僕の抑圧された感情が弾け、決定的に変わった瞬間は、それから三日後の夜の事だった。
末期患者ばかりを集めたロドス・ターミナルでも、夜になれば一応の静けさを見せる。
僕が夜間の巡回をするだだっ広い廊下は、極めて濃度の高い漆黒の闇に覆われていた。窓がないから月明かりも差し込まないし、節電のために明かりも点灯していない。
天井の照明は感知式になっており、誰かが歩くと作動し、その周囲だけを明るく照らす。切り替わっていくスポットライトを浴びながら、僕は夜間の巡回をこなしていた。かつ、かつという靴音が、広い廊下に不気味なほど大きな反響を残す。
それぞれの病室に備え付けられたコンソールの弱い明かりが、暗闇にぽつぽつと浮かび上がっている。それは暗闇を根城にする獣の目のように不気味で、まるで自分が、理性の通じない荒野に放り出されたようにも感じられる。
「……」
足取りに迷いは産まれなかった。というより、もはや何も考えていなかった。
やるべき事をやるという使命感のようなものに突き動かされて、僕は本来の巡回ルートを外れて、下層の特別病棟へと向かう。何年も働き続けた職場だから、暗闇に包まれていても、目的地である病室まで迷う事はなかった。
辿り着いた病室の扉は、光で白く縁取られていた。明かりが灯っているらしい。耳を押し当ててみるが、分厚い鉄扉は、物音程度なら全く通さない。
鼓動が早い。頬に汗が滴る。僕は深呼吸をして、逸る気持ちを抑える。
「こうするしかない……こうするしかないんだ」
ズボンのポケットから、忍ばせておいたメスを取り出す。
緊張がいくら押し寄せてこようとも、僕の胸に、ためらいだけは訪れる事がなかった。
これ以上は耐えられない。こうする以外に道はない。
これは、ただ背負い続けた重い荷物を下ろすだけの、簡単な事なんだ。
音を立てないよう、扉をそっと押し開ける。
暗闇にいたせいで、病室内の明かりの眩しさに目が眩む。
彼女は起きているのだろうか? ──だとしても関係のない話だ。目も耳も聞こえない彼女は、どうせ何も気付くことはない。
頸動脈をひと掻き。それで全部終わらせる事ができる。
あるいは、錯乱した彼女の業火に灰とされるかもしれない。
だが、その結末の違いに、どの程度の意味があるというのだろう。
終わるならそれでいい。どうでもいい。もう何もかも。
そう胸に繰り返しながら部屋に入った僕は──思わず、動きを止めていた。
「……、…………」
エイヤフィヤトラは起きていた。自分のベッドの上に座り込んでいる。
彼女の周囲には、大量の書類が積み上げられていた。点字が印字されたそれは、通常の文字よりも一ページあたりの文量が多くないとはいえ相当な量がある。その紙の山をベッドに広げて、エイヤフィヤトラは一心不乱にページに指を走らせていた。
目元を包帯で覆った彼女の表情は固く、点字を追う指の速度は凄まじいほど速い。
鬼気迫ると言っていいその様相は──とても、活き活きとしているように映った。
「……何をしているんだ?」
無意識のうちに、僕は声をかけていた。
果たして、視覚と聴覚を失った状態で、何を感じ取ったのだろうか。エイヤフィヤトラは、夢から覚めるように文字を追う指を止めた。
包帯を巻いた目が、入口のドアの辺りを向く。
「……sえnpああぁ?」
呂律は崩壊していたが、誰を呼んでいるかは分かる。
声色には、誰かがいるという確信があった。
エイヤフィヤトラが残された感覚を研ぎ澄ませ、しんと静まりかえった病室に、蜘蛛の巣のような感知の網が貼られているように感じられる。
こうなれば、何も告げないまま、怖がられて錯乱を起こす方が危険だ。僕は近づき、エイヤフィヤトラの肩に軽く触れた。
「sええぱぁ……!」
驚き混じりの、喜びの声。エイヤフィヤトラの顔に、年頃の少女のようなあどけない笑顔が浮かぶ。
僕は片手にメスを持ったまま、もう片方の手で、エイヤフィヤトラの手を取り、手のひらに指を押し当てた。
──じ、ゆ、ん、か、い、ち、ゆ、う
──あ、か、り、が、つ、い、て、た
使える文章は、必然的に簡潔なものになる。
エイヤフィヤトラは手のひらの感触に、意識を総動員させているらしい。息を詰めて、小さな桜色の唇が、手のひらに書いた文字を反芻している。
雪のように白い彼女の首は、あまりにも無防備だった。
メスを握る手にぐっと力が籠もる。しかし僕の心が、それを突き立てるのに待ったをかける。
僕はエイヤフィヤトラの手のひらに、更に文字を書く。
──な、に、を、し、て、い、た、の、?
