「だめ……ジンシ……」
そう言いながら、シンジの頭を押さえるアスカの両手にはまるで力が入っていなかった。
これくらい濡れていれば大丈夫だろうか……?
アスカの下腹部から顔を離し、舌先の愛液を飲み下す。
乱れた息を整えている余裕はなかった。
避妊具は焦って随分前につけたままだったが、シンジ自身は愛撫の間も固く屹立したままだった。獣のような欲望を内包したソレを、シンジはアスカの中心にゆっくりとあてがった。
「いい……アスカ?」
「バカ……聞かないでよ」
月明かりが照らすアスカの表情に、シンジは見惚れた。
シンジはアスカの目尻の涙を吸い取るように、小鳥のようなキスを繰り返した。
きてーとアスカは言った。
その瞬間をー。
初めてアスカとひとつになったその瞬間のことを、シンジは生涯忘れないだろう。
※
「ほいじゃ、お姫さまお預かりするわね〜」
「パパ、ママ、行ってきまーすっ」
マリとミライは手をつなぐと、それぞれ反対の手をシンジとアスカに向かって振った。
いつの間に仲良くなったのか、二人は笑顔で談笑しながらマンションを後にし、角を曲がって見えなくなった。
「マリさんには頭が上がらないね」
マンションの廊下から二人の様子を眺めていたシンジとアスカは、互いに頷き合うと自宅の中に戻った。
朝からずっと、二人はそわそわしていた。
親友に子供の昼食を任せるのは忍びない気持ちもあったが、夫婦水入らずの時間を確保できるのはありがたかった。
とはいえ、マリとミライは駅前の喫茶店でランチとデザートを食べた後、近所の大型公園で遊んでから帰ってくるスケジュールだったので、二人だけの贅沢な時間は三時間程度しかない。
「飲み物とお菓子、用意するね」
二人は分担して準備に取り掛かった。
そのシンクロ率たるや凄まじいもので、アスカがこの日のために撮り溜めしておいた映画の中から二人が一番観たかったコメディー映画をテレビモニターに呼び出すまでのわずかな間に、シンジは朝食の際にあらかじめ淹れておいたアイスコーヒーとアイスティーをお揃いのグラスに用意し、アイスティーには薄くスライスしたレモンを浮かべて、ソファーの前のテーブルに並べ終えていた。アスカの好きなポテトチップスと個包装のチョコレートを器に入れて添えておくことも忘れない。
そのままシンジがソファーに腰掛けると、アスカはシンジの右手に腕を回し、リモコンの再生ボタンを押してからシンジの肩に頭を預けた。
せっかく手に入った貴重な時間である。一分たりとも無駄にはできない。
だが、いざ映画が始まっても、二人はまったく内容に集中できなかった。
「シン、ジ……?」
気づくと映画ではなく、二人はお互いを見ていた。
アスカの艶っぽい声に、シンジは自分の心の内を見透かされた気がして、ドキリとした。
アスカの潤んだ瞳がシンジを虜にする。視線を少し下げると、ラフなアスカのシャツの首元から、胸の谷間が垣間見えた。シンジの望むその先端だけが、絶妙な角度でシャツに隠れている。
「アスカ……下着は……?」
「聞く? そういうこと」
アスカがシンジに唇を重ねたのと、シンジがアスカのシャツの裾野から左手を大胆に侵入させたのはほとんど同時だった。
二人とも、よくわかっていた。
せっかくの貴重な二人だけの時間を、一分たりとも無駄にはできない。
「はぁ……ん……」
アスカの喘ぎ声に、ベッドが軋む。
シンジの中指の先がアスカのクリトリスをやさしく往復する度に、アスカの全身は細かく震えた。
「もう少し、速くしようか?」
いじわるで言ったわけではなかった。
今はまだお昼前で、カーテンを閉め切っていてもお互いの裸がよく見える。シンジはアスカが悦ぶ姿を、じっくりと眺めていたいと思っただけだ。
「ん……だいじょう、ぶ……そのままがいい」
シンジはなでるように一定のリズムでアスカの敏感な部分を愛撫し続けたが、アスカが達しそうになっていることはすぐにわかった。
アスカはシンジを抱き寄せ、吐息を流し込むように唇を塞いだ。お互い、キスが多くなる時は調子がいい時だ。
「ふぁっ……あっ……!」
舌を大胆に絡めた瞬間、アスカはブルッと震えてシンジにしがみついた。
その仕草が、シンジは愛おしくてたまらない。
「よかった?」
「うん……」
シンジはアスカにほほえみかけると、右手の中指をアスカの恥丘へ移動させた。くちゅくちゅと入口付近に触れた後、深く、ゆっくりと、その奥へ中指を埋没させる。
「ん、ん……っ」
とろんと虚ろな表情だったアスカが、再び愉悦の視線を結んでシンジに投げかける。
