「それ、勃起しているのよね?」
自室にて湊友希那は彼のことを指摘した。淀みがなく、整然とした声だった。
それは意外な発言だった。少なくとも友希那の恋人である彼にとっては意外だった。友希那は話をよく聞き、自ら考える人だった。つまりところ頭のいい人なのだが、普段、自ら進んで発言するような人ではなかった。そんな友希那が自主的に、彼について指摘していた。それも指摘内容とは勃起だった。直球で性的な話題を、友希那が自らこの場に寄越すなど意外以外の何でもなかった。
友希那は続けた。「さっきから、妙に前傾姿勢で不思議だったけれど、勃起しているのなら納得だわ」と彼が反論するより前に口元を緩ませた。その瞳の中に何か意地の悪い質感は皆無だった。普段の何気ない会話をする際とほぼ変わらない平坦な質感があり、しかし口先で明確に『勃起』と友希那は発言していた。
いつでも変わらない調子で、何事にも動じずに挑む様子とは友希那の特製であり人間性であり、彼が恋人として好む友希那の一部分だった。まるで自分はひとつも卑猥な単語など喋っていないし、卑猥な話題を話していないという態度で性的事情に言及してくる、ある意味で度胸があり、ある意味で鈍感なその態度は彼の目に好ましいものとして映った。
「勃起したのね、私で」
友希那は確認するように囁いた。彼はまるで、視えない糸で操られているかのように顎先を上下させた。首肯のつもりだったが、それは『認メル』というより『観念スル』といった具合だった。彼の身長は百七十センチ、対する友希那の身長は百五十五センチで、二人の身長差は十五センチあったが現在、彼は精神的に友希那より小さくあった。彼が、自らの勃起を友希那に対し認めたことでその友希那の瞳の色は劇的なほどに変化した。そこにはとっくに嗜虐的な光が浮かび、すると友希那は女性として優位性を獲得した。逆に彼は生き物として弱点を見抜かれたこととなり、少なくともこの場では、もう友希那に勝ち目がなくなった。
「不覚だったわ」と友希那はひとつ囁き、「私は胸も大きくなければ、背も、それほど高くないと思ってたけれど……」と自らの身体に関する評価を口にした。
友希那のその自身の身体に対する評価は過小評価だと彼は思った。
まず友希那は美人だった。確かに胸が小さく、背も低いが、そういった部分が友希那の身体における特徴であり魅力だと彼は思っていた。もちろんの友希那の魅力とはそれだけではないのだが、肉体的な魅力といえば貧乳低身長以外になかった。
それでも友希那は自らの身体について、何か力不足といった感想をいだいているようだった。
「あなたにとってはそういう部分が、むしろ卑猥に視えているようね」
友希那は彼の顔から視線を外し、問題の股間をじろじろ視た。擦られていないのに友希那に股間を撫でられているような心地だった。「まったく……」と友希那は呟きながら彼に歩み寄った。彼の身体に寄り添うように近づいた。
彼の視界の中に友希那の背丈はすっぽり収まっていた。しかし小さい、という印象を彼は別に感じていなかった。今、友希那という女性は彼の主として精神的に君臨している。その女王は、愛玩するように飼い犬の胸板に頬を寄せ、視線を上向かせている。
「あなたは私の飼い犬なのだから、私が『いい』というまで発情してはいけなかったはずよ」
友希那は囁いた。彼に聞かせる、というより単純に独りごちて確認しているような口ぶりだった。その内容については、『友希那>彼』という意識が染み込んだ、彼にとって何より嬉しい思想だった。
彼は友希那の瞳を視ていた。友希那の瞳の中に、彼の影が映っていた。つまり彼は友希那に捕らわれているということだった。何より強烈で濃厚な、友希那という唯一の美しい主の荘厳な影響力に彼は悦ばしく虐げられている最中だった。
「ほら、いつものを言って」
友希那の鋭い声が響いた。彼は躊躇した。すると友希那の目元が険しくなり、喉元から低い声が轟いた。「ほら、言え」と友希那が命令した。彼は慎重に口を開き、『飼ってくださりありがとうございます』といういつもの台詞を友希那に献上した。「ふふ」という友希那のほほ笑みが咲いた。右手が伸び、彼は頬を撫でられた。絶対的な権力で君臨する女王がくれてやる下僕への優しい愛撫だった。
「いいのよ。あなたは私に支配されていればいいの……」
友希那の素手の中は温かかった。彼は、この場ほど温かい場所などないのだと素直に確信した。
「それじゃあ、今すぐズボンとパンツを脱いで、勃起したものをみせてちょうだい」
