ここ最近の碇シンジの奮闘ぶりは社内で注目の的だった。
妻である碇アスカが産休に入った仕事の穴を埋めるような獅子奮迅の働きぶりを見せ、部署内の人間を驚かせた。しかも、就業時間内にはきっちりと与えられた仕事を全てこなし、定刻のチャイムに合わせて退勤のタイムカードを切ると、疾風の如く走り去っていく。
「ひゃー、相変わらず愛されてるねぇ、姫?」
お疲れ様でしたあぁぁーっ! という声と共にロビーから遠ざかっていくシンジを横目に、マリはスマートフォン越しに囃し立てた。
《あのバカ……急がなくてもいいって言ってるのに》
通話口の向こうから、アスカのため息がもれる。だがその口調には、どこかまんざらでもなさそうな雰囲気が漂っていた。
「心配なんだよ、ワンコ君。まだ酷いの、つわり?」
《おかげ様で、少し落ち着いてきた》
「家事とか、無理してない?」
《バカシンジがいつもの倍くらいのスピードでこなしてるから、私の出る幕ないわ》
おぉ、そりゃすごい。
「じゃあ逆に、サービスしてあげなきゃだねぇ。それくらいの時期の浮気が一番多いらしいよ〜?」
《浮気は絶対ない》
スパッと即答した後、妙な間があった。しまった……というアスカの小言が聞こえた。
百戦錬磨のマリは、すぐにその意味に気がついてニヤリと笑う。
「ニャるほど、すでにサービスしまくってあげてるってわけですか〜……」
ガチャッ!
ツー、ツー……と通話は切れていた。
※
「あの……体調よくなかったら、無理しなくていいから……」
そう言いながら、シンジの目元と口元は緩んでいる。これを楽しみに仕事も家事もがんばっているというような調子だ。
アスカは首を横に振ると、ベッドの端に腰掛けたシンジのトランクスを脱がせた。その途端、立派に屹立したシンジ自身が顔を覗かせた。もう待てない、といった様子だった。
「元気すぎ……」
アスカは呆れ顔でシンジを見上げたが、頬が紅潮してくるのは隠せなかった。
「ごめん……」
シンジは子供のような顔で照れ笑いを浮かべた。
アスカの身体を心配して、仕事から帰った後もいつも以上の力の入れようで料理に洗濯、掃除にまで取り組むシンジに、つわりも治まってきたアスカが何か「ご褒美」は欲しくないかと提案したのは、先週のことである。
ーじゃ、じゃあ、あの……。できれば……口で、してほしい……。
たっぷり一分は言い淀んだ後、シンジは上目遣いでアスカにお願いした。
「ホント、子供なんだから……」
アスカはシンジの前に跪いたままシャツを脱いだ。弾みで、アスカの豊かな双丘がぷるんと跳ねる。それだけでシンジ自身はビクンと震え、アスカはさらに顔を赤らめた。
アスカの腹部は、ほんの少し膨らみ始めていた。
「ホントに、体調良くなかったら無理しなくていいからね?」
シンジの気遣いは、かえってアスカの加虐性を刺激した。
アスカはシンジ自身に右手を添えると、緩やかな速度で上下にしごいた。アスカの体調を気にして数日間我慢していたシンジの呼吸は、すぐに荒くなっていく。
「は…ぁ……あー……」
先端から透明な愛液を溢れさせるシンジ自身を、アスカは自身の乳頭へ導き、しごき上げながら擦りつける。シンジの愛液がアスカの桜色の乳首を充分に濡らした後、アスカはそれを潤滑油代わりにして、両方の乳房でシンジ自身を挟み込んだ。
ーあと……。一回だけでいいから、そのぉ……む、胸で……してみて、ほしい……です。
少年のような純粋な眼差しで、あの時シンジはおねだりした。
「気持ちいい?」
「うん……う…あっ……すごい」
アスカが胸を上下させる度に、シンジは目を細めて情けない声を上げた。
胸の谷間から窮屈ように顔を覗かせている亀頭がなんとなく可愛らしく感じる。アスカは豊乳で搾り上げるようにシンジをせめ続けながら、伸ばした舌先でシンジの先端をチロチロと舐めた。
「はっ……あっ……アスカっ」
シンジの裏側の一番敏感な部分を執拗に舐め上げる。刺激を与えるにつれ、シンジ自身はピクピクと震えながら面白いように硬度を増した。シンジの両足が下腹部を弄ぶアスカから離れるようにピンと伸びたのを見て、アスカはシンジの限界が近いことを理解した。
何日も我慢して、敏感になっているのだろう。シンジの身体が自分を求めていることがわかって、アスカはうれしかった。
「まだ、我慢して」
「ふ……う、うん……んっ」
アスカは乳房から手を離して彼を解放すると、唇でシンジ自身を深く、ゆっくりと、シンジに見せつけるように咥え込んだ。
「ッ! あっ……!」
甘く痺れる快楽が下腹部に集中して、シンジは身悶えした。その仕草をもっと見たくて、アスカは角度を変えながら複雑に口を前後させた。
「ん……んっ……」
「あっ……あー……」
「きもひいい?」
「うん……すご、く……う、あっ」
荒くせつない吐息をもらしながら、我慢できなくなったシンジの右手がアスカの乳房に伸びた。包み込むように揉みしだき、時折ぷっくりと突起した頂きを指先でこねる。
「んっ……!」
