「どしたのさ、友希那さん」
ベッドに腰掛けている彼は読んでいた本をすっかり閉じて終えた。
「何かあった?」
彼はひねるように首を動かした。自然と笑みに成ったが目元は至極真剣だった。
「いえ――」
彼の左隣にて腰を静めているのは湊友希那その人だった。
「なんでも、ないわよ。ええ。なんでもないわっ」
友希那は座ることにすら慣れていない雰囲気だった。懸命に背筋を律しているらしい態度はいつもの清潔だったが表情がとびきり強く角張っていた。
「ほんとに、なんでもないの?」
彼は友希那の奥の部分に首そのものを進める心地で顔を覗いた。
「え、ええ。そうよっ」
珍ししく緩やかなスカートを履いている友希那は、その布の隅っこを几帳面に握っていたが、指は唐突にそれを突き飛ばして太腿の上にそれぞれ集結し、そこで一瞬でクッと力んだり、かと思えば一斉にくたりくたりと諦めたりして重なり続けた。
「へぇ、そっか……」
彼は声を流した。友希那の中に在るらしいわだかまりのようなものをさらりと一瞥した。
「じゃあ僕、これしまうから」
「あっ、ちょっと待って――」友希那が咄嗟に声を跳ね上げた。伸ばした五指は立ち上がりかけた彼の腕を引っ張っていた。「あ、あの……」
「何、どしたの」彼は愉快にベッドに座り直した。大らかに沈んでから本を後方に向けて除けものにすると、途端、友希那が左腕に絡みついてきた。
「……積極的だね」
彼は、恥らいに満ちた友希那の不器用を悪戯にかき回した。友希那の束縛が強烈に震えた。普段はきっちりと揃えられている指たちが、彼に向かって根気よく踏ん張っていた。
友希那が彼の方に倒れながら、目元だけを上げて彼を窺った。
「今日はこの後、なにか予定はあるのかしら」
「予定? この後?」
彼は友希那を覗いた。友希那は糸操り人形のような勢いでコクリと倒れた。
「んー……」彼は意図して天井を仰ぎ、深々と思考するふりをみせた。「ああ、ないかなぁ」
「本当に?」
「うん。無い」
「そう、なのね……」
友希那は自分の足元をみつめていた。消えかかってさっさと溶けるような声だったが、それでも彼に絡みつく細腕は強烈な束縛に在った。友希那の中の求愛をそのまま物語る熱気で、捕獲した腕を、もう潰してしまうほどの迫力だった。
彼は、たった一度だけその友希那を不適切に無視した。胸中では愉しみに富んでいた。誰よりもツンと気高い品を保っているあの雰囲気から、すっかり転身して媚態につとめているこの友希那に、背徳すら意識していた。
二人きりのぬるい時間が十秒ほど過ぎたのち、友希那の素手がするすると、浮かぶように彼の右手に向かって手首を取った。彼は、ぼうっと無抵抗だった。すると友希那は、それを何かの許可だと解釈したらしく強豪に成って、彼の素手を自分の乳房に押し込んだ。彼は友希那の顔に向かってにやけると、右手の五指を丸めるように動かした。
「んっ……!」
友希那は彼の腕の中で悶えはじめた。彼はその躍動すら包容し、より強く友希那を揉みほぐした。乳房を衣服ごと揉んだ。熱のこもった五指を友希那に向かってめり込ませた。
「可愛いねぇ」
友希那はきゅっと凝縮しながら甘い声をまき散らすだけだった。すっかり湿っていた。身体をへこませるように揺れていた。丸っこい肩幅の上で漂う薄紫が、長く妖しく彼を誘って、彼の男性の部分をより滾らせた。
「……したいんだ、えっち」
彼は友希那と目を合わせるために首をひねった。友希那の細っこい首がカクンと前の方向に落ち、腰から下の総ての肌が卑しく逆立った。彼は友希那を撫で続けたが、視線はちろちろと逃げるばかりで、その表情は長い髪に隠れていたが、頬だけは正直にボッと熟れていた。何も隠せていなかった。彼は左手を友希那の背に廻して肩を握った。友希那は重たそうに俯きながらスカートを摘まんで、露骨に彼を誘導しはじめた。
「ははっ、変態じゃん」
