早朝の空は燦然と晴れ渡っていた。
雲ひとつ浮かばない、真夏の晴天そのものだった。白い太陽の光が鋭く、容赦のない蒸し苦しさが、空のことをより広く演出しているように思えた。
「……」
音楽家・湊友希那は空を見上げていた。
とはいえ今、友希那の視界に青色はそれほど視えていなかった。
快活に晴れ広がる青色、その大空に挑むように建ち昇る、高級タワーマンションのことを、友希那は呆然と仰いでいた。
友希那の服装は完全に『夏仕様』だった。
上半身にはボタン付きのノースリーブシャツで色は白色だった。これは胸元に紺色のリボンが付いているお気に入りのもので、下半身にはタイトな黒いスカートを着衣していた。小ぶりな鞄をひとつ右手にかけており、それ以外の所持品はなかった。
タワーマンションは巨大だった。白色と黒色の力強い造りとなっており、角張った様子には建物としての信頼感も窺えた。
友希那は目を凝らし、マンション最上階のことをどうにか視界に入れようとした。しかしすぐ近くに太陽が浮かんでいるためすぐに断念し、力尽きたように首を垂らした。
眼前に、マンション出入り口扉が聳えている。巨大な硝子の、両開きの自動扉だった。
友希那は扉が勝手に開かない位置に改めて移動した。それはちょうど柱の近くで影になっている箇所で、友希那は身を潜めるようにその位置に立ち、今度は扉に背を向けて反対方向を眺めた。十メートルもない遠くの位置からこのマンション敷地ははじまっており、敷地の外は車道だった。友希那は手持ちの鞄の中からハンカチを取り出し、額の汗を拭いながら、自宅からここまでの、あの快適な車での時間を思い出していた。
「暑いわね、流石に……」
どこかで蝉が鳴いている。必死なざらついた鳴き声は、己の短い命を受け入れた覚悟の遠吠えのようにも、逆にその運命を受け入れきれない絶望の嘆きのようにも聞こえる。
友希那は頬の汗の粒をまた拭い取り、適当な地面を眺めていた。
数分もしないうちに新しい影が地面にふわふわ浮かんで近付いてきた。
「お待たせ」
友希那は顔を上げた。この暑さをものともしない笑みを浮かべる友希那の恋人――彼は右手を振りながらずかずかと歩いてくると、マンション出入り口扉の前に立った。自動開閉センサーはすぐに反応し、硝子製の扉は音もなく左右に退くように開いた。彼は友希那のほうに向き、左手を扉の向こうへ伸ばした。
「さぁほら、どうぞ」
友希那は彼のにこやかな声色に引かれてゆくように歩き出し、すぐに二人はマンションエントランスに入っていった。
少しして、硝子の扉が空を切りながら閉まっていった。蝉の声が遠ざかり、完全に消えるとそれから、代わりのように友希那の肌はひんやりと包まれた。
広いエレベーターの中、友希那と彼は横並びで乗り込んだ。
友希那からちょうど十センチほど離れた右側に彼が立っている。他に乗り込む利用者はなく、彼が階数のボダンを入力すると扉はすぐに閉まった。ガコンッ、という重たい音が鳴りそれからエレベーターは無音で上へ駆動していった。
「――というか、先に入ってもよかったのに」
「失礼かと思ったのよ。招かれた立場だから」
彼が訊ねると友希那は素早く答えた。実際、暑かったので入ってしまってもいいかと思ったが、やはり立場を考えると待つべきだと思った。
「律儀だねぇ。……そういうとこ、好きだよ」
「そう。よかったわ」
彼が少し緩んだ様子で愛の告白をする。友希那はまた素早く答えていた。慣れた様子だった。
このテのちょっとした口説き文句、というか簡易的な愛の告白は彼と交際を開始してから日常の中にありふれていた。そのため友希那もある程度扱いを理解しており、冷静さを保っているのはその経験の賜物だった。
「ところで」彼はその場で友希那のほうに首を傾けた。「お願いしたやつ、持ってきた?」
「ええ」友希那はまた即答し、右手にかけている鞄を左手で少しさすった。「海に行った時に着たものと同じものを。……今度は忘れていないはずよ」
「今度?」
「なんでもないわ」
彼が眉を歪ませるが友希那は冷静に誤魔化した。友希那は小さく息を吐き、おもむろに彼へ視線を送った。彼は精悍な顔立ちだった。服装はまず上半身に紺色のアロハシャツを着て前は全開にしていた。覗くのは白色のもので、ネックレスなどのアクセサリーはなく、下半身は黒色の半ズボンに同色のシューズを履いていた。全体的にがっしりとした体型で、特にアロハシャツの両袖から伸びる両腕は逞しい太さだった。
ふと、エレベーター全体が不思議な浮遊感に包まれた。停止したようだった。間もなく前方の扉が開き。彼が先に歩き出した。友希那もその後に続いた。エレベーターは数分という時間をかけて友希那と彼をこのマンションの最上階に運んでいた。彼は慣れた様子で歩き、すぐに自らの自宅の前までやってくると扉を開いた。
「ほら、どうぞ」
右手で扉を開く彼はそのまま振り返り、友希那のことを、おおらかな目つきでみつめながら左手で誘導した。友希那は吸い込まれてゆくように彼の自宅に入った。玄関も広く、だが友希那はすぐに靴を脱いで三和土に上がらなかった。
すぐ背後で彼が移動する気配が動き、静かな音で扉が閉まった。途端に周囲が薄暗く沈み込む。自宅内の全ての照明が消えているうえに、一瞬開かれた玄関から差す陽光まで遮断されたことで、ぎりぎり周囲を視認できない程度の闇が友希那と彼のことを包んでいた。
「友希那……」
彼の声が耳元で震えている。それは今までのおおらかというか、向日葵のような優しい質感ではなかった。
社交的な雰囲気を全て失くした、彼本来の粘ついた欲求だけを感じる雄の声だった。
友希那は何も口にせず振り返った。すぐ近くに彼が居る。その彼は、マンション出入り口扉の間で視た彼よりも、エレベーターの中で視た彼よりも巨大に思えた。大きな波のようにこちらに迫って、そのまま飲み込んでゆくような分厚い印象があった。友希那はたじろぐこともなかった。ただその場で身体を細くして直立していた。
彼が両腕を伸ばし、その懐の位置に友希那を誘い込んだ。両腕ががっしりと友希那の背を包み。男の胸板と女の胸元が少量の汗を巻き込みながら密着した。
「友希那、愛してる……」
項垂れた彼は友希那の右耳を声で濡らした。次の瞬間、友希那は下腹部の位置に唐突に湿ったものが浮かび上がり、それらが開花してゆくように染み込んでゆく心地を得た。熱くない、冷たくもない蠢きだった。友希那は無抵抗だった。今、友希那のことを抱き寄せる彼は、そのまま股間を女体の下腹部に押し込んで放尿しているところだった。
「うう……」
穏やかな速度で排尿される彼の湿り気によって友希那の衣類は濡れ、足元さえ少し濡らしていった。
「ふう……」
彼は吐息を漏らしながら友希那から離れた。両腕を背中から離して今度は肩に置き、それから友希那の表面を視た。
「濡れちゃったね」
およそ下腹部の位置から股間、両足に至るまでの広い空間を特別に湿らせた彼はその様子を一望した後に呟いた。
「ええ。そうね」友希那もまた重ねるように呟いた。鼻先にツンとした尿のにおいが触れていた。「これじゃあ、着替えないと……」
ちょうど水着を持ってきているの、と友希那はさらにわざとらしく囁いた。
「ど、どうかしら……」
友希那は自身の不安定な喉元を、どうにか力んで発音していた。
自然と頬が高揚していた。不要な熱気が身体に充満して落ち着かなかった。
友希那の眼前には彼が居た。白色の半袖シャツに、黒色のボクサーパンツを着衣する彼は白色のソファーに座って両膝にそれぞれ肘を置き、友希那のことをじいっと眺めている。
友希那は、彼から贈られる視線についてそれを熱線だと思っていた。
熱線はまさしく彼の舌のように自由に身体の表面を蠢き、友希那の水着姿を次々と品定めしている。
先日、バンドメンバーと共に訪れた海水浴の際は、こんなに恥ずかしくなかった。着ることに関してもそれほど躊躇はなかったし、誰にどのように視られたところで動じなかった。しかし今、たった彼という一人の男性にまじまじとみつめられただけで友希那はあらゆる自分にまつわる自信を喪失しかけていた。何か不備があるような気がする。たとえばどこか少しずれているだとか、ポニーテールの形が崩れているだとか、この結んだリボンの形が悪いだとか、そもそも水着が似合っていないなどという、普段なら絶対に考えない妄想にさえ友希那は取りつかれていた。
そんな不可解な心情の原因は友希那が、彼にだけはどんな否定的な感想も述べてほしくないと本気で願っているからだった。
確実に評判よくあってほしい。そんな願望が膨れ上がればそれだけ卑屈な妄想も肥大化し、友希那はどんな音楽的な活動で感じた不安より強烈な疑念を、ただ恋人に水着姿をみせるというだけの一瞬のうちに経験していた。
「あの、その――」
「うん。素敵だ」
彼の大胆な声色が友希那の鼓膜を嬉しく揺るがした。
やっぱり似合ってる、と彼の明るい口調が続いた。そんな優しい態度が、友希那の冷えた脳を内側からうっとり温めてくれる。彼はすっと立ち上がり、友希那の右手を掬い取るように取った。
友希那は彼の瞳を視ていた。彼もまた友希那の瞳を視ていた。互いの瞳の中に自らの姿が反射していることを知った時、窓から差し込む新鮮な陽光の中に互いの吐息が反射した。
「ほら、こっちに」
「ええ」
友希那は彼に手を引かれて白色のソファーへ座り込んだ。彼の左隣の位置だった。
高級タワーマンション最上階に位置する彼の自宅は広々としていた。あらゆる設備に空間的な余裕があった。
友希那は彼の自宅に今日はじめて訪れたわけではなかった。何度か彼の誘いで入ったことがあるし、寝泊まりしたこともあった。ふかふかのベッドに自由に寝そべってまどろむと、いつもより質の高い歌詞を書くことができるような気がする。
清潔感が行き届いており、特にリビングは地上の蒸し暑さを忘れるほど優雅だった。南側が大胆に硝子張りになっており、そこから完全プライベートの屋外プールに出ることもできた。大きな青空と街並みを一望することが可能で、徳に今日のような突き抜けた晴天だと、どこまでも見渡すことができる。
「それで、休みってのはいつまでなんだい?」
「明後日までよ」
「一週間だっけ?」
「ええ」
「……じゃあ今日は一日、本当に友希那のこと、独り占めできるんだ」
「そういうことになるわね」
ソファーの上でくつろぐ彼に、友希那もまた穏やかに答えていた。
ソファーは男女二人が体勢を崩しながら座り込んでも、まだまだ余裕のある大きさだった。
ボクサーパンツのみを着衣した彼は、どかっと沈むように座り、水着を着こんだ友希那は、その左隣に背を伸ばして座っていた。
窓の向こうから涼しい光が差し込み、そういう中で友希那は彼と二人きりだった。
「海はどうだった? 確か、メンバーの子たちと行ってたよね?」
「ええ」
「楽しめた?」
「そうね。少し予定と異なる部分もあったけれど、結果として、有意義な一日だったと思うわ」
「それならよかった」
彼は頷きながら左腕を廻した。迷いのない手つきは順調に友希那の背を背後から包み込む。男の五つの指先が臀部に触れ、そのほっそりとした形造りを尊重しつつ友希那は懐に招かれる。
「ちょっと……」
「いいじゃん。せっかく二人きりなんだから」
このソファーの上、必然的に友希那と彼の距離は狭まり、ほとんど隙間なく身体同士が密着した。少し強引だった。
友希那は肩幅を揺らしながら彼を仰いでいた。彼はどこかの国の大王のような股を開いた座り方で、友希那はそこに寄り添うような体勢だった。肌色の太腿は閉じられており、膝から下は揃えつつ斜めに流していた。
「もっとこう、倒れ込んでくれてもいいんだよ?」
「まったく……」
にやけながら臀部を撫でる彼から視線を逸らし、友希那は小さく呟いた。だがすぐに視線を持ち上げ、負けじと、彼の顔を射貫いていた。
「……ところで、あなたはどうして海に行ったことを知っているのかしら」
友希那は鋭く追求した。妙に距離の近い彼へのちょっとした反抗だった。
「まだあなたには、まだ海については話していないと思うのだけれど」
大きな目元をギロリと窄め、彼のことを至近距離から視線で撫でていた。
「いや、視てたよ」
「み、視ていた……?」
彼の真剣な回答に友希那は眉を歪ませた。何か思いもよらない新事実を突き付けられたような、意外性のある感覚だった。
数秒後、彼が追加で「ずっと視ていた」と捕捉したことにより、友希那の脳裡でとある仮説が持ち上がり、思わず喉元が引きつった。
「あなた、またしたの?」
友希那は今度は訝しむような目つきを彼に送った。右手を取り出し、彼の肩というか腕に触れた。
「うん」
と彼は何か悪びれることもなく首肯し、それから「といっても、ちょっと位置情報を眺めてただけだよ」と解説した。「会話まではね」などと、何か妥協した、みたいに口元を緩ませる様子を視て、友希那は肩の力を抜きながら「そう……」と息を吐いた。彼の肩に触れた右手をするりと落とし、太腿をきゅっと内側に縮めた。
「……そういう行為は、ほどほどにしてちょうだい」
「そう?」
「私だって、監視されて、何も感じないわけじゃないわ」
