※この作品はR-18です。

俺とB小町とあかねの7日間戦争   作:FOOO嘉

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お預け


Day6

 

 

可哀想な王子様

 

大好きな、大好きな女神様に呪いを掛けられた王子様

 

自分で自分に呪いを掛けた王子様

 

嘘が怖くて、嘘にまみれた王子様

 

貴方が大好きだった女神様は確かに女神のように綺麗だけど、

 

きっと彼女は魔女だ。

 

貴方は否定するだろう。

 

だけど私にとっては、彼女は魔女以外の何者でもない。

 

綺麗で眩しい、だけど貴方に呪いを掛けた魔女。

 

だから、私が貴方の呪いを解いて見せる。

 

 

★★★★★

 

 

薄蜂蜜色に染まったパンをひっくり返すと焦げ目の付いた黄金色が顔を覗かせる。

バターの焼ける香ばしい匂いに、空腹が刺激される。

時計は9時半を過ぎていた。

 

一時間近い長風呂から出てきたルビーはのぼせてしまったのか、赤い顔をしながら「ちょっともう一回寝てくるね」と言って足早に部屋に戻って行った。一度も俺と目を合わせずに。

浴室に向かう直前の会話を思い返せば、俺の顔を余り見たくないのだろう。

一時の険悪極まりない関係程とは行かないまでも、ルビーの中の俺の評価は再び最低値を出そうとしているのかもしれない。

当然とはいえ、やはり妹に軽蔑されるのはへこむ。

ルビーがただの妹だったのなら、或いはもう少し無関心でいられたのかもしれない。割り切ることができたのかも知れない。

あの子に、さりなちゃんに軽蔑されていることに心が痛みを覚えているのか。

或いは、転生者としての秘密を共有できる唯一の仲間に見限られたと思うのが怖いのか。

母 ーー アイの死を経て寄り添ってきたから、俺は俺が自覚するよりも遙かにルビーを自分の半身のように分かち難い存在と認識しているのかもしれない。

それとも、そんな小難しい理屈ではないのかもしれない。

 

「アクたん、料理できたんだねぇ?」

 

MEMがひょこりと横からフライパンを覗き込む。ふわりと柑橘系の香りがした。

 

「フレンチトーストなんて料理できるうちに入らんだろ」

「いやいや、アクたんは甘いな。こういうのも焦がしちゃうダメな人は結構いるのさぁ」

「実体験か?」

「アクたんの中で私ってそんなん!?」

「冗談だ」

「このやろー」

 

とんと、軽く肩をぶつけられる。

思わず笑みが浮かぶ。改めて思えば、こいつのいつも変わらない明るさに、随分と助けられてるな。

触れたMEMの肩から伝わる高い体温と、この数日ですっかり嗅ぎ慣れたシャンプーの香り。

 

「風呂に入ってたのか?」

「うん、アクたんも入ったら?」

「やっぱり汗くさいか」

「んん〜〜…汗くさいっていうか……ねぇ」

 

MEMの頬に朱が差す。

 

「あかねはまだ寝てるの?」

「一回起きたことは起きたんだが、ちょっとだるそうだったから寝かせてきた」

「そっか。うん、そうだろうね」

 

経験したことがあるからこそ、すぐに察するのだろう。

初めてなんだから仕方がないか、と言外に含まれている気がして落ち着かない心地がした。

腰が痛いと、子供っぽくぐずるあかねを寝かしつけて、朝食作りを申し出たのはついさっきのこと。

初めて性行為をする女の子相手に、俺は一体何をしたのだと、落ち着いてから激しい自己嫌悪に陥った。

 

「で、アクたんが代わりにご飯作ってるんだ。大体ご飯作ってるの私かあかねだったものね」

 

役割分担を決めた訳じゃなかったが、気づけば5日間の食事はこの二人が作っていた。

あかねが初日の料理係を名乗り出て、その後はMEMと交互に作っていたっけな。

昨日の夕食はあかねの作ったパスタを食べた。

 

「ルビーはやりたがらないし、有馬はできないからな」

「ルビーもできないんじゃないの?」

「あいつは作ろうと思えば俺より美味いよ」

 