素手が去り、それから友希那はまた鋭い眼光で彼に命令した。彼は動揺していた。まさかそのように、直接的な命令が下されるとは流石に思っていなかったため驚いた。
「……何を躊躇しているの?」友希那は彼のことをじっとり睨んだ。「私で勃起したのなら、それを私にみせるなんて当たり前のはずよ」
友希那は淡々とした語気で説明した。彼はもちろんそれを否定しなかった。友希那で勃起したことも、友希那にそれをみせることも彼にとっては当然のことだった。しかし、昼間から肌身をさらけ出すなんて、と躊躇する心地は消えなかった。
「あなただって、本当はみせたいんじゃないかしら」
友希那の瞳の光が変化した。先ほどまでの、絶対的な意志の力で彼を支配する王者の光から変化していた。何か妖しい、揺れ動く淫らな色合いに変化していた。それは胡乱なものだった。深い奥行きがあり、そんな瞳でみつめられてしまうと、彼は本当に自らの脳内思考の一切を友希那に読み取られているのではないかという感覚に至った。
そこには、友希那に脳内思考の一切を覗き視てほしいという欲望が少なからず含まれていた。
友希那は続けた。
「私で勃起したということは、私に性的に興奮しているということでしょう? それならむしろ、みせつけるなんてご褒美じゃないかしら」友希那は彼の真意を復唱するかのように呟いた。「どうなのよ?」
彼はゴクリと固唾を飲んだ。
「言うのよ。私にちんぽをみせたいって。それがあなたの、本性のはずよ」
友希那は何か宣言をするかのように囁いた。力の籠った語気だった。またその内容とは彼の本心そのものだった。つまりいい当てられていた。「ほらはやく」という次の声がした。彼は喉を急かし、『僕のおちんちんみてください』と友希那に向かって懇願した。「ふふ」という友希那のほほ笑みがすぐ近くで聞こえた。彼の必死の宣言を、嘲笑っているようにも愉しんでいるようにも聞こえた。彼は恥ずかしがっていた。口にする前はそうでもなかったが、口にした途端に何か自分が凄まじく恥ずかしいことをしているような感覚に陥った。その羞恥心は熱湯のように身体にぶちまけられており、特に顔面部分がカッと重たい熱を帯びていた。
「いいわよ」と声色の妖しい脂が乗り、「あなたがそれほどみせたいのなら、特別に、ズボンとパンツ脱いでもいいわ」と友希那は彼に許可を出した。
彼は友希那の眼前でまずベルトを外した。カチャカチャという金属音を揺らし、ズボンを下げるとパンツが視えた。パンツは突っ張っていた。中心部分が異質に膨らんでおり、稀にビクッ、ビクッ、と上向きに痙攣していた。彼はモウ我慢デキナイ、という急いた心地でパンツを下げた。上向いた陰茎がボロンと露出し、その先端は友希那の方向に至っていた。
「大きいわね」
ちょうど、友希那の腹部というか下腹部、子宮が位置する部分に陰茎先端部分が伸びていた。
「……ズボンの上からでもわかっていたけれど、それ以上だわ」
友希那は視線を降ろし、下から掬い取るように陰茎を握った。陰茎全体に友希那の五指の質感が触れていた。指先は自由に蠢いていた。さらに柔らかかった。彼の意思に関係しない、つまり友希那の意思で動く予測不能の愛撫だった。友希那は陰茎をみつめながら、右手を使って竿をしごいた。緩い動きだった。竿の部分を優しく包容して緩く前後に揺れていた。また、友希那はその際に鼻先を酷使した。スンスン、と空気を吸引する音が鳴り、次いで口元からンハァ……、と吐息を漏らす音がした。
「くさい……」
彼の陰茎のにおいをたっぷり堪能した友希那の最初のひと言はそれだった。
「蒸れたオトコのにおいがするわ」友希那は陰茎を擦りながら続けた。根本から一気に先端まで、細い細い美しい指先を巡らせた。間もなく友希那は亀頭の溝のような箇所に人差し指と親指の輪をかけて蠢いた。それから、スンスン、とまた鼻先を動かした。連続で空気を取り寄せ、脳そのもので悪臭を体験しているようだった。「くさい」と小さく呟き、けれど友希那はまたスンスンスンと鼻先を上向かせた。唇が半開きに揺れ、ンハァ……、と吐息を吹くとまた「くさい」と呟いた。
誰もが憧れる歌姫が陰茎の香ばしさに夢中になる様子について彼は興奮していた。友希那が「くさい」と呟く度に腰部分が痙攣し、『ニオイヲ嗅ガレテイル』という事実そのものが、陰茎の硬度をとことん底上げしていた。
「あなた、私に嗅がれて興奮しているの?」
彼は首肯した。それについて、隠したり誤魔化す必要はなかった。というより隠したり誤魔化したくなかった。今、友希那に陰茎を掌握されて彼は際立っていた。陰茎とはシンボルのようなものであり、アンテナのようなものだった。そういった箇所を好みの女性に占領されると、彼はもはや何か鮮明な思考をすることなど不可能だった。
