「これはどういうことかしら」
湊友希那は室内中央に仁王立ちをし、正座している彼のことを 責した。強い語気だった。それも、他者を徹底的に追い詰め、何が何でも事の真相を解明せんとする容赦のない語彙が籠った声だった。
対する彼は身を縮ませることしかできなかった。それは当然のことだった。今、彼の自室の中で彼は圧倒的不利の状況にあり、何か弁明する余地など、どこにもあるわけがなかった。
「説明を、してほしいのだけれど」
友希那の強い語気がまた降り注いだ。彼は俯き、自分の手元の位置に投げ飛ばされた『それ』を眺めていた。
今、険しい目元から発せられる友希那の眼光に射抜かれている彼は、もう、たった少しも身体を動かすことができずにいた。ただ、手元にバサリと落下してきた『それ』を視て、まるで自分と無関係そうな顔するばかりだった。いいや、別に自分自身と『それ』の関係を否定したいわけではなかった。しかしなんというか、人としての、ある意味で当然の挙動として、自然な現象というか反応として、彼は何か知らないふりをしないわけにはいかなかった。そんなものを友希那はもちろん許さないし、むしろこの女房――いいや彼と友希那はまだ結婚していない――は、『それ』について強く追求してくるのだった。
「私の写真ばかりが掲載されているわ」
友希那もまた視線で『それ』を追っていた。今、友希那が落下させたことで適当に開いた『それ』の一面には大きく友希那が映し出されている。つまり写真だった。どこか、あらゆるメディアから厳選し、抜き取った写真たちだった。『それ』とは冊子だった。しかし出版社から出版された正当な書籍ではなく、ホッチキスを駆使して作成された個人的なものだった。
「それは……」彼は恐る恐る動いた。何か、今だけは友希那のことを恐れていた。自分の動きの中で、友希那が気に入らない箇所があれば即座に視線で狙撃されてしまうような気がしていた。彼は冊子――『それ』の適当な箇所を一枚開き、友希那に向かって示した。「友希那写真集です……」
「あなた、もう何度も言っているわよね?」
友希那の声が彼の自室の中でまた響いた。彼は額を上げ、友希那と目を合わせた。
「私と喋っている時は、私の胸元や太腿をじろじろ視るのではなく、私の顔をしっかり視て」
「でも……」
「でも?」
「だって、友希那がえっちすぎて……」
彼は友希那の顔から視線を落とし、タイトスカートに包まれた臀部をちらりと視た。すると友希那の両手が伸び、彼は頬を掴まれた。グイ、と強引に視線が動き、彼は再び友希那と目を合わせることになった。
「人のせいにしないで」友希那は彼のぬめめった態度を一刀両断した。「人と喋る時はその人の顔を視る。これは人として、当たり前のことよ」
「うぅ、わかった」
彼は友希那の目を視て頷いた。それは保育士のような態度だと彼は思った。有能だが、少し厳しい保育士が、問題ある園児を諭すというよくある状況がそのまま自室の中で再現されていた。
「それじゃあ、続けるわよ」
声色が堅苦しく滾り、友希那は膝の上に開いた湊友希那写真集をペラリペラリと捲っていった。
その全てのページは友希那だった。この世に存在するあらゆる媒体から引っ張ってきた、友希那の写真が丁寧に掲載されていた。
「こっちはCDのジャケットに、こっちは、この前の取材の時の写真……」
友希那は写真集を一枚一枚丁寧に捲り、現れる写真にひと言呟いていた。写真のデキを確かめるような口ぶりで、そういう取り調べのようだった。
「これは、ライブ映像を切り取ったものだわ……」
一枚、またペラリと捲った後に友希那は手を止めた。見開きで大きく友希那が映っている。ゴシック調のライブ衣装を着衣し、マイクを握って長髪がはためいていた。表情も険しく、だが苦しそうではなかった。むしろ快活な様子だった。ただ視ているだけで、写真からあの大胆な歌いっぷりが聴こえてくるようだった。
