胡蝶しのぶが鬼に襲われた家の生き残りの成人男性が持つマジカルチンポに堕ちて性奴隷になり、蝶屋敷が男のハーレム御殿となるお話 作:さすらいのヒモ
すぅ、と空気を吸えば、肺がひんやりと温度を下げて、入り込んだ空気が血液を通じて全身へと冷気を巡らせてしまうかのような、そんな底冷えのする朝である。
可憐にして聡明、慈悲深き美少女は訓練着を身に纏いながら、常に使っている『日輪刀』という刀、その改造したものよりもさらに幾分細い、奇妙な刀身をした一本の木刀を片手で握っていた。
胡蝶しのぶ。
その愛らしさと麗しさが同居した、大人へと成長しているもののまだ熟しきれていない幼さも残している、この蝶屋敷の主のしのぶは日課である朝の鍛錬を行っていた。
しのぶの周囲には、中身が広くくり抜かれている『円筒』が十数本近く紐でぶら下げられており、その円筒の奥にはしのぶの前方へと等間隔に四つの的が立てられている。
その手に持った木刀で的を突くという訓練なのだが、ミノムシのようにぶら下がった円筒がしのぶの動きを妨害する上にと木刀の突きの軌道を邪魔をするという、そんな配置であった。
木刀を持ったしのぶは、まるで蝿を払うようなぞんざいな動作で周囲の円筒をポンポンと何度も何度も叩いていく。
叩かれた円筒は左右に揺れていき、傍にあった円筒とぶつかることでそのぶつかった円筒もまた左右に揺れていき、その円筒がさらに他の円筒とぶつかり──ついには、全ての円筒がしのぶの周辺をカンカンとぶつかる音を響かせながらぶらんぶらんと揺れだしていった。
筋肉隆々の大男ならばともかく、痩身矮軀と呼ぶに相応しい小柄なしのぶでは怪我を負ってしまうのではと心配になってしまうような光景である。
「すぅ…………」
その中でしのぶは小刻みに体を揺らすことで円筒にぶつかることなくやり過ごしていた。
息を吸う。
息を吐く。
息を吸う。
息を吐く。
そんな当たり前の呼吸の中でもしのぶは木刀でポンポンと円筒を叩いていくことで、円筒の動きはどんどんと早まっていくのだが──まるで、しのぶが避けているのではなく円筒がその体をすり抜けているかのように、円筒はしのぶの体に掠りもしない。
しかも、その間にしのぶは目を閉じているのだ。
それだけでしのぶが只者ではない──言うならば、『達人』とでも称すべき剣士であると、勘の悪いものでも否応なく気づいてしまうであろう、そんな見事な動きである。
そして、しのぶはゆっくりと瞳を開いた、その瞬間であった。
「破ッ!」
バンッ、と。
あるいは、バンバンッ、と。
鈍い者の耳では一つの、敏い者の耳でも間を置かずに二つの音が響いたとしか聞き取れない破裂音が響き渡った。
しのぶは体勢こそ変わっているものの、その足の位置に大きな変化はない。
だが、カランカランと揺れている円筒の奥にある四つの的は、全てその中心が射抜かれていた。
しのぶが木刀を用いた『突き』で、鉄砲の弾さながらに的を貫いたことの、何よりの証明である。
だが、それでいて円筒は一本として床に落ちることもなければ、先ほどとは異なる動きを見せているものはない。
これが何を意味しているのか、理解すれば背筋が凍ったであろう。
しのぶは、あの想定など出来るはずのない揺れ方をしている複数の円筒の、くり抜かれた中心をその木刀で通して的に突きを放ったということだ。
動く円筒の中を木刀の突きで通すということさえ難しいというのに、しのぶはその音速の突きを同時に行ったと感じるような素早さ四つの的を射抜いてみせたのである。
達人技だ。
少なくとも、ただ剣を嗜んでいるだけの勝ち気な乙女や、無為無策にただただ怠惰に剣の鍛錬を行ってきただけの者はもちろんのこと、生涯を剣に捧げんと修練に励む剣士でもたどり着けない境地の、常軌を逸した剣速であろう。