ミヤコさんの手伝いをしていたからというのもあるが、そもそも感覚的なことは俺よりも遙かに鋭い。

レシピ通りに作ったつもりの俺の料理よりも、ルビーが目分量で適当に味付けした料理の方が美味かったりするのだから、やってられない。

 

「それってアクたんの贔屓目あるんじゃない」

「そんなこと……ねぇよ?」

「ある感じじゃん。ま、アクたんのシスコンは今更だけど」

 

MEMはくすくすと悪戯っぽく笑う。

いつも通りの明るい振る舞いに、一昨日までの乱れたあの姿は夢か何かだったのかという気がする。

何でも無いことのように振る舞っているのか、あるいは本当に大したことだとは思っていないのだろうか。

それは少し、寂しい気がする ーー まるで、MEMに気にして欲しいみたいなことを考えてるな俺は。

 

「…アクたん」

 

じぃっとMEMが見つめてくる。

 

「もしかして、アクたんさぁ、私が何とも思ってないと…思ってないかなぁ〜?」

 

ギクリとした。

思っていたことを見事に言い当てられた。

肩に掛かるMEMの身体の感触がより強くなった。僅かに重みが増す。MEMが軽く肩に頭を預けてくる。

 

「恥ずかしいから、あんまり言いたくないけどさぁ、アクたんとした『あの時』が二回目だから」

 

地毛の黒いつむじを見つめながら、MEMの言葉を自分の中に咀嚼する。

 

あの時…か。

 

「けっこー前に、初体験は…一応済ませてたけど痛いばっかりでね。向こうも折れちゃうし」

「それは…」

 

悲惨だな、という言葉は辛うじて呑み込む。

初体験で失敗することは珍しくはない。

痛みの感じ方は人によるものであり、前世の記憶のなかでも、さほど痛みを感じずに受け入れる子もいれば、痛くて泣き出す子もいる。お互いが初めて同士ならば尚更だ。

 

「その後気まずくなって別れるカップルもいるらしいし、珍しいことじゃないだろ」

「うん、正に私はそれだったね。トラウマっていう訳じゃないけど、何となくいいかなって。それで、そういうことに積極的になる気も起こらなくて、そうこうしてるうちにYouTuberになって、人気出てきたらやっぱり炎上に気を遣わなきゃだし。…でも、好きな人が特にいるわけでも無いし、そういう行為がしたいわけでも無かったからね。そのままズルズル、ズルズル」

 

気付いたらこの年になっちゃってた、そう言ってウブな少女のように笑うと、MEMがぽすんと肩に頰を寄せた。

すりすりと、猫のように肩に頬ずりするMEMの耳が朱色に染まっていることに気づく。

照れるくらいならばしなければいいのに。

 

「だからね、何が言いたいのかっていうと。仕方がないからってだけでどうでも良い人にすんなり抱かれる程、擦れてるつもりはないってことなんだよ」

 

震える声と共に溢れた吐息がやけに熱く感じる。

ようやく落ち着いたあかねとの情事の残り火のようなものに、MEMの吐息が引火したように、身体の内から熱がこみ上げてくる。

 

「その顔だとまだピンと来てないっぽいなー」

 

物分かりの悪い子供を嗜める母親のようにMEMが苦笑を浮かべる。

 

「んーやっぱりニブチンなアクたんにはこうしないとわかんないかなぁ……んっ」

 

唇に柔らかな感触が触れた。

柔らかな唇は、そっと俺の唇を挟み、離れていった。

熱い吐息が下唇を舐めて、灯った温もりだけが、確かな名残をとどめる。

それを惜しいと、微かに感じる。

 

「……私は、少なくとも、好きじゃない人にキスなんてしないよ」

 

潤んだMEMの瞳に、息を呑む。

この数日で何度も目にした目だ。

夜の薄明かりのなかで、快楽と興奮から気持ちが高ぶっているから、彼女が俺に向ける瞳の意味を、そうやって理屈付けていた。

だが、俺のちっぽけな理屈は呆気なく崩される。

 

 

「アクたんは、もっと自分に自惚れてもいいんだよ?」

 

 

そう言って微笑むMEMに、俺は何も言えなかった。

まっすぐ向けられた好意は、俺を小さく、しかし確かに翻弄し、俺から言葉を奪っていた。

 