読み取ったエイヤフィヤトラは、まるで親に秘密基地を見つかった子供みたいに、照れくさそうにはにかんだ。
彼女はベッドの脇のPCを起動し、キーボードを打つ。
『本を読んでいました。テラ各地の情勢と、天災に関する最新の研究についての本を』
「……」
『今の印刷機はすごいです。読みたい本があると、その場で点字に翻訳して、印字してくれるんです。お陰で目が見えなくなっても、情報収集に苦労することがありません』
………………何か。
何かどす黒く粘ついた感情が、僕の胸の中に滴り落ちてきた。
意味もなくごくりと唾を飲み込んで。僕はエイヤフィヤトラの手を取って、更に文字を書く。
──こ、ん、な、に、お、そ、く、ま、で、?
読み取ったエイヤフィヤトラは、首肯して、キーボードに文字を打つ。
『やっぱり点字だと、訓練しても、普通に読むよりも遅いですから。他の人より沢山時間をかけなければいけないんです』
『ごめんなさい。夜更かしは、いけない事ですよね……でも、最新研究に追いつくには、こうするしかなくて。無茶はしないようにしていますから、心配しないでください』
そう書いて、エイヤフィヤトラはばつが悪そうにはにかんだ。
滴り落ちてくるどす黒い感情は、とめどなく胸の内に溜まっていく。
僕は乱暴に彼女の手を取り、手のひらに指を押し当て、聞いた。
──ど、う、し、て
そのたった四文字の僕の問いを、エイヤフィヤトラは理解できないみたいだった。
何か続きの言葉があると思ったのか。僕が手を離しても、彼女はしばらく、物乞いのように手のひらを虚空に翳していた。後に続く言葉がないと分かると、今度は困惑げに首を傾げる。
やがて彼女は、戸惑いながらもパソコンに向かった。静まりかえった病室に、かた、かた、とキーボードを叩く音が響く。
『それが、今の私にできることなので』
「……」
僕は佇み、何も言わない。
エイヤフィヤトラは困惑に眉を伏せながら、さらにキーボードを打つ。
『もしかしたら、これまでの私の経験がまだ、天災研究や、ロドスの皆さんの役に立てるかもしれません』
どす黒いものは溜まり続け、圧縮され、やがて強烈な熱を放ち始める。
『私は、ロドスの皆さんの役に立ちたいんです』
そしてそれは、とうとう引火点を超えた。
「どうして──ッどうして!!」
気がつけば、僕は爆発したように叫んでいた。
肌の痺れる感覚で絶叫を察したか、エイヤフィヤトラがびくっと身を竦めて、僕の方に視線を向ける。
「そんな目と耳で何ができるっていうんだ! 錯乱してアーツを暴走させ、何もかも焼き尽くすような末期患者の言葉に、誰が耳を傾けるっていうんだ! 頭が良いくせに、そんな当たり前の事に気がつきもしないのか!?」
「……せえええぱあ?」
「僕を『先輩』と呼ぶな!!」
苛立ちのままに、ベッドの上の書類の束に向けて思い切り腕を振り払った。点字の紙束が激しい音を立てて宙を舞う。目も耳も使い物にならないエイヤフィヤトラは、何が起きたかも分からないまま、ベッドの上でただおろおろと戸惑っている。
「君の妄想に巻き込まれたせいで、僕はめちゃめちゃだ! この地獄に囚われて、君の下らないごっこ遊びに付き合わされ、心を粉々に砕かれている!」
「ぉ……ぉえぅ……?」
「言ってやるよ! 僕はな、君に『先輩』と呼ばれて抱き付かれている間ずっと、君はいつになったら死ぬんだと指折り数えて待っているんだよ! 人生に絶望するなり、鉱石病がとびきり恐ろしい幻覚を見せつけるなりして、早く発狂して自分の喉を焼き焦がして死ねと呪いをかけてるんだ! 君は気づきもしないんだろうな。だって僕が誰かすら分かってないんだから!」
「……」
「ああ、ちくしょう! なんて憐れなんだ! 来るはずのないドクターを妄想で見繕って、まだ自分に何か価値があるなんて信じて本を読みふけるなんて! 君は危険な末期患者だ、価値なんてあるもんか! ドクターが君のためにここを訪れるなんてありえない! 気づけよ! 君はもう学者なんかじゃない! ひとりきりで、ここでみじめに苦しみ抜いて死ぬんだよ!!」
放つ言葉が本心なのか、よく分からない。
果たして僕は、心から彼女を恨んでいるのか。それとも、絶望を煮詰めたような人生の終着点に閉じ込められた自分の哀しみを、理由を付けて当てつけているだけなのか。その判別すら、もう付けられない。
「ああそうだ。僕は君に絶望して欲しい! 僕をこんな所に縛り付ける憎らしい君に、絶望のどん底で惨めに死んで欲しいんだ! 他の感染者と同じように!」
「え、あrろお……」
「なのに君は……君は、どうして……!」
