耐久性の高い道路を作るために、路面をアスファルトやコンクリートなどで固めること。路面を構成する層を緻密・平坦にすることで、雨天時の道のぬかるみなどを防止し、走行・歩行時の快適性や安全性を高めることができる。
アザミマコの抜けたアイドル枠に滑り込む形で新生B小町は露出を増やした。
そこは流石のミヤコさん。
敵を作らずあくまでも「番組に穴を開けないため」という提案として私たちを売り出してくれるものだから、苺プロは番組制作側には感謝された上でまんまと出番を獲得することが出来た。
更に言えば、アザミマコに対してB小町の、特に星野ルビーの評判はすこぶる良いのも功を奏した。
俳優に転向するか迷っていたアザミマコは、アイドルをどこかおざなりにしている節があった。仕事へのモチベーションが低かったのだ。
共演者や制作陣は出演者の番組へのモチベーションを敏感に嗅ぎ取る。どれだけテンションが上がらず、モチベーションが湧かない現場だとしても、「一生懸命にやっている」と見せる努力は最低限しないといけない。
そういう意味では、アザミマコには俳優としての適性は無かったのだろう。その程度の仮面すら被ることが出来なかったのだから。
と、偉そうに語ったけれど、これらは全部お兄ちゃんからの受け売りだ。
特別愛想を良くしたつもりもないし、媚を売ったつもりもない。
単にやっとテレビでアイドルのお仕事ができることが嬉しくて、楽しくて仕方が無かっただけなのだ。それはMEMちょも同様だろう。
お兄ちゃん曰く「そういうのが一番受ける」らしい。
私としては、美人系アイドルのアザミマコさんがアイドルを辞めようと思っていたことがショックだったし、枕営業をしていたこともショックだった。
マコさんとの件でスキャンダルになった監督さんは、ジダンになったとかで、よくわからないが逮捕にはならなかったらしいけれど、しばらく活動自粛とのこと。
なまじ顔が売れている監督だからイメージダウンの影響はバカにならないらしい。
やっぱり未成年に手を出す男って最低っていうこと。
手持ち無沙汰だったので、五反田監督の部屋のDVDを物色している後ろで、お兄ちゃんと監督はさっきから難しい顔をしてお話ししている。
お腹空いたから、早くおばちゃんのご飯が食べたいんだけど。
「島の奴、前々から忠告してたんだけどな。程ほどにしとけって」
「下半身の緩さはもって生まれた業だからな。どれだけ普段理性的な人間でも緩い奴は緩い。ましてや、しゃあしゃあとスキンシップの一つだと公言してたらお察しだな」
「俺はその年で男の下半身事情をバッサリと切り捨てるお前が怖いよ早熟」
「どこぞの監督くらい引きこもりの人嫌いだったら、大した記事にもならなかったんだろうけどな」
「お前の師匠への敬意の無さはマジでなんなんだ」
「子供部屋おじさんが師匠だと敬意を持ちたくても持てねぇよ」
「うちの飯でデカくなったくせに随分な口を叩きやがる」
「おばさんのご飯な」
子供の頃から何度も目にしたお兄ちゃんと監督の喧嘩。
五反田監督はお兄ちゃんが甘える数少ない大人だし、私も小さい頃からお世話になってる人。親戚のおじさんみたいな感じ。お兄ちゃんにとってはもしかしたらお父さんかもしれないけど。
「で、星野兄妹セットで来るなんて久しぶりじゃねぇか。妹はアイドル活動が忙しくなってきたんだろう。お前ら最近テレビでもちょくちょく目にするぞ」
「おかげ様で楽しくやらせてもらってま~す」
「あの有馬かながメンバーに入ったって聞いたときは耳を疑ったけどな。おいアクア。お前もしかして、今日あまに出たのってこのためか」
思わぬ言葉にお兄ちゃんを見る。
「仕事量は減ったとはいえ、アイツの知名度はうちのどのタレントよりも高い。うちはネット関連で知名度を上げているが、テレビの影響力はアイが活動していた頃に比べるとまだまだ弱い」
「アイの抜けた穴を有馬かなに求めるのは役者不足じゃねぇのか?」
「アイの代わりなんて誰にも出来ない。それをアイツに要求するのは酷だろ。けれど無いよりはマシだ。有馬を引き入れれば十分に話題にはなると思った。良くも悪くも多少は話題になったからな、“あんなドラマ”でも」
せせら笑うように、お兄ちゃんが小さく笑う。
