※この作品はR-18です。

鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~   作:もすもす。

150 / 247
お待たせしました。


【150】目にすることは叶わないと思ってた(魔法ってマジ魔法だね)

 

「先程も使われていた魔法の筆記用具・・もしかして文字だけでなく、絵も描けたりしますか?」

 

何度か目にした異世界(あちら)の魔法的な筆記用具。

 

ペン軸の尻部分に瑠璃(ラピスラズリ)や翡翠なんかみたいに中身の詰まった青系の不透明な石が嵌められた不思議ペン。

瓶の中でキラキラと流動明滅する同じく青い謎インク。

それらを使って線を引くのは、裏面に魔法陣の刻まれたややごわついた紙。

 

もし、私が思う通りに使えるとしたら・・

 

これって夢にまで見た「脳内画像の出力」が可能な代物なのではっ?!

 

自らの予想に心臓が跳ね、『成功したらペン入れ時間の大幅な短縮!原稿作業効率UP間違いなし!』と皮算用に興奮が加速する。

 

そんな特大の期待を胸に、カメラのレンズ越しに美人さん(お姉さま)の目を見つめた。

 

急に興奮しだしたこちらに首を傾げそうな様子で「筆記の魔道具で、絵を?」と口にした後黙り込む美人さん。

 

どうやら魔法の紙とペンで絵を描けるか、考えを巡らせてくれているらしい。

考えの余地がある事に更なる期待が高まる中、暫し時が過ぎ・・

 

然程待つことなく、視線を上げた美人さんは確信に目を光らせて言った。

 

「問題無いかと存じますわ」

「本当ですか?!やった!それって私でも使えますよね?!」

「はい。魔女さまも精霊契約の経験がおありと窺っておりますし、大丈夫ではないかと・・あの、早速試されますか?」

「いいんですか?!是非お願いしますっ!」

 

腰を浮かし、鼻息も荒く返すとぱちりと瞬きした美人さんは微笑み頷いて、待機していたメイドさんに指示を出す。

 

「承りましたわ。ジゼル。用意を」

 

すっと頭を下げたメイドさんが下がり、そして直ぐに新たな筆記魔法道具一式を布張りのトレイに乗せて運んできてくれた。

 

おぉ!

絵を描くという事で気を使ってくれたのか、インクの色は黒系だ!

ペンの石は焦げ茶、かな?黒寄りだけど。

 

私と青年(アド君)以外の人は鏡を使えない為、こちら側から食器を運ぶトレイを差し出して乗せてもらい受け取る。

用紙を広げるスペースを作ったら、早速ペンに手を伸ばした。

 

「すみませんクリスさん。使い方なんですが、前に弟さんとこれを使った時は普通に字を書いたんですけど、先程クリスさんが使ったように線を引きさえすれば良いんですよね?」

 

蓋を外したインク瓶にペン先を浸す前に尋ねると、笑みを浮かべていた美人さんは頷き答える。

 

「はい。その通りですわ。ですが、どのような魔法も基本は身の内でしっかりと結果を思い描く事が重要になります。慣れれば然程意識することもないのですが、最初は描きたい絵を細部まで思い浮かべるのが成功への近道かと存じますわ」

「成程、了解です!ではやってみますね!」

 

よし。つまりはイメージが大事って事だよね?

さて、何を描くか・・

 

視線を斜め上に彷徨わせて、脳内で記憶のページを捲ろうとした。

瞬間。ふいに浮かび上がった映像・・

 

うん・・・良いんじゃないかな?

ではイメージを固めまして・・

 

目を閉じ、絵の細部を思い描いて全体の構図を決めたら、インク瓶にペン先を浸して左手で用紙を押さえ、上部にざーっと真一文字に線を引いた。

 

黒く煌めいた線が、ぱちっぱりっと火花の様な光を散らして、波打つことなく真っすぐに走る。

 

そしてペン先が紙から離れた瞬間。黒い線はぶるり、とひと震えしてスルスルと動き出した。

 

絵は左上部分から徐々に形になって行く・・

が、途中で線が足りなくなってしまったので、追加で何度もペン先を走らせる。

 

やがて完成したのは、優しい微笑みを浮かべ寄り添う男女の絵。

 