 

 

 

「それで、メムちゃんの色気にあてられて、焦がしちゃったんだ」

 

ベッドのサイドテーブルに乗った、真っ黒な可哀想なフレンチトーストとアクア君の顔を見比べる。

気まずそうに私から目をそらしながらも、アクア君は肩に抱き寄せた私の頭を撫でる。だけど、それは誤魔化すための行為に他ならない。かなちゃんならともかく、私はそんなにチョロくない。チョロくないけど、もっと撫でては欲しい。

足腰に力が上手く入らず未だにベッドから出られないでいる私は、ベッドに腰掛けるアクア君に身を預ける。

微かにこの部屋の浴室のシャンプーの香りがする。

でも、アクア君がまだお風呂に入っていないのはすぐにわかる。

すんすんと、胸元に鼻を寄せると、アクア君の汗の匂いが鼻孔をくすぐって、一瞬頭がぼうっとする。そこに混ざって形容しづらい「情事の名残」とでも呼ぶべき匂いは朝起きた時と変わらない。

だけど、起きたばかりの時には、アクア君の汗と私の匂いだけだったのに、シャンプーの香りが差し込まれているのだ。それは私には無粋にすら思えた。

わかっている。これは嫉妬だ。独占欲だ。アクア君には私の痕跡だけを残しておきたいという子供のような独占欲だということを。

 

メムちゃんは私とかなちゃんのどっちを応援すればいいのか、いつも悩んでいた。

どっちも応援したいけど、どちらかが選ばれれば、どちらかが泣くことになるとわかっていて、胸を痛めていた。

だから、せめて傷つかないように、悔いがないように、できるだけ自分は援護したい、そんなスタンスだった。

友達想いのメムちゃんらしい。

私達よりお姉ちゃんのメムちゃんらしい。

本当に苦労性な長女の気質そのままだ。

お母さんのために、弟さん達のために頑張ってきたメムちゃんらしい。

いつだって自分のことを後回しにして、みんなを支えようとする。

だから、アクア君が信頼してルビーちゃんを任せたのだろう。

あの気難しいかなちゃんも懐いたのだろう。

優しくて、面倒見が良くて、苦労性で、気配り屋で…そして、不器用。

自分のことを後回しにすることに慣れすぎて、自分の感情を向き合うのもずっと後にしてて、自分の気持ちに気づいた時には、もう自分のスタンスを確立してしまっていた。

 

自分を信頼してくれて、諦めた夢を叶える切っ掛けをくれた人への気持ちがとっくに感謝なんてものじゃなくなってしまっていたことに気づいてしまって。

一回り近く年下なのに、大人びていて、兄弟を守ろうとするあり方への共感、大人びている一方で子供じみた無茶をする、危なっかしさへの庇護欲が、重なり合って、層を成して一つの感情へと形を作っていったことに気づいてしまった。

だけど、今更言えない。

もう、気づいた時には遅かった。

アクア君を好きになりかけているなんて、認めるわけにはいかない。

 

私の中で組み上げたメムちゃんの感情が行き場を失って悲鳴を上げていた。

 

だけど、メムちゃんはこの数日ですっかり変わってしまった。

私にはわかる。かなちゃんも気づいていた。それに、ルビーちゃんも。

日を追うごとにアクア君を見つめるメムちゃんの目が変わっていくのを。

覚悟を決めたなんてポジティブなものじゃない。

観念したというのとも違う。

自覚できないくらい無意識に少しずつ露わになってきてるのだ。

ラナンキュラスの花びらを一枚ずつめくっていくように、理由なんて考えるまでもない。

 

非日常。

密閉された空間。

脱出するためという免罪符。

時間の感覚を狂わしていく窓の無い部屋。

日を追うごとに強く激しく与えられる快楽。

一晩中アクア君に抱かれ続けていたから実感と共にわかる。

朝が来るまで彼と貪り合っている時に感じる、理性がドロドロにとろけて行く感覚。

あれは麻薬だ。一度味わったら次から次へと求めずにはいられない。

 

朝までアクア君に抱かれていたことを思い出すだけで、きゅんとお腹の奥の小部屋が疼く。

 