友希那から彼から目を逸らしていた。目元を細め、眉の部分にくっきりとシワを浮かばせていた。口の中に含んだ苦いものをどうにか飲み下そうとしているようなぎこちなさがあった。対する彼は快活なままで、友希那の顔をみつめると素早く「もちろん」と胸を張った。それからずずいと首を伸ばし、友希那の頬に顔を寄せるとなぜか小声で囁いた。
「でも僕、友希那のことしか視てないよ」
彼のストーキング行為について、友希那は最初は非常識だと思った。
それは当然の感想だった。流石に疑う余地もなく常識的に、友希那は彼の奇行を非常識だと批判した。すると彼は真面目な顔を友希那に向け「君のプライベートは僕に覗かれて不都合なのか」などと指摘した。それが議論の場において正当な反論として成立するかはともかく、少し考えてみると、確かに別に不都合なことなどない、と友希那は思ってしまった。そんな気持ちが人としての隙なのか、彼は追加で「君以外のプライベートを視るつもりはないよ」と不可解なこだわりを主張、たとえば友希那が他の人と一緒に居る時は盗聴や盗撮をしないと約束し、契約書さえ持ち出した。そのため友希那は、比較的根負けをしたという姿勢で彼の『恋人間ストーキング行為』について一応の許可を出した。ほとんど諦めたというか呆れた故の許諾だったが彼は喜んでいた。
「それにしても……」友希那はふと呟いた。視線を下げ、自分の身体を眺めてまた口を開いた。「こういう場所で着るのは、なんだか不思議な感覚だわ……」
「こういう場所?」
すると彼がすかさず首を廻して訊ねてきた。友希那は額を上げ、彼の表情を見上げた。
「あなたの家よ。これから泳ぐわけでもないのに、水着なんて……」
「ああ、確かに」彼はにこやかに即答してから口元を少し妖しく緩ませた。「別にプールで遊ぼうって魂胆じゃないもんね」
「ええ。だから――」
「友希那は今から、僕とその水着姿のまま一日セックスするんだもんね」
彼の言葉について友希那は喉元を引っ込めることになった。脳裡で『セックス』という単語が明確な形を持ってめり込んでいた。友希那は視線を彼から外し、自らの頬がまた内側からぼうっと再燃してゆくことを意識して口を小さく開いた。
「それは、少し品のない言い方だわ……」
「いやいや、事実だから」
彼がソファーに身体を埋めたまま、少し肩幅を友希那へ寄越した。友希那はまるで、彼から小突かれたみたいに身体を縮めていた。肩や膝の部分が自然と角張ってぎこちなかった。
「つまり友希那は今、セックスのためにわざわざ水着を着たってことだよね」
「ちょっと」
「その布面積は、別に水遊びのためじゃない。男の、僕の性欲を煽るってだけ」
彼は何か勢いを持って続けた。自らの得意分野になってイキイキとしているように視えた。
「少なくとも今、友希那の水着にはそんな意味しか込められてない。それって相当えっちだよね」
ねっちょりと口角を濡らす彼の顔を友希那はまともに視ることができなかった。この大きなソファーの上、彼によってすっかりと取り囲まれてしまったような感覚だった。
「あ、あなたがいったのよ。一日水着セックスなんて……」
友希那は負け惜しみみたいにその単語を引っ張り出した。『一日水着セックス』という言葉を最初に持ち出したのは数日前の彼だったが、ふざけた呼び方だと今でも思っていた。
「ああそれ、ふざけた呼び方だよね」
「……そうね」
友希那はぐっと口元を濡らした後に、いつもの振る舞いを取り戻そうと力んだ。
「けれど、理にかなっていると思うわ。確かに、一日ずっとあなたと性行為を続けていれば、音楽について考える余裕はなくなる」
こんな休日、私一人では絶対に思い付かなかったのは事実よ、と友希那は何か冷静に分析しているような口ぶりを示した。彼の右手が伸びてくる。友希那は、月が影に隠れて視えなくなってしまうみたいに、自らの居場所を彼に預けた。
友希那は彼に寄りかかった。
身体をすり寄らせ、なんとも女性的に歪曲した下から覗き込む目つきで彼のことを視た。
それは、彼から視て明白な誘惑の態度だった。
普段から、なんであれ媚びたりへつらうことなどありえない歌姫が、自分にだけは艶やかなやり方で取り入ろうとしている。その少し弱った、甘ったるい様子の友希那を視ることを世界で唯一許された彼は、まずそんな友希那の顔をめいっぱいにみつめ、左手で身体を包み込み、太腿や臀部を撫で、用意されたかのように窄められている唇に向かってゆく。
柔らかさを体験して少し顔を上げ、そうなるともう、彼も友希那も獣に堕ちてゆく。
だがその耽溺に友希那を連れ添うことができるのなら、彼としてはもちろん嬉しい。
なんの疑念も不安もなく、二人は重なり合ったままソファーの上で寝転び、さっそく友希那の腕が彼の首元に絡み付く。彼もまた小さな友希那の頭部を大切にするように腕で包み込み、また唇を触れ合わせる。
またこの時、友希那は器用にも両足をなめらかに動かし、彼の腰をぐるりと一周するように拘束したのだった。
「服、脱がなきゃ……」
「はやくう……」
友希那も垂らすように呟いた。彼もまた器用なもので、ソファーからほとんど身体を落とさずに脱衣をし、そうすると、反り返り立つ大きなものが友希那に差し向けられる。友希那の右手がするりと股間に向かい、水着をちろりとめくり、彼はその、期待で洪水を起こす泉の部分に己を突き立てることとなった。
友希那の膣は、まるで降伏するかのように素直に竿の形の通りに開かれつつ、まだまだ若々しい肉厚で、彼の竿のことを包み込む。
今、荘厳な歌姫は芯の部分を貫かれて仔猫に転じ、十分な湿度を漏らしながら男の手の中に堕ちてゆく。
力強く太ましい彼のものを咥え込んだ友希那は、その身体の内側から轟く鋭い快感にすぐさま頬を火照らせ、鋭利な表情を保つことなど不可能になった。
彼はそんな友希那の腹部をそれらしく撫でていた。
「大きいわね、相変わらず……」
「いつもより、興奮してるから」
「いつも?」
口元を揺らす友希那に彼はにやけていた。
「水着だから。よく似合ってる。髪型も」
「そ、そう……」
彼がはっきりと友希那に伝えると友希那はただ短く応答しつつ、視線を右側に逸らした。「よかったわ、あなたが興奮してくれて……」
彼は友希那のことを一望していた。
今、すっかりとろけた歌姫は、一人の女性として開花し、硬く育った雄を受け入れてくれている。
そのため彼は特等席で、この友希那を眺めることができていた。
今の友希那の髪型はポニーテールだった。長い薄紫の頭髪を後頭部で一本にまとめて流しており、それは活発な様子だった。普段、容姿がどちらかといえば幼く、おとなしい雰囲気だからこそ、こんな髪型を備えられると、何か爽やかに思える。またリボンの髪飾りも着けており、可愛らしさと快活さが同時に演出されている。
そして水着について、まず胸元を隠すのは黒色のもので、よく視ると薔薇のような装飾になっていた。下半身を包むものもまた黒色だが、今度ははっきりと白色で薔薇だとわかる模様が描かれていた。彼は少し、ソファーから目を離して床を視た。少し透ける紫色の布類が床に一枚落ちている。それは友希那がソファーの上に、こうして寝転ぶ直前にするりと腰から脱ぎ捨てたもので、スカートのように思えた。
「可愛いよ、友希那」
呟いて、彼はいよいよこの、つゆだくの歌姫を堪能しはじめる。
肌と肌とかぶつかり、互いに弾けるように少しだけ波打って、また別の刺激が身体を揺るがしている。
まだまだ朝の時間帯、それでもなお、このソファーさえぎしぎしと音を立てる中、彼は息が縮んでゆくことを意識していた。
寝転ぶ友希那はまだまだ余裕そうで、両足を彼の腰に巡らせて勝ち気にある。ただ誘い込まれた彼だけが消耗し、今すぐにでも魅了が完了するのだと思われたが、彼はそれを寸前のところで回避する。自らが繰り出す動きを止め、身体を倒し、友希那の肌の上に男体の形の影を伸ばしつつ、腰を緩やかに廻していった。
「んんっ……」
変化をすぐに表したのは友希那のほうだった。
下から単純に突くだけの動きを止め、ねちっこくかき廻すように刺激を与えてみる。胎内にて竿の形が膣壁のあらゆる箇所に触れ、その刺激は友希那には予想できない。顔と顔が狭まったことで視覚的な誘惑についても増長されており、友希那は今、物理的にも精神的にも籠絡されつつある。彼は友希那の頬を包み、またさらに、唇を閉じ込めるみたいに湿らせながらいくつか腰を落とし込み、股間で友希那を撫でるように動いた。
「だめ……」
顔を上げ、友希那の表情を視ると花が咲いていた。その花は暖かそうで、弱弱しく、湿っていて、男の睾丸を際立たせることに特化した表情なのだが、友希那としてはそんなものが悔しいらしい。彼が揺れ動いていると、その最中に「待って……」と鳴き、「違うの……」なんて口走るのだが、彼の蠢いた腰遣いが全てすり潰す。間もなく彼の性的な我慢より、友希那の性的な我慢のほうが限界を迎え、竿を包む膣肉は厳しく狭まってゆく。
「だめっ、もうっ……!」
ソファーの上、身体を反り上げて友希那は叫んだ。甘く、すぐに消えてしまう弱った声だった。
鋭い絶頂が友希那の細い全身を劈き、それからというものの、歌姫は一気に虚脱してゆく。
狭い肌肉は汗によって湿り気を帯び、乱れた頭髪が張り付いた部分もあった。
確かな情事によって、友希那は女性として昇り詰めた。しかし彼は、まだその友希那の内側に、己のものを沈み込ませたままだった。
身体を寄せたまま、彼はゆったりと腰を友希那に向かって突き出した。胎内、竿の先端で丁寧に、友希那の子宮の入り口の部分を探り当てている。すると友希那も腰遣いでそれに反応し、また二人、相手に合わせて動き出す。
胎内、熟れた肉ひだは完全に陰茎の形に寄り添うだけではなく、ねっとり吸着して離れない。束縛を感じさせるほど強烈に主張した友希那に合わせて、彼もまた白く芽吹いてゆく。
「んっ……」
今、この場で彼の人間的な理性は完全に消失し、ただ獣に堕ちてゆく。だがその耽溺の傍には、必ず友希那がある。友希那と彼、二人で一緒にどこまでも、性の世界に落ちてゆく。
ソファーの上、動くことをやめた二人はほとんど完全に重なり合い、互いの存在を熱で意識し合っている。
彼の濁ったものを受け止める友希那は、何か堪えているみたいに口元を引き締めていた。その間、彼は何度も、何度も、特製の粘液を友希那に向かって打ち出していた。それは止められるものではなく、雄に寄り添う友希那の肉壺の様子が、むしろ彼のことを求めているのだった。
それからいくつか互いの腰がこすれ、位置をそれとなく変えながら射精は続き、間もなく収まると、それでも彼は友希那から身体を起こさなかった。
友希那の胸元に己を落とし、ぬるぬると混ざり合ったまま、友希那の細腕が彼の背中を撫でている。その中で、友希那がふと声を漏らした。
「不思議だわ……」
声に反応して彼は顔を少し上げ、友希那のことを視た。
「あなたと知り合う前は、こんなこと、興味もなかったのに。今は、あなたが欲しくで仕方がないの」
「それは、友希那にとっていいことなのかな」
彼は片手を持ち出し、行為によって、すっかり乱れた友希那のポニーテールを正してやる。
「いいことだと思うわ。していると、あなたのことを身近に感じることがあるから」
あれだけ乱れたというのに、その感想が「悪くない」なところが友希那らしい。
それから少しの間、また二人、股間で相手を想う時間が続き、友希那がぽつりと呟いた。
「変わってしまったのね、私は……」
「それは、いいことだよ。少なくとも僕にとっては」
とすぐに彼が指摘すると、腕の中で、友希那の視線が上向く。
「あなたのせいよ」
「僕?」
「ええ、そうよ。あなたのせいよ。あなたが、私を変えたの」
と友希那は冷静に明言し、すかさず口角を持ち上げた。
「前の私から、こういうことを知る私に、あなたが手ほどきしたのよ」
友希那としては、きっと事実を突き付けているだけなのだが、その手ほどきという表現が、男の優越感のところを、どれだけくすぐるのかわかっていない。
とにかく友希那ほどの人から、まるで叱咤激励みたいに乱れた原因だと追求されるとなると、男として自信が盛り上がるし、もっとやってやりたいと願うようになる。
ソファーの上、男女で重なり合ったまま、友希那は片手で彼の頬を撫でる。彼もまた指先で友希那の頬をさすり、どちらが主導するわけでもなく口付けを交わした。互いの顔を揺らしつつ、舌先でさえ感じ取りながら唾液を与え合うと少し離れ、濡れた視線でみつめ合う。
「ふふ……」
友希那のその目には、確かな性への耽溺の意識と、漲る期待感が同時に混在していた。
それから食事を取り、再度ソファーでくつろいでいると眠ったようだった。
間もなく彼のほうが先に起床し、時計を確認すると十一時三十分を過ぎたところだった。眠る前、最後に時計を視た時は十時三十分程度だったから、一時間ほど眠ったことになる。
まだ性行為での疲労が残る身体を本格的にソファーから起こしたところで、彼は隣に友希那が居ないことに気付いた。
「友希那……」
愛する者を求めて呟くが、その人はすぐにみつかった。ソファーから少し離れたところ、プールに続く大きな窓の傍に友希那は立ち、窓越しに外を眺めている。