「あなた、こんなものを自作してどういうつもりなの?」
友希那は膝の上の写真集から顔を上げ、隣に座る彼を視た。肩にかかった長髪がつるりと落ちた。
彼が、湊友希那写真集を作成しはじめたのは一年ほど前だった。
友希那の恋人として、友希那の様々な顔や姿を手元に置きたいなどという欲求は当然のことだった。そしてその欲求は彼の中ですぐさま写真収集という趣味に直結し、その趣味は友希那に対し一切非公開だった。
つまり、バレていた。彼が、男としてひた隠しにしていた卑猥な趣味が、ついに友希那に発覚していた。それは緊急事態だった。そしてもう、覆すことのできない非常事態のことだった。
「お風呂を覗いたと思ったら、次は、こんなものを造っていたなんて……」
「趣味に、使うだけだから……」
「趣味……?」友希那は小さく呟いた。「趣味というのは、つまり……」
「オナニーに、使うんだよ」
彼は顎先を友希那に向け、はっきり宣言してやった。もはや、ヤケクソというか、開き直っていた。写真集発覚に陥ったのなら、もうこのまま、いけるところまでいこう、などという勢い付いた様子にあった。
「お、オナニー……」
唐突に卑猥で、それも直接的な単語が登場したことで友希那はわかりやすく動揺していた。それは普段あまり目にしない態度だった。あの静謐な目元が揺れ動き、口元から堅苦しい気配が消えて頬がどよめいていた。
それは、彼から視て十分に満足できる様子だった。普段、ステージの上ではもちろん私生活の中でもほぼ視ない友希那の相当珍しい態度に、彼は状況も何も忘れて夢中になった。
「こういうのはゼンブ、趣味だから」
彼は友希那へ正確に説明した。収集した写真は個人的な自慰行為に使用している。特に、六ページ目のステージ衣装の写真と、十二ページの横顔が『使える』と、彼は隠すことなく友希那に話した。その勢いはさながら新商品を売り込む販売員かのようで、彼は友希那の写真の使用頻度をその友希那本人に直接申告した。
「そう……」彼がひと通り喋り終えると友希那は視線を少し逸らした。「そんなことを……」
それから友希那は何か逃げ込むように写真集を捲る手を再開した。そこに、「こんなものを自作してどういうつもりなの?」などと強く詰め寄っていたあの厳しい表情はなかった。自分の写真が密かに使用されている現実を知り、悶えるしかない羞恥心に見舞われているようだった。
友希那の右手が次のページを捲った。彼はその様子を眺めていた。次に出てくるページを少し視た途端、彼は「あっ……」と表情を強張らせることになった。友希那の右手はページを捲る寸前だった。
「どうかしたの?」
事情を知らない友希那が訊ねた。彼がなぜ唐突に口元を緩ませたのか、少しもわからないといった様子だった。
「いや、あの、そっちは……」
「何よ」
「いや……」彼は写真集から目を逸らした。「やめておいたほうが……」
「今さら、何を隠しても無駄よ」
彼の弱弱しい警告を無視して友希那は右手を持ち上げた。はたして、披露されるページには友希那の写真が掲載されているが、それはミュージックビデオから切り抜いたものだったり、インタビュー記事から切り抜いた宣材撮影ではなかった。友希那は写真を眺め、「これは……」と唖然とした様子にある。「こんな写真、どこで……」と、声色は若干の恐怖を含んで彼を視た。
友希那が便器に座っている写真だった。
便器とはもちろんこの自宅のものだった。友希那はまずスカートを下げ、ショーツも中途半端に下ろして便座に腰を落としていた。その表情は放心状態といってよかった。何かぼうっと、どこを視るわけでもなく項垂れている様子だった。それは放尿がはじまる直前の、誰でもそうなる当たり前の状態のことであり、この後に、シャーッ、という鋭い音と共に透明な黄色い放物線が噴出することが予見された。
