「ごめん、アスカ。こんなのしかないや」
冷蔵庫のドアを閉め、シンジは食器棚の一番下の引き出しからインスタントのカップラーメンをふたつ取り出した。
「それで充分」
ソファーに腰掛けてリラックスしていたアスカは、シンジの方を振り返ってニッと笑って見せた。その勝ち気な笑顔は葛城ミサトのマンションで同居していた頃のアスカのもので、シンジは瞬間ドキリとした。
ー本当に、記憶が戻ったんだ。
リビングとキッチンの距離で見つめ合ってから、二人は同時に照れて顔を伏せる。
シンジは、先ほどまでの赤裸々な二人の情事を思い出していた。
アスカが記憶を取り戻し、シンジとアスカのわだかまりもとけた帰り道、二人は気持ちの昂りを抑えられなかった。
電車の席でアスカはずっとシンジの腕に甘えるようにしがみついていたし、シンジはアスカの髪に頬をすり寄せていた。他の乗客に見られてもお構いなしである。
バカップル、とはこういう二人のことを指すが、乗客たちは「まぁ、春だからな」で済ませて目線を合わせなかった。
だから昼過ぎに帰宅した時、夜どころか夕方まで我慢することも、二人にはできなかった。
玄関のドアを後ろ手に閉めたその瞬間、シンジとアスカはどちらからともなくその場で抱き合った。
キスの段取りなどしていられない。舌で互いの口内をかき回し、唾液を味わうように舌先を絡める。アスカがズボンの上からシンジの下腹部をまさぐると、シンジはアスカのお尻をスカートの上から鷲掴みにした。
「アスカ……シャワー……」
アスカはシンジの耳たぶを口に含んで甘がみし、それをうなじへ移行させることでシンジの提案を否定した。
「無理……我慢できない……」
シンジはアスカを抱き上げて寝室のベッドにそっと横たえると、シャツを脱ぎ捨ててアスカに覆い被さった。
「アスカ……」
サマーニットのカーディガンもそのままに、淡いイエローカラーのワンピースを足元からたくし上げ、純白のブラジャーも強引に押し上げて乳房を露出させる。抱き寄せようとしたアスカの両腕を組み伏せて、シンジは彼女の右乳首に舌を這わせた。
「ん……」
いつものような丁寧な愛撫は、今のシンジには到底できなかった。ぴちゃぴちゃと音を立てて桜色の先端を舐め上げ、それがたちまち固く突起したことがわかると、今度は舌先で何度も円を描いた後、ちゅぱちゅぱと赤ん坊のように吸いつき、軽く噛んだ後、また舐めた。
時折、荒い呼吸を乳房に吹きつける。
「あ……や、ぁ……」
「アスカ……アスカ……ッ!」
シンジの欲望はすでに限界まで膨れ上がり、窮屈そうにズボンを圧迫していた。それをアスカのふとももに押しつけると、アスカのショーツもじわりと中から染みを広げた。
「もう、ほしい……シンジ」
服を脱ぐのもじれったく、二人は生まれたままの姿になるとまたすぐに深いキスを繰り返し、ベッドに倒れ込んだ。
アスカが大きく両脚を開いて、シンジはそそり立った自分自身でアスカを一気に挿し貫いた。
昂った感情は今まで味わったことのない快楽をシンジの先端にもたらしたが、シンジはそのことをあまり覚えていない。快感よりも、アスカと再びつながることができた悦びの方が上回っていて、それどころではなかった。
「アスカ!」
「シンジ! シンジッ!」
シンジが夢中で突き上げる度、二人は飽きることなく互いの名前を呼び合った。
しがみつき、くちびるを戯れ合わす時、シンジの無精髭がアスカの頬や首筋に触れて、アスカはくすぐったそうに身をよじった。
限界はすぐに訪れた。
「う……ッ! あッ!」
かろうじて残った理性が、達する直前にアスカの中からシンジ自身を引き抜かせた。直後に放出されたシンジの情熱は、アスカの双胸を白濁した愛液で汚した。
「はぁ……はぁ……」
「お、風呂……シンジ……」
互いを求める熱情は、浴室へ移動してからも続いた。
浴槽の壁に立ったまま両手をついたアスカを、シンジは誘われるまま後ろから犯した。
「あッ! んッ! あぁッ!」
アスカの中を自分自身が往復している様子がはっきり見えた。腰に両手を添えて激しく出し入れを繰り返し、愉悦で反り返ったアスカの背中を舐め上げる。汗とソープの甘い味が口内に広がって、頭がくらくらする。
「もっと……シンジ」
