それは何もかもが鮮明に、美しく感じられる時でした。
気が狂いそうな静寂は終わり、私は全身で『熱』を感じていました。
飛び込んだ天災雲の中に充満する、活性源石の猛烈なエネルギー。その一粒一粒を、何十年も寄り添い続けたパートナーのように感じられます。直径数十キロに渡る破壊の渦そのものが、手のひらで眺める玩具の模型のように軽く小さいものみたい。
エネルギーの全てを、熱として知覚する。その感覚器官には上限がありませんでした。
何も見えず、何も聞こえないのに、まるで全てを手にしたよう。
これまでになく意識が冴え渡る。身体全体が、たったひとつの細胞で出来ているみたい。
何一つ疑問が浮かばない。やるべき事のために身体が動く。
──皆を、守らなければ。
私は活性源石の嵐の中で、炎を放ちました。
それは炎を産み出すというより、まるで身体にちょっと穴を空けて、はじめから体内に充満している炎を溢れさせるように些細な事に感じられました。しかし私の放った炎は、核分裂のような壮絶な熱を産み出し、嵐そのものを殴りつけました。私のアーツは、天災雲に含有した活性源石に伝播し、粉塵爆発のような勢いで炎が広がっていきます。
このまま全てを焼き尽くそうか──その思考に割り込んでくる、猛烈な危機感。
空から私に向けて、熱エネルギーが迫りくる。私は手のひらを翳し、炎を放ちます。
天災雲の彼方から雷が迸り、私の放った炎とぶつかって激しい爆発を引き起こしました。
私の熱感知は、遙か彼方、天災雲の中を泳ぐソレの存在を知覚します。
ソレは、仲間と思っていた私に牙を剥かれ、困惑と苛立ちを感じているようでした。再び稲妻が放たれ、私を貫かんとします。
それは、凄まじい力を得た私を圧し負けさせる程の強力なエネルギーでした。炎を産み出して相殺した私の腕が、砕け散るような衝撃に震えます。
私は天災雲の中を飛び、雷を躱しながら、ソレへと炎を放ちました。源石粉塵に誘爆を繰り返しながら広がる爆炎は、ソレに到達する前に、放たれた無数の雷によって打ち消されます。
天災雲の嵐の中を飛び回りながらの、炎と雷の応酬が始まりました。
受け流すしかないほど強力な稲妻が雨のように降り注ぐ。私はそれを必死に掻い潜りながら、ソレに向けて炎を放つ。
全身を蝕む活性源石、その全てを使った私の炎は、ひとりの人間に許されるアーツの出力を遥かに凌駕しています。それでも、力の差は歴然でした。私が必死の思いで放った一撃はあっけなく打ち消され、お返しのように数倍の威力になった雷が私に襲いかかる。いつしか私は攻撃の手を止め、自分に迫る雷を防ぐ事に集中せざるを得なくなります。
雷がほとばしり、私の胸を貫く寸前に炎にぶつかって弾ける。熱を感知する私の感覚器官が、衝突するエネルギーを赤い嵐のように受信する。まぶしいほどの熱。うるさいほどの熱。やかましいほどの熱。その熱の一筋でも触れれば、私は立ちどころに蒸発してしまうでしょう。私は息を詰め、感覚の全てを総動員して熱を捉え、雷に炎をぶつけて相殺する。
まるで両手を振り乱して、降り注ぐ雨を打ち返すような、脳回路が焼けそうな全力の防戦。
そんな戦いとも呼べない苦し紛れの時をやり過ごす中。
私は徐々に、自分の身体が変質していくのを感じました。