空から差し込む夏の爽やかな陽光を受けて、水着姿の友希那はどこか神秘的だった。肌色の中にはっきりとした陰影が浮かび、天から舞い降りた女神の類にも思えた。
彼は、ゆったりとした足取りで友希那に歩み寄った。後ろから静かに、臀部の位置に腕を巡らせて身体にぴとりと接触すると、それで友希那も気付いたようで、顎先を彼に向かわせる。
その半開きの口にすかさず唇を落とし込み、舌先を差し込むと男女は絡み合った。友希那もまた彼の体躯に腕を寄り添わせ、彼の大胆さに追従する。
濃厚な接吻を終えてから彼は訊ねた。
「外を、視ていたの?」
「ええ」
ほとんど抱き合った様子で、唇と唇は近いまま、友希那は追加で答える。
「自宅にプールがあるなんて、視たことがなかったから」
確かに、一般的な家庭のための家に、豪勢なプール設備が備わっていることはない。彼は友希那の腕を撫でながら、流れるような所作で窓硝子を開いた。
「もっと近くで、視てもいい」
彼は歌姫の小さな手を取り、外へ歩き出した。友希那は拒むことなく歩き出すのだが、すぐに彼から手を離し、代わりに彼の腕に、自らの腕を絡めて身体を寄せた。二人で優雅に歩き、プールにまで到着すると友希那はしゃがみ込んで水面を覗き込んだ。
「綺麗だわ」
空から落ちる光が、そのまま水中にまで差し込んできらきらと反射している。そのため何やら涼しげな様相となって、視ているだけで穏やかになる。
彼もまた友希那の隣にすっとしゃがみ、水中に指先を伸ばした。手のひらでいくらか掬って友希那の太腿に飛び散らせると、友希那は少し驚くが、すぐに彼と同じことをする。
今、下着姿の彼はどの部分に水がかかっても問題はない。
「冷たい……」
「いつでも涼むことができる」
「そうね」
友希那はしゃがんだまま、視線を水面に向けている。
彼はその横顔を眺めていた。水面から反射する光の様子が頬に浮かび上がり、快活なポニーテールが後頭部から背中に流れているのが視えた。
「今度は、この中でするのもいい」
「この中?」友希那は頬を傾けて彼を視た。「プールに入って、するの?」
「ああ。きっと楽しい」
彼はそのようにいい置いて立ち上がった。友希那もまた立ち上がり、彼は手を取った。
「こっちに来てみて」
と呟いて、彼はまた歌姫を案内する。辿り着いたのは、プールから少し離れた位置、黒色のモダンな柵が一周する最も外側の部分で、そこから街並みを見下ろすことができる。
「……すごい景色だわ」
流石の友希那も、これだけ高い場所から街を眺めるのははじめのようで、目を丸くし、少し驚きつつ、視線は釘付けだった。
「あなたは、こういうものを毎日観ているの?」
「いや、毎日というわけじゃないけれど、暇な時とか、ぼうっとしたい時はここに立つ」
「そうなのね……」
とだけ呟いてから、友希那はまた街を眺めることに集中しはじめる。
彼はその横顔を視ていた。
こうした体験は本当にはじめてのようで、瞳を輝かせて眺めている。それは無邪気のようにも思えるのだが、友希那の身分を知っていると、この下界を統べる女王が、街並みを慈しんでいる最中のようにも思える。
水着姿のまま、恋人の隣で街並みを観察する友希那――。
そんな佇まいを眺めていると、彼の中でよからぬ意識がまた立ち込めてくる。
「友希那……」
口癖のように囁き、歌姫のことを抱き寄せる。二人、身体がひとつになるほど接近し合ってから、彼はそそくさと右手を歌姫の秘密の場所に忍び込ませてゆく。
「ちょっと」
友希那はすぐに身体を揺らすが、彼は構わない。ほぼ後ろの位置から友希那に抱き着き、右手では股間を、左手は胸元に置いて固定する。友希那は両手をなんとか抜け出させて、彼の左腕にひとひとと触れている。
「駄目っ……」
「どうして?」
友希那のか細い声に彼はすかさず訊ねる。
「だって、ここ、外なのよ……」
「それが、駄目なの?」
と訊ね続けると、友希那はコクリと頷いた。
だが彼としては、ここは外ではない。
「ここは、僕の家だよ」
「そんなの……」友希那は彼から視線を逸らし、遠い適当な箇所を視る。「そんな、屁理屈だわ……」
「でも、こっちの君はたくさん濡れてるよ」
彼はにやけながら指先を友希那の秘部に押し込んだ。入り口はすでに濡れており、水着を介してとろとろと指先に愛液が垂れ乗ってくる。
彼は細かい動きで友希那の水着を最小限にずらし、火照った肌肉に指先を進軍させる。発情している蕾を捕え、指の腹で撫で廻すと友希那の身体が、腕の中でくの字に揺れる。彼は、友希那がどこかに転がり落ちてしまわぬように、左腕でより強く抱き留めて、友希那の頬に呟きかける。
「気持ちいいんだ」
「違う、これは……」
「外で弄られて、興奮してるんだ」
「やめて……」友希那は吐息の混ざった声で反抗する。「知らないわ、知らないっ、そんな……」
だがぶっきらぼうな声色と反して、股間の部分ではとろとろと蜜が溢れているので、彼はそれらを拭い取りつつ、友希那の蕾を相手する。触れるか、触れないか、絶妙な距離感を保っていると、友希那はその度に甘い声を揺らすのだが、そこには遠慮というか、漏れ出る声を止めようとする意思を感じる。
友希那がそのように反抗してくる原因は明白で、この場が屋内ではない、空の下だから。
高層マンション最上階なので、そんなことはありえないのだが、誰かに自分の恥ずかしい声を聞かれてしまうことを友希那は恐れているようだった。
だがそれは裏を返せば、今の自分が漏らしている声が卑猥であると、友希那自身が理解しているということ。あの友希那が、自主的に自らの不埒な様子を理解し、それが他のところに漏洩しないよう、必死に努力している。ただ音楽だけだった堅苦しいあの様子から比較すると、とても女子らしくなった。可憐になった。愛おしく、さらに魅力的に育った。
そしてその、女性としての豊かさこそが今、友希那を抱き締める彼の雄としてのやる気をより高ぶらせてくれる。
「駄目っ……」
腕の中、さらに身体をくねらせて声を漏らす友希那のことを彼は包み込んだ。背後から抱擁してしまうような動きで、首筋などに口を落とし股間をこねてゆく。熟れた蜜を指先で絡め取りつつ、卑しく育った唇の形を尊重するように撫で、稀に真相に迫るように指を押し込み、友希那の背が弾けると、また知らないふりをする。
糸を引くほど潤った秘部の中、彼の指は何より自由に蠢き、友希那のことをたぶらかす。
「んんっ……!」
今、腕の中ですっかり熟れた様子の友希那は内股気味になり、間もなく彼の左手をきゅっと握り締める。ここまでくると、もう友希那は極限まで極まったので、彼は今度は止まらない。雄々しい指先が大胆に動き、だが過激ではない。友希那の中で育った熱が、その内側で花開く。
青空の下、明確な絶頂に至った友希那はそれから呼吸を整える間もなく彼に振り向き、鋭利な視線を送るのだった。
「あなた……」
多くは語らないが、その目つきが、声色が、こんな屋外で淫らに弾けたことを恥ずかしんでいる。彼としては、もちろんそんな友希那のことも愛おしく、微弱な熱が通う友希那を抱き締める。
「可愛かった。とても」
「私は、負けた気がするわ」
「負け?」
「ええそうよ」と友希那は少し乱暴に声を尖らせる。「あなたの指、私の、いいところにだけ触れるから」
「確かに。僕は友希那のこと、全部知ってるからね」
にやけ顔を近づけると、友希那はそれから逃げるように視線を逸らした。肩幅が揺れ、身体そのものが離れようとするのを、彼は抱き締める。
「……どこまでも、変態なのね」
「君がそうさせてるんだ」
「私が……?」
視線を上げる友希那の口に彼は飛び込んだ。不意の接吻だったため友希那は身体を揺らし、声も上がったが、彼は左手だけで友希那の頬を撫でて舌をねじ込む。濃厚なまま触れ合いは続き、間もなく唾液を啜って二人は離れた。
「友希那が可愛いから、友希那がえっちだから、僕も変態になる」
「私のせいにしないで」
「いや、君のせいだ」
呟きながら、彼は友希那のことを少し強く抱き寄せる。
「君のことが好きだから」
至近距離で言葉を交わし、そんな様子を青空だけが眺めている。その中で彼は、自らのもっこりとした下半身のことを、友希那に向かって主張する。
「あなた……」
彼の黒色の下着が膨らんでいる。ちょうど真ん中の部分が、テントか山のように勇ましく突出していて、彼はその箇所を友希那の尻の柔肉に押し込んだ。肩幅程度に足を開き、腰を少し落として揺れ動く。テントが友希那の肌色の上でこすれ、彼は抱き締めた友希那により身体を近づける。
「勃起してる……」
身体に知らない硬さが触れて驚いたのか、友希那は呟いていた。彼は構わず身体を狭めつつ、友希那の穏やかな胸を水着の上から構わず揉んだ。水着が潰れ、乳房の形も歪みつつ、彼の手の中にはただ愛しい柔らかさがしみ込んでくる。ふと温かいものが欲しくなるので、彼は無防備な友希那の唇に吸い付いた。友希那もそれに答えてくれて、男女二人は口先を啜り合った。
「次は、僕が気持ちよくなる番だよ」
口を離し、甘く囁き、それから彼は、友希那の手を引いてプールに赴いた。
水面に揺らめく光の反射を肌色が受けて、きらきらと輝いている。
友希那のポニーテールは少し湿って肩に緩く着地していた。首を前へ動かすと、そのひと束は肌の上で引きずられて崩れることになる。友希那はもうそんなことには構わず、ただ彼の股の内側に身体を寄せていた。
今、彼と友希那の二人は屋内プールを利用していた。
そこはリビングから直接入場できるプライベート空間だった。縦横二十メートル前後の広さで、泳ぐというよりは水浴び・水遊びのための設備だった。プールをぐるりと囲むプールサイドの広く造られており、ビーチチェアやビーチパラソルを備えたリラックススペースも備わっている。
プールサイド部分に尻を落とし、両足のみを水中に伸ばす彼は視線を下向きににやけていた。
彼は全裸だった。股を緩く左右に開き、そうして造られた空間の位置に友希那が収まっている。彼と違い、胸元までプールに入った友希那は彼の太腿に両手をそれぞれ置き、眼前にまで伸びる巨大なものを見据えていた。彼は勃起していた。股間から根強く上向く肉棒は友希那を手招きするかのようにぶるぶると震えており、友希那はじっとその先端をみつめている。その目は穏やかだった。このプールの水面のように、どんな波風も立たずにただ均一に澄んでいる。純真そうな瞳がただ静かに亀頭を捕えており、間もなく友希那は首を垂らしていった。
「んっ……」
おとなしい様子で両瞼を閉じ、友希那は彼の亀頭へ唇を突き出した。丁寧に閉じられた肉厚は鈴口を覆うように触れた後、すぐにぶっちゅりとひしゃげた。
男として最も敏感な箇所で友希那の柔らかさを体験する傍ら、彼はすっかり弛緩した友希那の目を閉じた容姿を観察できた。年齢にしては幼さが残る、というか無害そうな童顔は目を閉じたことで完全に無防備になりつつ、唇ひとつで彼のことを射止めている。何か歌姫として、新しい禁断の契約の成立に臨んでいるようなそんな強かさと健気さを含んだ様子だった。
友希那は彼の亀頭に吸い付いたまま唇を変形させた。唐突に瞼を開き、彼のことをじっとり眺めつつ、その頬肉だけが前方向に突き出てくる。窄められたことで肌色の上に筋張った様子が浮かび上がり、唇が亀頭の上に乗り上げてそのまま果実は飲み込まれてしまった。
「んぶっ……」
彼は何か優しいぬるいものでさらに保護されるような心地を得た。それは友希那の舌だった。亀頭に唇で食いついた友希那はそこからさらに舌を出し、竿の裏側の部分を撫でるように舐めていた。
桃色の舌がにゅるにゅると、亀頭の上で蠢き続けている。だがそんな愛撫もすぐに終わった。ただ優しく触れていた態度が一変、友希那は唐突に頬をへこませながら、亀頭から一竿の根本まで、その一片を一気に咥え込んだ。
「うああっ……」
その転調のような変化の様子を不意打ちで受けて、彼は思わず声を上げた。友希那はというと、動揺する彼のその股間に付属したまま、視線だけは真っ直ぐに彼に伸びている。フスーッ、と鼻息が少し漏れつつ、それほど間を置かずに頭部全体を使った奉仕がはじまった。
彼は、もちろんそんな友希那のことをただ一方的に感じ取るだけだった。友希那は湿った両手で男体の腰を掴み、気前よく頭を振るう。まず吸い付きが凄まじいし、頬肉はほかほかしていて居心地がいい。時おり顔を上げて亀頭だけを舐るのだが、その時の舌の揺らし方については、流石に歌姫と褒めたくなる。
もっとも、こうした乱れた行為の最中に友希那に歌姫だとか、音楽的な話題を投げたところで白けさせるだけ、それどころか、不愉快だと怒られてしまう可能性もあるので、そこは自重する。
とはいえあの孤高の歌姫が、自ら進んで男のものを舐めしゃぶる様子を前にして、友希那のその身分を思わない男はありえない。
友希那だって心の底の部分では、今のように激しいを音を弾ませながら何度も頭を上下させ、必死に竿を頬張る最中に音楽について考えるはずで、だがそれでも行為を中断しない。この歌姫は、歌姫という身分を我が物にしつつ、今はそこに付随するあらゆる品格を捨てて、ただ男を啜っている。
なりふり構わず、ただそれだけに没頭した様子で動き続ける友希那のことを彼は眺めていた。