「…………いけませんね、乱れています」
そんな見事な四連突きを披露してみせたしのぶは、苛立ちがわずかに混じった独り言をつぶやく。
なんと、しのぶにとってはこの達人技でさえも納得できぬものだというのだ。
『三寸切り込めば人は死ぬ』という言葉の通り、目にも止まらぬ速度で繰り出される、しのぶの『突き』は不可避の必殺剣となるには充分すぎるものである。
「狙いがズレている……一番左端など一寸(約3センチ)も中心から離れています。止まった的を相手にこれでは、素早い『鬼』には通じませんね」
だが、それはあくまで『人』が相手ならばに過ぎない。
しのぶは、喉を穿けば、貫かずとも潰すほどの勢いで突けば殺すことが出来る人を相手にしているのではない。
四肢を焼き払い目玉をくり抜き心の臓を潰して見せてもなお死なぬ、モノによっては瞬く間にその傷を修復してみせる、日輪刀という特殊な刀で首を切り落とすか、あるいは太陽光を浴びぬ限りは絶命を免れてしまう人外魔境に至った悪鬼、それがしのぶが斬るべき相手なのだ。
「私にもっと膂力があれば、首を切り落とすことが出来れば、ある程度の照準の狂いを無視しても良いのですが……」
抱きしめれば壊れてしまいそうなほどに華奢なしのぶの体は、決して強靭ではない。
特殊な呼吸法を用いて超人じみた動きを行うことは出来ても、やはり人の体には向き不向きというものがあるのだ。
軽やかな動きに対する適正はしのぶの軽量な肉体と相性は良いのだが、逆に素早くはなくとも力強い動きに対する適正は絶望的に低かったのである。
鬼を狩る剣士の集団、『鬼殺隊』の中で『全集中の呼吸』という一瞬だけでも人体の全力を引き出す呼吸法を、『常中』という常日頃から引き出せることが出来た、一握りの剣士であるしのぶであっても、自分の限界を越えた力までは引き出すことは出来ない。
もちろん、しのぶとて仕方ないと簡単に諦めたわけではない。
そもそも、しのぶが医学と薬学に長じているのも、自身の身体を──実の姉とともに命を救ってくれた剣士である──悲鳴嶼行冥のようなとは言わずとも、どうにかして強靭で屈強な肉体を手にできないかと苦心した末に身に着けたものである。
それでも、どのような修練と薬や生活習慣を試そうとも、この小さな身体の小さな骨格には、しなやかで強靭な筋肉が宿ることはなく──結局、しのぶは『毒』という手段を取る他なかったという過去があるのだ。
もちろん、その『鬼を殺す毒』を作った事自体が驚異的なことである。
その時々に応じて調合を変える必要があるため、現実に仕えるものはしのぶだけではあるが、それでも長い『鬼殺隊』の歴史を見ても、充分に特異な才能であったと言えるだろう。
だが、結果的にしのぶに残されたものは、『どれだけ修練を重ねても限界を超えることは出来ない』という残酷な現実であった。
その事実を突きつけられる度に、いつもニコニコとした慈悲深い笑みを浮かべているしのぶの心に暗いものが広がっていく。
自分の情けなさを恨めしく思うだけならば良いが、自分が出来ぬことを成し遂げてしまう選ばれた剣士たちへの、羨望とも嫉妬ともつかない、しのぶにとって認めたくない感情だ。
「──師範っ!」
そんなしのぶを動揺させる存在の一つである、愛おしい義理の妹が駆け寄ってくる。
妹と言えども、義理の妹だ。
真っ黒な髪とパッチリと開いた目に、透き通るような白い肌。
しのぶがどこか清楚ながらも蠱惑的な美貌であるとするならば、この義妹は花が咲くような凛としつつも可憐な美貌を誇っている。
栗花落カナヲ。
貧困の渦中にある家庭に生まれ育ち、過酷な生活に心が砕け、人買いに売られてしまった──大正の世であっても消えない、どこにでもあるような不幸な人生を送ってきた少女だ。