シンジは指先で丁寧にアスカの中をかき回しながら、添い寝をするようにアスカの隣に左肘をついた。そのままアスカの頬、うなじから双丘の裾野にキスを繰り返した。
「ん……あ……」
シンジの指先が恥部の上部ーアスカが好きな箇所を刺激して、彼女は思わずシンジを胸の谷間に抱き寄せた。
シンジはかまわず顔の位置をずらして、アスカの右の乳房の桜色の頂きを口に含む。そうしておいて、大事な宝箱の中身を愛でるように、シンジはすでに限界まで突起していたアスカの乳首へ舌を這わせ、吸いついた。
「あっ……や……!」
「いっぱい、イッて、アスカ」
シンジはアスカの中へ薬指を滑り込ませた。すでに大量の愛液をたたえていたアスカの恥部は、当たり前のようにシンジの二本目の指を受け入れた。
今度は手前ではなく、斜め上をトントンと二本の指でリズミカルにノックする。たった数秒間の刺激で、アスカは跳ねるように身体をのけぞらせた。
「あっ! シンジ! だ、めぇ……ッ!」
今度はシンジがアスカの唇を奪う。
かきむしるようにシンジの頭を抱え込んだ瞬間、アスカの下半身は一際大きく跳ね、大量の愛液を自身の中心からぷしゅぷしゅと放出した。
「は……は……」
アスカの呼吸が整うまで、シンジは我慢できなかった。
二本の指をアスカの中から慎重に引き抜くと、アスカの頬に手を添えてさらにねっとりと唇を重ねる。
愛おしくて仕方なかった。
自身の快楽よりも、アスカが悦んでくれることが、うれしくて仕方なかった。
「ほしい、シンジ……」
おねだりをするように、アスカがシンジの頬を下からなでる。
「僕も、挿れたい……」
サイドテーブルの奥に隠してある避妊具を取り出すと、シンジは一度ベッドサイドに腰掛けてから、熱くそそり立つ自身をいさめるように覆い被せた。
久しぶりで、手間取ってしまう。
その様子をアスカが寝転んだまま眺めているのがわかって、シンジは少し顔を伏せた。そんな間抜けな時間すら愛おしかった。
短いキスをしてから、シンジはアスカの両脚の間に身体を滑り込ませ、彼女の中心に自分自身をあてがった。
「い、いくよ?」
「うん……」
久しぶりの行為に、見つめあう二人の頬が赤らむ。
互いに抱きあいながら、二人の唇とその中心は同時に結びついた。
「……ッ」
「んっ! ……あっ!」
深くー。
つながる。
途方もない快楽と安堵感に、二人はしばらく動くことができなかった。
アスカの最深部まで自身を沈めたまま、シンジはせつなく甘い視線を送るアスカを見ていた。
「好き、シンジ……」
初めて結ばれたーあの日の夜と同じ言葉を、アスカは紡いだ。
「シンジは……まだ、好き?」
シンジはアスカの涙を親指でぬぐいながら、やさしく頬をなでる。
「伝わってない?」
シンジはすでに限界まで膨張している自分自身をゆっくりと往復させた。
「あっ! あっ……」
アスカの全てを味わうように、離れる直前まで自身を引き抜き、また挿し込む。
「あッ! んっ!」
「はぁ……はぁ……」
二人の吐息は、同調したかのように同時に乱れた。
シンジが愛情をうちこむ度に、アスカの奥からそれに応えるように愛液がとめどなく溢れてくる。
「どう、しよう……シンジ」
深く、やさしく、ゆっくりとーシンジはグラインドを繰り返した。
「好きぃ……もっと、好きなの」
「僕も……あの頃より、もっと……」
シンジはアスカのお尻を持ち上げ、ほんの少し斜め上に角度をつけて腰をうちつけた。
「ずっと、大好きだ、アスカっ……」
「あッ! あぁッ!」
必要以上に激しくすることを、シンジは避けた。
達して自分の欲望を解放するよりも、アスカの表情や仕草をずっと確かめていたかった。
自分がどれだけアスカを愛しているかーあの頃よりも、もっともっと大切に思っていることを、知ってほしかった。
そして、そんな気持ちはアスカも同じだということも、シンジはわかっていた。
背中を抱き寄せ、唇へ押しつけるようにアスカの乳房を舐める。子どもをあやすように、アスカが頭を撫でてくれる。
「はっ……あっ……!」
アスカもまた、夢中で往復するシンジの頬に両手を添えると、彼の口内を舌先で何度もかき回した。混ざりあい、シンジの唇から溢れた唾液を、アスカは親指ですくい取ってシンジの乳首にこすりつけた。
「……イキそう?」
シンジがせつなく目を細めているのを見て、アスカはシンジの限界を感じ取った。
「まだ……いやだ……。アスカと離れたくない……」
そう言いながら、シンジの吐息は震えていた。
そんなことを言うシンジのやさしさが、あたたかく全身を満たしていくことを、アスカは感じる。
「口に、いいよ……?」
