マギア∞ヘリックス 作:秋風冽々
───平和な世界、地球にピンチがせまる!!
突如、生物の負の感情を糧に成長するモンスター・ネーガが現れ、世界中で猛威を振るい出した。
人類のどんな兵器も効かないネーガの力は凄まじく、町は壊され、命が奪われ、人類は徐々に滅びの道へと向かわされていく。
そんな時、世界各所で不思議な力を持った少女達が登場する。
少女達はおとぎ話のキャラクターに扮した衣装で、キラキラとした魔法を駆使して戦い、ネーガを退けていく。
人々はその姿に、かつては架空の存在だった〝魔法少女〟という呼び名をつけ、世界は彼女達に熱狂した。
平和のため、愛する人達のため。
魔法少女達は命をかけて『悪』と戦い続ける───!!!
だが、世界は結局滅んだ。
世界中でモンスターと戦っていた『魔法少女』達が……『人々の為に』戦っていた彼女達が、いつしか、モンスターと戦わなくなったからだ。
登場当初の『魔法少女』達の人気は凄まじく、メディアは事件が起こるたびに彼女達の勇姿を報道した。
一部の『魔法少女』達は自らメディアに出演し(正体は隠し、『魔法少女』としての名を芸名のように使いながら)、アイドルやタレントのように振る舞った。
やがて彼女達の名を使った商品や作品などが現れ出し、学校での講演のような事業も行われ、『魔法少女』はある種の職業や文化、ブランドと化していった。
彼女達に『力』を与えた存在は結局確認できずじまいであったが、漫画やアニメからそのまま飛び出してきたかのような、まさしく夢のような存在に世間は夢中になっていた。
そんな中、ある事件が起こる。
とある『魔法少女』の活動中、一人の若者がモンスターとの戦いに巻き込まれ、死亡したのだ。
彼は熱狂的な『魔法少女』のファンだったが、行動が行き過ぎていた。
最推しとしていた『魔法少女』の活動前や後に強引に付き纏い、悪質なストーカー行為を繰り返して私生活を記録し、ネットにアップしたり。
モンスター退治中も『魔法少女』の勇姿をカメラに収めんと、警察や自衛隊の協力のもとに規制がかけられているにも関わらず、周囲の制止を振り切って危険な戦場へと飛び込んだり。
目に余る行為の数々に何度も逮捕されてきたが、それでも彼は暴走をやめなかった。
そしてついに……あるモンスターの攻撃に巻き込まれ、死亡したのだ。
当初は彼に対する批判の方が強かった。
危険と承知の上で戦場に足を踏み入れたのだから、元から素行に問題があったのだから、全ては被害者の自業自得である……そういった風潮が強かった。
だが、一部の人間はそうではなかった───『人を守るのが魔法少女の責務、それを果たせなかった魔法少女本人は相応の償いをすべきである』───そんな意見を述べる者も少なからずいた。
そして、その意見を真に受ける者達も決して少なくなかった。
『活動内容に問題はなかったのか?』
『周囲への被害を顧みずに戦った弊害ではないのか?』
『民間人の有無を確認せずに活動を行った所為ではないのか?』
『そもそもどちらの攻撃に巻き込まれた結果なのか?』
……一人が挙げた疑問の声に次々に影響され、やがて少しずつ少数意見と多数意見の差が縮まり始めた。
次第には、『正義感』に駆られた複数の民間人が件の『魔法少女』の正体を特定し、活動内容や普段の素行を無断で監視しようとするようになった。
例の犠牲者のように『魔法少女』をストーキングし、
その末に、とある『魔法少女』が過去に万引きなどの軽犯罪で補導されていた事実が明らかとなる。
家庭に問題があり、頼れる大人も友人もおらず、精神的に追い詰められた末の犯行であり、本人も後に心から反省し店側に謝罪し解決した事件ではあった……だが、清廉潔白な『魔法少女』のイメージを大きく損なうスキャンダルに、メディアは大喜びで食らいつき、微々たる情報まで暴いた。
英雄的存在とはいえ、元はただの人間の少女。
完全に裏のない人間などいるわけもなく、程度の差こそあれ、叩けば叩くほど埃は見つかった。
傷害事件を起こした者、いじめに関わった者、年齢を誤魔化し不純異性交遊があった者、普段の言動や素行に問題のあった者……次々に見つかる不祥事に、世間の『魔法少女』達への眼差しは嫌でも変わっていく。
やがて、『魔法少女』の活動そのものが大きく見直される事になる。
人間として問題のある人物に人類の明日を託していいものか……各国政府はついに腰を上げ、超人的存在に対する『法』の制定を決意した。
『魔法少女』───すなわち戦う力を得た少女は、これまでは暗黙の了解で見逃されてきた個人情報を開示され、国に厳重に管理される事が決定した。
氏名、年齢、住所、学校、家族構成、友人関係、恋人関係……あらゆる情報を第三者が把握する事が義務付けられたのだ。
そして、その情報を個人で勝手に変更する事を厳しく禁じた……例えば、引っ越しにより住所・学校を変更する、異性・同性と恋愛関係になる、結婚により配偶者を得るなど、あらゆる行為の禁止、あるいは変更における厳重な規定が設けられた。
スキャンダルを持つ者もそうでない者も、『魔法少女』達は、若く未来の可能性に溢れていたはずの少女達は誰一人例外なく、自由を奪われた。
そして───『魔法少女』達は、戦う事をやめた。
国は、世間は、前提条件を間違っていたのだ。
『魔法少女』達は皆、戦う理由はそれぞれ異なれど……金銭や見返りを求めたわけではなく、だれかに強要されたわけでもなく、純粋なボランティア精神で戦っていた。
それは家族の為、友達の為、恋人の為、変わらぬ日常の為。
本人達の意志で行われていた献身だった。
気付いた時には、もう遅い。
大勢の住民達が行き交う都会に突如現れた巨大モンスターが、手当たり次第に建物を破壊し、人々を踏み潰し、数多の命を奪った。
だが、『魔法少女』達は誰も現れなかった。
政府から派遣された職員が情報通りに『魔法少女』達の自宅、学校を訪ね、出動を要請しようと試みたものの……そこに彼女達の姿はなかった。
近隣の公園や店舗を捜索しても、誰一人見つからない。
ならば多少強引で卑劣な手段を取ろうとも、と『魔法少女』達の身内や知人を確保しようとするも、すでにその行動は予測済みだったのだろう、誰も捕らえる事ができずに終わった。
人類は絶望した。
そして……憤った。
あんなにもちやほやしてやったのに、あんなにも褒め称えてやったのに。
英雄としての蜜を味わうだけ味わって、責務を放棄して逃走した少女達に世間は失望し、怒りを露わにした。
だが、もはや彼らがどれだけ騒ごうと、少女達には関係ない。
モンスター達は街を、国を、世界を容赦なく破壊し、蹂躙し、あっという間に無数の骸の塔を築き上げていく。
それを止めてくれる者は誰もいない……止めてくれるのが、倒してくれるのが、戦ってくれるのが、救ってくれるのが当たり前だと思っていた存在は、もう姿も現さない。
世間はそこでようやく理解する、そして後悔する。
だが、もう何もかもが遅い。
こうして、世界は滅んだ。