煌めきの余韻が残る紙を、僅かに震える指先でそっと撫でた。

 

「描けた・・」

 

記憶にある通りの、両親の顔。

涙は出ない。10年前に散々流したから。

今はただ、恋しさと寂しさで、ぎゅうと胸が苦しくなるだけ・・

 

「成功したようで良かったですわ。おめでとうございます魔女さま!」

「・・・ありがとう、ございます」

「?・・あの、何かございましたか?体調が優れないのでは・・」

 

試しが成功したらしいのに、喜ぶどころかテンションを下げたこちらの様子に眉根を寄せ心配そうに尋ねる美人さん。

申し訳なく思いながら、詰まる喉を無理矢理動かして少し擦れた声で答える。

 

「・・いえ、大丈夫です・・実は、両親を描いてみたんです。ずいぶん前に亡くなったんですけど、ふと思い浮かんだものですから・・」

 

記憶にある笑顔が撮られた写真は無かったから、良い機会だった。

自分の手で描いたとしても、きっとどこか納得出来なかっただろうけど・・

うん。これなら大丈夫。納得の出来だ。

 

「左様でしたか・・その、宜しければ拝見させて頂いても?」

 

一瞬痛ましげに眉を下げた美人さんがそう訊ねた事で、まだ絵を見せていない事に気付く。

 

「あ、はい。すみません気が利かずに、どうぞ」

 

そう言って、絵を向こう側へ滑らせるようにして差し出した。

手前にはらりと現れた絵を手に取り、淡く微笑む美人さん。

 

「まぁ!なんて素晴らしい・・笑顔の素敵なご夫婦ですわね」

「ありがとうございます。そうですね・・強く、優しい両親でした。交通事故・・あ~・・移動に使う乗り物の事故で、2人一緒に亡くなったんです」

「それは、なんともお辛い事でございましたわね・・心中お察し致しますわ」

 

差し出したトレイで絵を受け取りながら「お気遣いありがとうございます」と苦笑気味に返す。

 

「もう10年も前の事ですから、大丈夫ですよ」

「・・そうだとしても、ですわ。あたくしでは想像も出来ない辛いご経験をされたのに、今日まで立派に生活されてきた魔女さまを、あたくし、心から尊敬いたしますわ」

「立派かどうかは自分ではなんとも・・けど、ありがとうございます」

 

生活していくのは、ギリギリ成人していたのもあってどうにかなった。

両親は駆け落ちだったらしく、どちらの実家とも縁を切ってたので「身内に頼る」という選択肢は出て来ず、祖父母を始め親戚の存在など気にした事もなければ、当時は思いつく余裕も無かった。

 

けれどあの時、突然母方の祖父とやらが乗り込んできて・・

 

嫌悪に陰鬱を足して煮詰めたようなドロリとした感情が、普段忘却しているその奥底から顔を覗かせた瞬間。ハッ!とする。

 

いやいや。あんな糞ジジイの事を思い出して、胸糞悪くなるのはとっても癪だ。

 

『あの鬼畜に振り回されるのは二度と御免だっつーの!永久になっ!』

 

だからぎゅっと目を閉じて、暗い感情を再び閉じ込め気持ちを切り替える。

瞼を開き、魔法で書き上げた両親の顔を見たら・・もう大丈夫だと思えた。

 

ふっ、と小さく息を吐き、カメラ越しに語り掛ける。

 

「すみません。もう平気です。では、ちゃんと使えた事ですし・・こちらの魔法の筆記道具一式が紙の製法を教える対価、ということでよろしいですか?」

「・・こちらとしても願ってもない取引ですわ。ですが、まだ対価としては不足かと存じます。どの道具も消耗品ですし、一先ず用意可能な分をお渡しした上で別の対価も検討頂きたく思いますわ」

 

こちらの言葉に一瞬痛ましげに目を伏せた美人さんだったが、扇を広げ続けた言葉はいつもの調子だった。

 

『・・気を遣わせてしまったな・・』

 

流石は美人さん。デキル女である!

お心遣いは有難く受け入れるとして、今度何かお返ししよう。

 

美人さんの対応にむず痒さを感じつつ、返事をしようとした瞬間。

 

唐突に、視界が揺れた。

 

「お?」

「魔女さま?」

 

なん、ぞ?

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。
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