アスカがせつない声で懇願し、焦げつくようなシンジの熱は卑猥に出し入れを繰り返すアスカの中でさらに膨張した。
「あッ!」
シンジはアスカの背後から身体を密着させ、両手を前に回してアスカの乳房を鷲掴みにした。
乳首をつまんで、執拗に責める。
右手をアスカの腰から下腹部に滑らせ、中指でクリトリスに小さく円を描いて刺激する。
「あッ! あぁッ!」
肩越しに舌を絡める。無精髭を剃ったので、今度は存分に頬を寄せ、アスカの吐息を感じることができた。
アスカが五回目の絶頂を感じた時、シンジは情けない声で懇願した。
「アスカ……く、くちで……」
「いい、よ」
激しく数回貫いた後、シンジはアスカから自分自身を引き抜いた。
アスカは振り返ってひざまずき、恍惚とした表情でシンジが右手でしごいている彼自身を口に含んだ。
アスカが舌を駆使する必要はなかった。アスカが少し口を前後させるだけで、シンジは彼女の中に欲望の全てを放出していた。
「あッ! あー……」
アスカの喉がコクリと動く。
「ん……」
口をすぼめて、愛液を全てしぼりとってから、アスカはシンジ自身から口を離した。
「は……は……」
二人の荒い呼吸が浴室に響く。
ーあぁ、どうしよう。
せつない表情でこちらを見上げるアスカの視線と、壁に手をついて見下ろすシンジの視線が絡まる。
ーもっと、欲しい……。
二人とも、この程度では全く満足できなかった。
シンジとアスカは、お互いの食べっぷりをポカンとした様子で見ていた。
遅い昼食代わりのインスタントのカップ麺を、二人とも五分足らずで平らげてしまったのだ。
「お腹空いてたんだね、アスカ」
「シンジこそ、ネギだかなんだか知らないけど、歯についてるわよ」
シンジとアスカは同時に吹き出した。
アスカが家を出ていたこの二日間、二人ともほとんど何も食べていなかったのである。お互いのことで頭がいっぱいで、何かを口にする気力もなかった。
ただ、困ったことに、今は食欲を通り越して性欲が旺盛になっている。入浴を終えてから今まで、シンジは喉まで出かかっている言葉を抑えるのに苦労していた。
「ネギ。取ってあげる」
「あぁ、ありがと……」
シンジが口を開けたところで、アスカの唇が斜めに重なった。
「ん……」
不意を突かれたシンジが目を見開いている。
アスカの舌先はシンジの口内を存分に味わった後、シンジの前歯についたネギの欠片を舐めとった。
「アスカ……」
舌先のネギを飲み下したアスカは、紅潮した頬をシンジの首筋にすり寄せた。そのまま両手をシンジの背中に回して、抱き合ったままソファーの背もたれに軽く押しつける。
「……したい?」
「シンジは……?」
アスカにまっすぐ見つめられて、シンジは恥ずかしそうに視線を逸らした。
まだ夕方前なのに、もう三回目だ。
「あの、アスカ……」
「?」
シンジはアスカに何事か耳打ちした。
それをきいたアスカのほっぺたがポッと染まる。
「い、いやなら、我慢するから……」
アスカの前で格好つけるのは、もうしない。
「スケベ」アスカはいたずらっぽい表情でくすっと笑った。
「いいよ。今日は……だいじょーび」
アスカが上で、シンジが下だった。
むせ返るような男女のにおいを感じながら、シンジとアスカは互いに愛撫を繰り返す。
二度目のベッドの上で、アスカは恥部をシンジの口先に押しつけるように跨り、自身はそそり立ったシンジの男性部分を咥え込んでいた。
「ん…! あ…!」
シンジが舌先でクリトリスを丹念に転がし、アスカはシンジ自身を口に含みながらくぐもった喘ぎ声をもらす。いつもとは角度も感度も異なるその刺激が、シンジの口の動きをさらに卑猥なものにした。
「ん……ん……」
浅く深く、アスカは愛おしむようにシンジ自身を口内で育てる。
「はぁ……はぁ……アス、カ」
シンジは両手を回してアスカのお尻を抱え込むと、彼女の秘部に舌を丸めて挿し込んだ。奥まで入り込んだところで、上下左右に乱暴に舐め上げる。
「あ…! ダメ! やッ!」
アスカは腰を浮かせて逃れようとしたが、シンジは首を上げて離さなかった。
「あッ! あッ!」
小刻みに震えた後ーアスカは達した。
だらしなく溢れる愛液を、シンジはこぼさないように丁寧に舐めとる。
「欲しい、シンジ……」
「僕も……挿れたい」