エイヤフィヤトラは、ただ戸惑っている。
耳が聞こえないから、何を言っているか分からない。けれど肌をビリビリと震わせる迫力で、僕が叫んでいる事だけは分かる。
理解のできない状況に、身体をきゅっと縮めて怯えるその様子は──どう見てもただの可憐な少女で、無防備に過ぎた。
手にしたメスで、彼女の首を切り裂けばいいのだ。そうすれば、僕をロドス・ターミナルに縛り付けるものはなくなる。例え彼女を殺した事が発覚しようとも、僕の精神疲労はとうの昔に深刻で、重い罪に問われる事はない。ロドスを解雇されるならむしろ望む所だ。
願い続けた解放が、すぐそこにあるのだ。
なのに僕のメスを握った手は、振り上げられる事がない。
怒りの炎は、胸の内のどす黒い感情を燃料に燃え盛り──その後には、哀しい空虚が残る。
「どうして君は、そんな風に笑えるんだ」
無数の感情が入り混じって、脳が破裂しそうだ。僕は頭を抑え、振り絞るような声で問う。
「耳も目も奪われて、理性すら削られていく。源石結晶の激痛に毎日のように脅かされる……君の余命は、もう三ヶ月もない」
「……」
「君はもうすぐ死ぬんだ。だというのに、どうしてそうやって生き続けようとするんだ。笑って、まだこの世界に希望があるかのように……」
言語化するならば、この気持ちはたぶん、嫉妬だ。
誰も死と、それに伴う苦しみから逃れられない。恐怖は僕らにも伝播し心を壊していく。
なのに、そんな地獄に僕を縛り付けるエイヤフィヤトラは、残された時間を必死に生き抜こうとしている。
たとえ最愛の人を幻覚で見繕う、歪んだ哀れな在り様だとしても。
朗らかに微笑むその姿は、他のどんな患者よりも眩しく、可憐で、瑞々しく。ともすれば僕らスタッフよりも、よほど人間らしいものだった。
僕を地獄に縛り付けるその笑顔に、僕は、魅了されずにはいられない。
「君のように生きられたら。生きている限り良いことがあると心の底から信じられたら、それはどれほど……」
光を求めないヒトは存在しない。
まっすぐ生き続ける彼女を、どうして憎む事ができるだろう。
殺す覚悟を固めてきたはずなのに。ここに来て僕は、罪悪感に押し潰されていた。
ロドス・ターミナルで必死に生きる彼女の命は、まるで闇に覆われた世界で、たった一つだけ残った小さな蝋燭だ。
それを踏み躙る事は、この世界には何の救いもないと、自らの手で証明してしまうようで。
「僕はもう耐えられない。でも君を殺すなんて、僕には……!」
気付けば僕は、両目から大粒の涙を流し、エイヤフィヤトラのベッドの前に佇んでいた。
激情と悲痛で心がぐちゃぐちゃだ。皮膚の内側が溶けて、ヘドロ状のぐずぐずしたものに変わっていくような錯覚を起こす。
きっと、あと一分も経てば、僕の手に握られたメスは、自分の頸動脈にあてがわれていた事だろう。ここから逃げたい、彼女を傷つけたくない、その二つの感情が行き着く先は、それ以外には有り得なかったから。
そんな僕に、彼女は、他の解を差し出した。
「……ぜ、ん、ぱ、ひ」
一音一音を区切るような発音。
顔を上げれば、エイヤフィヤトラがベッドの上から身を乗り出して、僕の服の裾を抓んでいた。その顔は、何か覚悟を固めたようだった。
掴まれた裾をぐい、と引かれる。抵抗する力もなく僕は彼女に引き寄せられる。
「だ、ひ、じょ、vう?」
自分がもう言葉も禄に喋れないと知り、それでも必死に伝えようと試みる途切れ途切れの声は、まるで手のひらに文字を書くようにじれったくて、それよりもずっと温かみがある。
目も耳も聞こえなくても、彼女は僕が、深い悲しみに打ちひしがれている事を察したらしい。
彼女の小さな柔らかい手が、僕の身体を這う。まるで猫の毛繕いのような慰めの行為。ムズムズとしたくすぐったさが襲うが、疲弊した僕の心は、そこから動くという行為を選択しない。
エイヤフィヤトラの手が、僕の腕に触れ、手のひらまで滑っていく。
指先が、僕の手の先、固く握られたメスに触れた。
彼女は一瞬息を飲み、沈黙し──唇を綻ばせて微笑むと、僕の拳にそっと手のひらを重ねた。
僕は反射的に身を引こうとする。その動きを、エイヤフィヤトラの握り込む手が抑える。
「……だぁ、ひ、じょ、ぅvう」
もう一度、今度は言い聞かせるようにそう言って。震えるほどキツく握り込まれた僕の指を、一本一本解きほぐしていく。僕の手から抜き取られたメスはベッド脇のテーブルに置かれ、かちゃんと音を立てる。
エイヤフィヤトラに身体を擦られる間、僕はまるで廃人のように無防備だった。気力を全て失い、ただ小さな手に触れられる心地よさに、浸っている事しかできない。意識はまるで白昼夢を見ているように、現実と妄想の狭間に迷い込んで機能を停止させていた。
