男と二人きりの部屋にいるのは初めてじゃない。
けれど、それは経験豊富とかそういう訳じゃない。
ベッドに腰掛けて、シャワーを浴び終えるアクアを待つ。
こういう時、どうするのが正しいのだろう
もう一度下着を付けるべきなのか、それとも手間を省くために付けないのか。
やっぱり脱がせたいものだろうか。
それとも、さっさと事に及びたいのか。
「…いやいや、何シミュレーションしてるんだろ」
これからのことを想像して、何処か浮かれてる自分に呆れる。
ただの手段。
ここから抜け出すための手段にすぎない。
少なくともアクアはそう思ってるはずだ。
「悪い、待たせたか」
タオルで髪を拭きながらアクアが戻ってきた。
湯上がりの上気した肌に、Tシャツ一枚だけの姿に胸が高鳴る。
アクアが一人分のスペースを開けてベッドに腰掛けると、微かにベッドがたわむ。
指先で髪をいじりながら、そっと横目で見れば、アクアは私を見る訳でもなく、ペットボトルの水を傾けている。
美しいラインを描く鼻梁に一瞬見惚れるが、すぐさま私は冷や水を浴びせられた心地がした。
緊張も興奮も微塵も感じられない取り澄ました横顔に、彼の私への気持ちがすぐに理解できたからだ。
「随分、涼しい顔してるのね」
「有馬?」
「そりゃあそうよね」
馬鹿みたいだ。何を一人で勝手に悶々としていたのだろう。
「とっくにここでしてるんだもんねアンタは。今更よね」
「おい、どうした急に」
「MEMとは随分よろしくやってたものね。あかねは可愛かった?昨日一日休憩したんだものね、さっさと済ませたいのかしら」
ああ、本当に嫌になる。
ヤキモチひとつにしても、私は何て可愛げが無く、面倒くさいのだ。
もっと私のことを意識してよ、そう言えばいいのに。
アクアのため息がやたらと大きく聞こえる。
「否定はできないし、色々言いたいのはわかるよ。お前から見れば女二人を抱いてるヤリチンにしか見えてないだろうし。今更緊張もクソも無いのもマジな話だ。けど、お前だってそんなに緊張することもないだろ?」
アクアがそっと流し目を送ってくる。
不思議な既視感を覚えたが、すぐに理由に思い当たる。
「あの映画」を撮影するに当たって見返した星野アイの映像。
彼女が出演した作品で目にした、人の目を惹き付ける魔力を秘めた瞳にとてもよく似ていた。
アイによく似た瞳にに微かに滲む不満気な感情。
寄越された視線はこう語っていた。「何で俺ばかり責められないといけないんだ」と。
「はぁ?」
何を言ってるのよ、そう返そうとして、身体から熱が引いていく気がした。
アクアを見つめ返す私の顔は、血の気が引いて真っ青になっているのだろう。
アクアの顔、アイそっくりの顔。そりゃそうよね、親子なんだもん。
アイによく似た顔が冷めた表情を浮かべている。
アクアがアイと親子なんだと実感する度に、紐付いて思い起こされる事件。
私はアイの子だと私が知ることになった切っ掛けとなったスキャンダル。
島監督のマンションに二人で連れ添って入っていったスキャンダル。
あのスキャンダルを塗り潰す為に、アクアはアイの秘密を暴露した。
私はあの時は気づいていなかったけれど、アクアとルビーの仲に取り返しが付かない程の亀裂が入る要因になったのが、あの暴露だった。
アクアは私の為にやったとは一言も言わなかった。
だけど、状況的には間違いないことで、私はそれに感謝なり謝罪なりすべきだと思っていたのに、結局、感謝も謝罪もできていない。
アクアが何事も無かったように振る舞っていたからだ。
私はそれに甘えるように元の気安い関係に戻った気になっていた。
だから、考えたこともなかった。
アクアにとっては、私は演技の仕事欲しさに枕営業をして、それをすっぱ抜かれて、B小町を危機に晒した女という認識をされているのだ。
こいつにとって、私は密室で男と二人きりになることに今更緊張することが無いだろうと思ってるんだ。