悔しい。

羨ましい。

妬ましい。

彼に3日間も抱かれていた彼女が。

 

もっと。

もっと、もっと。

もっと、もっと、もっと。

私もアクア君に抱かれたい。

わかっている、この部屋から出るには、そうするわけにはいかないのだから。

わかっている。

わかっているけれど。

 

だけど、

 

そんなこと、

 

 

どうでもいい。

 

 

出られようと出られなかろうとどうでもいい。

今夜も、明日も、私を抱いて欲しい。

あの子達は、歯噛みして羨んでいればいい。

そんな自分本位で身勝手な衝動が胸を焦がす。

 

きっと、メムちゃんも同じだ。

だって、昨日の夜、私とアクア君が寝室に入っていくのを不機嫌そうに見ていたかなちゃんを宥めるMEMちょは、かなちゃんを宥めながらも、視線は私達に向けていたから。

ざらりとした、嫉妬や羨望が混ざった感情の籠もった目を向けていたから。

アクア君を求める女の目をしていたのだから。

 

 

それでいい。

 

 

「あかね?」

 

アクア君が心配そうにのぞき込む。

 

「身体まだ辛いのか?」

 

私の抱いてるドロドロとしたタールのような感情などに気づかず、彼は純粋に私を心配してくれる。本当に優しい。優しくて鈍い人。

 

「ううん、もう大分楽になったよ」

 

にっこりと、最高の演技で笑ってみせる。

愁眉を開いたアクア君の、思わず見せた無垢な顔に、胸が甘く痛む。

 

「んっ」

「ーー っ」

 

我慢できずに口付ける。

ちゅっ、ちゅっと、何度も何度も。

少し冷たい彼の唇を、私の唇で軽くノックする度に、ぽ、ぽ、ぽっと胸の中に火が灯るのがわかる。

 

「アクア君」

 

アクア君の首に抱きつくと彼の首に顔を埋める。

 

「大好き」

 

彼が喉を震わせたのが、首筋に付けた頬に伝わる。

私からアクア君の表情は見えないけれど、彼がどんな顔をしているのかは手に取るようにわかる。

きっと、戸惑って、困惑して、泣きそうな顔をしているのだろう。

困り果てて、途方に暮れた子供の顔で。顔を首筋から離す。

 

「アクア君が大好きだよ」

 

ほら、思った通り。

 

「愛してる」

 

そう言うと、アクア君は目元を歪める。

唇をかみしめて、泣く寸前の男の子のような顔になる。

惨くて、痛々しくて、いじらしくて、何て可愛いのだろう。

 

「あかね、俺は…」

 

そこで、彼の言葉は途切れる。

ロックが掛かってしまったみたいに、彼の口は凍り付く。

彼が言葉に迷っているのはわかった。

言うべき言葉がわからないのでは”ない”。

「その言葉」を言うべきか迷っているのだ。

それは予想できていたことだ。

 

これが王子様に掛けられた呪いだから。

 

「愛してる」

 

だから、そんな呪いなんて、何でもないと彼に突きつけるように繰り返す。

きっと、メムちゃんもわかっているはず。

 

「あかねッッ」

「んうっ」

 

言葉に出せないことを謝罪するように、縋るようにアクア君に抱きしめられた。

胸一杯に愛しさと苦しさがこみ上げる。

甘く痺れるような痛みに我慢できなくて、私は彼の首に噛みついた。

そこにある彼の呪いを少しでも壊せるように。

 

 

★★★

 

 

 

「今日は休みたい」

 