エイヤフィヤトラがベッドの上に膝立ちになって、僕の顔に手を伸ばす。
目の前に、目を包帯で覆った、あどけない少女の顔が近づく。緊張のせいか、桜色の小さな唇からこぼれる吐息は少し震えていた。
指が僕の顔に触れ、頬に伝っていた涙に気がつくと、エイヤフィヤトラはハッとして、それから哀しげに眉を伏せた。
僕が何に怒っているかなど理解していない筈なのに、まるで自分の事のように悲しんでいる。
彼女の優しさに、僕はまた泣いてしまいそうになる。
けれどその後に彼女が取った行動は、こみ上げてきた涙を引っ込ませるほどに衝撃的だった。
僕の頬が、彼女の小さな両手に包まれる。
「……エイヤフィヤトラ?」
ようよう気を取り直した僕が見たのは、すぅと深く息を吸い込んだ彼女の顔が、視界を埋めるところだった。
「……ちゅっ」
頬に当たる温かさ。湿っぽい、柔らかな感触。
それがエイヤフィヤトラの唇であると気付くのには、たっぷり三秒ほど必要で。
気付いても尚、何をされたのか分からず、僕はその場に凍り付いた。
「え、エイヤ……?」
「ちゅ、ちぅ……は、む」
桜色の唇を押し当て、小さな舌をちろりと出して。エイヤフィヤトラは、僕の頬に伝う涙を舐め取っていく。
そうして彼女の唇は僕の頬を下っていき──驚きに包まれた僕の唇を、咥え込んだ。
「ふむ……ちゅる」
「ん……んむ……!?」
半開きの唇に滑り込んでくる、熱い舌の感触。
ようやく僕は気を取り戻し、自分が彼女にキスされているという事実への驚きが押し寄せた。
後ずさって距離を置こうとするも、それより早く、エイヤフィヤトラが僕の腰を抱きしめた。予想以上に強い力で抱き寄せられ、さらに深く唇を吸われる。
「える……ちゅ、れぇう……」
「っ……!?」
驚愕。戸惑い。そのどれよりも強い──口内を舐られる、痺れるような快感。
僕は金縛りにでもあったように全身を硬直させ、エイヤフィヤトラの舌が僕の舌を絡め取り、唾液を啜るのを、無抵抗に受け入れた。
そうして、たっぷり十秒ほどキスを続けて、エイヤフィヤトラの唇が離れていく。
ちゅ、と水音を残して顔を離し、彼女の顔が露わになる。
「……ふぅ……ふぅ……」
艶めいた浅い呼吸。紅潮した頬。
目元を包帯で覆い隠しても、彼女が、何かを請うように切なげな表情をしている事が分かる。
僕はそれ以上に息を荒げて、愕然とその顔を見つめるほかなかった。
気が動転して、心臓が破れそうなくらいに高鳴っている。
訳が分からなかった。まるで時間を三十分ばかり飛ばされたみたいだ。どうしてこんな状況になっているのか、まるで理解できない。
けれど、僕の口中に残る、彼女の舌のぬるりとした気持ち良さは、生々しいほどリアルで。
彼女から仄かに漂う少女の香りは、絶望に疲弊した頭に劇薬のような強烈さで火花を散らす。
「……sえぱ……」
呂律の破綻したその声は、ぞっとするほど艶めいていて。
残っていた理性が、蕩けて脳から溢れる音がした。
「ッが、あ、うがあああッ!」
気付けば僕は、錯乱した患者のような呻き声をあげて、エイヤフィヤトラに迫っていた。
突き飛ばすような強さで彼女をベッドに押し倒し、その上に飛びかかる。衝撃でベッドに散らばっていた点字のコピー用紙が、バサバサと音を立てて散らばる。
エイヤフィヤトラの両手を握り込んでベッドに押しつけ、仰向けの恰好に組み伏せる。改めて握り込んだ彼女の手首は痩せ細り、骨の硬さが手のひらに伝わってきた。
エイヤフィヤトラの顔に恐怖はなく、先ほどと変わらない、艶めいた吐息を繰り返している。
まるで、その唇から放たれる、何か魔力めいたものに絡め取られたみたいに。
僕はエイヤフィヤトラの、子供のように小さく柔らかな唇を、貪るように啜った。
「っんむ、ちゅ、ちぅ……じゅるる、ちぅ、ちゅぅぅっ」
「ん、ちゅ……ちゅく、ちぅ、じゅ、んは、ひっ……んぷ、ちぅ、じゅう……んふ、ふーー、ふーーーっ……じゅる、じゅうっ」
舌を届く限り奥まで突き出して、口腔内を蹂躙する。重ねた唇はずっと離れない。貪る水音の合間に、エイヤフィヤトラの快楽に感じ入る呻き声と苦しげな鼻息が混じり、それが更に興奮のギアを引き上げていく。
エイヤフィヤトラの唾液は蜂蜜のように甘く、匂いは鼻の粘膜が焦げ付くほどに芳しかった。冷静な判断力を失った脳に性的興奮が押し寄せ、僕を獣に変えていく。
「じゅるる、ぢぅ、ちゅく、ちぅ、ちゅく……じゅるる……」