まるで水が氷に変わっていくように。体中に浮いた源石結晶が、パキパキと肉体を浸食していくのを感じます。肉体が転化した活性源石は、その瞬間に私のアーツの触媒となる。
浸食が進む度に、『私』が炎に入れ替わっていくのを感じました。私の放つ炎は一秒毎に威力を上げ、同時に私自身も炎の中に消えていく。
炎と私の境目がなくなっていく。
肉が、骨が、魂が、炎になって消えていく。
ロドスの植物園で花を撫でた指が。火山を踏破し大地の雄大さを感じた足が。アンジェリーナさんやウタゲさんにおしゃれなセットを沢山して貰った髪の毛が。マゼランさんが秘境研究のおみやげに持ってきた沢山の地域の缶詰に一喜一憂した舌が。先輩に「いつもありがとう」と褒めて貰った時に撫でて貰った頬が。
私が、思い出とともに焼けていく。
もっと大きなものへと変化していく。
それは何か偉大な一歩を踏み出すようであると同時に、たまらないほど恐ろしくて。
「っああ……あああぁぁ……!」
気がつけば私は、源石嵐の只中で泣いていました。
失う事とは、どうしてこんなにも恐ろしいのでしょう。どれだけ覚悟を固めても、これしかないと理解していても、どうして心が怯え震える事を止められないのでしょう。それが人間なのだとしたら、最後に失うために何かを得続ける私達は、なんて不都合な存在なのでしょう。
そんな恐れに駆られ、文字通りに身を焼き焦がしながら放つ炎も、やはり遙か彼方を泳ぐソレには届かなくて。
とうとう、ソレの放った一撃が、私の全身を強烈に打ち据えました。
元々ひびの入っていた身体が、砕け散るような衝撃。私は苦痛に叫び声を上げながら、天災雲の中を落ちていきます。
パキパキという音が、身体のあちこちから響いていました。皮膚、内臓、脳、意識そのものまでもが源石結晶に置き換えられ、私を犯していく。
脳が掻き回されるような感覚がして、平衡感覚を分からなくなり──そんな私を、二発目の雷撃が打ち据え、大地に叩き落としました。
体中の骨が砕け、全身がぺしゃんこに破裂するような衝撃。源石に置き換わる前の私の肉体が、猛烈な痛みを訴えます。
バキンッという絶望的な音が、身体のどこかからします。全身に意識を巡らせると、右の足首から先がなくなっていました。そこはもう源石結晶に完全に置き換わっていて、痛みすら感じません。私の魂は、足を失った喪失感すらもたらしませんでした。
無尽蔵のように放たれる炎とは裏腹に、『私』という存在は、もう風前の灯火でした。
その僅かに残った意識が、侵され消えていく恐怖に、泣き叫びます。
こわい。こわい。いやだ。つらい。いたい。死にたくない消えたくない終わりたくない。
もう後戻りなんてできないのに、怯えが消えない。歯の根が合わない。
もし、私の意識がこれ以上畏れに屈し、ほんの少しでも諦めがよぎれば。結晶化の進む脳はあっという間に意識を手放し、体内の炎に身を委ねさせたでしょう。
内側に渦巻く『羽化』の衝動に耐えきれず、ソレと同様、空を埋め尽くす破壊の権化としての昇華を引き起こしていたに違いありません。
──だから、きっと。
その時起きた事は、奇跡だったに違いありません。
──────────────────────
真っ白な世界の最果てに、何かを感じる。
空気のうなりのよう。
頬を撫でるそよ風のように細やかで、なのにとても必死な気配。
─────────ァ──────!