それは絶景だった。あの友希那が、人より頭を低くして尽くしてくれている。さらに彼の精神的な部分をくすぐるのは、その友希那が今まさに酷使している部位が、喉元であるということだった。
歌手として、喉元には技術が凝縮されているといってもいい。いいや技術だけではない。友希那が生まれて、生きて、歌に触れて、歌姫にまで至るまでの、その長い濃密な歴史、そのものが喉元に結集している。人の核は脳だが歌姫の核は喉であり、そうしたものを友希那が大切にしないわけがない。
「んぶっ、んっ、んんぐっ、んぶっ……」
獰猛な肺の運動によって彼は絶え間なく友希那に吸引され続けていた。堅苦しい竿の全ての部分を友希那は堂々と頬張り、頬肉から喉肉にかけて、そこを一本の管のように駆使している。あの歌姫から、こんなものを受けて身も心も満足しない男はない。次第にその動きは活発に盛り上がってゆき、彼もまたそうした友希那に盛り上げられて、睾丸の部分で重たいものが用意される。もはや、彼の裁量で我慢をするだとか堪えるという段階ではなかった。竿に唇でしがみつき、ずるずると唾液の音を口で響かせる友希那を前に何か耐え抜くことはできず、彼は用意された極楽へ昇っていった。
淫らなものを打ち上げた時、友希那は彼のものを根本まで頬張っていた。
ちょうど、口元や鼻先の部分に彼の陰毛が触れており、友希那はそれでも身体を停止させていた。理由はもちろんひとつで、今、喉奥にて雄らしく爆ぜてゆく彼のことを、しっとりとした区画の中で完全に受け止めようと友希那は努めている。いくつか、鋭い鼻息を漏らしてなお彼のことをみつめる友希那の視線は真剣勝負に至る武士のようで、彼は見守られながら、何度も何度も耽溺することとなった。
それからいくらか友希那に向かって打ち上げた後、友希那のほうから彼から離れた。ここでも必要以上に唾液の音を引きずり、できるだけ時間をかけて友希那は頭部を後退させた。
友希那の口が完全に離れると、竿は従来の大きさから少し縮み、柔い様相で下向きに垂れていた。
これで、歌姫による口と喉を使った奉仕が終わる。彼は我が身に降りかかる快感と、その快感の後味としてじわじわ香る気怠さについて口角を甘く揺らし、友希那に感謝しなければいけない、と気を持ち直して下部を視た。
友希那は自主的にプールから上がり、それでも泳いでいるみたいになめらかな所作で彼の右隣に座った。
「友希那……?」
何をするのか、と友希那の顔を視ていると彼は違和感に気付いた。友希那は口を開いていない。というより、何か執拗に唇を引き締め、絶対に口を開かないと力んでいるように視えた。真剣な眼差しで彼を視る歌姫は、それから彼の肩に両手を添えて身体を寄越すと、耳元に口を寄せて動き出した。
それはざらついた音だった。馴染みのない音だったが、どんな音なのか検討がつかないわけではなかった。実際、彼の視界のすぐ近しいところで友希那はただ頬の部分を揺らし、すると口の奥から音がする。つまり、友希那は今しがた彼から搾り取った精液と、それから自分の唾液を口の中で高速で混ぜ合わせているということだった。
連続で揉み込まれることで細かい音が鳴り響いている。口腔内部のあちこちに精液と唾液が素早く流れ、その度によく練り上げられている。歯列や歯茎に激突したり、舌先でさらに廻されることで、より均一に絡み合うだけではなく、精液が口のあらゆる箇所に触れ渡る。まるで精液で口を濯いでいるかのように忙しなく友希那の頬は動き、それからゴックンと力強い音が響いた。
それは確かに友希那の喉が蠕動し、口の中の液体を飲み下す際の音だった。
完璧に混ぜ合わせた後、その強烈なものを厭わずに嚥下する。これこそが歌姫――友希那の本当の奉仕であり、今、つるりと喉を通過する彼の精液はきっと、これからの友希那の音楽的な歴史そのものに、べっとりねっとりこびり付く。
彼の自宅の浴室は広々としていた。
彼と友希那が二人で利用してもまだ余裕がある。特に浴槽は軽く泳ぐことができる程度で、床は白色で壁は黒く、シャワーや蛇口などの銀色が、天井に灯る橙色の光に当てられて耀いていた。
そうした中で現在、彼も友希那も全裸だった。何かタオルを一枚腰に羽織る、などということはなく、それから二人はまだ浴槽に入っていなかった。
シャワーの音のことも忘れて彼は直立のまま不動だった。
眼前に友希那がある。床に敷いた専用の空色のマットの上に腰を下ろす友希那は、たたみ込んだ両足を左右にそれぞれ狭く揃えたいわゆる『女の子座り』のまま身体を前の少し伸ばしている。彼はというと、そういう友希那の頭部を両腕で包み込み、必死に前後の揺らしていた。友希那の口は今、窄められている。歌姫たる友希那の口がこんな妙な形を示す瞬間とは彼のイチモツを咥え込んでいる場合のみで、今もその通りだった。
会話はなかった。ただ、薄いシャワーの音にまぎれて彼の呻き声が響き、友希那の呼吸の声が溶けてゆく。彼は腕の動きを一定のまま、遅くすることも激しくすることもなかった。友希那は無表情で、ただ目を開いて彼のことを仰いでいるようだった。彼の竿は、そうした友希那の喉の部分にまでまた伸び込んで何度も頬肉でしごかれている。ついさっき、プールでの射精を忘れたようにまたまた勃起した硬いものを友希那はもう一度受け入れ、彼は淡々と友希那の頭部を揺らしていた。それはほとんど自慰の際燈変わらない様子で、間もなく彼はそれを報告することもなく友希那の喉で漏らしていった。
腰を突き出し、その深い位置に友希那の頭部を埋めたまま彼は低い吐息を漏らした。友希那はというと、そうした彼を仰ぎながら表情に変化はなく、ただ喉に流れ込む粘液をさっさと飲み下していた。陰毛が鼻先にまでもりもりと触れることさえ厭わない。そういう催眠にでも堕ちたかのように友希那は冷静に彼を受け止め、彼もまた友希那の喉に、いいや胃袋そのものに自らの精を流し込んでいった。
シャワーの音が薄いまま続いている。水滴が二人の全身を包んでおり、特に、友希那の湿った髪の束が首筋にべっとり貼り付いた様子、それが美しかった。
シャワーを終えると十二時を過ぎていた。
身体を清潔にした二人はリビングのソファーでくつろいだ。彼は新しいパンツのみを着衣し、友希那は水着姿だった。
空は青々としており、雲ひとつなかった。窓から差し込む太陽の光は、さらに燦然と輝いており、リビング室内には、穏やかな熱気が流れ込んでいる。
「二回も、出しちゃった」
彼は呟いた。ソファーに背もたれを落としており、その右手側に友希那がある。座っているのだが、男体に寄り添って身体を密着させた体勢で、肌と肌が触れ合っていた。
「出し過ぎよ……」
友希那はざらついた質感で指摘した。つい先ほど、プールでの射精に続くシャワー途中での射精についてだった。
「友希那の口が魅力的だから」
と彼がにやけて言及すると、友希那は冷静に鼻先を彼の伸ばす。
「そう」
と囁くだけだった。彼はおもむろに友希那に腕を廻し、尻や腹を撫でた。
「そういえば、水着は大丈夫? 濡れてない?」
彼は友希那を撫でながら、その素肌に着衣された水着を視た。
「ドライヤーで乾かしたのだから、問題ないはずよ」
友希那もまた自分の身体を眺め、水着を確認した。
「そっか、ならよかった」
今、友希那が着衣している水着は、今日この自宅に友希那が訪れた際から着ていたものと同じものだった。プールにて濡れたが、シャワー後にドライヤーを使って急速に乾燥させ、また着衣しているということだった。
「……シャワーを終えても水着姿というのは、少し不思議な感覚だわ」
家の中とはいえ、愛する友希那を水着姿で強制し、過ごしてもらう。その絵面は少しのおかしさの他に、いかにも不埒といった雰囲気だった。
友希那野水着姿を眺めていると、ふと、友希那が口を閉じて喉元を酷使した。
「んっ、ふう……」
「どうしたの?」
彼は友希那の顔を覗き込んだ。小さく口を開き、息を漏らす友希那は少しぎこちなく、ソファーの上で縮んでいるように視えた。
「い、いえ……。その、少し、お腹が」
「お腹?」
彼が聞き返すと、友希那はなぜか視線を逸らして頬を赤くした。
「その、たぷたぷしているわ」
「た、たぷたぷ?」
「ええ、そうよ。あなたが、私の口の中で二度も、あんなに濃厚に射精するからよ」
彼から視線を逸らし、高揚する頬を、口を隠すように右手で覆って友希那は説明した。冷静だが細々とした声だった。
苦しいのなら、それなら吐き出してしまえばよかったものを、だがこの友希那は律儀に飲んでくれた。
「お腹がたぷたぷしていて、少し苦しいわ……」
それにしても、あの友希那の落ち着いた声色で、たぷたぷなどと呟くとは。
そのちぐはぐとした様子に彼は引っかかり、何か笑いが持ち上がってくる。
「た、たぷたぷ……」
「な、何よ……」
「いや、なんか」彼は肩を揺らし、にんまりと友希那を視た。「たぷたぷって、友希那からそんな単語が出てくるなんて」
「……あなた、私のことをなんだと思っているの?」
彼がおどけながら指摘すると、対する友希那は鋭い目つきで彼を視た。
「たぷたぷくらい、普通に使うわよ」
「友希那が、たぷたぷって、たぷたぷ……」
「あなたっ……」
「たぷたぷ」
「な、やめなさい」
赤面したまま声を荒げる友希那の横で、彼はハハハと笑い出した。「ちょっと、笑いすぎよ」と友希那は冷静で、彼はすぐににやけながら友希那を視た。
「じゃあさ、猫は?」
「ね、猫?」
「猫は、猫の身体は、どんな感じ?」
「どんな、って……」
彼が訊ねると友希那は真面目に数秒思考した。水着姿のまま、ポニーテールのまま、首を傾げて悩んでから、また彼を視た。
「もふもふ、かしら」
「じゃあゼリーは?」
「ぷるぷる……」
「オクラは?」
「ねばねば」
「そっか、ふふ……」
「……何が面白いのか、よくわからないわ」
にたにたと揺れる彼のすぐ横で、友希那は平然とした目つきのままだった。
昼食を終えた後、黒色のボクサーパンツのみを履いた彼は、ソファーに座ってじいっと待っていた。
リビング室内は常温に仕上がっており、窓から差す陽光もちょうどいい強さだった。無音で、飲み物の用意はなく、ただ彼は座り込んで待っていた。
待つ時間もまた愛おしいものだった。この時間が長ければ、その後にやってくる喜びへの期待感が持ち上がる。実際、着席状態にある彼の股間はすでに盛りを得ており、穏やかに脱力する彼に反抗するかのように上向いている。パンツを押し上げてテントを張り、そのはちきれんばかりの肉棒が衣類の下でなお強張っていた。
それもまた彼の期待感の象徴だった。男として、何か気持ちの部分が急いてしまうほど熱量を宿している。今か、今かと待ちわびているとやがて物音が響き、彼は寝室へ続く扉の方向を淀みなく視た。
「待たせたわね」
爽やかな声色と共に友希那は入室した。すぐに扉を後ろ手に閉じ、彼の座るソファーに歩いていった。
「友希那っ……」
彼もまた立ち上がって友希那を受け入れた。両手を持ち出していると、そこに友希那も両手を持ち上げる。二人は左右それぞれ、指の間に指を流し込むしっとりとしたやり方で手を繋ぎ、にぎにぎと手つきを揺らし続ける。
「予定は? よかったの?」
と彼が囁く。手元を動かしており、友希那も同様だった。
「問題ないわ
だが友希那は、手元でしつこいほどに指と指を絡め合い、手のひら同士がこすれ合っているというのに冷静な顔だった。
「確かにバンド練習の途中だったけれど、あなたの命令が最優先だもの」
淀みなく呟く友希那のことを愛おしく、彼はその身体に視線を配った。男の脂を含んだ視線など、女にとってわかりやすいのか、彼が友希那の身体を見物すると友希那はすぐに頬を赤らめた。
「いいね、水着」
彼はそんな友希那の様子そのものを愛でながら呟いた。右手と左手、指を揺らして強く友希那を握ると、歌姫は冷静に指先で応えてくれる。
今、友希那はプールか、海水浴にでも赴くような水着姿にある。おとなしい黒色を基調としてはいるものの、薔薇の意匠がところどころに散りばめられている装いだった。
「わざわざ、用意してくれたんだよね?」
彼は友希那の様子をじろじろ眺めながら呟いた。両手を揺らし、指先をくねくねと、友希那のことをさすっていた。
「ええ、そうよ」
と友希那は冷静に続けた。彼に応えるように指を動かしているが、目つきはおとなしかった。
「あなたが、制服や私服より水着でしたいというから、一度スタジオから家に帰って、水着を用意してここに着たの」
「……大変だったよね?」
「ええ、大変だったわ」
ちらりと表情を窺う彼に対し友希那はまた淡々としている。彼は、そんな友希那に対しわざとらしく眉を歪ませてみせた。
「なんだか、なんだか申し訳ないな……」
「申し訳ない?」
復唱する友希那に彼はコクンと頷いた。すると友希那は、「それは、どういう意味かしら」と呟いた。両手で彼のことを握りつつ、真面目な顔、というか純真な瞳だった。
彼は少し呼吸を置き、友希那のその汚れのない様子をみつめて口を開いた。
「だって、友希那にも生活があるはずでしょ?」
「ええ、それは当然だけれど……」
「そういうものを邪魔してまで、こんな……」
「それは、おかしいわね」
友希那の声色に誘われて、彼は逸らしていた視線を彼女に戻した。