ただ、コイツは厄介な処女厨でも無ければ、自分の価値観を人に押しつける奴でもない。
プロ意識を求めることはあっても、プロとして生きていく為の手段に拘る奴ではない。
言及する程のことでもなかったんだ。
真偽を問う必要がなかっただけなんだ。
だから、コイツからしてみれば当然の不満を抱いているんだ
ーー 仕事の為に男と寝るお前に、女関係のことで何で責められる必要があるんだ? ーー
「…アンタ、私がこんなことばっかりしてるって思ってる?」
声が震えていた。
怒り、悔しさ、悲しさ、感情がぐちゃぐちゃになって、どんな顔をしているのかもわからない。
アクアは微かに眉を寄せる。困ったような顔で、言葉を選ぶように、僅かな沈黙の後に、ゆっくりと口を開く。
「…有馬、誤解があるようだが、俺は有馬を尊敬している。プロ意識が高くて、自分の実力で勝負をしたいと思っていることも理解しているつもりだ。プライドだってあるのは知ってる。だけど、演技に命を賭けてるからこそ、その機会に飢えてることもわかってる」
湖のような瞳が私を静かに捉える。
「俺は自分の目的の為に使えるものを使うことを決して悪いことだとは思ってない。そもそも、あかねを手に入れようとした切っ掛けだって、あかねの能力に目を付けた打算にすぎなかったんだからな」
ズキリと胸に痛みが走った。
切っ掛けは打算だった、つまり、今あかねを手放さないのはそうじゃないのだと暗に物語っていた。
「…アンタは、私が島監督の家に行ったことに何も思わなかったっての…」
苦虫を噛み潰したように顔を歪めると、アクアはゆっくりと首を振る。
「…正直、迂闊な奴だなと、少なからず思った」
その言葉に、軽蔑が含まれていないことに、少しだけホッとする。
「けど、お前があの頃思い詰めていたことはMEMからも聞いてた。だから、どんな気持ちで島監督の家に行ったのかは敢えて聞いていない。お前が、何が自分にとって得になって何が損になるかが計算できない奴じゃないとわかってる。押しに弱いって言っても、それだけでズルズルと身体を許す奴だとも思ってない。だから、きっと、そんな危険な橋を渡ってでも譲れないものがお前にあったんだと理解しているつもりだ」
自分の中から一つ一つ確認して並べていくように、言葉を繋いでいくと、アクアは一つ息を吐いた。
鼻の奥がツンとする。
ぎゅっと胸が苦しくなる。
やばい、泣きそうだ。
それは、アイツの口振りが優しかったからじゃない。
アイツの思い遣りが感じられたからでもない。
「だけど、誰もがそれを理解してるわけじゃない。そもそも、記事にする連中はそんな葛藤なんて知った事じゃない。結果だけを都合の良い形に加工して供給するだけ。ミヤコさんが言ってたんだ。18歳やそこらの子供はそんなに強くないって。俺も同感だ。10代の子供がどれだけ脆いのか、心の強さに才能なんて関係無い。俺はあかねでそれを見てた。だから放っておけなかった。お前の判断が顔も名前も知らない奴らに一方的に貶められて、罵倒と嘲笑の的にされるかもしれないと思うと、お前が傷つくのが我慢できなかった。だからあれは俺の勝手なお節介だ」
アイツが既に割り切ってるのが、悲しかったんだ。
私が枕をしているとしても、私の判断ならば尊重するとコイツは言外に語っている。
「俺の物言いが揶揄したように聞こえたならすまない。けど、信じてくれ。有馬は俺にとって特別な奴だ。決して軽蔑をしてるとか、そんなつもりは無い」
その物わかりの良さに、涙がこぼれてしまいそうだ。
声を上げて泣き喚きたくて ーーー
「難しいかもしれないが、こんな形で抱くことになったことを気にせずに友人として振る舞ってーー「できるかーーーー!!!!!」
思い切りその頭をはたいていた。
「……痛ぇんだが」
「そりゃ痛いでしょうよ。全力でぶっ叩いたんだからねぇ!!!!」