怯えきった意識が最後に見せる走馬灯なのだと思いました。
それは、私がとっくに諦めた、失って久しいものだったから。
でも、真っ白な私の世界は、いつまで経っても、現在を生きる私が見る、真っ白なままで。
「……ぁ…………ぁぁぁぁ…………!」
目が覚めるような心地。
私は、自分がロドス・ターミナルの甲板の上に叩き落とされた事を理解します。
そうして、聞こえる。
「エイヤフィヤトラ! ッ──エイヤフィヤトラぁぁぁぁ!!」
皮膚を震わせる程の叫び声と一緒に、私は抱きかかえられました。
ジュウッと水分が蒸発する音に、苦悶の呻き声。
結晶化した私の全身は、炉にくべた鉄のような高熱を発していたでしょう。しかし私の身体は、抱き起こされたまま落とされる事はありませんでした。
「っぐぅ、うううううう……! ッエイヤフィヤトラ。しっかりしてくれ、エイヤフィヤトラ!」
……ああ、これは神様の悪戯でしょうか。
脳が崩壊していく中で、断裂した神経回路が、奇跡的にも脇道を見つけたのでしょうか。
「──ど、く、たー」
私は、私にも聞こえる声で、彼の名前を呼びました。
もう二度と、得られる事は無いと思った私の声。彼の声。
死にかけの私の心が、蘇るのを感じました。
「どくたー……ドクター、ドクター。ドクター」
「ああ、エイヤフィヤトラ……なんて姿に……!」
頬に滴が落ちて、ジュウと蒸発して消える。
私はほぅと胸を安堵しました。同時に、涙が出るほど嬉しくなりました。
ああ、本当に……思った通りの、優しい声。
私は真っ白な世界で、虚空に手を伸ばします。
既に源石化して感覚を失った手を、彼が掴みました。ジュウウと皮膚の焼け付く音も異に介さず、ぎゅっと、強く。
「ドクター……」
パキパキという源石浸食の音はひっきりなしに私の中に響いています。
どんな奇跡でも、私の残り数分の命を引き延ばす事はしてくれません。
だから私は、最後に──真っ白な世界の向こうに、確かに繋がる貴方に。
この世を去るに相応しい、最後の言葉を求めます。
「まだ、私を愛してくれていますか?」
縋るような、祈るような、願うような、問いかけ。
返ってきたのは、焼け付く我が身よりも熱い、抱擁でした。
「愛し続けるよ。君と、僕の世界が終わるまで」
そうして彼は、静かに私の唇に、自分の唇を重ねました。
ジュウウと皮膚が焼け付く。柔らかな唇が焼け焦げ、焼けた鉄のような私に張り付く。
激痛と悲壮さを伴うそれは、肉体を溶かし合い一つになるような、世界中の何よりも満ち足りたキスでした。
やがて複数人の足音がして、彼の身体が無理矢理に剥がれていきます。
「何をしてるんだ! 活性源石の塊だぞ、感染者になりたいのか!?」
「構わない。この瞬間に彼女を愛せるなら、未来なんて要らない……!」
「いいから離れろ、焼け死ぬぞ! 早く! 離れるんだよ!」
「いやだ、行かないでくれ。エイヤフィヤトラ……!」
彼の泣き声が遠ざかっていきます。
上空のソレが、ロドス・ターミナルに狙いを定めて雷を落とすのが分かりました。
だから私は、内側の炎を解き放ち、移動都市に迫る雷を消し飛ばしました。衝撃に、彼らが甲板を転がる音も聞こえます。
「……ありがとう、ドクター」
──もう、迷いも未練もありません。
私はもう一度空を見上げ、ゆるやかに上昇していきました。
ドクターの私を呼ぶ声が遠ざかっていく。彼はロドス・ターミナルの甲板で沢山のスタッフに取り押さえられながら、涙の溢れる目を、ずっと私に向けている。
最後まで、私を私として見てくれている。
目が見えなくても、それが伝わったから。
私は、私を薪として、火にくべました。
その途端、私の内側から、これまで以上に凄まじい炎が溢れ出しました。炎は立ち所に私の周囲を埋め尽くし、際限なく広がっていきます。
「っああ……あああぁぁぁぁぁぁ──ッ!!」
身体中を駆け巡る源石結晶が煌々と光を上げているのが分かります。
源石が次々と結晶化して私の肉体を浸食し、全く別の存在へと転換させていく。