僕は片腕でエイヤフィヤトラの身体をベッドに押しつけ、もう片方の手で彼女の病院服に手をかけた。引き裂くようにして、力任せにボタンを引き剥がす。
陽に当たってないせいで、雪のように白い身体。そこには他の感染者と同じように痛ましい源石結晶があちこちに露出し、周辺の皮膚を炎症で赤黒く汚している。
終わりに向かう隔離生活は、エイヤフィヤトラの身体から確実に活力を奪い去っていた。全身は気の毒なほど痩せ細り、薄い胸にあばら骨がはっきりと浮いている。肌に艶はあるが、芯を抜かれたように柔らかく、筋肉が萎んで衰弱している事がはっきりと見て取れた。
しかし、そんなやつれきり、源石に痛ましく傷ついた裸体に浮いた乳房は、期待にふくらみ、先端を固くしていて。
僕は無我夢中で彼女の胸に吸い付き、乳首を唇で強く挟み込んだ。
「んきゅっ……んあ、ひ、んうううっ!」
甲高い嬌声が、真夜中の静まりかえった病室に木霊する。
抵抗しないと見ると、僕は彼女の拘束に使っていた腕を、快感を得るために切り替える。柔らかなお腹をさすり、胸を揉みしだき、先端の乳首を親指の腹で捏ね回す。
「ふひゃ、あひ、あ、ああ! ひん、ひゃひっ!」
僕の乱暴極まる愛撫に、エイヤフィヤトラは悦んでいるようだった。乳首を強く抓る度に、身体をびくっと大きくよがらせ、大きく開け広げた口から嬌声を溢す。口の端から溢れた涎が顎を伝うのすら、たまらなく官能的に見えて、興奮が際限なく増長していく。
──一体、何が起きているんだ。
気が狂いそうな興奮の中、僅かに残った理性は戸惑っていた。
どうして僕は、エイヤフィヤトラの胸を吸い、愛撫を行っているのか。一体何がどうなって、こんな状況に発展したのか。
夢でなければ説明が付かないように思える。なのに、口に含んだ乳房の僅かに汗ばんだ味わいや、手のひらに伝わる彼女のもちもちした肌の柔らかさ、それら濃厚すぎる雌の香りが、あまりにもリアルな快感として脳を叩いてくる。
劣情の赴くままの貪りは留まる事を知らない。お腹を撫で擦った僕の手は、そのまま鼠径部を下り、彼女のズボンの中へ滑り込んでいく。
股下に這わせた指に、にちゅっという粘ついた感触と、猛烈な熱を感じた。
濡れている。こんな突然に始まった、乱暴な愛撫にすら、彼女は興奮しているのだ。
「っあ、あひ──っきゃふ、ふひぃっ!?」
躊躇わずに指を挿入すると、エイヤフィヤトラが一際甲高い声を張り上げた。電流のような強烈な快感に、身体をブリッジでもするみたいに大きく仰け反らせる。
既に彼女の恥部はとろとろで、男を欲しがり、涎を垂らすようだった。その淫乱さに僕は苛立ちに近い感情を覚え、手首を使って、慣らす事もせずに膣を掻き回す。
「んひ!? っはふ、んぎ、あふ、ひぁ、あ、あ、あいいっ!?」
病室内に、ぐちゅぐちゅというとんでもなくいやらしい音が響き渡る。痩せ細った彼女の身体は仰け反ったまま。背中をベッドから離したブリッジ姿勢で、ガクガクと身体を震わせる。愛液は後から後から追加されて、既にシーツにポタポタと滴り落ちてきていた。
「あああ! ひぎ、ふひぇ! ふぁ! あ、あおう! う! あおぉ!」
「っ……うる、さい!」
聴力を失いボリューム調節のできなくなった彼女の嬌声は、絶叫と呼ぶに相応しいものだった。深夜といえど、誰か来たら気付かれる。
僕は空いた方の手を彼女の口に重ねて、枕に押し潰すように強く抑え込んだ。そうして力尽くで彼女を拘束したまま、秘部を激しく指で掻き回す。
「んぐ、むゔ、ゔ、ゔ~~~~~~ッ!」
口を塞いだ手が、エイヤフィヤトラの叫び声にビリビリと痺れる。指を咥え込んだ陰部から、ぴゅっと透明な汁が吹きこぼれる。
その時の僕を突き動かす欲望は、破壊衝動に近かった。この幼さすら残した少女を壊したい。ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。度を超えた劣情が残忍な攻撃性へと変わり、その衝動の赴くままに、指を掻き回し、いやらしい水音をぐちゅぐちゅと奏でる。ぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ──
「っん゙、ん゙ん、んひ、ひん゙っ、ん、ん゙ん~~~~~~~~ッ!!」
そうして、一際大きな嬌声を張り上げて、エイヤフィヤトラは絶頂した。
ビンッと身体を仰け反らせ、陰部からぷしっと透明な愛液を吹き出させた。噴水のように潮を吹き出す間、足をガクガクと痙攣させ、雷を受けたような快感に全身を打ち振るわせる。