今、両手で繋がっている最中の歌姫は、真剣な様子で首を少し傾げ、彼のことを視ていた。
「私はあなた専用のデリヘルなのよ? あなたに呼ばれたら、練習中であれ、ミーティング中であれ、収録中も、ライブ本番であっても、全て無視して駆け付ける。そしてあなたにこの身体を、いいえ、心の部分まで貸し出す。あなたは満足するまで、私の全てを使っていい」
淀みなく呟いて、少し間を置いた後に友希那はまた彼を射貫いた。
「――そんな当たり前の関係なのに、どうしてそのあなたが、私を呼び出すことに後ろめたさを感じるのかしら」
「ああ、そうだった……」
彼はその穏やかな容姿に向かって思い直した。
そんな意識を増長させるように、友希那がさらに彼の耳元に寄り、なお真剣に吐息を揺らす。手と手は繋がったままで、友希那は口を開いた。
「私はあなたの淫猥な催眠によって自由を奪われた、そんなことができるのだから、自信を持って」
その叱咤激励の温かい声に、彼はまたコクンと頷いた。
「……それで、私は何をすればいいのかしら」
次に友希那はまた真面目な様子で彼に訊ね。彼は友希那から手を離し、今度は彼女に尻に、背に腕を巡らせた。懐の位置に友希那が流れ込んできて、その熱気を全身で感じる。
彼は友希那の細い身体を、細いから、男の手で支えてやるように絡ませる。友希那もまた身体を軽く逸らしつつ、彼のことを下から窺っていた。
「今の私の主はあなたなのだから、私に命令をしてちょうだい」
それはまさしく、彼のためだけの専用催眠デリヘル嫁・湊友希那の声色だった。
彼が考案した『催眠デリヘルプレイ』とはシチュエーションプレイのことだった。
男性側が女性側に「君は僕の専属デリヘルだ」という独自の催眠を仕掛けたことで、女性側は自らが、本当に相手にとってのデリヘルであると信じ込み、男性側ののどんな命令にも従う。というか催眠状態なので、命令について嫌だとか拒否というものはなく、むしろ女性側は快く、自らの生活よりも命令を優先する。命令とはもちろん性的な奉仕のことで、女性側は身も心もデリヘルと化して従事する。
もちろん全ては『そういう演技』なので、友希那が何か自らの活動を捨てているだとか、彼が詳細不明の催眠術を体得しているという事実はない。『催眠にかかったフリ』、『催眠をかけたフリ』、『催眠を介して命令をするフリ』、『その命令に無条件で従うフリ』を互いに真剣な演技の中で繰り出すことで、非現実的な状況がこのリビング内にのみ実現しているというわけだった。
「あなたが気持ちよく射精できること、それが今、催眠を受けた私の使命なのよ」
こういう催し事をする時、提案するのはいつでも彼で、友希那が彼の企画を聞いた時、ほとんど必ず、この世のものではないものを前にしたような呆れた顔をするのが常だった。
だが結局、はじまってしまえば、本気で取り組むのは友希那のほう。彼に、その催し事が嘘ではなく、事実の関係なのではないかと錯覚させるほど、友希那は熱心に、男の操り人形になってくれる。
「じゃあ――」
次に彼が繰り出した命令について、やはり友希那はなんの抵抗もない様子で答えてくれる。
「顔を差し出せばいいのね」
わかったわ、とひと言置き、友希那は彼からするりと離れた。床に対し両膝を降ろし、背筋は軽く反るほどピンと伸ばしたまま、顎先が彼の顔の方向に伸び、両手が添えられる。
「このままじいっとしているから、自由に使って」
上向いた友希那の顔面が、そのまま直立する彼に向かって披露されている。ちょうど股間の位置で、彼はそそくさとパンツを脱いだ。すると、内側からこんもりと膨れた陰茎が飛び出し、友希那のすぐ眼前に打ち上げられる。歪ながらも、棍棒のように前方向に突出した肉塊は友希那の顔に影を造り、彼は自らのものを握り締めた。友希那の表情は変わりなかった。肉棒を突き付けられて恐怖することもなく、何か喜悦に浸ることもない。真面目な様子で彼の前に佇み、ただせり出てくるイチモツを眺め上げているだけだった。
その静謐さこそが、今この状況の背徳感をより強調させる。
彼は強張る腰周りを堪えつつ、それでも急く右手をついに上下に動かしはじめた。性器は熱く、苦しいほど硬直している。友希那の眼前で、披露するようにしごき上げるとすぐに先端から透明な粘液――カウパー汁がとろとろと溢れ、膨らんだ亀頭を濡らしてゆく。彼は一度右手を止め、竿の根本を握るとその先端を友希那の頬に押し当てた。
「んっ……」
硬い亀頭が柔らかい頬肉を潰しながら、友希那に向かって存在感を主張する。またこういう瞬間であっても、友希那の顔つきに何か変化はなく、彼の唐突な行動を完全に受け止めている。冷静な様子が亀頭という汚物によって歪み、なめらかな肌色の上に香ばしい雄の粘液が塗りたくられてゆく。
「すごい、友希那の顔、汚してるっ……!」
ただ先端から飛び出たものが垂れるだけでなく、垂らしたものを彼は、竿を筆だと連想して友希那に対しよく塗り込んでゆく。
てらてらとした粘液が肌色の上でよく伸び、まずは左頬がしっとりと保湿され、次は右頬、竿をくいと動かし、カウパー汁で濡れた亀頭をこすり付けるようにして頬肉を歪ますと、友希那の小さな頬はすぐに光沢を帯びることとなった。
「友希那、顔面に我慢汁塗りたくられてるけど、どんな感じ?」
竿を少し持ち上げ、口を動かせる余裕を造って彼は訊ねた。
「どう、といわれても……」
友希那は真っ直ぐに彼をみつめていた。その頬は左右どちらもねっとりと濡れており、垂れた粘液が少し口元にまで伸びていた。
「顔全体が、ぬるぬるしていて、少しにおうわ」
「におうって、くさいってこと?」
「そうね……」
と友希那は少し視線を外し、間もなくスンスンと聞こえてくる。鼻先を意識しているらしく、さらに数秒して静謐に口が開かれた。
薄く桃色に彩られた口先が、丁寧な所作で男のイチモツについて言及する。
「においは、癖になるにおいよ。……確かに少しくさいけれど、悪臭というほどではないと思うわ」
好みの女を呼び出すだけでなく、従わせ、女の武器とも呼べる顔面を雄くさく汚しておく。
そのマーキングこそ、彼の自由がどこまで通用するのかの証明であり、友希那はまた平然としている。
この顔面を完全に、彼の性欲のための受け皿とし、彼は亀頭の部分で唇に触れてみる。そこは頬よりさらに弾力のある肉で、亀頭は踏み荒らすようにぶっちゅりと進軍する。彼は腰そのものを前後に揺らしていった。この小顔に触れて反り返る竿がさらにこすれ、特に竿の裏側の部分が友希那の柔肉に撫でられると快感が通う。今、友希那は物理的な意味で完全に彼の竿の下部にある。
「友希那の顔面、完全におちんちんの置き場になってるけど、それはいいの?」
「構わないわ」
友希那はそれだけは素早く答えた。なんの抵抗も躊躇もない返事だった。
「何度もいうようだけれど、私の所有権はあなたにあるのだから、あなたがそうしてほしいのなら、おちんちん置き場にでもなんにでも全力でなってみせるわ」
実に頼もしい奴隷精神を友希那は口にする。彼は満足ににやけつつ、この甘美な状況についてため息を漏らす。
「友希那の顔って、もうそれだけでヌけるんだよね」
と彼が呟くと、友希那は少し低く、「ぬける……」と囁いて彼を視た。
「それは、私の顔でオナニーをしているという意味かしら」
「うん。たくさんしてる」
「そう……」
彼もまた素直に返事を口にしていた。
催眠デリヘルごっこは全てが嘘のシチュエーションだが、こればかりは真実だった。
彼から視て、どうにも友希那の顔面には、性的に惑わされる作用がある。なめらかな肌、きりっと冴える目つき、小さいものの潤いを持つ唇。眺めていると綺麗だなと思うと同時に、これを性的に消費してやらなければならないという強い欲求が浮かび上がる。
「つまりあなたは今、普段からオカズにしている顔面を、おちんちん置きにしているのね」
友希那はなおも平然と、自らの状況について口ずさんむ。
彼は、最初から変わらぬまま、両膝を揃え、背筋を反らして顔面を献上する友希那のことを視ていた。
こうして竿を介して、その向こう側にあの友希那のことを眺めてみると、流石にこの子を支配したのだと実感するのだが、実のところそうではない。
今、彼が男として盛り上がっているのは何より、誰より、友希那の影響でしかない。
結局は彼は性的なところで友希那に敵わない。支配しているといえばそれは友希那のほうで、また彼としても、それでいい。今、脳の部分も睾丸の部分も、もちろん竿についても全て友希那で埋め尽くされている。
彼は腰を震わせた。友希那の鼻筋や頬の膨らみといった、なだらかな顔面の起伏の上で、竿の肉付きがこすれ合っている。さらに出っ張った箇所を下から受け止めてもらっているという状況が、彼の中に卑猥な安心感を芽吹かせる。
「友希那……」
顔面を蹂躙する喜びが、そのまま快感として凝縮し、もう我慢できなくなる。
「いいわよ」
彼の変化について、きっと友希那はその顔面で感じ取った。
顔に置かれた陰茎の、ちょっと震えで男の機嫌を察知し、歌姫は快く口を開く。
「このまま、顔に出していいわよ」
と冷静に宣言し、友希那はそっと息を整える。
「ほら、目を閉じていてあげるから。あなたの精液、私に感じさせてっ……!」
「友希那っ……!」
愛する者の名を熱烈に叫び、彼の陰茎は震えていった。突き抜けて厳しい欲求が、今まさに粘ついたものとして具現化している。駆け上がり、高ぶり、ただ友希那へ捧げる白いものを、彼はその場にぶちまけていった。
二度、三度と繰り返し、友希那に覚え込ませるかのように彼は何度も射精を行った。額に、頬に、鼻筋に唇に濁ったものがとろとろと溢れ、顔面の形に添って自由に垂れてゆく。
両目をしかと閉じた友希那は、その白濁を顔面で受け止めていた。
まさしく、受け皿として実力を発揮している。鈴口から垂れ出る粘液は広がりながら友希那を覆い、すぐ異質なにおいが立ち込める。
雄を受け止めた友希那はそれでも不動の顔つきだった。目を閉じ、射精がどれだけ獰猛に暴れても受け身だった。まるで、彼が三回の射精をすることさえ最初から知っていたみたいに平然としているのだが、その美形な様子はねっとりと白く汚れてしまっていた。
「あなたの精液、顔面全体に飛び散っているのがわかるわ」
彼が友希那から少し離れた後、友希那は目を開けぬまま、スンスンと鼻梁を震わせた。
「重たくて、においも、強烈ね……」
友希那は、それが女性の真の喜びだといわんばかりに、満足げな顔をしていた。
直立不動の体勢を取る彼はついに全裸だった。
黒色のボクサーパンツを完全に脱ぎ、ただひとつの衣類も身体に纏っていなかった。そのため比較的高い身長を誇る肉体の、その少し焦げた肌色があらゆる角度から認めることができ、若干肥えた腹、けむくじゃらというほどではないが栄えているすね毛に胸毛、二つの乳首に股間廻りもよく視えた。
すでに十五時に突入しており、リビング室内にはぬるい湿度が漂いはじめている。もちろん彼と、それから友希那の二人きりであり、また情事が繰り広げられている。
「さっきもいったけれど、私はあなたの都合のいデリヘルオナホ妻なのよ」
友希那の冷静な声色が、すぐ近くで続いた。
「あなたの性的な欲求を解消すること、それが今の私の生きる意味なのだから、あなたがしたいこと、おちんちんの赴くままに私に命令していいの。あなたは、そういう立場に選ばれているのだから」
徹底的に男を褒め、媚び、その優越感を高ぶらせる発言だった。
今、勃起した陰茎を右から片手で握る友希那は、もちろん水着姿だった。
しかし友希那は彼のように棒立ちというわけではなく、立ち尽くす彼に寄りかかるような体勢だった。彼の背を左腕で支えつつ、密着できる限界のところまで友希那は近づいている。彼の、絶妙に平坦ではない人間的な肉付きに合わせて友希那は腰を反り上げたり、背中を倒して胸を寄せている。彼もまた友希那の細い身体が、より自分の身体の表面に触れるように右腕を廻し、背を包みながら尻を揉んでいた。友希那の口から漏れる吐息が全て彼の胸板に触れつつ、その視線は、右手は彼の竿に触れていた。素手の中に竿を囲い込んで触れるだけではなく、よく目を凝らしてその様相を眺めている。
これまであらゆる形で友希那の中に入り込んだイチモツを、友希那は今一度、自身の手で触れて形をしかと確かめる。
「破廉恥な形だわ……」
最初に友希那がこぼした声はそれだった。左頬がほとんと彼の胸板に触れつつ、右手はなんの躊躇もないまま股間に伸びている。手のひらの中に竿が匿われており、友希那は触診を続けていた。
「竿の部分は、ぶよぶよしているのか、硬いのか、よくわからない不思議な感触ね……」
それから友希那は唐突に彼の根本を少し強く握った。
「根本を握り込まれるのが、いいのよね?」友希那は彼の顔に視線を上げて口を開いた。「確か、捕まった感覚がする、だったかしら」
「よく覚えてるね」
「あなたがいっていたことは、ひと通り覚えているわ」
平然と答える友希那だったが、すぐに口元が逸らされ、彼女だもの……、と呟いた。
それから友希那の触診は続いた。
「妙にくぼんでいる箇所があって、それから先端部分はむしろ、よく目立つように膨らんでいて……」