アスカは口のストロークを変化させた。浅く、速く、シンジが好きな先端へ舌先を絡めながら愛撫する。
「はぁ……はぁっ……アスカ」
シンジ自身がさらに硬く膨張したのをアスカは感じた。
「もう、い、イク……最後は、手、で……いいから」
シンジの懇願を無視して、アスカは口の動きをさらに速めた。
「んっ……ん……っ」
「だ、ダメ! アスカ!」
「……っ!」
耐えられなくなった腰をほんの少し浮かび上がらせて、シンジは呆気なく射精した。
びゅ……ぴゅる……という卑猥な音が聞こえた気がした。
二度、三度、アスカのリップにシンジの欲望が放出される度、シンジの下腹部は小さく震え、それをアスカは愛おしそうに恍惚とした表情で受け止めた。
「は……ん……」
最後の一滴まで搾り取るように、口をすぼめながらアスカはシンジから顔を離した。衰えないシンジ自身は、名残惜しそうにアスカの唇に愛液の系を残した。
「は……は……」
余韻に浸っていたシンジは、アスカがいつものようにシンジの精子を飲み下そうとしているのを見て、慌ててベッドサイドのティッシュを数枚取ってアスカの前に差し出す。
「わぁーストップっ! ダメ、アスカ!」
万が一雑菌が入って胎児に悪影響が出ると良くないので、あまり口内で精子を受け止めるのはいけないらしい。シンジがいつも行為の前は念入りにお風呂で体中を……特に局部を……洗っていることをアスカは知っていて、あまり気にしてはいないのだが、シンジが泣き出しそうな顔でテッシュを差し出してきたので、アスカは大人しくシンジの愛液をテッシュの上に吐き出した。
「ありがとう。嫌な味してない?」
口に出した後、シンジはいつも申し訳なさそうにお礼を言う。
そのくせ満たされてしあわせそうな顔をしているシンジの心理が、アスカにはよくわからなかった。
シンジがアスカを大切に思っていることは普段の行動から痛いほど伝わってくるが、それにしてもこの「ご褒美」ができてからのシンジの働きぶりには目を見張るものがあった。
ヒカリに電話でそれとなく相談した時の返答も、「うちもそうだった」という呆れ声だった。
《男の人って、口でしてもらうの好きみたい。なんか、してあげるって約束したら朝からやたらと張り切るよね》
シンジは全力で仕事をしてきた後とは思えないスピードで、栄養バランスが完全に配慮された一汁三菜の和定食を夕食に作り、そのおかずのどれもがいつも以上に美味しかった。
ーカフェとかレストラン開業しても通用するんじゃないかしら?
シンジがカウンターの中で料理に勤しみ、自分が客からオーダーを取っている様子を想像して、アスカはにやけそうになる顔を伏せた。そんなアスカの様子にも気づかず、シンジは食後のフルーツをアスカに振る舞うと、ハイスピードで台所の洗い物を片付ける。
夜はアスカの背後から腕枕をしながらぴったりとくっつくように添い寝し、アスカが眠りにつくまで、シンジは両手で彼女の頭とお腹をやさしくなで続けた。
体調さえよければ妊娠中のセックスも問題ないらしいのだが、つわりがまだ完全に治まったわけではないので、二人とも直接抱き合う行為は我慢していた。
にもかかわらず、口でしてあげる程度のことでシンジがここまでニコニコ顔で張り切ってくれるのは少し癪な気もするが……。
「アスカ……」
シンジはアスカのうなじにキスを繰り返す。
アスカが妊娠してから、シンジは以前の倍以上の回数キスをするようになっていた。しかも、唇だけでなく、全身のあらゆる場所に。
ーなんか、犬みたいね。
ワンコ君ーと、マリがシンジのことを呼んでいたことを思い出して、アスカは苦笑する。
安定期に入ったら、またシンジとつながりたい。お腹が大きくなっても、シンジが変わらず愛してくれることは、アスカには容易に想像できた。
でもそれまでは、この安らぎの中で、二人一緒にまどろんでいたいと思うアスカだった。
※
ここ数週間、シンジは自分が舞い上がっていることを自覚していた。
子供ができたということももちろんあるが、大きな要因はそれだけではない。
「おかえり、シンジ」
仕事を終えて自宅に帰ると、アスカの声が出迎えてくれる。
それが、ただ、うれしかった。
出産が無事に終わったら、アスカは仕事に復帰して、シンジは家庭に入って赤ん坊の面倒をみる。二人でたくさん話して、そう決めた。
だからそれまでは、大切な人が自分を出迎えてくれるしあわせを噛み締めていたいと、シンジは思っていた。
「体調はどう、アスカ?」
「シンジが過保護なくらい面倒みてくれるから、元気よ。私もお腹の赤ちゃんも」
「ちょっとでも辛いようなら、言ってね」
「今日は先にご飯にする? それとも一緒にお風呂に入って……し、してあげようか?」
「う……」
上目遣いで顔を赤らめるアスカに、シンジの体温は顔面を中心に急上昇した。
ここのところシンジが舞い上がっているのは、子供ができたということももちろんあるが、アスカが出迎えてくれるから……。
……というだけでもなさそうだ。