彼は友希那の耳の付近で熱を漏らした。
友希那の真っ赤な肉厚が震え、喉が艶やかに蠕動していた。内側に秘密にしている女の子が少しも隠せていなかった。自分以外の全てにまだ不慣れな純情そのものだった。
「いつもの無愛想は、どこいっちゃたんだろうねぇ。はは」
彼は胸中で咲いた喜悦をさらに転がすように笑った。
心臓とはまた別の重要な部分が、身勝手だけれど正直に反応していた。
「えっちしたくて、手、掴んじゃったの?」
友希那はコクリと頷いていた。前髪が揺れるほどの勢いだった。顔面の皮膚が浮いて、愛欲そのものをあちこちから撫でられているような感覚に在った。
「えっちしたくて、抱き着いてきたんだ?」
彼の声が友希那の耳たぶを再び摩った。安心する声だった。友希那はもう一度、首を倒して肯定した。艶やかな長髪が波を打つように揺れておさまると、それを待っていたかのように勢い良く、背中一面に触れている硬い熱が動いた。友希那は彼に改めて包容された。
友希那の体躯は彼の胴体の中に在った。彼の胴体に背を預けるようなかたちだった。全身で彼の熱を体験していると、自分の身体の中で何か、明確な硬さのようなものが上がっていった。
「したいの、おねがい……」
友希那は身体をくたくたに弛緩させながら、まるで先ほどの続きのように彼の右腕に抱き着いた。
「やっぱりなんか、積極的だね、今日は」
友希那は彼の下の方で彼の腕を大切にした。ごつごつと優しい彼を自分の胴体に沈ませようとしていた。様々なものに向けて何度も伸ばした小さな白い素手が、今だけはそういう質感を完璧に忘れて彼に躍起だった。
「そんなにえっちしたいんだ」
彼は友希那を撫で廻しながらほほ笑んでいたが、その顔はすぐに友希那に接近し、間もなく素早い吸引の音が響いた。
「な、ちょっと、嗅ぐのはっ……」
友希那は背筋を強張らせた。身体の奥がカアっと発火していくのを感じていた。しかし彼の両腕が体躯を縛り付けているため友希那はどこにも逃げられず、ただ後ろから臭いを嗅がれ続けるだけだった。
「いい臭い」
彼の鼻先が友希那のうなじを這い上がって、毛髪の薄紫をかき分けてさらに奥に進み、頭皮に接続したところで二度目の吸引音を響かせた。
「あなた、やめっ、ああ、くすぐったいわっ」
友希那は身体を前に倒しながら甘い吐息を漏らした。全身が潰れるように落下する心地だったが、後ろの彼もそれに追随するように身体を動かして腕を引き締めた。友希那は強い拘束を覚えた。弱い腹が一気に絞られる感覚で、その彼は友希那の薄い肌色を調べるように廻っていた。
「あなた、ちょっと――」
「んふ、今日もいい臭いだよ、大丈夫……」
「そういう意味じゃなくてっ。ちょっと」
友希那は長い髪をあちこちに垂らしながら上擦った嬌声を漏らした。背面の皮膚が剥がされていくような感覚だった。
「でも友希那さんだってさ、僕のことたくさん嗅ぐじゃん」
「それはっ……」友希那は右耳の輪郭が肥えていくのを感じた。至近距離で聞く彼の低い声に震えていた。
「お互い様ってことだよ。んふ……」
彼は後ろから友希那にのしかかる勢いだった。呼吸も忘れた過激で友希那を吸うと、ついにその顔はうなじから右耳に向かって、やがて、空いた唇が友希那を湿り気で捕獲した。
「ひゃっ……?!」
「あむ」
友希那は彼の内部で腰を震わせていた。腰や両肩を艶やかにくねらせていた。女体が刺激に反応していた。後ろの彼は友希那の耳たぶを飲み込んで食んでいた。すぐに奥の方から舌が忍び寄り、耳の孔は水けに圧し潰された。
「あ、ちょっと……。やめっ」
友希那は潰れた喉で喘ぐだけだった。針のような快感だった。どれだけ身体を反発させても彼の腕は腹部に絡みついていた。逃れることなどできなかった。友希那は彼の中で弾けていた。弱弱しく顎を吊り上げた途端、彼の口が水けを散らして耳から離れ、同時にぬるい吐息が後味として耳全体を撫でた。友希那は上半身をだらしなく彼に預けていた。彼の大きな素手が腹やくびれを摩っていた。