「あ、えと……」彼は動揺していた。しかし、それよりまず状況説明のほうが先である、と己を律して喉を張った。「それは、か、隠し撮りした……」
「隠し撮り?」
友希那は冷静に詰め寄った。隠し撮り、という単語を耳にした瞬間に理性が反応し、罰するべきだと彼を睨んだ。彼は背中一面に汗をかいていた。不思議なことに、その汗は冷たかった。ツー、と流れ滴る汗は重たく、また彼は、腹の奥の位置がずっしり重たくなる印象を自らの身体に受けた。
「まさかっ……」
友希那の声色が凍え、素早い手つきで次のページを捲った。
見開き一ページにでかでかと掲載された友希那は裸だった。
場所は自宅の脱衣所だった。全身の清掃を終え、湯船でリラックスをした後に出入り口扉から戻ってきて、間髪入れずに身体を吹いている様子だった。バスタオルを取ってまだ数秒なのか、全身の至る箇所に湯水の粒が浮かび、ツー、と滴っているものもある。湿った頭髪は下向きに垂れつつ、背や頬などの肌に貼り付いてまとまっており、友希那はバスタオルを抱えるような持ち方で佇んでいた。
「あなた、自分が何をしているのかわかっているの?」
「わ、わかってる……」
「わかって、やっているのね」
「うん……」
彼はぎこちなく呟いた。それは本心だった。隠し撮りなど違法的な行為でしかなかった。そんなことを友希那に行い、また行ったことが、友希那に最悪の形で発覚していた。
ハァ……、という恋人の呆れ返ったため息が聞こえる。彼は、その吐き出された息を鼻で吸引した。別に甘いにおいはしなかった。もはや、いい逃れや弁明などはできず、ただ黙って叱られるしかなかった。
「変態だとは思っていたけれど、そんなことをするなんて……」
友希那は低い声で呟きながら、膝の上の写真を眺めていた。いったい、隠し撮りされた自分を視てその本人は何を思うのか。まるで他人の写真を眺めているかのように、いくつか時間をかけて友希那は写真を眺め、それからまたページを捲った。次に現れた写真は、自室にて友希那がベッドに座り、右足を乗せ、ソックスと肌の隙間に指を入れてぐいと下げ、脱ぎかけている瞬間だった。
普段、友希那の膝がその角度に曲がる様子を彼はあまり目にしていなかった。股の部分が大胆に開いているかのようにも視え、偶然通りかかった彼は、その場で隠し撮りをしたのだった。
友希那は写真をまた時間をかけて眺め、それからふと、顔を上げた。
「足が、好きなの?」
「え――」
何か受け答えをするより先に、友希那は膝の上で写真集をパタンと勢いよく閉じた。
今日の友希那の服装は落ち着いていた。
まず、白い長袖のものを上に着衣していた。友希那の服装でよく目にする穏やかなフリルが、やはりさりげなく、けれどたくさん飾られており、首元はリボンになっていた。友希那はもとより背丈が、どちらかといえば低いほうで、また胸元も大胆ではなく、細身だった。そういった控えめな身体にとって、このようなシンプルなトップスはよく似合っているのだが、彼が何より注目するのはその下、下半身を覆うタイトスカートだった。
友希那といえば、歌姫という肩書きだったり、それか青色の薔薇や、ゴシック調の服を連想するが、それと同じくらい、彼はこのタイトな様子のスカートもよく思い浮かべる。