「そう。変態なのね」
友希那は彼の亀頭から手を外し、根本を握り込んだ。手のひらに竿を誘い込むような掌握だった。
「私と居るだけで勃起して、におい嗅がれてさらに興奮するなんて、筋金入りのど変態ね、あなた」
友希那は彼の根本を握ったまま顎先を上向かせた。彼は久々に友希那と目を合わせることになった。その瞳には、より一層の濃厚で意欲的な嗜虐の光が浮かび、また竿を包む五指が力んだ。
「それで、ど変態のあなたは、私に何をしてほしいのかしら」
竿を握られているため、彼はもはや呻き声しか漏らすことができずにあった。そうして揺れ動いていると友希那が彼の根本をギュッと圧迫した。馬の手綱を握るというか、鞭打ちをして家畜を引き締めるようなそういう勢いがあった。
「自分でしっかり言うのよ。当然でしょう?」
彼は友希那をみつめながら、白状でもするかのようにこのまま素手で射精させてほしいと懇願した。友希那は「そう……」と短く呟いた。それは彼の態度に落胆しているかのように思えた。しかし実際は違うことを彼は友希那の恋人としてよく熟知していた。友希那のこの短い返答とはむしろ了承の意味が強く、小さな女王は一瞬だけ彼から目を逸らした後にまた仰いだ。
「私で発情したから、その私に性欲処理をしてほしいだなんて、本当に都合がいいわね、あなた」
ごめんなさい、と彼が謝罪しようとすると、それを遮るように友希那は「……いいわよ」と囁いた。「あなたの溜まった性欲、それの相手をできるのは私だけ。仕方がないから、このままヌいてあげるわ」
それから、友希那による猛烈な手淫がはじまった。
友希那は彼の反り立つ竿をしっかり握り込み、五指の感触を押し付けるように上下運動を繰り出した。彼はすでに大量のカウパー汁を分泌しており、それらは友希那の五指に絡まった。友希那はもちろん構わず手淫を続けた。ヌチャッ、ヌチャッ、という湿った音が次々と撒き散らされ、周囲に異質なにおいが漂った。
この場は友希那の個室だった。友希那が生活し、友希那が寝起きする部屋だった。そんな部屋に彼の、最も個人的で濃厚な部分のにおいが散布されていた。友希那は彼をしごいたまま、顎先を下に向けた。そのまま小さく開口し、薄い桃色の舌が伸びた。んれぇ……、というくぐもった声と共に友希那の小さな口から透明な液体が垂れた。唾液だった。友希那の口腔内部に発生し、肺から持ち上がる友希那の熱気によって温められた純度百パーセントの友希那の唾液が糸のように垂れ下がり、彼の竿のねっとり付着していた。友希那は五指でそれらを回収し、カウパー汁と共に混ぜ込んで陰茎をしごき続けた。
「無駄打ち……」友希那が囁いた。「こういう行為で射精することを、無駄打ち、というのでしょう?」
友希那は彼に寄り添っていた。右手で竿を握り込んだまま、胸部というか胴体そのものを彼の身体に引き寄せた。友希那の身体と彼の身体はぴったり触れ合っていた。
「無駄打ち射精、そんなものほど、オトコとして惨めな射精はないはずよ」
今、彼は簡易的なシャツだけを着衣し、友希那は白色のブラウスに黒のタイトスカートだった。衣類と衣類が擦れ、また彼は身体の全てがもう敏感なため、友希那が揺れ動くだけで腰部分を跳ね上げていた。
「ほら、さっさと無駄打ちして」
友希那は身体を彼に寄せていた。いつの間にか、細い左腕が彼のがっしりとした腰に背後から廻って捕えられていた。彼がどれだけ身体をびくりと震わせても逃げられなかった。彼の股間では飛沫が散り、友希那の手淫は彼を追い込んでいた。
「出しなさい、ほら、はやくっ……!」
友希那が囁いた。他に選択肢を許さない強烈な声色だった。支配力と包容力が溶け合った母性の声だった。
「イけ」
友希那の命令口調と共に彼は前方向に重たい精液を打ち上げた。飛沫のようにも粘液のようにも思えるそれらはぼたぼたと音を立てながら床や壁にまでぶちまけられた。
友希那の素手の動きは終わらなかった。
「まだよ。まだ、たくさん出して――」
友希那の手淫は続いた。左手で彼の腰をしっかり保持し、右手で竿を刺激し続けていた。それは普段の友希那からは考えられない野蛮な動きだった。ヌチッ、ヌチッ、というぬめめった音が響き、歌姫の右手は彼の竿を揉み続けていた。その瞳は上向き、濃厚な精液を散らす彼の弱った様子をじっとりと眺め続けていた。
「キンタマの中に溜まったもの、全部ぶちまけてもらうわ」
強烈な快楽が股間から全身に流れ、筋肉が引き締まりながら彼は射精し続けた。