私はその、肉体を貪って生成されていく源石の全てを、私のアーツの触媒として使います。
体中から炎が吹き出し、収束して温度を引き上げ、天災雲を炎で灼き尽くしていく。
それは、思わず泣き叫ばずには居られないほどに、絶望的な喪失感でした。身体が、意識が、炎に喰われていく。私が炎になっていく。
「あああああぁぁぁ──ッああああああああああ!!」
大地で見上げているドクターからは、きっと、突然に恒星が誕生したような、凄まじい光と熱を目撃したに違いありません。
ソレは警戒心を爆発的に引き上げて、これまで以上に大量の雷を私に向けて放ちました。しかしそれは、私自身を燃やしながら生成した火球の表面に傷一つも付ける事はできません。
ぱきぱきと音を立てて、肉体が源石結晶に置き換わり、削れていく。
奇跡的に復活した耳に、永遠の別れが訪れました。
腰から下は、すでに自分の物ではなくなっています。
ばきんと腕を立てて右腕がへし折れました。それは砕け散った端から活性源石となり、灼熱の炎となり、私の周囲を渦巻きます。
引き延ばし続けていた終わりが、とうとう私に訪れます。
「────────────────ッ」
この期に及んでも、怖い。
つらい。悲しい。苦しい。虚しい。
誰かに手を握っていて欲しい。抱きしめて欲しい。なのに私には、もうそれを許される身体すら存在しない。
もっと幸せな結末を空想し、その甘い夢に逃げたくなる。
自分の運命を呪いたくなる。
──でも、でも、それでも。
遙か下の地上で、ドクターが私を見ている事が分かりました。
彼はずっと、涙を浮かべた目で、私の一部始終を網膜に焼き付けていました。
ああ……そう。そうなのです。
私は幸せ者です。こんなにつらく苦しい世界でも、孤独ではなかったのだから。
パキパキと源石に転換し、その端から炎になっていく。
焼け付いていく脳細胞が、燃え盛るその瞬間に、私の世界に眩い色彩を残していく。
沢山の仲間と共に戦った日々。やりがいのある研究の日々。友達と語らいあった和やかな日々。汗水を流して頑張った日々。つらくて泣いた日々。慰め合った日々。喜びあった日々。
愛おしく、素晴らしい、大好きな時時。
私の中からこぼれ落ちて、炎になっていく記憶の数々が見せる、鮮やかな虹色の色彩。
それは間違いなく、今日まで生ききった私を讃え、私の決断を誇る、祝福の花火で。
「っああ……ああぁ……!」
きっと、息を吸い込む肺と、叫ぶための喉を残してくれたのは、神様の慈悲なのでしょう。
だから私は、残された命の限りに息を吸い込んで。
溢れ出す気持ちを、焔の中で叫びました。
「ああぁぁぁぁぁ──大好き。大好き、大好き! 大好き、大好き、大好き、大好きでした! 本当に本当に、大好きでしたッ!!」
ああ、近くを移動するロドス本艦からは、私は見えているでしょうか。
私の生きた移動都市。私の人生が詰まった素敵な場所。
どうか私の声が届きますように。私を燃やして輝く炎が、あなたたちに見えますように。
私は本当に幸せでした。
私の生きた日々は、沢山の輝きに溢れていました。
私の鉱石病を支えてくれてありがとう。
私の日々を、きらめかせてくれてありがとう。
「大好き、大好き! 大好き、大好き、大好き──!」
アーミヤさん。ケルシー先生。オペレーターの、ロドスの皆さん。
皆さんのお陰で、私は、鉱石病患者という呪われた境遇からは考えられない程に、幸せな時を過ごす事ができました。
鉱石病患者にとって、お腹を空かせて行き倒れる事のない生活がどれほど得難いか。私の炎を、誰かを傷つけ奪う事でなく、救うために使える事が、どれほど心を楽にしてくれるか。
肌に浮いた源石を隠す必要のない居場所がどれほど心地良いか。そして、それでも抱かずにはいられない、源石に犯された身体を醜いと感じてしまうつらさを、理解し合い、慰め合い、共に泣いて分かち合ってくれる人達がいる事が、いったいどれだけ嬉しい事か。
自分を憎まず、誇りに思える事が、いったいどれほど幸せか。