友希那は日ごろから、それが控えめで大人っぽい服装、という顔でタイトスカートを着用するが、そういうものが、彼の目にはどうにも刺激的に映っている。腰の形を忠実に再現しつつ、それでも基本的にシャープな輪郭を保つ衣類に気心が乱されている。また、スカート裾部分から覗く、タイツに包まれた脛の細さだったり、足首の、きゅっとした唐突な萎んだ様相なども愛おしく思っている。生足、というものもいいのだけれど、こうして黒色のものを備えると、まず輪郭が強調される。いかにも肉体的な肌色から、単純な黒色に変わると、その細さがよく視えて、布の質感もてかてかと麗しい。女性が足に纏うもの、そこには、タイツやストッキング、パンストなどといくつも種類があり、男としては、どれがどれなのか一瞬わからなくなる。薄さ、つまりデニールによって名称がことなるとか。女性としては、全てに役割があり、まさかエロスなんて考えていなくて、全く別物らしいのだが、男としてはただひとつ、全て美しく視えるし、その黒色に、どこまでも卑猥な意味合いを付属させることができる。
「こんなことがいいだなんて……」
そして今、彼は弩級の有頂天にあった。
自室ベッドの上に彼は友希那と共に挑んでいた。すでに、あの写真集はパタンと閉じられて一旦隅に追いやられている。そうして友希那は、トップスはそのまま、タイトスカートもそのままで、ベッドに完全に乗り上げている。彼にもまた、そう同様にするよう命じている。なんともおかしいのは、そういった命令を友希那は彼という他者の部屋の中で行っているということで、さらにおかしいのは、彼は、そういった命令に背くつもりが少しもないということだった。
「気持ちいいのかしら、これ……」
ベッドの上で彼は仰向けになり、股を開けていた。少し横を視ると、ベッドから外れた床の位置に、先ほど友希那の手つきによって脱がされたズボンとパンツが放置されている。彼は視線を上向かせた。自ら開いた股の中に、すっぽり納まる友希那は彼に向かって足先を伸ばし、また彼の股間の部分はそのまま、友希那の『足置き』として機能していた。
男としての貴重な位置に友希那の足の形と重さ、そして若干の湿度を彼は感じている。その湿度とはつまり友希那の足裏の汗だった。
「ねぇ、どうなのよ? 私に足で踏まれて、気持ちいいの?」
「気持ちいいっ」彼は呻き声で答えた。「友希那の足だもん……」
「そう。妙な性癖なのね、あなた」
彼の決死の白状に、友希那は淡々と返答した。右足だった。勃起した陰茎は軽い力で友希那に踏まれている。それぞれ、踵が付け根を、土踏まずが竿を、つま先と指先が先端を押さえ、それで彼のことを完全に支配したつもりらしい友希那は、高揚する目元をより嗜虐的に耀かせていた。
「ふふ、震えているわ」
友希那はほほ笑み、それから右足をゆさゆさと揺らした。足裏と陰茎が擦れて、彼は妖しい声を発した。今、身体の中で最も敏感な箇所が友希那に覆われ、その微細な挙動さえ感知していた。友希那の足の親指が動けば彼はアアと呻き、踵の部分で付け根をぐいぐいと押されれば、ウウと呻いた。まさしく尻に敷かれているといった具合で、押さえきれずに漏れ出てしまうものだった。そしてそれは、彼にとって有頂天以外の何でもなかった。
もとより友希那に生活の全てを支配してほしいと強く懇願していた彼だったが、まずは性の部分を友希那に献上し、その行く先を決定してもらっている状況にほほ笑んだ。友希那もまた、そんな彼の様子に調子をよくして、足先を行ったりきたり揺らし続けていた。カウパー汁が分泌されており、それがローションの代わりとして機能していた。卑猥な湿った音が鳴り響き、ハッ、ハッ、という息遣いが聞こえてくる。それは友希那のものだった。足を乗せ、軽快に動かすこととはやはり重労働らしい。ここばかりは、男を踏み潰し支配する女王というより、必死に男に奉仕する淑女の雰囲気があり、これも愛おしい。
「友希那、もうっ……」
実のところ、彼はもう自分自身を保つことが不可能だった。股間だけではない、身体のあらゆる箇所が過敏になり、限界に至っている。また、そうした緊張感の中で彼が唯一意識できたのは、友希那の質感だけだった。股間を覆い、なめらかな挙動で動き続ける質量がまず心地いいし、そうした足からムンムンと漂う、友希那の体臭も香しい。
