※この作品はR-18です。

湊友希那と変態シリーズ。   作:美肉。

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入浴中の湊友希那を覗き視る変態小説。


湊友希那、覗き……。

「行ったか……?」

 浮島ケイスケ(ふしま けいすけ)はリビングのソファーで独りごちた。それは確認だった。応答する存在はなかった。ケイスケは固唾を飲み、意識を自身の耳に、というより聴覚に集中させた。それは手繰り寄せるというか、掬い取るような所作だった。このリビングから出て、廊下を進んだ先に位置する浴室から聞こえてくるはずの音をケイスケはどうにか知覚しようと力んでいた。

「行ったな……?」

 ケイスケはまた呟いた。それから目を閉じ、本格的に集中した。遠くからシャーッ、という音がした。その音を聴いたケイスケは目を開き、どこでもない場所に視線を置いた。胸元にせり上がる重たいものがあった。左右の鼻孔が強張り、酸素が煙たいように感じられた。ケイスケはソファーから立ち、リビング出入り口扉を開いた。その必要はないが、音を出さないよう気を配った。

 扉の先には当然廊下があった。廊下は薄暗かった。いつもの見知った廊下だが、今のケイスケの目には、そんなものさえ別世界のように映っていた。何か試練の回廊のように思えた。

「いくぞ……」

 ケイスケはまた独りごちた。それは己に対する鼓舞だった。つまりケイスケは今、躊躇しているということだった。しかし男として、一度そのように決起したのなら最後まで任務を遂行すべきだった。そうして、己が思う理想郷を目にすべきだった。

「視るぞ……」

 今、もう一度呟いたことでケイスケの胸の中の迷いは完全に消えた。それは決意だった。なんとしてでも目的を達成したい。たとえ、目的達成を拒む障害がどれだけ大きくても関係ない。それでも目的達成のため進軍し続けることをケイスケは己自身に誓った。

 ケイスケは照明を付けずに廊下を歩いた。あのシャーッ、という音が近づいている。しかしそれは、音が接近しているのではなかった。ケイスケのゆったりとした、しかし確かな足取りが少しずつ音に近づいているということだった。間もなく廊下の中で、ケイスケは光をみつけた。前方、一メートルもない先の位置に脱衣所への出入り口扉が視えた。

「視るぞ」

 ケイスケは脱衣所出入り口扉を恐る恐る開いた。脱衣所の中には誰も居なかった。ただ照明は灯っており、その奥、浴室に続く扉の先でも照明が灯っていた。ケイスケは固唾を下した。それは覚悟の現れだった。足音を出さぬよう気を配り、ケイスケは愛する恋人・湊友希那が今まさに使用しているはずの浴室に近づいていった。

 

 ケイスケは友希那の裸を視たいと日頃から思っていた。

 それは、男として真っ当な欲求のひとつだった。また、友希那という絶世の美女を恋人に持つ男として、当然の欲望だった。ケイスケはよく友希那と性的な行為に及んだ。つまりケイスケにとって、友希那の裸とはよくも悪くも『視ようと思えば視れるもの』、であり、それは喜ばしいことだった。しかし、だからこそケイスケは友希那のことを『覗きたい』と思っていた。友希那が恋人という他人のことを完璧に知覚せず、それでも何も着衣しない裸のままの様子を眺めたいと思っていた。

 覗かせてほしい、と頼めば友希那はため息交じりに了承してくれるような気がした。

 しかし、それもまた違った。そういった『プレイ』ではなく、もっと本格的な『覗き』をケイスケは求めていた。それはつまり、ただ単純に友希那の裸を目の当たりにするだけなく、完全に本人に無断で、ほぼ違法的な方法で友希那の裸を目に焼き付ける、という状況そのものを、ケイスケは熱烈に求めているということだった。

 そして、そういった本格的な状況を味わうためには男として猛烈に決起しなければならなかった。

 男として、好みの女性の裸を覗き視るために必要なこととは覚悟だけであり、そういったものをケイスケは、友希那に告白したあの日から己の中で備えていた。

 

 シャーッ、という音がしていた。

 それは浴室から鳴る音だった。

 友希那が使用するシャワーから放出する無数の温水が、友希那の肌などに触れる飛沫の音が浴室から漏れていた。

 脱衣場に到着したケイスケは立ち尽くしていた。

 友希那が今まさに、このすり硝子の向こう側で裸になってシャワーを浴びている。

 それはケイスケにとって、どんな出来事や褒美より『やる気』に成りきれる『事実』だった。男とは、愛する女性の情報だけで十分に興奮できるものだった。たとえば実際にパンツを履いていない必要はなかった。女が「パンツを履いていない」とひとつ明言するだけで男は、十分に興奮するものだった。そういった事実がそこにある、あるいはそこにある可能性さえ香っていれば男は瞬くに発情する。ケイスケも一人の男であり、その習性を持っていた。

 現在、耳に聴こえてくるこのシャーッ、という音だけで、ケイスケは友希那が全裸であるという事実を嗅ぎ取り、そこについてまずひとつ興奮していた。

 そして、男とは常に強欲なものだった。

 強欲でなければ男として生き残れない、という仕組みそのものが男という存在であり、ケイスケは友希那が裸になっている可能性だけで満足しているわけがなかった。裸を視たい。あの友希那の、麗しい美学が集結したかのような肌肉の様子を実際に瞳に焼き映し、そうしてハレンチな記憶として脳に定着させたい。ケイスケはそのように決起し、勇み、今まさに脱衣場まで到着したということだった。