「気持ち良いの? 耳責め」
息を切らしている友希那は顔を背けて、しかし小さく首肯した。身体の中で滾っている欲求は強烈だった。
「へぇ、そうなんだ……。ふふっ」
彼の拘束が強まった。両腕のうち、右腕が密着しながら下に流れてついに股間に突撃した。
「ね、ここにさ、僕の硬いやつが入るんだよ」
彼の指が友希那の孔の輪郭を摩っていた。友希那は彼の硬さと熱を当然許していた。脳裡では彼の竿がよぎっていた。腹の奥の熟れた肉感が、唐突にあの硬さを連想してじゅくじゅくと下った。
「ほら、ここ」
声と同時に彼の指が少しだけ過激に成った。
「んんっ――」
友希那はすっかり濡れた下着の上から探られていた。友希那は彼の種を抱え込む準備を完全に整えていた。本能の部分が彼を欲しがっていた。男らしさを求めていた。故に友希那は彼を捕えるように、きゅっと腰を絞めて素手をはさんでやった。
「たくさんえっちしたもんねぇ。友希那さんも、すっかりヤミツキになっちゃった?」
頬が一気に膨張していく友希那は震えながら仕方がなく、仕方がなくコクリと頷いた。
「なんか最近さ、ようやく素直になってきたよね」
「そう、かしら……」
「うん。なんというか、自分の欲を止めなくなったというか」
彼の素手が深く友希那を摩っていた。人差し指が優しく動き、友希那の急所を下着の上から潰すようにまさぐっていた。
「普通、だとっ、思うのだけれどっ。んふっ」
「普通?」
「ええ、普通っ。んあっ」
友希那は無理やり喉を強張らせて答えたが、語尾はふやけて溶けていた。彼の笑みと自分の股間のぬちぬちという音にすっかりほだされて、前かがみのような体勢に成っていた。
彼の指が友希那の孔の輪郭を撫でた。
「それが普通になってるなら、嬉しいかも。信頼の証ってことだから」
「ええ、そうかもしれないわっ。んっ――」
「ああ、こっちも正直になったよね」
彼の人差し指が友希那の薄い布を素早く退かし、とっくにとろけている孔そのものをついに摩った。途端に友希那は自分の背筋を誤魔化すように体躯を反らせて喘いだ。彼の指はもう入り口を摩るだけの嗜みではなかった。本格的に孔の内部を探っていくような、友希那の雌の部分に直接押し寄せてくるような、頼もしさすら宿っている力量だった。
「ほら、すごい濡れてる」彼が一度、友希那から手を離した。元居た股間と彼の二本の指先には、透明な粘つきが糸のように引いていた。「ほら視て、ねばねばだ」
「……言わ、ないでっ」
彼はフフフンと笑いながら二本の指を動かした。友希那から出た粘液を友希那にみせつけるような動きだった。友希那は彼の指から目を反らした。自分の乱れた部分と強引に向き合わされているような心地は恥ずかしい以外の何でも無かった。
彼の指はすぐに友希那の股間に戻り、その中の位置で再び動きはじめた。指先の動きはしっとりと執拗で、乙女の弱点を舐めるように掬っていた。やはり力強い開拓だった。歌姫としての矜持が彼の中で溶けていった。だらけきった臀部そのものがぴくぴくぴくと慌てていた。
「ほら、逃げないで」
腰周りを保持する彼の左手が力んだ。身体そのものがより深く抱きしめられた。友希那はもう自分から彼にもたれかかった。力が入らないままだった。身体の重心を彼に預けていた。
「ね、こっち視て」
彼の声がした。友希那はその吐息を飲み込みながら、ほぼ何も考えずに声の方向に顔を上げた。彼の口が迫った。口元が温かく成った。柔らかいものが柔らかいものの上を這い、少しだけめり込んで触れ合うと、引いていくように離れた。
すぐ近くに彼の笑みが在った。友希那はそれをぼうっとした顔つきで見上げていた。肩の彼がさらに熟れて滲んでいった。
「可愛い」