ネジの外れた人形のような格好で、何度も何度も痙攣して、絶頂に打ち震え。シーツをぐしゃぐしゃに濡らすまで愛液を噴き出させて、やっと彼女は全身の力を抜いた。身体を縛っていた糸を切られたみたいに、仰け反り続けていた身体がシーツに落ちる。
ひくひくと痺れる彼女の陰部からぬぼっと指を引き抜くと、ねっとりとした愛液が何本も糸を引いていた。
病室中に、淫靡な雌の香りが充満している。鼻腔から侵入し脳をかき混ぜられるような濃密な匂いに、目眩がする。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁーーっ、はぁーーッ」
頭がチリチリして、叫び出しそうな衝動に駆られる。混乱し、発火しそうなほど熱を持った頭は、まるで人を殺したばかりみたいにネジが飛んでいる。
現実味を置き去りにした訳の分からない興奮は、全く冷めやらない。ばくばくと高鳴り続ける鼓動は、僕の股間にも、熱い血潮をなみなみと注ぎ込んでいた。
──なんだ、これは。
無我夢中にズボンを下ろし、固くそそり立った愚息を晒しながら。肉体から剥離した理性は、訳も分からないままに自分の置かれた状況を俯瞰していた。
──なんでこんな事になっている。
エイヤフィヤトラに劣情を抱いた事などない。あるのはただ、自分をここに縛り付ける憎しみと、末期感染者としてのみじめな最期を哀れむばかりの同情心だけだった筈だ。
なのに僕は、絶頂の余韻に身体をびくびくとさせる彼女の乱れた姿に、どうしようもなく興奮している。ペニスは僕が見たことがないほどに、鉄のように固く張り詰めている。殺人衝動と見紛うばかりの強い情動が、彼女を犯したい、汚したいと叫んでいる。
いま僕は、彼女の下腹に自分の怒張を押し当てている。太く血管を脈打たせた男根は、小柄な彼女の臍のあたりまで届いている。赤黒く這った亀頭の先端からは既にカウパーが溢れだし、透明な汁が彼女のおへそに滴っていた。
挿れたい。犯したい。ぐちゃぐちゃにしたい──でも、どうして? その単純な筈の答えがまるで分からず、目眩を引き起こす。
僕はエイヤフィヤトラを殺しに来たんだ。このクソッタレな末期病棟からどんな形でも逃げ出すために。これ以上僕の心を壊されないために。
なのに、なぜ僕は彼女に覆い被さっている? 犯そうとしている?
憎んでいるから? 殺したいから? 彼女の眩しさが許せないから? それとも単に僕が狂っているから?
──あるいは、赦されたいから?
矛盾を抱えたコンピューターみたいに、僕はエイヤフィヤトラの下腹にペニスを押し当てたまま、動きを停止させた。
次に取るべき行動が分からない。頭が熱を放ち、脳回路が焼き切れそうだ。熱を持つ身体と頭から意識が蒸発していき、このまま死んでしまうようにすら思えた。
その思考の凍結を融かしたのも──やはり、彼女だった。
「……て」
凍り付いていた僕の耳が、音を捉える。
ベッドに横たわり、激しい絶頂に身体を痺れさせる、病院服を脱ぎ捨てて源石の浮き出た裸体を露わにするエイヤフィヤトラ。
彼女の涎だらけの口が動き、言葉を紡いでいた。
「き、て」
もう自分が二度と聞くことのない声で。
彼女は僕に、一心不乱に請うていた。
「き……て……き、て──きてぇ……!」
「ッ──!」
とうとう最後の一線さえも、獣性に屈した。
エイヤフィヤトラの細すぎる腰を両手で掴んで。僕は濡れそぼった彼女の秘部に、思い切りペニスを突き入れた。
「んぐっ、ひ、んいいいぃぃぃぃッ」
「っう、ぐぅ……ッ」
腰を突き入れた瞬間、僕は猛烈な快感に歯を食い縛った。
子供のようですらあるエイヤフィヤトラの中は、とても狭かった。膣肉をメリメリとこじ開ける感触が明確にペニスに伝わってくる。きっと生前にした行為の回数も少ないのだろう。ヴァキナ全体が、痛みに悶えるようにぎゅっと緊張している。
だというのにその膣の内部では、男を悦ばせるための準備がされていた。挿入したペニスはたっぷりの熱い愛液に浸され、肉ヒダに股間の敏感な粘膜をじゅるじゅると舐られる。挿入した端から溶かされていくような心地よさに、呻き声が漏れ、腰が抜けそうになる。
「っやば。気持ちよすぎて……ッこれ、ちんぽが引っこ抜かれるみたい……ッ」
ねっとりと絡みつくような膣全体が、強烈なキツさで締め上げてくる。
せまくて、熱くて、とろとろの、エイヤフィヤトラのまんこ。気を抜くと柔肉にペニスを挟み潰されて、精液を搾り取られてしまうと感じるほどの、強烈な快感だった。
「っは、はひ……っひ、くひ……っ~~~~ぃ……!」
そして、エイヤフィヤトラは、僕以上の快感に打ち震えているようだった。