いつまでたってもシンジが子供のままなことも、アスカは知っていた。甘い囁きを受けたシンジの表情が、一瞬ご褒美をもらった子犬のようにだらしなく緩んだのを、アスカは見逃さなかった。
〝ミライちゃんのかっこいいパパ〟がそんな痴態を見せるのは、アスカの前だけだ。
「アスカ……っ!」
数度の逢瀬の後、シンジ自身がさらに硬く膨張した。
「あっ! あッ! シンジ!」
立って、とアスカが耳打ちすると、シンジは観念して自分自身を引き抜き、そのままベッドの上に膝立ちになった。避妊具を外し、アスカに見せつけるように、右手で激しく自身をしごく。
「はぁ、はぁ!」
アスカはシンジの右手をやさしく退かせて、うっとりとした表情でシンジ自身を口に含んだ。
「アス、カ……」
舌先でしごくようにアスカが口を前後させて、シンジの表情は甘く歪んだ。
「ん……」
「はぁ……! はぁ……ッ!」
シンジの腰に手を添えて、アスカは浅く速くシンジを前後に弄ぶ。
爆発的な衝動がシンジの下腹部に集中し、シンジはアスカの快楽の奴隷となった。
「ん……ん……っ」
「もう、で、出る……! 出すよ」
「ん……んん……っ」
「あ、あ……っ!」
その瞬間、シンジは無意識に腰をわずかに前に突き出した。
欲望が視界を白く遮りー。
シンジは射精した。
「ふっ……う……!」
「ん……っ」
愛する人への一ヶ月ぶりの解放は、シンジに自制することを許さなかった。シンジの先端が小さく震える度に、アスカの口内にシンジの愛液が激しく放出される。
アスカはそれを、とろけるような表情で全て受け止めた。
「はぁ……はぁ……」
やがてシンジの律動がおさまっても、アスカはしばらくシンジ自身を離さなかった。
ようやくシンジがアスカの口内から自分自身を引き抜いた時、アスカは名残惜しそうに系を引くシンジの先端の裏側をしつこく舐め上げた。
そしてシンジの全てを、アスカはコクリと飲み下した。
「大好き、シンジ……」
ティッシュで互いの下腹部を拭きあってから、二人は放心したようにベッドに倒れ込んだ。もちろん、抱きあうことは忘れない。
「どうする? お昼ご飯食べながら、映画の続き観ようか?」
二人とも、全身がしっとりと汗ばんでいた。
シンジは抱き寄せたアスカの頭をなでながら、ちゅっちゅと音を立ててキスを繰り返した。
「うん……」曖昧な返事をしながら、アスカは再びシンジの下半身に手を伸ばした。
「次は、激しいのがいい……」
赤らむアスカに、シンジの喉がゴクリと鳴る。
「いいよ……」
アスカの指先が艶かしい動きで膀胱から筋の裏側をなで上げると、シンジは途端に元気を取り戻した。
※
「たっだいまー!」
アスカが玄関のドアを開けると、ミライが靴を派手に脱ぎ散らかしてリビングへ駆け込んでいった。
「ありがとね、マリ」
「なんのなんの。楽しかったよぉ〜、お姫さまとのお茶会は」
言いながら、マリはアスカを横目で観察する。
ミライを預かる前よりも、髪型と服装にほんの少し乱れがある。なによりも、今朝よりもずいぶんと表情がやわらかい。
(何年経っても想いあえる相手がいるっていうのは、うらやましいねぇ)
マリは猫のような表情でにんまりと笑った。
その時、「あっれ〜?」というミライの声がリビングから響いた。
「パパとママ、お昼ごはんまだ食べてないの?」
全身を跳ね上がらせて、わかりやすくアスカは狼狽した。
玄関に戻ってきたミライの後ろから、シンジが困り顔を覗かせる。
「な、なんでわかったの?」
「だってぇ、朝ごはんのお皿が台所にのこったままなんだもん」
「それは、ほら、あれよ……ちょっとパパと二人で映画観るのに夢中になっちゃって、これから食べようかなって思ってたところだから」
なぜかミライは、踵を返して今度は寝室に入っていった。
「あれれぇ〜、ベッドのシーツがかわってるよ、パパ? ミライがおねしょしたわけでもないのに、へんなの」
アスカとシンジの頭から同時に赤い煙が立ち昇る。
ピンときたアスカは、ドスが効いた声で寝室のミライに向かって叫んだ。
「ミライ、あんた……それ、誰に確認するように言われたの?」
「ん? マリおねえさまだよ〜♪」
アスカは仁王像のような形相で玄関を振り返ったが、すでにそこにマリはいなかった。
「コぉネぇメガネええェェェーッ!」
外に飛び出していくアスカを、シンジは苦笑して見送った。
こんなにぎやかな日常は、きっと、ずっと、これからも続いていくだろう。
あの頃と変わらずに。
いつまでも変わらずに、元気なアスカがそばにいること。
それはとてもしあわせなことだと、シンジは思った。
了