彼のポツリとした声に続くように、友希那は再び口を覆われた。顔を左右に子気味良く動かしながら互いを食むと、唾液を擦り合ってから離れた。
「お姫様みたいだ」
彼の声が耳元で咲いた。その熱気は友希那の敏感だけを刺激して射止めた。
「――普段あんなに格好良いのにさあ、実はこんなにえっちな女の子だなんてね。他の人が知ったら、どうなるのかねぇ。はは」
彼は悪戯っぽい笑みで歯列を覗かせた。同時に股間の指が激しく侵入してきた。途端に友希那は喉を引きつらせた。身体の内側と外側がひっくり返る心地だった。
「まぁ、いいと思うよ。そういう友希那さんも、とっても可愛いからさ」
彼はそれでも友希那の中を指の腹でしつこく揉み続けた。その刺激は友希那の中の乙女を次次と引きずり出していた。友希那に何か反論させる隙を与えない徹底的な指遣いだった。
「あぁっ、まってっ、あぐっ。いぃっ」
擦り切れた声が続けざまに漏れていた。友希那は無我夢中で彼の顔に迫り、自分の口を彼で塞いだ。
「キスも好きなんだねぇ。ふふ」
口が離れた後に、彼は友希那を擦りながら甘く囁いた。それでも股間の指の過激は続いており、友希那は彼の中で柔らかく喘ぐだけだった。
「可愛いよ」
彼の左手が友希那の頭部を摩った。友希那は震えながら身体を彼の方向に進めた。
強い自分に惚れたらしい彼の手前、弱さをむき出しにして湿っていくことには若干の羞恥が在ったが、しかし、自分の中の獣を隠しておける余裕は無かった。このまま恥態だけになってしまうのだろうと思った。彼の前で、彼だけのオンナに成ってしまうのだろうと期待していた。脳すらぼやける緩んだ友希那はそういう期待を飲み込んで、息を吐きながら彼に必死にしがみついた。
「イきそうなの?」
「もう、だめっ、ああう……」
友希那はぴくつく肩に操られるように声を震わせていた。指で、というよりは指だけでこんなにも濡らされていた。自分の中の乱れている部分をまざまざと暴かれて突きつけられる躾じみたこの快感が、まるで猛毒のように刺激的だった。
「いいよ、イって」
彼の指が過激に成った。友希那は腹の底で発生した切なさに悶えながら彼のシャツを握りしめた。股間の飛沫の音が連続性を帯び、意識がどこか新しい真っ白な部分へ至った。
「イ――」
彼の指が奥まで到達し、そこで止まった。同時に友希那はその下腹部の全域が強烈な潤みで富んでいくのを体験した。太腿が跳ねるほどの痙攣を彼の内側のような空気感の中でまき散らした。
「あーあ、指だけでイっちゃったねぇ」
クスリとほほ笑む彼の左手が友希那の頭を包んで温めた。友希那はその雰囲気に自分から飲まれるように流れていき、額を男体の胸板に押し込んだ。
「気持ち良かった?」
友希那はとても大げさに頭を一度カクンと落としてみせた。
「なら、よかった」
友希那は痺れのような後味の中で彼の声を聞いていた。先ほどまでの活発が嘘のような重たい呼吸が胸部と喉と口を行き来して、あらゆる感覚の輪郭が胡乱に成っていた。
「もう終わりにする?」
彼の声が響いた。
「い、嫌っ――」
友希那は彼の肩に腕を絡ませた。反射的に彼を引き留める姿勢だった。
「じゃあ、どうしたいの?」彼の声が友希那の真っ赤な耳のすぐ近くで咲いた。「ほら、言ってみて」
彼の声が心臓の奥にまで届いた。友希那は硬く嚥下した。腹の底が一斉に起き上がり、その力みは彼を握る素手にまで流れて火達磨にした。
「おちんちん、ほしい……」
友希那は愛しい彼と交尾をしたがっていた。
「あなたとのえっちが、好きなの」
ありとあらゆるしがらみを失くしてくれる存在とは、彼と、その彼の肉体だけだった。
「あなたのおちんちん、私に入れて……!」
友希那が爆発のような語気を打ち上げると、途端に彼の気迫がそれを飲み込んだ。舌によって舌が圧された。互いの欲望がそのまま欲望として絡み合っていた。
友希那はその中で、彼の根本的な部分の先端を熱く意識していた。