今日のアスカは素直だった。
一度体勢を崩し、アスカはシンジの方に向き直った。ベッドサイドのペットボトルを手に取り、ミネラルウォーターを口に含む。
「僕も……」
手を伸ばしたシンジを無視して、アスカは横になったままのシンジに倒れ込むようにキスをした。唇を押し開いて、ミネラルウォーターをシンジの口内へ流し込む。
「ん……ちゅ……」
シンジが飲み下した後も、アスカはしばらく舌を絡めてシンジを骨抜きにした。
アスカはシンジの頬をなでた後、彼の下腹部にまたがった。駄々をこねる子供のようにビクビクと屹立しているシンジ自身に右手を添え、自分の中心へ三度、誘導する。
「は……ん……!」
「ふ……あ……あっ! あー……」
アスカの中心は、シンジをゆっくりと根元まで飲み込んだ。
それだけで達しそうになるのを、シンジはすんでのところで堪えた。二度の射精で敏感になっているとはいえ、アスカの中はそれほどの快楽をシンジの下腹部に与えていた。
まだ、いやだ。
まだアスカを味わっていたい。
「シン、ジ……」
アスカは腰を淫らに前後させた。
「う…あ……! アスカ……ッ」
アスカはシンジの顔が悦楽で歪むのをたっぷり堪能してから、今度は上下の動きに切り替える。両手をシンジの胸板の上に添え、ギリギリまでシンジ自身を引き抜き、また飲み込む。
「あ……んッ! あ……ッ」
押し寄せる快楽の波に耐えながら、シンジはせつない喘ぎ声をもらすアスカを仰ぎ見た。
アスカのピストン運動にあわせて、彼女の豊かな乳房が上下に揺れている。その下では、自分自身が別の生き物のようにアスカの中へ何度も沈み込んで、彼女をよがらせることを愉しんでいた。
淫らなアスカは、きれいだった。
「アスカ」
シンジはアスカの両膝に手を添えると、両脚がM字になるように誘導した。
「あッ! これ……深、い……ッ」
アスカの全身が小さく震えて、中心から愛液がさらに溢れたことがわかる。
アスカはシンジと両手を合わせると、上下の動きを激しくした。アスカの腰が落ちる動きにあわせて、シンジも下から自分自身を突き上げる。二人の陰部から、じゅぷ、じゅぽ、と淫美な音が寝室に響いた。
「あ…! あッ!」
「は……ッ! は……ッ!」
二人の中心が重なる度に、アスカの愛液はとめどなく溢れて二人の結合部を白く染めていく。
たまらずアスカはシンジの顔の脇に両手をつき、前屈みになる。それでもアスカは、腰の動きを止めなかった。
シンジはアスカの腰に両手を添えると、しばらく眼前で揺れるアスカの乳首を舌先だけで舐め上げるという幼稚なことをした。かえってそれがアスカにこそばゆい刺激を与えて、彼女の腰の動きをさらに複雑なものにした。
「だめッ! あ……ッ! シンジ!」
顔を上げて、またもアスカが絶頂した時、シンジは上体を起こしてアスカを抱きしめた。
「どうしよう……止まんないよ、シンジ」
アスカの吐息が、シンジを愛おしくさせる。
額を合わせ、キスを繰り返し、抱きしめながらやさしく下から突き上げる。
アスカもシンジも、とっくに表情はとろとろにふやけてしまっていた。
他人には見せられない……見せたくない。
「シンジも……んっ! …気持ち、いい?」
打ち寄せる快楽に、シンジは答えが返せなかった。
アスカはシンジの頭を包み込むように深く抱きつくと、顎をシンジの肩に乗せ、シンジの耳元で囁いた。
「我慢しないで」
シンジの声も、いっぱい聞かせてー。
その一言で、アスカの中のシンジ自身はさらに固く太く怒張した。
「……かわいい、アスカ」
「ふ、ぇ……?」
いじわるや駆け引きで言ったわけではなかった。ただもう、格好つけることをやめたシンジから出た素直な言葉だった。
「好き、だよ……アスカっ」
「ば、バカっ! いきなり、そんな……」
シンジの甘く激しい律動がアスカを包む。
「はぁ……あっ……好きだ、アスカ。すごく、かわいい。全部……うッあッ! 全部ほしい!」
「ちが……あっ! そ……いう…んんっ! 声、じゃ、なくて……」
アスカは迫り上がってくる照れを抑えようと両手を頬に当てたが、無駄な努力だった。
いつかこんな風に、アスカが顔を赤らめた日のことをシンジは思い出す。
“エッチっ! バカっ! 変態ッ! 信じらんないッ!”