ぼろぼろとこぼれる涙を拭いながら、腹の底から怒鳴りつける。
「勝手にビッチ認定してんじゃないわよ!!アンタ、私が役貰うためなら平気で枕する女だって思ってるわけ!!」
「いや、そこまでは…」
「思ってる感じだったじゃない!!なんか、妙に腫れ物みたいな気遣いを感じたわよ!!察してるつもりになってたじゃないのよ!!!!」
淫売とか売女とか尻軽とかビッチなんて言われ慣れてる。
エゴさをすれば必ず出てくる。
「有馬かな」と入力すれば「有馬かな 枕」「有馬かな 枕営業」「有馬かな ビッチ」なんてSNSのサジェストに当然のように出てくる。
正直泣きたくなることなんて数え切れない。死にたくなることだってある。
だけど、顔も名前も知らないそんな連中に勝手に枕営業疑惑を抱かれることなんて大した事でもない。
不特定多数の豚に淫売と罵倒されることよりも、遙かに悲しいのは ーー
「人に聞きもせずに勝手に自己完結してんな!!!私はね、まだ処女よ!!バリッバリの処女!!」
コイツに、アクアに変な理解を示される事の方が遙かに悲しかった。
殴られた頭を押さえながら、呆然としているアクアを睨みつける。
あー、腹が立ってきた。
「意外?あかねみたいに清楚じゃないから経験豊富だと思ってた?チョロいメスだからとっくにぱっくり食べられてると思ってた?良かったわね、これでも新品よ。あんたの好きな初物。よかったわねあーくん、また初物が食べられるわよ?」
「何であかねが初めてだって」
「わかるわよ。言っとくけどね、アンタが思ってる以上に聞こえてるからね?痛くて泣いてるあかねの声聞こえてたわよ?あの女のよーっく通る声でね!」
断片的にしか聞こえなかったけど、会話の想像はつく。どうせ、「大丈夫かあかね?」「うん、痛いけど、嬉しいよ。やっとアクア君と一つになれたから」「あかね」って…腹の立つ初々しいやり取りをしてたに決まってる。
あのかまととぶった女が言いそうなしおらしいセリフだ。
アクアが気不味そうに目を逸らす。私の予想は大体当たっているのだろう。
それがまたムカつく。
「大体ね、アンタの物わかりの良い風な顔がまたムカつくのよ!!私のこと推してるくせに。私のこと大好きなくせに。もっとオロオロして、ヤキモチくらい焼きなさいよ!可愛くないわね」
数分前の自分の醜態を光の速さで棚に上げる。
「それに気にしないでくれって何よ。気にしないでいられる訳がないでしょ!なんでそう思えるのよ!!」
「お前が俺を友達と思ってくれてるのはわかってるが、同時に異性として見れないっていうのも…男は意識してなくても、そういうことはできるが、女は苦痛だろ」
「はぁ?異性として意識してないなんて、いつ誰が言ったって…」
ーー アンタのことなんて異性として意識した事ないしこれからも絶対ない ーー
ーー 誰がアンタみたいなネクラナルシスト好きになるっての ーー
ーー 友達として仲良くしましょう ーー
私だったぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
私が自分で言ってたわ。
しくじってるわ思いっきり。
じゃあ、何。
私だけずっと舞い上がってたわけ?
あれから、上映されるまでアプローチしてたつもりだったのに、コイツは距離感バグった友達程度に感じてたってこと?
なんか余計泣けてきた。
「流石に、有馬見てたら処女だってわかる」
はっきりとコイツの口から断言されると何だか癪ね。
そりゃ処女だけど、処女だけどさ。
そんなに私は経験なんて無い小娘に見えてたっての?
スケコマシ三太夫には見え見えだっての?
「MEMから聞いてたからな。結局何も無かったって。正直安心した」
え、コイツ今なんて言ったの。
安心?安心したっていうの?
私が他の男に抱かれてなくて安心したの?アクアが?