彼の股間をしっかり眺めながら友希那は慎重に指先を流した。いわゆる『カリ首』と呼ばれる箇所を少し撫で、そのすぐ上の『亀頭』部分を包み込んでまた顔を上げた。
それは公園でみつけた色鮮やかな花を摘み取り、父親に披露する娘のそれだった。
「ここ、この先端を包みこまれるのも、気持ちいいのよね?」
「逃げられない気がして、最高……」
彼は腰部分をのけ反らせながら呻いた。弱った態度に満足したのか友希那は瞳に勝ち気な気配を滾らせてまた視線を戻した。
「こんなに立派に大きくて、棍棒みたいな見ためだけれど、おちんちんって、意外に弱点が多いのね」
「そんなに簡単じゃない」
彼は指摘するように囁いていた。
「……それは、どういう意味かしら」
「友希那が、たくさん触ってくれるから。だから友希那は、僕のおちんちんのこと、よく知ってる」
「……あなたの弱点、というか、あなたが気持ちよくなれる場所を、私はすでに網羅している。そんなところかしら?」
彼の証言を元に友希那はさらに冷静に分析し、それでもう触診は終わった。根本を握った時のように右手を筒肉の形、陰茎の長さと太さに寄り添いつつ、準備が完了すると小刻みな前後運動が開始された。
「それじゃあ、このおちんちん、私が一生握ってしごいてあげるわ」
ニィ……、と口角を持ち上げた友希那は大胆なことを口にした。だがその自信のある様子については、むしろ普段の友希那らしいとも思えた。
そのまま友希那の顎先は彼に向かっていた。彼はその表情を胸板のすぐ近しい位置で眺めていた。友希那は背が低い。対する彼は、立ったまま友希那を覆うことができるほど高身長なのだが、今は逆に友希那が、彼の貴重な部分を完璧に抱擁して下から得意げに責めている。
「あら?」友希那が右手を猛烈に動かしたまま彼の顔を覗き込んだ。「あなた、もう限界なの?」
「うん、ちょっと……」
「確か、『焦らしプレイ』だったかしら。さっき、あちこち触ったのがいい助走になったみたいね」
などと冷静に分析する友希那だったが、男体に貼り付いたまま、その右手の動きは容赦することを知らなかった。
柔らかい右手は彼の竿をぎりぎり圧迫する程度に締め付けられており、とろとろと溢れるカウパー汁だけが潤滑油として機能している。上げ下げ、上げ下げ、反り返る竿を撫でて、撫で下ろすように動く度に重たい湿り気が音として演出され、彼は自らの筋肉が強張ることを意識していた。
「降参するの?」
「こ、降参?」
唐突にそのような単語を持ち出す友希那のことを彼は眺めた。
「そうよ、降参」
友希那は冷静だった。だが彼は、その瞳の光の中に粘性を帯びる執念が浮かんでいいることを視ていた。「するの? しないの?」
「す、するっ!」
彼は思わず口を尖らせた。叫んでいた。雄として、それは心の底から漏れ出た声だった。
「降参、負け、僕の負けっ……」
ただ相手を負かすだけではない、相手――彼に負けだと思い込ませ、その事実をその口からはっきり伝えてもらう。そこまでを強要する友希那の女王的な魅力に敵うわけもなく、別に勝ちたいとも思わず、彼は自らのシモの権利をこの小さな主に譲渡するのだった。
「いいわよ、それじゃあ最後まで、あなたの面倒をみてあげる」
すっかり燃え上がった友希那はそのまま顎先を彼の顔に向けたまま、唇を胸板に寄せた。向かう脇は彼の乳首だった。今、すっかり全裸であるため乳首についても彼のものは露出しており、友希那はなんの躊躇も合図もなく乳首に吸い付いた。具合よく開かれた唇が乳輪を隠すようにひしゃげるのだが、友希那は意気揚々と啜った。余分な頬肉が乳首に向かって吸い付いてゆき、薄桃色の唇にいくつかシワが浮かんだ。
「んふ……」
視線で合図をすると同時に右手の向きが変わった。今まで、竿を上から包むようなやり方だったのが、竿を下から掴み取るようなやり方に変化し、動くと同時に彼は乳首に細かい刺激を受けた。
それにしても、男だというのに、相手の女性に素直に乳首を明け渡すなんて。
男として、その部分で快感を得る経験がないだけに、刺激され続けると少し不安になる。だが友希那は、彼の中のその意識を感じ取ったのか、すかさず左腕を男体の背に廻し、腰の部分を捕らえる。稀に撫でてくれるようなこともあって、彼は安心して友希那からの乳首舐めを受けることとなる。
舌はさらに執拗な動きをみせ、彼はその都度身体をよじらせる。
これでは彼のほうが女性になってしまったように思え、流石に恥ずかしさが込み上げてくるのだが、この鋭い快感に抗えない。
右の乳首に吸い付いた友希那はそれから舌先で乳首を弾くように愛撫していた。
「ううっ……!」
それは耐えることの難しい刺激だった。何か知らない弱点を発見され、一方的に突かれているような心地だった。だが友希那の片腕はすでに彼の背を抱き締め、彼が少しでも動いたらその場に押し留めるよう機能している。そのため彼は、友希那の腕の中でただびくびく震えながら乳首と股間の二つの刺激を受けることとなった。腰が勝手に浮き立ち、それでも友希那の身体が密着されたまま奉仕は続いた。右もだが、左の乳首も同時にきゅっと、勃起のように中心に狭まって硬くなっている。右の乳首に関しては、そうした強張ったものを友希那が丁寧に舌で包み、唾液と共に啜って撫でてくれている。右頬がほとんど男体の上でひしゃげている中、友希那はそれでも彼のことを仰ぎ視ており、彼はその真剣な眼差しに射貫かれながらとろけていった。
「イくっ……」
彼が射精をすると友希那の手つきは少し変化した。
まるで、最初から彼が絶頂した時の手順を用意していたみたいに完璧な流れだった。舌先での細かい刺激を止め、ただ唇で緩く吸い続けるだけになった。射精と手の動きを連動させ、射精の勢いを手伝った。全身から股間へ漲る重たい衝動が一気に解消される快感は、それもまた重たい波として全身の皮膚を内側から舐め上げており、少しの精液も漏れなくなった頃、彼は流石に体力的な消耗を意識した。
「……友希那?」
彼の胸板から顔を上げ、竿からも撤退した友希那だったが、その右手をみつめて口を閉じていた。
「………」
次の瞬間、友希那は自らの右手の指先を口に含んだ。右手というと彼のことを相手してくれていた触手のことで、彼が果てた後にはもちろん精液が付着している。彼としては、三日ぶりの射精かのように猛烈にぶちまけたつもりで、巻き込まれた右手の汚れは普通なら拭き取るべきものだった。だが友希那は、その指先を濡らす白濁のものたちを厭わずに舐め取り、その味わいについて舌先を冴え渡らせている様子だった。
「やっぱり、濃厚ね……」
と口にしつつ、それで満足することなく友希那は精液をまだ舐めた。指先だけではなく、手のひらや手首にまで垂れたものたちに対し舌先を伸ばし、掬い取るみたいに回収して咀嚼し、ゴクンという何かみせつめるような嚥下の音がした後、友希那はすかさず彼の目の前でしゃがみ込んだ。
「ゆ、友希那……」
「どうしたの?」
立ち尽くす彼を前に友希那は冷静だった。ほとんど正座のように両足をたたんで両膝を床に落とし、冷静な目つきで彼を仰ぎながらその顎先が竿に向かってゆく。今、すっきりと排泄し終えた彼のものは下向きに少し萎みながら縮んでいるのだが、友希那はそうしたふにゃふにゃとしたものを下から頬張った。
掃除だった。
あっという間に舐め尽くし、それでも足りない。そのために友希那はもうわざわざしゃがみこんだりして、彼の残りの精液を啜り取る。
「んぶ……」
それは素晴らしいほど積極的な、水着の友希那だった。
「待って……」
それはか細く弱弱しい声だった。
「まだ、駄目……」
友希那の弱った声は続いた。その溶けた語尾の後には必ず吐息が漏れた。それは自らの身体の内側で強張る何かについて、必死に耐え凌ぐような引きつった呼吸だった。
「駄目、駄目なのっ……」
友希那はそうして喉元を絞り、窮屈な感覚に耐えているようだった。しかしだからといって何か解消されることなどなかった。頬が赤く高揚し、女体についても狭く研ぎ澄まされている。ただ股間の部分のみが湿っており、それから友希那は彼を視た。
「動かないで……」
ヨガ用マットに仰向けにある彼に対し騎乗し、情事に至る友希那はやはり細い声で懇願した。
対する彼はどこか冷静にその様子を視ていた。
「友希那、僕、動いてないよ」
「嘘よ、だって……」
友希那は大きく呼吸を突き飛ばし、力尽きるみたいに彼の腹部に手を落とした。その時、あのポニーテールの様子からヘアゴムを外し、よく視るストレートヘアに変わった友希那の毛並みが、首元を滑るように自由に垂れた。
「あなたのが、いいところに当たって、こんな……」
何か責められて参っているという態度なのだが、その実、彼は本当に何もしていなかった。
今、ヨガ用マットに仰向け状態の彼の股間の位置に、友希那は水着姿のまま跨っている。尻を完全に男体に落とし、たたんだ両足、太腿の部分が臀部にしっとり乗り上げている最中で、股間については友希那の穴が彼のことを根本まで受け入れているのだが、そこから動きを現わしているのは友希那だけだった。
「うう……」
何か、この子の弱みでも握っているのではないか。そのように彼が勘違いするほど、友希那は必死に腰を揺らしていた。
「んっ、んふっ……」
男の上で、反り上がりながら縮み込み、かと思えば、吐息を漏らして弛緩する。だがまた勝手に腰を揺らし、稀に脱力したという呼吸を漏らしたり、また緊迫した喘ぎ声を連続させる。胎内では膣が、ほとんど上下には動かぬまま竿に対しこすれ合っており、友希那はそれで乱れる自分のことを、彼の責任にしている。
「あなたのが、硬いから、大きいから、いけないのよっ……」
完全に理不尽な主張なのだが、そんな発言をしている間も、友希那の尻はぐいぐいと蠢き、間もなく性に負けることになる。
「もう、駄目、ああっ……!」
大きく身体を反り上げたまま、友希那はひどく痙攣して花開く。もう腰は動かす、半開きの口からも、ハァハァと脆い呼吸が続くだけ、項垂れ、だからこそ垂れた長髪が肩やうなじの部分を滑ってばらけており、潤んだ瞳で友希那は彼のことを視る。
「……イったわ」
冷静さを取り戻した友希那は自らの絶頂について端的に報告した。
別に、絶頂に関する報告なんてしろと命じていないのだが、それでも友希那はまるで規則を正しく厳守しているかのように呟いていた。
今、絶頂を迎えた友希那は力尽きるように身体を倒し、彼の胸板に頬が預けられる。彼は、友希那から実際にそのように求められたかのように迅速に、友希那の両方の肩口に手を添えて、撫でてやる。すると縮んだ友希那の背中が緩やかに痙攣し、身体そのものが男体の上に弛緩してゆく。
懸命に、最後まで堪らえようとするものの、結局は力及ばず、女の泉を溢れさせることとなる。
そんな羞恥を、男の真上で披露した。
女性からすれば、これに勝る辱めはない。友希那もまた、何か醜態を晒したかのように眉を歪ませている。
だが男として、そんな友希那こそ愛おしい。普段のあの、まさしく貴族のような振る舞いの友希那が、たった肉棒だけで崩れ去り、どこにもみせられない艶やかさと共に果て狂う。そこに歌姫としての力強さはなく、ただ乙女としての魅力だけが通う。なんて愛おしい。彼はその最大限にまで湿った友希那のことを、その最も近しい位置で愛でていた。
リビング室内には、窓から差し込む夕暮れの鮮やかな光が通り抜けていた。すでに気温も落ち着いており、彼は友希那のことを眺めた。
「休憩にしようか」
「いえ――」だが友希那は素早く否定した。「まだよ」
「まだ?」
「そうよ。このまま私だけが絶頂して終わりだなんて、ありえないわ」
いつもの深みのある堅牢な声色で呟いてから、友希那はさらに自らの下腹部をさすった。
「それにあなただって、まだ私の中で勃起したままなのよ?」
「それは、そうだけど……」
事実、彼のものは友希那の膣に挿入されたまま、現在もその形と硬度を保っている。
とはいえ、すでに絶頂を披露した友希那がさらに行為に至るとは意外だった。身体を酷使しているとも思えるのだが、友希那のことだ、何か負け惜しみとして彼のことも、射精させようとしているのかもしれない。
「少し、体勢を変えるわ」
と友希那はそれからひと言置き、勇ましく身体を廻してくる。何をするのかと彼は仰向けのままほとんど脱力して眺めていたのだが、そうしていると間もなく自らの視界いっぱいに友希那の顔と胸元を眺めることになった。
つまりこれは、友希那が彼のことを跨いだまま、その背のみを前のめりに伸ばしたということだった。
ちょうど彼の首元というか、顔の横の位置にそれぞれ手を落とし、すると彼としては、友希那に包まれたような感覚となって陽光もわかりづらくなる。
「この位置からだと、あなたの顔がよく視えるわ……」
「僕も、すごい、友希那しか視えない」
「それでいいのよ」と、友希那は腕をたたんで彼に鼻先を近づけた。「私だけを視て……」
囁き声をかき消すみたいに、友希那は彼の唇へぬるついたものを重ね落とした。すぐに持ち上がり、すると彼は、今度は友希那の長髪について想う。
前傾姿勢にある友希那だが、その際に長髪が、その長さを主張するみたいに真っ直ぐ彼に向かって垂れているのが美しかった。その毛先たちはそれぞれ宙に浮き揃い、綺麗な薄紫色がカーテンみたいに左右で備わる様子を眺めていると、次第に友希那が身体を揺らしはじめた。