ただでさえ小さく、入院生活でさらに痩せた彼女の薄い下腹は、僕のペニスの形にぼっこりと膨れている。挿入したばかりで、亀頭に最奥の子宮まで潰されているのだ。
何も見えず、聞こえず。そんな彼女が、濡れそぼった膣をペニスに貫かれるのは、果たしてどれほどの快感だろうか。食い縛った歯がカチカチと鳴り、その隙間から、声にならない絹を裂くような嬌声が溢れていた。
目元を覆った包帯。痩せ細った小さな身体。あちこちに浮いた源石。皮膚の下に克明に浮かぶ骨のシルエット。
そんな死の差し迫る裸体を快感に目一杯によがらせて、小さな胸の小さな乳首をピンと立たせ、目一杯に男根を頬張ったヴァキナの入り口からぷしっと新たに潮を吹き溢させる様は──どうしようもないほどに、僕の劣情を煽り立てた。
「エイヤフィヤトラ……ッ」
「っふぁ、ひ、んんんっ!?」
僕は彼女に覆い被さり、貪るように腰を動かしはじめた。
劣情のままに腰を引き抜き、叩き付ける。エイヤフィヤトラの身体が、大きく跳ね上がる。
「っんぐ! はひ、っかは、ひ、ひぁぁっ!?」
ばちゅんっという激しい水音が奏でられ、そこに彼女の、息の詰まるような喘ぎ声が重なる。
ペニスを引き抜き、突き入れる度に、ヴァキナをゴリゴリと押し広げる感覚がする。子供のように小柄な彼女の秘部は、そもそも男を受け入れられるようにできていないようですらあり、このまま続けては裂けてしまうんじゃないかと思えた。
しかし、そんな彼女の身体を気遣うような優しさは、僕の頭にはまったく残されていなかった。ただ暴力的な獣性のままに、力の限り腰を引き抜き、貫く。彼女の薄い下腹にボコッと亀頭を浮かび上がらせて、彼女の身体を痙攣させる。
「ふお゙っ、ん゙、ひい゙、あ゙ひ、ああ! かひ、ひ、ひぃ……ッんあ、あう、あ、あ゙ぁぁぁーーー!」
平時すらまともな言葉を使えなくなったエイヤフィヤトラの声は、ますます意味を失った獣の咆哮じみた声になる。もはや声だけでは、快感によがっているのか、痛みに泣き叫んでいるかの区別も付かない。そして僕は、区別を付ける努力すら放棄して、腰を叩き付け続ける。
それは『犯す』という表現がまさしく相応しい性交だった。希望などない最期の棺桶の中、もうじき死ぬ少女が、心を壊した男に獣のように貪られる。そういう、この世で最も醜悪な人生の末路と言い換えてもよかった。
「っゔう、ん! んい、い゙ひ、いぃ……!」
「っは、はぁ、はぁ……エイヤフィヤトラ……エイヤフィヤトラ……!」
獣のような嬌声。惨めな譫言。瘦せこけた身体に浮いた乳首を吸い、もうすぐ死ぬ女性の秘部をペニスで掻き回す。この世の終わりのような性行。地獄絵図。
なのに僕は、エイヤフィヤトラのけだもののような喘ぎ声に、耐えがたいほどに情欲をかき乱されていた。
エイヤフィヤトラの方も、愛液を止めどなく滴らせ、僕の乱暴な抽送を快感として享受している。肉ヒダは次第にほぐれ、とろけるように柔らかくなり、ペニスに吸い付いてくる。きゅうきゅうと窄まって奥まで誘う温かい蜜壺は、腰が溶けそうな程に心地良い。
暴力的で、退廃的で、脈絡すら存在しないのに。互いの性器を擦りつけ合う度に、胸に熱い感情が高ぶっていくのを感じる。
「っは、はぁ……だあぁ、てぇぇ……!」
息を喘がせながら、エイヤフィヤトラが何かを言い、虚空に向けて両手を差し出した。
「っん! んひ! っあ……だ! い、て! ……だ、い、てぇ……!」
言葉の意味を理解した瞬間、弾かれたように僕は動いていた。
まるで、今まさに奈落の底に落ちていこうとする恋人の手を間一髪掴んだように。僕はエイヤフィヤトラの身体に覆い被さり、彼女を抱きしめた。彼女もまた縋り付くようにして、僕の背中に細腕を回す。
「っ──!?」
抱きしめた瞬間に、冷や水を浴びせられたように、理性が急激に戻ってきた。ぞっと、恐怖すら抱くほどに、彼女の身体は痩せ細っていたのだ。
あちこち浮いた源石結晶が皮膚に擦れる鋭い痛みがする。薄く骨張った裸体は、力を籠めれば枯れ枝のように折ってしまいそうな程に脆く、軽い。だというのにその体温は、常に体の内外に炎症を起こしているせいで、火傷するのではと思うほどに熱かった。
その脆さが、熱が、彼女がどれほどに危篤な状態なのかを僕に思い出させ、理性を引き戻させる。だけど一度タガの外れた劣情はもう抑えようがなく、僕の肉体は、更に密接に繋がった雌の色香にとめどなく興奮する。
僕は彼女を組み伏せるようにして抱きしめ、腰を更に押しつけて、ペニスをヴァキナのより深い所にまで、ぐっぷりと咥え込ませる。
「っひ、んひ、あふ、ふぉ、お゙う、おひ、ひい゙っ……!」
「っは、はぁ、はぁ、はぁっ」
