのです。
処理しているところを見られたら?
処理を怠ったところを見られたら?
もじゃもじゃなのは髪だけじゃなかったのかと思われたら?
そんなこと、スタイリッシュかつエレガントにしてコケティッシュガールこと鷲見ゆきには耐え難きことです。
ワンチャンそんな油断したゆきちゃんにノブくんが思わずブレイクダンスするほど興奮する可能性があるのですが、ゆきちゃんに知る由もありません。
「保湿剤でケアは何度も言ってるけど、ココのやつはクリームタイプか乳液タイプがいいからね。垂れちゃうから。それと、やっぱり入浴後に処理はした方がいいかな。入浴中でも良いんだけど、じっくりやろうと思ったらやっぱり入浴後の方がね。あと、ここまで説明してアレだけど、プロにやってもらうのが一番。私のオススメの美容クリニックあるから。モデル仲間御用達のとこ何軒か教えるね。でも、あかね忙しいから中々行く時間取れないだろうし、やっぱりセルフケアの方法は一通り知っておいた方が良いから」
ゆきちゃんはムフーッと満足気に息を吐くと、達成感を滲ませた笑顔でハーブティーを口にします。
気分は悩める子羊を導いたシスターの気分です。
余談ですが、清楚で可憐なシスターがモジャってるの興奮しますよね。
何か言いたげな顔をしていたあかねちゃんは、ゆきちゃんの話が終わったところでようやく口を開きます。
「あのね、私、Oラインは特に生えてないから、大丈夫だよ?」
「………え?」
笑顔と共に握手の為に差し出された手が、崖から突き落とす為のものだったと、落とされる瞬間に悟った人というのはこういう表情を浮かべるのでしょう。
ゆきちゃんの表情はそれほどに絶妙でした。
今後の演技の参考にしようと他人事のようにあかねちゃんが思ってしまったのは、決してあかねちゃんが酷薄なのではなく、彼女が生粋の役者バカであり、また、結果的にゆきちゃんを裏切ることになってしまった罪悪感からの逃避なのでしょう。きっと。
ゆきちゃんの脳裏を、懐かしくも忌まわしい記憶が蘇ります。
記憶の蓋を何重にも被せていた思い出です。
アレは、ゆきちゃんが仲良しのお友達のお家に仲良しのグループでお泊まり会をした夜のことです。
みんなでお風呂に入る時にそれは起きました。
『わぁ…ゆきちゃんて…ママみたい。大人だね』
それは、悪意の無い、純粋な感想でした。
しかし、聡いゆきちゃんはすぐに気付きました。
どこがママみたいなのか、に。
『ママみたい』
『大人だね』
これらの言葉には憧憬も尊敬も無いことをゆきちゃんは感じ取りました。
ママみたいに私もなりたい。
大人になりたい。
そういうニュアンスから微妙に外れていました。
そこには、ただ、ただ驚きしかありませんでした。
きっと、お友達には驚きだったのでしょう。
彼方の存在だと思っていた、己が身に備わるものとは到底想像も出来ないものが友人の身にあるのですから。
質問:「ゆきちゃんはいくつの頃に生えてた?」
ゆきちゃんはガールズトークでこの手の質問が来ると、はにかみながらこう答えます。
『んん〜よく覚えてないけど、じゅう…いち…くらいだったかな〜小学6年の頃だったよ』
嘘です。
往生際が悪いです。
本当は10歳です。
何なら10歳の誕生日を迎える前です。
11歳の頃にはもう余裕で「ママみたい」でした。
MEMちょは9歳も年上の癖に肌も骨格も幼いどころか、毛の薄さすら幼く、ゆきちゃんは少しやさぐれました。
しかし、あかねちゃんです。
前々から濃いだろうと予想していたところに処理の相談です。
やっぱり黒川あかねよ。サバ読んでる奴とは違うわなぁ。ゆきちゃんは小躍りしました。
やはり今ガチの絆は永遠なんだ、そう思ったくらいです。
けれど、それは儚い夢でした。
ゆきちゃんはハーブティーを口にします。
ハーブティーは心を落ち着かせてくれます。
やっぱりハーブティーにして正解でした。
「ゆき、ハーブティー私淹れてこようか?」
「ありがとう」
ゆきちゃんは菩薩のような笑みで頷きました。
その頃、絶賛男子会の真っ最中だったアクアくんは、ノブくんから油断するとボーボーになる女の子って興奮する自分の性癖マニアックなのかもしれないという相談を聞かされていました。
ケンゴくんは引きましたが、アクアくんは頷いていました。
何故なら、人の悩みが千差万別なら、人の性癖も千差万別なのだということを、最近MEMちょとの授乳プレイに目覚めたアクアくんにはよくわかるからです。