ロドスの皆さんのお陰で私は、自分を憎まないで生きる事が出来ました。
私にエイヤフィヤトラという生き方をくれて、本当にありがとうございました。
──先輩。
私を導いてくれてありがとうございました。
あなたの役に立てる事が、心の底から嬉しかった。あなたに「ありがとう」と言われる度に、身体をぎゅ~~っと抱きしめられるようなたまらない気持ちにさせられました。
あなたが私を褒めてくれた時の胸の高鳴りは、世界で一番瑞々しい感情を教えてくれました。
感染者の私に、恋を教えてくれてありがとうございました。
きっとこれからも、あなたは沢山の人を、世界を、救うのでしょう。
そんなあなたの傍に一時でも居られた事を、嬉しく思います。
そして──ドクター。
私から、孤独を取り除いてくれてありがとう。
あなたのお陰で私は、想像を絶する苦しみの中に於いても、私を失わずにいれました。
痛みに苛まれ、感覚を奪われる喪失感に啜り泣きながらも、真に絶望だけはしないでいられたのは、あなたが私を愛してくれたから。
最後まで、私を愛してくれてありがとう。
ひとりにしないでいてくれて、ありがとう。
怪物に変わりゆく私を、人として見てくれてありがとう。
「大好きです! 先輩。ドクター! 大好き! 大好き大好き! 大好きッ!」
ああ、思い出が燃えていく。
私から削れて炎に変わる、その光彩が、真っ白な世界を美しく満たしていく。
私は、誇りを胸に死んでいきます。
私が生きてきたこれまでの日々は、宝石のように輝いています。
私はエイヤフィヤトラ。
天災学者。ロドスの術師オペレーター。
若くして命を散らす、鉱石病患者。
ロドスが救えなかった、沢山の患者の一人。
そして、ロドスに生きる意義を教えられて救われた、無数の命の一つ。
どれだけつらくても、怖くても。私が迎えた終わりには、ほんの少しの後悔もありません。
アーミヤさん。ケルシー先生。オペレーターの皆さん。先輩。ドクター。
本当に、本当に、本当に、心の底から大好きでした。
皆さんから貰った、きらめくような沢山の思い出が、私の血肉となり、勇気になり、最期に皆さんを守る決意になります。
大好きな皆さんを照らす、炎になります。
だから──だからどうか、お願いです──
どうか空を見上げて、目を逸らさないで。
私の最期の光芒を忘れないで。
皆さんを愛した私が、誇りを胸に、最期まで私のままで終わった事を、どうか覚えていて。
この意識が潰えるその時まで、私とつながっていて。
皆さんに救われた命の輝きを。
何一つ後悔のない命の終わりを。
私が焼け朽ちる所を、どうか見ていて。
星屑のように身体が溶けていく。
私の意識が、煌めく焔と同一のものへと変わっていく。
『私』は天災雲を焼き焦がしながら空を広がり、嵐の中を漂うソレを飲み込みました。
ソレが苦悶の呻き声を上げます。
その声には、理解できないと言った困惑と、仲間だと思ったのにという失望がありました。私はその失望を炙るように、更に炎を叩き付けます。
そう、私はあなたたちの仲間には加わらない。
ここにいるのはエイヤフィヤトラ。
大切な人達を守るために最後まで戦う、ロドスのオペレーターなのだから。
私の覚悟を乗せた炎はソレの全身を焼き、殴りつけ──とうとうソレは、抵抗する事を諦め、緩やかに進路を変更させました。
渦巻く天災雲が、ロドス・ターミナルから去って行きます。
その天災雲の中に漂う私も同時に、去っていく。
役目を終えた焔が、ゆるやかに火勢を落としていく。
炎を放っていた源石結晶が、ふっと光を落とし、ただの源石の塵になって、天災の嵐を構成する粒の一つとして混ざっていく。
さらさらと、意識がほぐれていくのが分かりました。
私は最後に、ぱちぱちと焔を星のように瞬かせて、最後の「ありがとう」を輝かせました。
そうして私は消えていく。空へと溶けていく。
それは、燃え尽き終えた炭が灰になり、風に乗って流れていくように。
私の最後には、ただただひたすらに、穏やかな静寂が待っていたのでした。