「む……」

 ふと、ケイスケは傍らを視た。視界や視線ではなく、ケイスケの男としての嗅覚が敏感に反応していた。

 まずそこには洗濯機があった。洗濯機は稼働していなかった。そして洗濯機のさらに傍らに籠があった。それは洗濯籠で、中に衣類が投げ入れられていた。ケイスケはすり硝子越しに自らの身体が映らぬよう慎重に動き、洗濯籠の傍でしゃがんだ。刑事が現場から証拠品を摘まみ取るように、ケイスケは籠の中にある友希那の衣類を視認した。

「脱衣確認」

 洗濯籠の中を覗いたケイスケは呟いた。それは軍隊を気取った慇懃な口ぶりだった。ケイスケは籠の中に右手を突っ込んだ。まず触れるのは長袖のトップスだった。空色で、左右の裾部分と首元にフリルがあり前開きのシャツだった。ケイスケは何か大釜の中のスープを混ぜるかのように、腕を使って別の衣類を掬い取った。鮮やかなブラウン色のロングスカートが触れ、捲り上げるとその下にショーツが視えた。

「下着確認……」

 薄紫色のショーツを拾い上げるケイスケは呟いた。それは軍隊を気取った慇懃な口ぶりだった。ケイスケは友希那のショーツを両手で持った。何か揉むようにすると、まだ残っている体熱が触れた。ケイスケは本のページを捲るようにショーツの中からクロッチ部分を探し当て、一瞬だけ視認すると籠の中に戻した。ブラジャーの下に隠すように置き、スカートを被せて完璧に誤魔化した。

「これより覗き行為を実行する」

 立ち上がったケイスケは小声で宣言した。それは軍隊を気取った慇懃な口ぶりだった。いよいよ本命の友希那の裸だった。眼前、浴室へ繋がるすり硝子の扉に友希那の輪郭が映っている。それは細く、しかし胸部と思われる箇所や臀部と思われる箇所だけが突出しているように視えた。また、現在友希那は頭部を洗っているらしく、両腕が持ち上がり、それは脇を大胆に開けてみせびらかしているように思えた。

 ケイスケは扉に接近した。シャーッ、という音が続いていた。ケイスケは屈み、慎重に扉に右手を伸ばした。間もなくして五指の先端が触れた。ケイスケは優しく押すように浴室の出入り口扉を開いていった。

「失礼しまァす……」

 ケイスケは小声でふざけるように囁いた。

 まず、顔面一面に薄らと湯気がぶちまけられた。視界の中が鮮明になり、今まで、すり硝子で不鮮明だったあの照明の橙色がくっきり視えた。そしてその中に、シャワーを浴びる友希那の姿があった。

 友希那はケイスケに対し、つまり浴室出入り口扉に背を向けてシャワーを浴びていた。すでに頭部の清掃は終えているらしく、優しい温水を浴びてリラックスしているようだった。まるでケイスケに覗かれることを待っているかのように余裕を含んだ様子だった。

 ケイスケは屈み、扉を押し開いていた。扉の隙間ができるだけ広がらないように意識した。浴室から熱気が抜けたことで、友希那に覗きがバレてしまってはいけない。そのためケイスケは、最小限の隙間から視線を伸ばし、湯煙と戯れる友希那を眺めた。

 待ちに待った友希那の裸だった。

 努力した先に待つ絶好の友希那だった。その裸はやはり、艷やかな肌肉でほっそり造られており、胸部はそれほど豊かではないが柔らかく突出していた。臀部には十分な肉厚があり、その輪郭を誇張するようにシャワーの温水が滴っていた。背中一面に薄紫の滝が流れている。それはつまりは友希那の長髪で、温水や熱気によって湿った美しい髪型は今は肌色の上に貼り付いていた。

 ケイスケは狭い隙間から友希那の裸を視ていた。友希那がシャワーを浴びる、プライベートな様子を違法的な方法で観察していた。それはまさしく女神の様子だった。誰にも邪魔されない、誰に気を配ることもない友希那の様子がそこに広がっていた。

「む……」

 ケイスケは視線を尖らせた。唐突に、浴室内の湯煙がもうもうと色濃くなった。白色の柔いものが友希那の裸を包み、影だけがケイスケの目に視えた。湯煙は出入り口扉からケイスケの顔面にまで流れ、若干の熱気の中にどこか甘いにおいがあるように思われた。

 ふと、ケイスケはあのシャワーの音が聞こえないことに気付いた。

 シャーッ、という音がどこからも鳴っていなかった。それは、つまり友希那がシャワーを停止させたということだった。

 ケイスケは屈んだ状態のまま身体を強張らせた。何かマズイと思っていた。切羽詰まっていた。喉元にまで、重たい焦燥がせり上がって息苦しかった。ケイスケは濃厚な湯煙の中に光を視た。それは浴室内の照明ではなかった。どんな光よりよく知る、あの黄金色の二つの燦然とした鋭さだった。

次の瞬間、ガシャン、という音と共に浴室出入り口扉が勢いよく開けられた。

「あなた……」

 裸のままの友希那はケイスケを見下ろして低く呟いた。

「さ、作戦失敗……」

 ケイスケは角張った喉で呻いた。それは軍隊を気取った慇懃な口ぶりだった。

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