「硬くなっているわね……」
ちらりと彼の表情を眺め、それから友希那は足を動かす速度を上げた。彼が限界であることを、友希那もまた足裏で察知したようだった。下方向に押し込まれつつ、さらに前後に素早く蠢くことで股間が際立ってゆく。「いいわよ……」と友希那がさらなる命令を下した。意識が硬く鋭く唸り、それら全てが股間という一点に集中していった。「出して……」と友希那の命令がさらに彼の脳の奥深くに染み込み、股間が勢いよく蠕動した。
「うう……!」
足なんかで射精する、といった屈辱的な意識は彼には皆無だった。というより、普段から友希那の手や口で絶頂しているので、これで足での絶頂を体験すれば、彼は友希那の全身の、あらゆる箇所で射精をしたことになる。
「ふふ……」
そんなこと、とても嬉しい……。これで、射精という快感と友希那の肉体が完全に紐付けされ、もう友希那以外で射精することなど、本当に考え付かなくなるのだった。
「友希那っ……」
最愛の人の名を呼び、彼は、その人の足の裏側で溶けていた。
「あなたの性癖が、私に染まりきっていることはよくわかったわ」
右足で絶頂した後、少しの休息の後に友希那は冷静に明言した。
今、彼の自室の中で清掃は終わっていた。彼の腹部にぶちまけられた精液を友希那が拭き取り、衣類の取り替えも完了していた。彼はベッドに腰掛け、友希那もその隣に座っていた。まるで性行為などなかったかのような雰囲気だった。
「――けれど、無断で写真集を作成するなんて、明らかに異常よ」
汗ひとつ垂れない額が揺らめき、友希那は冷静に呟いた。足のみを使用した奉仕によって、友希那は体力的に消耗し、汗をかいていたが、それらも拭われた後だった。
「そういう写真が撮りたいのなら、最初から私に話して」
「さ、最初から……?」
彼は目を丸くして友希那の表情を覗いた。何か、自分の願望よる幻聴が聞こえたような気がした。友希那は、「ええ、そうよ」と平気な態度だった。そこから幻聴の類は聞こえていなかった。彼は固唾を飲み、それから友希那をじっと視た。
「最初からお願いしたら、えっちな写真撮らせてくれるの?」
「そうだと言っているでしょう」
そんなこと、本当にいいのだろうか。しかし彼は、自身の口角が持ち上がることを抑えずにはいられなかった。
飛び上がるほどの喜びに浸っていると、その横で、友希那は冷静な口ぶりを続けた。
「隠し撮り、なんてあなたは言うけれど、これは盗撮よ」
その右手にはあの写真集があり、彼は友希那の瞳を視た。
「これをどうやって撮影したのか、それを言及するつもりはないわ。そうではなく、こういった写真を撮影したことが問題なの。……盗撮は立派な犯罪よ。たとえ恋人で、同じ家に住んでいるとしても、犯罪は犯罪よ」友希那はさらに冷静なまま彼を視た。「あなた、私が訴えれば逮捕されてしまうわ。それでいいの?」
「い、嫌だ……」友希那の質問に対し彼は勢いよく首を横に振った。「そんなの、もう友希那のえっち太腿とか、おっぱい視れなくなるなんて……」
友希那の目元に温かいものが浮かび、小さく「私だって嫌よ、そんなこと」と同調した。
「要求があれば、私もできるだけ協力してあげる。だから今度からは絶対に、私に最初から話してちょうだい」
「うん。わかった。たくさんえっちな写真撮りたいから、思いついたら全部友希那に話すね」
彼は嬉々として友希那にすり寄った。頬と頬が狭まり、二人の背丈が揺らめいた。友希那は表情をぎこちなく浮かばせ、「それは、大変そうね……」と低い声を出した。
「それであの……」と彼は友希那の手元を視た。「それ、返してくれる?」
「いいえ。これは返さないわ」友希那の明瞭な声が響いた。「没収よ」