「何か有ろうと無かろうと、有馬が特別で大切だってわかってるのにな。それでも、俺には有馬が眩しかった」
アクアは手元のペットボトルに視線を落としてる。
コイツはさっきからずっと私から目を逸らしている。不本意ながら本心を話す時にする癖だ。
自分が思ってるよりもアクアはずっとわかりやすい奴だ。
ポーカーフェイスを気取ってるけど、態度に出る。
だから、これはアクアの本心。
「だから、本当はこんな形で有馬を汚すようなことはしたくなかった。ごめん」
「謝んな馬鹿!!」
私はたまらずにアクアに抱きついていた。
もう我慢できなかった。
「…有馬」
「いい加減気づきなさいよ。アンタ賢いんでしょ…私が性格悪いってわかってんでしょ?どんだけの付き合いなのよ。私が素直に思ってること、言う筈無いじゃない」
もう、この期に及んで素直じゃないままでなんていられない。
「ただの友達な訳ないでしょ。ずっと、ずっとアクアが好き…好きなのよ!何でわからないのよ……バカァぁ…」
「有馬…」
「うえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇ…」
最低だ。
来年には二十歳になろうって女がみっともなく泣き喚いてる。
そういえば初めて会った時も、こうして泣いてたっけ。
こいつの前ではいつも突っ張ってた。
カッコ付けて、何でもわかってますって振る舞って、しっかり者を演じてきた。
ずっと執着し続けて、拘って。
先に惚れた方が負けたような気がするから、コイツから好きだって言ってくれるまでずっと待っていた。
いつ告白されても良いように、そう意地を張っていた。
でも、そうやって素直になれずに、ずるずるずるずる見栄を張り続けてる間にあかねにかっ攫われたんだ。
なんて間抜けなんだろ。
それで、散々一人で泣いてたくせに、ビジネス彼女だからと自分を
言い聞かせてきて、そうやって私が自分で自分を誤魔化している間に本当の恋人になって、あかねは私よりも遙かにアクアの深い部分で理解して寄り添っていた。
あかねよりもずっと早くに出会っていたのに、最初から気持ちなんてわかっていたのに、それを先延ばしにしてきたのは私のせいだ。
もっと、かっこよく決めたかった。
コイツが見惚れてしまう程に最高の私で告白したかったのに。
だけど、もう終わりにしよう。
意地を張るのは。
意地を張ることでコイツがどこかに行ってしまうなら、そんなチンケなプライドなんて捨ててしまおう。
「うぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛〜〜」
「もう、わかったから。わかったから泣くな、有馬」
「あ゛く゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛〜〜〜」
泣きじゃくる私の頭を、アクアが優しく撫でる。
幼い子供をあやすように、背中をぽんぽんと叩かれる。
あー、みっともない。
ほんと、さいてー。
「じろじろ見ないでよ…」
有馬が顔を背ける。
胸を隠そうとする手を抑え付けて、有馬の身体を見下ろす。
「……小さいから…あんまり凝視しないで…」
消え入りそうな声には、普段の威勢の良さなど欠片も無い。
言葉の通り、有馬の胸は小ぶりだが、形が良く、薄紅色の乳首がつんとと尖っている。
「いや、綺麗だよ有馬は」
「〜〜〜〜!!」
喉の奥で唸ると、涙の滲んだ目でにらんでくる。
そんな有馬を無視して、尖った乳首に口を付ける。
「んんっ!」
わざと音を立てて吸うと、それだけで華奢な身体がはねる。
かわいらしい胸が、与えられた快楽に泡立っていく。
ざりっと、泡立つ肌を舐めていく。