とっても悪い顔だ。
せんぱい ─── 有馬かなの加入をもって、私とMEMちょのコンビ『ルビめむ(仮)』は正式にアイドルグループとして『B小町』を名乗ることになった。
元々ネットでは結構人気のあった私たちに、お兄ちゃんがスカウトしてきた元天才子役が加わったことは、ちょっとした話題になった。
トレンド入りしたのなんて、私初めてだよ。
「B小町に注目を集めるための手札は多いに越したことは無い」
「可愛そうに…有馬の奴…こんなシスコンに目を付けられたばかりに」
「人聞き悪いこと言うなよ。有馬だってその辺は織り込み済だろ。そうでなけりゃ、いくら押しに弱いって言ってもアイドルなんて引き受けないだろ。あいつも伸び悩んでた自分へのカンフル剤を求めてたんだろうし」
「……お前、そういうところだぞ、マジでいつか刺されないように注意しろ」
それについては同感だよホント。
お兄ちゃん ──── せんせは女心を擽るのが上手いくせに女心に鈍感なところがある。
いつか刺されてしまわないか、たまに本気で心配になる。
「で、妹を連れてきたのは?うちのかーちゃんの飯を食いに来たわけじゃないだろ」
「それもある」
「おい」
「てか、その様子だとまだ鏑木さんから話行ってないのか?」
「なんだよ…おい、まさか」
「拘りの強い師匠に大舞台を用意してやったぞ」
鞄からお兄ちゃんが取り出したのは企画書の束。
ちらっと見えたタイトル的に映画の企画っぽい。
「島監督に回ってくるはずだった仕事、多分アンタにお鉢が回ってくるぞ」
「鏑木さんが関わってんのかよ…でも、俺はなぁ」
「スケジュールのやりくりは低予算で慣れてんだろ。幸い持ち出しは少ない。当たれば御の字、外れても島監督と鏑木さんに責任はおっかぶせればいい」
「降板してる役者だっているだろ」
「そうだな。主演とメインキャラの女優が空白になってるな」
「オイまさか」
「うちの妹、俺より遥かに才能がある。有馬も演技力としては問題無いだろ。これで主演とメインキャラの席は埋まる。どうせ期待されてない映画なら、好き勝手させてもらうぜ」
監督はあんぐりと口を開けていたけれど、私も同じ気持ちだった。
お兄ちゃんには監督の家に行くからついて来いと言われただけで、私は最近二人きりになる時間が減っていたのもあって、二つ返事でOKしてしまっただけだ。
先輩の話題とか、お兄ちゃんの出ていたドラマの話くらいは出ると思っていたけど、まさか私を映画に捻じ込む交渉だとは思わなかった。
「ったく…どういう手を使った?そうそう都合良く話が転がり込んでこねぇだろ」
「普段からの綿密な人脈確保の賜物と思ってくれ」
「役者以外の仕事がどんどん上手くなる…それも肥やしになってるようだからあえて何も言わんが、足元を掬われるようなことはするなよ」
「肝に銘じておく」
話の内容はよくわからなかったけれど、お兄ちゃんが私を女優としても売り出したがっていることだけはわかった。
お兄ちゃんはいつも通り余り表情を変えずに監督に頼まれた編集作業に取り掛かっている。
何でも無いことのようにふるまっているけれど、ちゃんと覚えていてくれているんだ。
小さかった頃お兄ちゃんが私に女優の才能があると言ってくれたことを。
ママのようなアイドルになるのは私の夢だけど、せんせが才能があると褒めてくれた女優にも密かに興味があった。
それをせんせはちゃんと察してくれて、後押ししてくれているんだ。
女優のことだけじゃない、B小町だってそうだ。
せんせは覚えていてくれたんだよね。あの日、最後にせんせとお喋りした時のことを。
私が見た夢のお話、アイドルになった私さりなと、仲良しの女の子2人とでB小町をやっている夢のお話だ。7人だったB小町なのに、私の見た夢では3人だったと、私は少しでも最後の瞬間までせんせとお喋りしたくて口にした他愛のない夢のことも、きちんと覚えていてくれて、“私のために”3人そろえてくれたんだって、私はわかってる。
胸の奥がきゅうんと甘く痺れるような痛みが走る。
こういう何気ない瞬間に、私はお兄ちゃんに、せんせに愛されていることを実感してしまうのだ。
私は顔がにやけるのをなかなか抑えられなかった。