もっと乱暴にしてもいいのに、それでもやさしく舌を絡ませ、ついばむようなキスをするシンジを、アスカはせつなく目を細めてじっと見つめる。
“僕のこと、好きって言ってくれてありがとう。僕もアスカのことが好きだった”
涙を流したのは、どちらが先だっただろう。
その時、抱きしめ合った二人は、確かに十四歳のあの日のシンジとアスカだった。
「はぁ……! はぁ……ッ!」
「あッ! んッ! あぁッ!」
シンジは突き上げるスピードを少しだけ上げた。力強く、アスカを下からノックする。アスカもシンジの肩に両手を添えて、シンジに自分の動きをシンクロさせた。
「もう……い、イク! アスカ……中に、出すよ? 全部出すよ」
「いいよ! きて、シンジ!」
「はぁ! はぁッ!」
「あ! あっ! あッ!」
愛情と欲望の全てが、甘美な痺れを伴ってシンジの先端に集中した。
くちゅくちゅと唇と舌を絡ませ、シンジはアスカの背中を、アスカはシンジの頭をかきむしるように抱き寄せる。
三度ー。
強く。
強く。
強く。
シンジの想いがアスカの奥の奥を貫いた。
その瞬間ー。
二人は達した。
「……………ッ」
「は……! あ……あ……ッ!」
アスカの一番大切な場所を自分が満たしているという事実に、シンジはとめどない幸福と興奮と慟哭を同時に感じた。その昂りが、数度の射精をシンジに促した。
アスカの中で絶頂する度に、シンジは下腹部を中心に小さく震え、それに応えるように、アスカの身体もビクンと跳ねる。掠れた声で喘ぎ声をもらす。
「シン、ジ……」
アスカの全ては自分のものだと主張するように、シンジの射精はなおも続いた。脱力した顔で歯を食いしばるシンジの頭を、アスカはやさしくなで続けた。
ようやく全てを出し尽くした頃、アスカはシンジの顔を胸の谷間に抱き寄せ、鼻先をシンジの髪に埋めた。
「はぁ……はぁ……」
アスカの中から溢れた二人の愛液は、結合したままのシンジ自身のわずかな隙間から滴り、シンジの太ももを伝ってシーツに大きな染みをつくった。
ようやく少し息を整えたシンジが顔を上げる。アスカは慈愛に満ちた表情でシンジの視線を受け止めた。
「大好き、シンジ」
「僕も……好きだ、アスカ」
あたたかい。
余韻に浸りながら、互いのぬくもりを確かめるようにしばらく抱き合っていると、アスカがあることに気づいた。
「すごい……元気ね、シンジ」
う……とシンジは言葉に詰まった。
何度も放出したというのに、シンジの分身は依然アスカの中で硬度を保ったままだった。
「もう……」
アスカがジトっとシンジをねめつける。
「エッチ、バカ、変態……信じらんない」
アスカの声は、ふにゃふにゃだった。
シンジはゴクリと喉を鳴らして、そのままアスカをベッドに押し倒す。
十四年分の二人の想いはやさしく混ざり合い、その夜何度もアスカの中でとろけて溶けた。
※
「そっか。じゃあ、ちゃんと仲直りできたんだね」
《心配かけてごめんね、ヒカリ》
電話越しに、ヒカリは安堵のため息をもらした。
数日前、あんなに思いつめた表情のアスカは初めて見たが、いつもの調子に戻っている。同棲しているという彼氏とはうまくいったようだ。
「まったく、世話が焼けるんだから。すぐじゃなくていいけど、その碇さんって人のこと、今度はちゃんと紹介してよね」
《うん、わかった。約束する……》
ん……というくぐもった声が聞こえた気がして、ヒカリは小首を傾げる。
「なにか言った、アスカ?」
《う、ううん。なんでもない、から……あ……》
「……?」
通話部分を塞いで、電話の向こうでアスカが誰かと話している気配がする。
こ、こら。我慢しなくていいって言ったけど、まだ電話中……。
あ……や……。
だめ……ん……。
「あー……アスカ、じゃあまた、そのうちね。約束だよ」
《う、うん。絶対、近いうちに紹介するから! ……んん》
もっと、シンジ……。
通話を切ってから、ヒカリはこめかみに指をあてた。
ーなんだっけ? この、不毛な痴話喧嘩に振り回されてるような変な気持ち。
どこか懐かしいその感覚に、ヒカリは呆れ顔で眉をひそめた。