乳首から、乳輪へ、乳輪から乳房全体へと舌を這わせていく。
時折歯を立ててやると、びくんと弓なりに仰け反らせる少女に、嗜虐心が煽られる。
敏感な小動物を虐めているような、背徳感にぞくぞくする。
胸から脇へと舌を滑らせる。
舌に少しずつ塩味が広がる。
つるつるとした肌にうっすらと浮かぶ汗の味が口内に広がっていく。
「やっ!だ、ダメッッ…んふっぅ」
綺麗に処理がされた腋を舌でなぞると恥じらいの声を上げる。
しかし、言葉とは裏腹に、声にも組み伏せた腕にも力は込められていない。
本当に敏感なやつだな。
押しに弱いのは性格だけじゃないんだなと、言ってやりたくなる。
額に細かな汗を浮かべながら、とろけた顔をした有馬と目が合う。
「有馬、気持ちいい?」
「聞くなぁ、ばか」
とろけた顔で、意地を張っても可愛いだけなのに。
笑って見つめてやると、有馬はそっと目を閉じて唇をつきだしてくる。
「ん」
キスをしろということらしい。
そうやって強請ってくる姿はあざとい以外のなにものでもない。
あかねやMEMをあざといとよく口にしているが、コイツはコイツで違うあざとさがある。
軽い音を立て、何度も触れるだけのキスをしてやると、薄目を開けてこちらを見てくる。
不満げに、物欲しげに、「それだけ?」と見上げる瞳が訴えかけてくる。
言葉にするのが苦手な困った奴だと苦笑すら浮かぶ。
両腕を解放してやると、すぐに飛びつくように有馬が両腕を回して来た。
こんな細い腕によくそんな力があるものだと思うほど強い力でしがみついてくる有馬の頭を撫でてやる。
「れろ…んちゅ、ちゅ、んんむ、ふぅ、ちゅぷ、んん」
小さな口を舌でなぞり、細い舌を絡め取る。
深く、貪るように舌を絡ませ合うと、息継ぎをするように口を離す。
半開きになった唇から覗く舌の鮮やかな赤に目を奪われる。
たまらずにもう一度唇を塞ぐ。
うっとりと幸せそうに緩んだ有馬の顔をそっと盗み見ながら、深く口付けを交わす。
「ぁ、あくあぁ…」
「有馬」
「…なまえ」
抱きつく腕に力がこもる。少し痛いくらいだ。
「なまえでよんで」
この期に及んで恥ずかしげに小さく耳元で囁かれた
「かな」
耳に溶かし込むように、名前を告げてやると、びくんと、有馬は身体を震わせた。
何度目からのキスから、首筋を舐めて、つつぅっと胸元へと滑らせていく。
引き締まったウエストと臍を舐めてやると、ぴくっと身体が波打つ。
いちいち敏感で、少しのタッチで音を奏でる楽器のように、甘い声が響く。
「…ぁ…」
秘部へと舌を下ろしていくと、そこには何も無かった。
つるつるとしたそこを見られるのが恥ずかしいのか、太股をすり合わせる。
有馬の羞恥心を理解しつつも、知らぬとばかりに強引に開いてやる。
真っ赤に充血した果実を舌先で転がし、生々しさと甘酸っぱさの混ざり合った秘部を舌でこじ開けていく。
「あぁ、はぁ。やん…あん、んんんっ…いっ、ひん…んんんっ!」
舌でかき分けていく度に、奥から熱い汐が舌に広がる。
狭くて固い有馬の秘部をほぐすために、長い時間をかけて舌で蹂躙していく。
達する度に奥から奥からあふれる蜜で舌がふやけたかと思う程に繰り返す頃には、くたりと有馬の身体から力が抜けていた。
ぐったりとしている有馬を横目に、避妊具を装着する。
「かな、痛かったら無理するなよ」
こくんと、うなずくのを確認すると、薄紅色の割れ目に先端をあてがい、ゆっくりと腰を沈めていく。
「ん…んんぐ…ひぐっ…」
涙を目尻からこぼしながら、眉間に皺を寄せて苦悶の声を漏らす。
有馬の口が俺の肩に当たるように抱きしめてやる。
「かな」
「あーくん…」
「噛んでいいから」
「うん」