今は亡き実姉である胡蝶カナエによって見出されて、実姉亡き後も自身を慕って成長してくれた、可愛いかわいい妹である。
そんな妹が、しのぶは少々憎らしく感じるようになってきていた。
(良くない。良くないですよ、胡蝶しのぶ)
もちろん、親しい人物を憎らしく感じるということはおかしいことではない。
愛を誓いあった夫婦でも、同じ腹を通ってこの世に生まれでた兄弟姉妹でも、ヘソとヘソが繋がり合っていた母子であっても、愛情だけで関係性が作られるわけではないのだ。
その生活していれば当然生まれ出る僅かな悪感情さえも存在しない人物がいるとしたら、それは聖人以外の何物でもない。
だが、胡蝶しのぶは聖人であらんとしている。
亡き姉が放った今際の際の言葉を守ろうとすれば、生来、激しい感情を抱きかかえているしのぶは聖人になる他なかったのだ。
しのぶは必死に己の中の感情を鎮めて、ニコニコとしたまま、やはりニコニコとした愛らしい表情で駆け寄ってくる義妹を見つめていく。
「おはようございます、師範。朝のお稽古ですね、お疲れ様です」
「はい、おはようございます。カナヲは任務の帰りですか?」
「い、いえ……その眠りが浅かったので、訓練代わりに向かいの山まで走っておりました。心肺機能の強化は剣士の義務だと、師範からも教わったことですから」
「そうですか……変わりましたね、カナヲ」
思わず漏らしてしまったように、栗花落カナヲに起こった変化はここ最近のことである。
勤勉な様子を振るっていることではない。
元々、過去の出来事から意志薄弱であったために言いつけられたことは忠実に行う少女だった。
変わったのは、その表情だ。
どんな時でも判を押したような、あるいは型にはまったような薄い笑みを浮かべているだけだったカナヲの今の表情は、彼女が扱う呼吸法である『花の呼吸』を連想させる、花が芽吹いた瞬間のような輝かしい笑みになっている。
過去のトラウマを乗り越えて感情を手に入れたと、そうとしか表現できない表情だ。
それは『一人の男』がそうさせたのである。
「……『彼』とはよくやっていますか?」
「はい! そ、その、彼の身の回りのお世話はお任せください!」
『彼』。
今もこの蝶屋敷にとどまっている、鬼殺隊ではない一般の鬼の被害者である。
しのぶとカナヲが共同で任務を当たっていたことで出会った、信濃の山奥に暮らす豪族の三男であった。
二人がたどり着いた時には、強靭な鬼は下人を含む豪族の屋敷に関わるものを皆殺しにしており、ただ一人だけ『地下の座敷牢』で暮らしていた彼だけが生き残っていたのである。
親から見捨てられた子供──自身と重ねたのか、カナヲは激しい動揺を覚えていた。
それを見て、しのぶはあえて『彼』──『雲坂三郎(クモサカ・サブロウ)』の世話を見ることをカナヲに命令をするように伝えたのである。
感情の起伏を読み取れない、どこか謎めいた印象を与えるカナヲだが、しのぶに対しては強い敬意を抱いているために、動揺をしながらもその指示に従っていく。
しのぶとしては、お互いに足りないものを持ってしまったが故に刺激を与えて、より良い方向に転がってくれればという思いに過ぎなかったのだが、しかし、ことはそれだけに留まらなかった。
とある『想像にしなかった事態』が起こってしまい、しのぶの心を今もこうして揺さぶっていたのである。
「そうですか。では、励むように」
そんな言葉だけ残して、しのぶはカナヲに背を向けて立ち去っていく。
カナヲから厚い信頼の視線を向けられていることがわかり、それが少々後ろめたかった。
カナヲと『彼』を実験材料にしてしまっている────そんな後ろめたさがしのぶにはあったからだ。