一心不乱にペニスをストロークさせる。張り詰めた怒張がキツい穴の中で肉ヒダにねっとりと舐られて、ぞわぞわが背骨を駆け巡って脳を痺れさせる。
股下でぐらぐらと煮え立つ欲望は、もう既に爆発寸前だった。じわじわと最後の時がこみ上げてきて、僕から余裕を奪い、絶頂の予感を感じるペニスは感度を上げて快感を増大させ、更に一心不乱に腰を打ち付ける。
「エイヤフィヤトラ……っく、ぐす……!」
もう、何がなんだか分からない。
気がつけば僕は、彼女を強く抱きしめながら、涙を流していた。顔を押しつけた彼女の痩せこけた頬に、僕の涙が触れる。
「ごめん、エイヤフィヤトラ……ごめん、ごめん……!」
何に謝っているのか分からない。
君を犯してごめんなのか、殺そうとしてごめんなのか、憎んでごめんなのか、自分の哀れな弱さか、この病室に閉じ込めて死を待つだけにさせるしかない、世の中の無常への怒りなのか。
もはや言語化できようもない、様々な絶望が混じって混沌と化した悲痛な感情が、僕に涙を流させていた。
両足を押さえつけ、上から下へ杭を打つようなピストン。彼女の狭い膣にぐぽぐぽと抽送を繰り返しながら譫言のように謝り続ける様は、哀れを通り越して滑稽だ。
赦しを請うなら、早くその汚らわしい肉竿を引き抜けばいいのに、それだけはしない。肉体はただひたすらに、溜め込んだ劣情を発散させる時を待ちわびている。そんな欲望に逆らえない浅慮さに対する自己嫌悪が、混濁したどす黒い感情の一つとして混ざり、黒を濃くする。
気持ちよくて頭がどうにかなりそうなのに、心は死の間際の悪夢を見ているようだった。言語化できない感情に支配されて、意味の分からないままにセックスして、気が狂いそうだった。
なのに──なのに、彼女は。
「……ぃいいいい……よ……」
ネジの外れた声で、そう言って。
エイヤフィヤトラは僕の頬の涙を舐め取り、唇を吸う。
「ん……ちぅ、ちゅく、ちゅ、ちぅ、ちゅ……」
彼女のやつれた足が、抽送を続ける僕の腰に回される。
そっと。けれど確かな強さで。離れる事を拒絶する。
「ちぅ、ちゅる、じゅる、っぷ……ら、し、へ……」
「っ……!」
「らいえ、だ! しへ……だっ、ッし、て……dあしttて……!」
結局、何も分からないまま、理性の追いつかないままに。
僕は彼女の唇を塞ぎ、一心不乱に腰を打ち付けた。
「っんじゅ、っぷ、んん! はふ、れる、るぅっぷ、じゅる、っんぶ! んん……!」
ばちゅばちゅという激しい水音。脳がチリつく猛烈な快感。唾液と嬌声の全部を啜って、甘い香りに脳をくらくらとさせる。
「っエイヤフィヤトラ……もう……限、界……っ!」
「じゅるる、っぷん! んぅ! だ、だひ、へ……だ! ひて! っあ、ああ! んっぷ、じゅる、ぢぅぅぅぅっ!」
下半身が融けそうな程に熱が昂ぶり、こみ上げて、こみ上げて、こみ上げて──決壊する。
「っく、射精る。射精るよ! エイヤ──っあ、くぁぁぁ!」
最後に、ありったけ深くまで、口もペニスも突きつけて。
僕は彼女の、気の毒なまでに痩せ細った子宮の最奥に、大量の白濁液を吐き出した。
「んひっ!? っあ゙、ん゙んっ、ふひい゙、い゙ぃ~~~~~~……!」
中に注ぎ込まれた大量の精液に最後のスイッチを入れられて、エイヤフィヤトラもほとんど同時に絶頂した。痩躯一杯に力を籠めて、僕の身体をぎゅうっと強く抱きしめる。
狭い膣にペニスが引き抜かれるほど強烈に絞られながら、溶岩のように熱くどろりとしたザーメンを吐き出すのは、魂が溶け出ていきそうなほどに快感だった。体表の源石片で身体が薄く裂かれる痛みすら蠱惑的に感じられる。
僕も、エイヤフィヤトラも、互いをキツく抱きしめ合ったまま、雷に打たれるような強烈な快感に浸り続けた。
ペニスから吐き出される白濁液が子宮に流れ込んでいく。エイヤフィヤトラのお腹の中に、僕の体液がじんわりと染みていく。その拍動を、たまらない征服感を、全身で感じ入る。
どくん、どくん、びゅる、びゅく、びゅく──どくん、どく、びゅる、びゅうぅ──
「っく、は……はぁ……!」
「っはひ、ん、くぅ……はむ、ん、ちゅ……」
つながった糸を引くようにして、絶頂の余韻に全身を痺れさせるエイヤフィヤトラの唇が、当たり前のように僕の唇へと重なった。
「ちゅく、ちぅ……ふむ、ん……ふぅ、ちぅ、ちゅる……」
今度は優しく、味わうようにして。互いの舌を絡ませ合う。
何もかも分からないままに始まり、暴力的に終わったそのセックスは──死と絶望に包まれたこの終末病棟に務めた僕の日々の中で、最も『生きている』と呼べるような時間だった。