アクアがそう言ったのは昼食の時だった。

昼食といっても、2時近かったのだけれど。

MEMの作った生姜焼きを食べながら、それとなく向かいのソファに座るアクアを見る。

休みを口にするだけあって、アクアの表情には疲労が滲んでいた。けれど、そこに苦痛めいたものは伺えない。

というよりも、初日に比べてアクアにまとわりついていた辛気くさい空気、申し訳なさとか罪悪感、苦悩といった感情が驚く程無くなっていた。

その理由を、私は何となく察してしまう。

彼の隣に座るあかねと、私の隣に座ってアクアを見つめるMEMの表情を見れば一目瞭然だ。

あかねもMEMもあんなに甘ったるく喘ぎ、激しく嬌声を上げていた女とは思えないくらい、あかねは清楚ぶって、MEMは無邪気に談笑している。

だけど、二人のアクアを見る目は、アイツと目が合う瞬間に浮かべる刹那の表情はそんな微笑ましいものではなかった

あかねはともかく、MEMでまで、アイツへの好意、もう断言しても良いだろう、アクアを一人の男として好きな「女」の顔をしていた。

恋に浮かれポンチになった、頭お花畑といった、テンションもオツムも軽い恋に舞い上がった馬鹿女の表情ではない。

身体を重ねて、想いを重ねて、女である悦びを刻み込んで、自分が女であることを自覚した表情だ。

それは、何処か物憂げに、アクアから目を逸らしているルビーとは残酷なくらいに真逆の対比に思えた。

きっと、私もルビーと同じ顔をしているのだろう。

 

 

「今日はしない」そう言われてホッとした。

次は私だと思っていたから。

未知の行為への不安が頭から離れなかっただけに。

そもそもだ、私はずっとムカついていたし、イライラしていた。

なんだったら、アクアを何発もひっぱたいてやりたくて仕方がなかった。

今もそうだ。

MEMを抱いて、

あかねを抱いて、

じゃあ次は私って、女を馬鹿にしてるの!?

健康診断の問診かっての。

お役所の窓口だってもっと愛想がいいわよ。

はい、次の方どうぞーって?そんなノリで私を抱くっての?

 

ふざっけんじゃないわよ。

 

デリカシーのない男だと思っていた。

ロクデナシだと思っていた。

そんな男に抱かれてトロットロになってるあかねとMEMだってしょーもないわよ。

種馬に代わり番こに種付けされて満足なわけ?

女としての矜持が無いの?

 

 

MEMは何なのよ。

 

9つも年下のガキに良いように開発され尽くして。

 

三日も掛けて骨までしゃぶり尽くされたんじゃないの?

 

ダメ、ダメ、ダメって、全然ダメって声じゃなかったわよ。

 

甘ったるい、蜂蜜とシロップと生クリームをかき混ぜたような甘〜〜〜い声で、嬉しそうに鳴き声を上げてたわよね。

 

発情期の猫だってもっと静かにしてるわよ。

 

 

まぁ、あかねは良いわよね。

 

ビジネスカップルで、破局して捨てられたところからの大逆転だもんね。

 

昨日だって嬉しそーーーーにあーくんとしけこんでたものね。

 

朝までずっとアンアン、アンアン、アンアンアンアン鳴いてたものね。

 

最初は「痛いよアクア君」なんて、赤ちゃんみたいに泣きついてたくせにねぇ。

 

流石はララライの若手エース様、将来有望な天才女優様よね。

 

日頃の発声練習の賜かしら?

 

とってもよーく聞こえてたわよ、あんたの下品で破廉恥ではしたない喘ぎ声が。

 

日頃からレッスンに励んでた甲斐があって、随分と元気がお有りなのね。

 

朝までギシギシギシギシ、アンアンアンアン、アクア君アクア君アクア君アクア君って。

 

よがり狂ってたわよね。

 

盛りの付いた犬みたいに。

 

快楽によがり狂ってる浅ましいメス犬みたいな声が耳にこびりついて鬱陶しいったらない。

 

 

本当、最低よ。

 

 

 

 

だけど、一番最低なのは私。

 

今日はしないと言われた時、肩透かしを食らって、がっかりしてしまった私自身。

一番イライラしているのは私自身。

あれだけ、重苦しくて陰気なオーラを纏っていたあーくんを、あんなに穏やかな表情に変えてしまった二人を妬んでいる私自身。

自分は素直に気持ちに向き合えてないことを棚に上げて、あーくんと向き合って、その腕に抱かれた二人を嫉妬することしかできない私自身。

 

涼しい顔をして、珈琲を口にするアクアを見る。

艶めかしく動く喉元に自然と目が行ってしまう。

 

そこに浮かぶ赤い噛み跡にも。

 

 

 

「ホント…さいてー…」

 

誰が付けたかなんて聞くまでもない。

見せつけるように刻まれた痕跡が、瞼の裏にいつまでも焼き付いていた。




許せ有馬。また今度だ。
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