おずおずと開くと、小さな歯列が肩に沈む。
半ばで止めていた腰を、更に押し込めていくにつれて、肩に鈍い痛みが広がる。
「むぐぅ…っ」
苦痛に耐える声を耳にしながら、ゆっくりと抽挿を繰り返していく。
「はっ…はっ…はっ…」
荒く、苦しげな吐息に艶が混じるにつれて、抽挿が自然を速まっていく。
「はっ…はっ…はっ…あ、あっ…くぁ…」
熱い吐息が空気に溶けて、空気を熱くしていく。
熱い吐息が身体に触れて、身体を熱くしていく。
熱い吐息が甘くとろけて、甘い快感が吐息を熱くしていく。
肉が肉を打つ音が部屋中に充満していく。
水と水がぶつかる音が空気を満たしていく。
ぎゅうっと、痛みすら覚える締め付けとともに、背筋を太い快感が走る。
避妊具を突き破るのではないかという勢いで精液が避妊具の中に吐き出されていく。
「あはぁ……あつい……」
熱に浮かされたように、朦朧とした表情で、有馬は幸せそうに笑っていた。
「あ゛ぁ゛ぁ゛〜〜」
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ?痛いに決まってるじゃない。ほんと、さいあく」
なんて言いながらあーくんの胸板に頬ずりする。
身体中痛いし、アソコなんてもうヒリヒリして泣きそうだ。明日きちんと歩ける自信が無い。
あかねのやつ、よくあんなにおねだりしたわよね。
痛くて痛くて、してる最中も泣いちゃった。
ま、最後の方は結構気持ちよかったし、何より泣く度にあーくんが頭を撫でてくれるのが最高だ。
「何よ、不服そうな顔して」
「いや…」
あーくんは何処か顔色が優れない。何かが引っかかっているという感じに眉を寄せている。
この私の初めてを奪った直後にしていい顔じゃない。
「ずっと、大切にしたいと思ってたのに、結局俺の手で台無しにした気がして」
「はぁ〜〜…アンタ、まだそんな事言ってるの?」
コイツ、ほんと信じられない。
ナルシストなくせに、卑屈っていうか。
客観的に自分がかっこいいことを理解しているくせに、自分の価値を納得していないというか。
良いのは見た目だけで中身には何の価値も無いと本気で思っている節がある。
冗談じゃないわよ。
「アンタね、いい加減にしておきなさいよ」
痛みに軋む身体に鞭打って、身体を起こすと、あーくんの上にのし掛かる。
あーくんの胸の上でおっぱいがつぶれるのが少し恥ずかしいけど、散々見られて舐められて、もう今更だ。
「アンタが自己評価を低くするほど、アンタに惚れた女も価値が無いって言ってるようなものよ?」
アクアは反論をしようとして、言葉を飲み込む。
ふふっ。
何だか言い訳しようとする子供みたい。
言い訳をしようとして、言ったらもっと叱られると思って言葉を飲み込む子供の演技、そんなタイトルを付けたら100点満点をあげたくなる顔だ。
「もう…」
ちゅっ
思わず頬にキスしてしまった。
初めて会ったときのあーくんみたいに、幼い顔に我慢できなかった。
「しっかりなさいよ。アンタは私が好きになった男なんだから。そんな辛気くさい顔なんてしないの。有馬かなを惚れさせた男ってくらいどうどうとしてくれててもいいんだから」
「有馬…ありがとう」
あーくんは、少し照れくさそうに笑う。
初めて見た。そんな顔で笑うんだ。ぎこちないけど、演技じゃない顔。
胸がきゅぅっと切なくなる。
抱きしめたくなる。
「俺はいつも有馬に救われてるな。ずっとそうだった。有馬の前だけでは、肩の力を抜いて楽に振る舞えた。眩しくて、憧れてた」
「憧れだけ?」
「?」
「……ま、今は良いわそれで」
こいつの感情は「推し」、あくまでもこいつにとって私は「推しの子」の一人だ。