「いくわよ……」
何か決まった合図みたいに囁いてから、友希那は身体を動かした。
男体の上、そこに乗り上がる小ぶりな尻が少し浮かび、すぐに打ち付けられる。また持ち上がってすぐに下り、その連続する動きの中で、友希那は過激なほどに育ってゆく。
「ふふふ……」
その喜悦に満ちた顔を視た時、彼は、自らがこの女豹に捕らわれたことを知った。
男の頭部の左右に手を置き、臀部のみを繰り返し動かす歌姫は止まらなかった。全身が汗ばみ、ぬるぬるとした流動体らしい身振りのまま女豹を男を漕ぎ続け、そこに男の裁量は持ち込まれていない。
だが女の怒りの炎を灯してしまったのは男なので、彼は責任を取るが如く、友希那の虐げを受けるしかない。
もっとも、こんなに燃え上がる友希那についても女性的な趣きが付属し、味わい深い。
友希那の膣は実に温かい肉壺として完成されていた。内側に潜む複雑な肉の表現が、彼に向かって一斉に吸着する。一度の絶頂によって筋肉はよくほぐれているため、雄の全てを柔軟に包み込む。容赦はなかった。彼としても、すでに限界に近いところからはじまっているので、我慢などというものは考えられない。
それから友希那がより彼の視界の中にせり出し、勝ち気のまま呟く。
「口を開けて……」
「く、口?」
「はやく……」
指示通りにすると、友希那もまた口を開く。奥から、とろりとした透明なものが太い糸を引いて落ちてくる。彼は避けることも防ぐこともせず、その友希那の唾液を舌先で受け止めた。
「飲んで」
「んぐ……」
今、男体を支配する女王の指示に従って、下男は与えられた喜びを咀嚼する。温かい唾液は彼の喉元を通り、身体に独自の熱を与えてゆく。
「いいわよ、そのまま、ちょうだい……」
友希那の甘い声に、彼は最初は戸惑ったが、それが、二人で共に頂きへ昇ろう、という誘いなのだと知る。
「友希那……」
と囁き、彼はもまた男体を反り上げて主張すると、火照った友希那もまた活発に、積極的に弾み続ける。柔らかく濡れた互いの秘部が、より綿密に相手を想って絡み合い、もう離れたくないと追い詰められた時、二人連れ添って耽溺する。
友希那はその場で花々しく乱れ咲き、彼はその中心に向かって、己のものを溢れさせる。
この時、彼のほうは吐息の多い呻き声を上げるのだが、友希那のほうは鮮やかな声色を高らかに散らしいてる。
あんな麗美な容姿であっても、少し震えて、それでもなんにもいい訳なんてせず、ただ甘く痙攣する。彼にはそれが、性に溺れる女豹の悲鳴にも、男を絞り尽くす姫君の賛歌のようにも聞こえた。
夜の食事を済ませ、少しくつろいでから二人はまた動き出した。
次の行為の場所はリビングではなかった。移動を終えた彼はこの一室で、友希那を待っていた。
扉が開く音に反応して彼は顔を上げた。
「おお……!」
不意に漏れた声は歓喜の声だった。喉元がふっくらと広がり、目元がじわじわと打ち広がってゆく。身体そのものが沸騰したように一気に高揚し、あらゆる意識がその眼前の、友希那に集中してゆくのだった。
「着てみたのだけれど……」
今、後ろ手で扉を閉じる友希那の服装は確かに水着だった。
しかし異なっている。今の友希那が着衣する水着とは、今まで一日中友希那が着衣していたあの水着ではなかった。あれは友希那が所有し、この家に自ら持ってきた自前のものだったが、現在の友希那はその自らの水着ではなく、彼が用意した別の水着を着衣して現れていた。
「すごい……」
白色の半袖シャツに、黒のボクサーパンツを着る彼は恍惚とした顔をそのまま、飛び立つように立ち上がった。
友希那は扉の前から数歩ほど前に出て、二人は室内中央で向かい合う。彼は友希那の背丈のその中で、最小限の領域で肌を隠す水着に夢中だった。また、この新しい水着を着た友希那は恥ずかしげを含んだ顔つきで、だが両腕で肝心の水着を隠すようなことはなく、たった視線だけを反らして頬も赤く染まっていた。
彼は、そうした友希那の表情のことも、また水着についてもじろじろと観察した。まだ恥ずかしいのか、男の視線の熱が当たるのを、その素肌で感じているのか、ポッと赤くした頬を揺らし、視線は以外にも触れ合わない。口元もいつになく縮んでいて、彼のほうが何か反応してくれるだろうと待っている。
そのままなんにも口にせずにまだまだ眺めていると、流石に友希那のそうが上目遣いで配ってきて、あの……、と震えた喉の様子が聞こえてくる。
「綺麗だ」
彼は安心させてやるみたいに呟き、両手で友希那の肩に触れた。小ぶりな肩口が彼の手のひらの中にすっぽり収まり、友希那は頬を揺らしていた。
「似合ってる、とっても」
「ありがとう」
もう彼にとっては、いいや友希那としても、水着について海だとかプールで使用する服装という意味は完全に消えていた。
男女として、互いの性的な燃え上がりをさらに膨らませる要素として水着がそこにあるだけだった。
「君のために造られたみたい」
「そ、そんな……」友希那は一瞬驚いた様子で眉を持ち上げ、また彼のことは視ずに口をまごつかせた。「大袈裟よ、そんなの……」
火照った頬を揺らす友希那の手を彼は取り、そのままベッドに誘った。友希那は抵抗することもなく連れられて、腰を落し、彼もまたその左隣に座った。
「髪型も、可愛いね」
「あなたが指示したのよ」
「うん。似合うと思って」彼はほどよく脱力した様子で友希那を眺めていた。後頭部から伸びる二つの三つ編みだった。「普段はよくそのままにしたり、後ろにまとめたりしてるけど、こういうのも似合うね」
「あなた、私の髪型や服装なら、なんでもそうやって褒めるのね」
「そりゃあ、彼氏だもん」
「あら、そうだったわね」友希那はここぞとばかりに気の抜けた声で彼を視た。「ただの変態だと思っていたわ」
「えー……、それはちょっと、悲しいかも」
ほほ笑みながら指摘すると、友希那もまた肩を揺らし、「冗談よ」とひと言甘く囁いた。
彼はその、少し余裕を取り戻しつつもまだまだ艶やかに光る友希那の視線を眺めていた。
普段の友希那と違う印象なのだが、それは今まさに着せられているこの水着が、友希那の守備範囲にない派手な衣装だからなのか。
それともこの部屋が、普段まるで存在感のない、客用の寝室だからなのか。
大きなベッドがひとつ設置された、この広い室内は床は黒色、壁も黒色で四隅に暖かな橙色の、四角い照明が置かれている。
「――けれど、こんな装飾のたくさん着いた水着で泳ぐなんて、少し難しそうね」
友希那は自らの水着を改めて眺めながら呟いた。
「友希那、違うんだよ」
「違う?」
友希那が顔を上げたので、彼は意気揚々と口角を上げた。そればかりか、彼は友希那に向かって腕を伸ばした。友希那の小さな背中を包み込みながら、けれど目的は向こうの肩で、彼の手のひらは、それからすっぽりと友希那の右側を包み込んでしまう。
こうなると、友希那は必然的に彼にとってより近しい懐の位置に身体を流れ込ませることとなるのだが、この歌姫は、普段の丁寧な所作を残したままむしろ快く、彼の近くで息をつく。
より密着した様子の中で、彼は水着について改めて説明する。
「水着ってのは二種類ある。泳ぐための水着と、男を勃起させるための水着の二つ」
「ぼ、勃起……」
腕の中で友希那の頬がまたポッと火照りをみせた。
「君が今まで着ていたのは泳ぐための水着。もちろんそれも十分えっちで可愛いんだけど、今度のは違う」
そこで言葉を区切り、彼はさらに、友希那へ送る目つきの中に粘ついた気配を忍ばせた。
「友希那、それは僕とえっちするための水着なんだよ」
「そ、そうなのね……」
「ねぇ、友希那」彼は動揺する友希那にズイと迫って口を開いた。「この水着、最初に視た時どう思った?
「どうって……」安定しない語気のまま、友希那は少し思考して彼を視た。「そうね……。少なくとも、私が自分で着ようとは思わないデザインだと思ったわ」
「でも、着てくれたんだよね」
「それは……」
「嬉しいな、着てくれて」
彼は友希那の顔を覗き込み、その頬に、照明の光ではない熱気がまた浮かんでいることを愛おしく思った。
「僕の選んだ水着、気に入ったんだ」
えっちのための水着、と付け足してみると友希那はまた喉元を震わせた。
「き、気に入ったというより、これは、その……」顔を持ち上げ、すぐ近くの彼を視て友希那は口を開いた。「私は、彼女だから、あなたの……」
「友希那」
その瞬間、愛する人の名前を呼んでいた。
彼の中で、友希那に対する濃厚な愛情が溢れ出している。その間欠泉のような勢い付いた欲求について、彼はもう我慢ができなくなったので、この小さな姫を抱き寄せ、唇を奪う。
「んっ……」
どちらが誘っただとかそういうこともなく、二人はベッドに身を任せてゆく。友希那は水着姿のまま、彼のほうは、いそいそと衣類を全て脱ぎ、ベッドの外へ追いやると、その隙に友希那の唇が、男の唇に吸い付いてくる。その柔い湿った肉厚を彼もまた食み、少しして離れて、互いに息を弾ませつつ、まだまだ男女は貪り足りない。
「友希那、好き。好きだよ、友希那」
「ええ、私も……」
互いに愛を確かめ合って、また相手の口元に沈んでゆく。腕と腕を相手の身体に巡らせて、引っ付いたり、少し離れたりして口付けを連続させる。またその間に彼は、手刀のように細く揃えた左手を用意し、友希那の秘境へと忍ばせてゆく。とはいえその所作は優しく。彼は水着の上から友希那の入り口を撫でることとなった。
「濡れてるね」
すでに表面にとろとろと溢れる蜜をいくつか絡め取り、その潤滑によってさらに入り口をほぐしてゆく。
「い、いわないで……」
友希那は、そんなちょっとの指運びであってもすぐに身体を軽く仰け反らせ、吐息に艶美なものが混ざってゆく。
「これを着てから、なんだか身体が熱いの」
「いつもより、興奮してるってこと?」
彼はわざと耳元に近づいて訊ねた。
「わ、わからないわ。けれど、熱い身体をあなたに触れられると、もうそれだけで……」
甘い汗を滲ませる友希那は、彼の左手を弱弱しく掴み、溺死のような震えた声で必死に伝えようとしてくる。
「はやく、しましょう……」
そこにあるのは歌姫ではなかった。堅実な音楽家ではなかった。そこにあるのは、もう完全に溶けた、一人の年下の少女だった。
彼が用意した水着を着るとなると、その友希那は、完全に手中に堕ちたことになる。
その水着は派手だった。
黒色の他に鮮やかな紫色もよく視えて、毒々しい色合いが挑戦的な一着だった。肩部分を覆うフリルに、レースのような装飾も視えて、下はスカートのような造り、リボンまで備わっている。全体的にゴシックな世界観で、それは友希那の服装として充実した装いではあるものの、極端に狭い布面積については、確かに友希那は手に取らないかもしれない、と簡単に連想できた。
髪型について、これは今までのポニーテールとは異なり、ストレートのロングヘアとも違い、長い薄紫のものを二束に揃えて、それぞれ三つ編みを施してある。これもまた彼が指定した髪型であり、これは普段の冷静な友希那の雰囲気と異なる少女らしさの増長を狙った企みだった。
彼がこの部屋を友希那との次の場所に選んだ理由は、彼自身もあまりこの部屋に出入りしないからだった。
来客用の部屋として備えたのだが、結局この自宅に訪れる人物など友希那だけ。その友希那も、もし家に泊まるのなら彼の寝室に入り浸るので、いよいよこの部屋の存在価値が怪しくなってくる。掃除はしているが、彼としても慣れていない一室だし、友希那からすれば、ほとんど家とは異なる部屋に映る。
たとえば、ホテルの一室。
もちろん自宅に連れ込んだという状況もいいのだが、そうではなく、こうしたホテル一室に連れ込んだという状況だって楽しい。そのため彼は、ただ友希那と湿り合うためだけにこの部屋を用意し、さっそく男女として、ただならぬ部分へ至る。
彼の両足も友希那の両足も、すでにこの室内の、どの床にも触れていなかった。
ギシリ……、とベッドが勇ましく震え、その白色の領域の中に、彼と友希那の二人きりで居心地いい。
水着姿の友希那は横向きに寝そべり、十分に居住まいがよくなったところで、彼が襲いかかる。もちろん暴力ではない。右向きに身体を垂らす友希那に対し、同じように右向きに身体を垂らしながら背後から寄り添い、その細い背中を覆い尽くすみたいに被さって、左肩と左肩を触れさせたり、腰の部分で、さっそく女に会いたがる。
二人、身体を横に倒して脱力しつつ、彼は波を繰り出すように上手く腰のみをさらに前に突き出して、でも乱暴には探らない。友希那の中で、慎重に入り込める個所を探し当てると腕をぎゅっと狭めた。今、両腕はだらしなくも確実に友希那のことを抱き留めており、彼はいよいよ腰を密着させてゆく。
この時、より派手にベッドの上で花開くのは友希那のほうだった。
彼の竿がどんどん差し迫る。その屈強な竿が友希那の柔肉を開いて押し進む時、水着を着た友希那は甘い声を漏らすことになる。緩くくの字に曲げられていたものが、今度はむしろ腹の皮膚が突っ張るほど強張って、かと思えば今度はまた、くしゃりと潰されたみたいに身体そのものが奥まってゆく。
またそうした身体の変化だけでなく、彼が動けば動くだけ、友希那は喉元を変則的に滾らせて声色を跳ねさせる。そこには人らしく「駄目……」だとか「きちゃう……」というものが含まれているのだが、次第にそうした意識さえ消え、後はただ、ずんずんと突き上げ続ける彼の動きに呼応し、吐息を漏らすだけになる。
こうして背後から歌姫を襲う男のことを、あのランプの橙色しか知らない。
彼は友希那に被さるように身体をさらに寄せ、そこからいよいよ腰を振り動かしていった。
膣内は充実した熱気に満ちていた。いくつも重なる肉ひだがすかさず彼のことを受け入れ、撫で上げ、膣全体が勢いよく揉み下ろす。彼もまたそうした友希那の胆力に負けじと腰を振るい、柔肉を穿つように刺激する。次第に余裕がなくなってきたのは友希那のほうだった。差し込まれた彼のものを包む、その圧力が一斉に引き締められてゆく。窮屈になった肉壺をそれでも彼は突き続け、間もなく奥から激しい乙女が覗くな、というところで、彼は一斉に全ての動きを停止させた。
「あ、え……?」
愕然とするのは友希那だった。
今、確かに友希那は絶頂の直前にまで昇り詰めた。もう少しでも、彼の手助けがあれば友希那はこのベッドの上にて花々しく咲き乱れ、何よりも潜在的な快感に身をよじることになる。
しかし、そうした心地のよい炸裂も、結局は彼の――男の手伝いがあってこそ。
今、友希那のため、自らのために運動を続けていた彼はその動きのあらゆるを停止し、ただ友希那の背後で、震える背中を眺めるだけ。両腕でその細身を抱き締めて撫でてみるが、そんなもので女の快楽への扉が開かれるわけもなく、多大な熱を含んだ友希那はその場で喘ぐだけになる。
「な、どうして……」困惑した友希那は素早く頭を動かし、彼を視た。「どうして、やめるの……?」
口で答えてやるより先に、彼は腰の動きを再開した。まるで今まで一度も止まっていないといった様子で、十分に仕上がったこの肉壺をかき混ぜて、だがもう少しのところで手放してしまう。すると友希那はベッドの上で、勝手に切なそうに悶えてくれるので、彼はまた、己の腰を持ち上げて様子を窺う。すでに敏感に変わり果てた友希那は、この時のちょっとの刺激にさえ背中を反り上げるほど強く反応し、だがまだ最後の部分には押し上げない。程度のいいところで動きを切り上げ、また友希那が泣き出すと、今度は腰を使わずに後ろから抱き留める。
「ねぇ、ちょっと――」
という声を遮るように彼はまた動いた。力強い亀頭が友希那のことを内側からこすり上げ、友希那はまた四肢を投げ飛ばして喘いだ。いよいよ絶頂が狭まってくる。細い身体が大量の熱を帯び、友希那の声色もより甲高く持ち上がってゆく。呼吸が連続し、彼はまた腰の動きを放棄して友希那を抱き留めた。
「ああ、どうしてっ……」
友希那は力なく呟いた。そしてこのシーツの上に、咲き誇る予定だった、全ての女盛りが散ってゆく。
「や、やめないで……」
まさしく、生け捕り。
もうどんな、具体的にしろ抽象的にしろ、どのような社会的な感覚もない。
そうしたものはすっかり溶け、野生に近いところにまで立ち返った友希那が、最後のひとつを空振りし続けてしまう。ただ悶え、欲しかったあの快感のことを想い、それを与えてくれない彼に対し、少し苛立ちさえ感じてしまう。
「どうして……」
ぽつりと呟いて少しして、友希那は自らの身体をこのベッドの上で、ふとゆさゆさと動かしはじめた。
今、背後から迫る彼のものが膣にしかと挿入されている。彼としても抜き出すつもりはなく、ただその場に定住している。そうした中で、友希那のほうが尻を揺らし、彼の方向に押し込むように動き出す。すると胎内にて、その膣の壁に竿が触れ、こすれ、友希那の神経に火炎のような快感が触れる。
だが、男が動くことで快感を得ることを前提とするこの体位において、友希那がどれだけ動いても絶頂には至らない。せっかく自ら腰を上げたというのに、そこに望んだ何もかもがないことを知った友希那は、もどかしそうに力尽きた。
「うう……」
股間同士で繋がったまま、友希那はベッドの上にだらけるように肢体を投げ、可愛らしい断末魔を上げる。彼は後ろから腕を廻し、そのなだらかな背中と尻との曲線に触れ込み、優しく撫でてやる。
「ひどいわ……」
だが友希那としては、そんな愛撫で誤魔化されたくない。
「どうして、してくれないの」
ちょうど尻に乗り上げた彼の手を友希那は取り上げ、胸元にまで引っ張って握り込む。切羽詰まった呼吸を残し、白状するように呟いた。
「イきたいのに……」
まだ若い身体つきはすっかり汗ばみ、友希那自身も、極限まで冴え渡っている様子にある。
ここまでくれば、もう後は押し上げてやるだけ。
だが彼は唐突に自らの精神に悪しき鬼を宿し、歌姫のことを許さない。
「イきたい?」
彼は背後から訊ねた。十分に汗ばみ、用意のできた女体の肌肉を指先でいくつか愛撫していた。
「い、イきたいわ……」
「ふーん」彼はあえてぶっきらぼうに答えた。「イきたいんだ」
さらに答えてから、彼は友希那に背後かれ触れる尻を起こし、友希那の内側から完全に立ち去ろうとした。
「ま、待って……!」
その彼の所作を友希那の声が止めた。
「やだ……。ぬ、抜かないで……。離れないでっ……」
「どうして?」
「駄目よ。そんなの、駄目……」
「駄目?」
彼は友希那の背後に身体を戻し、肩口に顎を寄せて友希那を視た。
「もう、嫌なの……」
あまりにもか細く、可愛らしくすり寄って口を揺らすので、彼は「嫌?」と訊ね返した。すると友希那は無言でコクコクと頷き、またその潤った唇が垂れる。
「もう限界よ……。もどかしいの……。身体が熱くて、びくびくして」
そこでひとつ声が途切れ、かと思えば、ほとんど涙目の友希那の視線が彼を視た。
「お願い、イかせて……」
甘い声が過ぎ去り、彼は友希那の身体をぐっと強く抱き締めた。ほどよく曲げられた腰の動きを再開し、もう最大限の勢いで駆け上がってゆく。彼が動けば友希那は反応し、友希那の動きに彼は呼応する。互いの意識の内部にまで、互い一緒、行ったりきたりを繰り返し、ただ二人だけの頂で弾け合う。
「あああっ……!」
遠慮はなく、ただ性を貪る彼と友希那の汗ばみが、そこに重なるだけだった。
互いに頂に昇り詰めた後、それから彼の目の前に披露される友希那は無防備で、緊張のない、弛緩した様子だった。
お預けにお預けを重ね、ようやく果てることのできた女体は一時的に人らしさをなくし、ただ快感の余韻に浸るだけ。そんな隙だらけの様子もまた愛おしいし、友希那をここまで溶かし崩したことによる、彼の中の達成感も凄まじい。
今、全ての情事を終えた二人はベッドの上にあった。仰向けに広がる彼に対し、友希那が右から寄り添っている。行為からすでにある程度時間が経っているので、性的な火照りも落ち着いており、薄暗い室内で、友希那の丸い色白の輪郭がよく視える。
寝そべるには邪魔ということで髪型はほどいており、いつもの長髪がシーツの上にばらけている。
「友希那……」
するすると腕を廻し、そのまま抱き寄せてみると、やはり友希那は従順で、素直なまま胸板に転がり込んでくる。
そんな様子があまりにも仔猫に思えたので、愛おしく、彼はすぐに背中を撫で込む。
友希那もまたそれを持っていたかのように、身体をさらに寄り添わせ、彼の懐の中で脱力する。
それから彼がふと呟いたのは、どういうわけか、友希那に対する謝罪の言葉だった。
反応したのは友希那で、彼という山脈の上で額を持ち上げ、彼のことを視る。
「……どうして謝るのかしら」
「なんていうか、今日一日水着で居てほしいってさ、ちょっと非常識かなって」
すぐ近く、覗き込んでくる友希那の瞳に、彼は真意を打ち明ける。
「それに、友希那は今休みでしょ? 僕の趣味に、付き合わせちゃったかなって」
朝から友希那を呼び出して、それから自宅の中で、常に性的に乱れていた。たとえ女性側からそれを容認されていたとしても、男として、罪悪を意識しないわけにはいかない。
だがすぐ隣の友希那は、火照った男体にまだまだ引っ付いたまま、口先を彼の首元に寄せる。
「今さらそんなことを口にするなんて、あなた、少しずるいんじゃないかしら」
このベッドの上、互いに全裸のまま、友希那は肩を少し持ち上げている。
「ず、ずるい?」
「そうよ。本当に悪いと思っているのなら、最初からこういうことは、しないはずよ」
「それは、確かに……」
「あなたが私にしたいことを提案して、私がそれに賛成した。誰も嫌がっていないのだから、堂々としているべきよ」
まさか男の卑猥な企画について、それを許容した友希那のほうから叱咤激励されるなんて。
彼はそうだ、と思い直し、それから切り替えてにやけてみせた。
今、彼の胸元に手を寄せ、乳房を寄せ、すぐ近くで喋る友希那の口の中の風味がよく嗅げる。
愛おしく、魅力的に香ばしい友希那のことを体験しつつ、彼はその頬に口づけする。
「今日の友希那、とってもえっちだったよ」
耳元で囁いて、腕を廻し、友希那の頭部を撫でてから背を愛撫する。
「一日中えっちで、いろんな顔が視れて、楽しかった」
するとどうだろう、友希那は彼から離れて、唐突に仰向けに脱力してしまった。
彼は身体を動かさず、視線でその様子を追った。頭髪がいくつも複雑に流れ、首元や乳房を覆ったり避けていた。
「調子が出ると、すぐにこれだわ……」
友希那は仰向けのまま、適当に腹に右手を置いて、左手はシーツの上だった。眉をハの字に曲げ、萎んだ目で知らない場所に視線をやる。間もなくハァ、と聞かせているくらい大きなため息が漏れ、二人は視線で触れ合う。呼ばれたような気がして、彼はヒヒヒヒヒと笑いながら彼が引っ付いた。今度は彼が、友希那という山脈に乗り上げる番で肩口や頬に接吻をしながら腕で包み込む。
「あなたは本当に、私に卑猥な話題を持ちかけるのが好きね」
「友希那のことが好きなんだよ。ただそれだけ、本当に」
「そう……」
彼が素早く返答すると、友希那は溶けるような声を漏らし、すぐにまた口を開く。
「……一日水着で過ごしてほしいといわれた時、確かに、変わった趣向だと思ったわ」
天井を視ている友希那の顔を彼は視ていた。
「けれど、一日中えっちなことをしていれば、音楽のことを考えることもない。そんな考えは、いかにもあなたらしい発想だと思ったの」
友希那は彼のことを視て、それから続けた。
「それに、付き合わせたなんてあなたはいうけれど、それは少し違うわ。恋人なら、相手のしたいことに付き合うなんて、当たり前のことよ」
友希那の右手がそろそろと伸び、彼の頬を包み込む。彼もまた友希那を抱き寄せ、寝そべったまま、二人は口付けを交わした。
「ありがとう。今日一日、楽しかったよ」
「ええ、私も、何度もあなたと触れ合えて、充実した一日を過ごせたと思っているわ」
口と口が離れ、それでも互いの唇に、相手の肉感がこびり付いている。
「ところでさ、休みって、明日までだよね?」
「ええ。そうだけれど……」
ふと、唐突に日常の話題に戻ってゆく。
「じゃあさ、明日は猫カフェにいかない?」
「ね、猫カフェ?」
「うん。ちょっと気になるところをみつけてさ。結構話題になってみるたいで、どうかな?」
「そう、ね……」友希那は視線を少し揺らし、だが厭わず、彼をまた視た。「行くわ」
「わかった、じゃあいこっか」
と彼は満足げにほほ笑み、それから「あ」と声を漏らす。
「か友希那、猫好きなの隠さなくなったね」
「なっ――」
気付いていなかったのか、指摘されて友希那は目を丸くする。
「それは、別に、そういうわけではないわ……」
「そう?」
「そうよ。ただ、明日の予定はまだ決まっていないから、ちょうどいいと思っただけよ」
唐突に声を震わせるが、そんな様子で誤魔化しても無駄だった。
「猫に触れていれば、音楽のことを考えないとも、思って……」
「はは、素直じゃないね」
「な、何よ……」
不服そうな友希那は小さい声と共に視線をずらしていた。
そんな様子を前にして、喋っている間に、彼はこの友希那のことをこのまま家に帰したくないと思う。
「友希那……」
彼は腕を廻し、また友希那の肩を抱き締めた。この女体がどこか去ってしまう、一時的にそうした厳格に捕らわれた彼は友希那のことを近くに寄せ、まだ火照る柔らかさに安心しつつ、その口元に頬を倒す。
「実は、水着がもう一着ある」
「そうなの?」
「ああ、少し大人びたものなんだけど……」
彼は唇を揺らし、友希那を視た。
「だから今日、泊っていかないか、このまま」
「そうね……」友希那は少し視線を迷わせた。「いいわよ」
彼としては、それは一世一台の勝負のような提案だった。簡単に拒否されてしまうかもしれないと思っていた。だが実のところ、友希那は彼が想定する以上に素早く、外泊について肯定した。
「い、いいの?」
「ええ」
と連続で呟いてから、友希那が一斉に動き出した。長い長髪を巻き込みながら彼に向かって流れ込み、抱き合って、間もなく友希那の身体が、男体に乗り上げる。
「あなたからは、逃げられそうにないから」
勝ち気な歌姫の容姿はよく熟れている。自慢の肉厚に潤いがたっぷり充満し、その豊穣が、そのまま優しく落ちてきた。