多分、あかねに抱いているような、もっと質感を持った生々しいものじゃない。
きっと、私に向けている感情の方が綺麗なんだろう。
だけど、私は肉感を持った、もっと貪欲な感情が欲しい。
あ〜〜、ホントあかねが妬ましい。
きっと向こうも私にそう思ってるんだろうけど。
口にしてないけど、あの子を見てればわかる。
あいつは物わかりがよくて、すました顔で貴方が望むなら支えますみたいな顔して、臆病だからなかなか欲望を剥き出しにしないだけで。
本質的には貪欲だ。
肉食女子だ。
いや、もうそれだけじゃないか。
がっつくだけの女じゃない。
「あーくん」
アクアと身体を重ねたことで、男を知ったことであの子は変わった。
匂い立つような雌の色気と狂気を隠さなくなってきた。
上等よ、受けて立ってやるわ。
どうせ「話し合い」が必要だろうしね。
「大好きよ」
あーくんにキスの雨を降らせてやる。
あーくんはくすぐったそうにキスを受け入れると、笑みを浮かべつつも、どこか途方に暮れたように視線を泳がせた。
ぶつけられた好意に戸惑う小さな子供みたいに笑うアクアの額に、私はもう一つキスを落とした。
すっかりと夜も更けて、微かな寝息と秒針が刻む音だけが虚ろに響く。
そっと足音を忍ばせてリビングに足を運ぶ。
手元のリモコンを操作すると、【2】と刻まれた表示が変わる。
【1】
あと1人。
最後の1人。
きゅんとお腹の奥がむず痒く、痺れる。
表示が変わるのを確認して、再び足音を立てないように振り返ると、
「やっぱりそうか」
アクアがため息を吐く。
怒っている様子はない。
ただ、困惑を隠しきれないといった表情で、その目は理由を求めて私をまっすぐ射抜く。
最後まで騙せると思ったんだけどな。
どうも、ここでゲームセットみたいだ。
私はアクアに答えずに、リモコンを操作する。
【0】
表示が変わるのを確認してから、アクアに振り向く。
「大方あかねもグルだったんだろ?」
ほんのり汗に塗れた前髪を煩わしそうにかきあげながら、きゅっと瞳を細める。
尖った視線が突き刺さるのがわかる。
よく知ってる顔だ。
「理由は聞かせてもらうからな ーーー 」
小さな頃からずっと見てきた。
「ルビー」
私が悪戯をした時にアクアはこんな顔をする。
頭ごなしに叱らないように、自分の気持ちを落ち着けてからする眼差し。
この目を前に、いったい何回「ごめんなさい」と言っただろう。
泣いて「ごめんなさい」って言うと、アクアは尖らせた視線を和らげて、いつものように呆れた顔になるのだ。
それを何回見てきただろうか。
何十回。
何百回。
何千回はさすがにないか。
「バレちゃった☆」
でも、今は泣いてもいない。
「ごめんなさい」をするつもりもない。
だって、悪いのはアクアだもん。
★★★★★
☆
☆
☆ 与えるばかりの王子様 ☆
☆
☆ 青いサファイアを与えて☆ ☆
☆ ☆
☆赤いルビーも与えて
☆ ☆ ☆
☆ 金箔も剥がされて ☆ ☆
☆ ☆
☆ ☆
壊されて ☆ 砕かれて
☆
☆ 残った心は打ち捨てられて ☆
☆ ☆
それを望むなら、構わなかった ☆
☆ ☆ ☆
☆
☆ ☆
望んで傍らに寄り添う燕になって生き絶えようと思った
☆
☆
☆
☆ ☆
☆ ☆
神様が天使を遣わして ☆
☆
☆ ☆ 一緒に楽園に行けるなら ☆
☆
☆ ☆
だけど、楽園なんてドコにもない☆
☆
☆ ☆
☆ ☆
☆
☆
神様は天使と一緒に貴方を指さして笑うだけ ☆
☆ ☆
☆
☆
そんな神様しかいない世界 ☆
☆ ☆
☆
だから、私はもう期待しない
☆
☆ ☆
☆
☆
世界にも神様にも
☆
☆ ☆ ☆
☆
☆
☆
☆
☆
☆
砕かれた王子様の破片は私が拾う
私はマグロが好きです。