鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
好いた相手に嫌われるかも知れない恐怖に震え、ゆっくりとした声音で事情を語った
その体は、声と同様に細かく震えている。
「ロアーナ・・」
名を呼ぶ若兵の言葉は、深く傷ついている人魚を気遣う労わりに満ちていた。
続く言葉の代わりに、跪いた姿勢から身を乗り出し俯く人魚を抱きしめる。
「辛い事を言わせてごめん。でもロアーナは俺の事を独り占めしたいって思ってくれてたんだな」
びくり、と震えた体を落ち着かせるように、優しく背びれのある背中を撫でる若兵。
「嬉しいよロアーナ・・俺も、ロアーナを俺以外の誰にも触れさせたくないって思ってる。だから安心してくれ」
「りーく・・」
「ロアーナには俺だけで、俺にはロアーナだけだ」
「リーク・・でも、いいの?リークの血をのこせないよ?」
「まだそうと決まった訳じゃないだろ?それに、もし子どもがいなかったとしてもロアーナが傍に居てくれるなら、俺は十分幸せだ!」
ニッ!と白い歯を見せて笑う若兵に、人魚は目尻を下げてきゅぅー・・と甲高く泣いた。
2人に子が出来るかどうかは分からない。
だが、もしずっと2人きりだったとしても、きっと仲良く暮らして行けるだろう。
王国に来るのなら色々と手助け出来ることもあるだろうと考えを巡らせていると、これまでずっと無言を貫いていた傍仕えが「大変盛り上がっているところ恐縮ですが、少々よろしいでしょうか?」と声を上げた。
周りが見えなくなる程互いに夢中になっていたらしい2人。
若兵は今更ながら他人の目があったことを思い出した様子で、慌てて人魚を解放した。
「はい!すみません何でしょう?!」
「・・ふと思ったのですが・・もしかしてロアーナさんは「
傍仕えの言葉に『あぁ。成程』と得心がいく。
見た目は普通の人魚と変わりないが、やや小柄な体や発情期がないというのは人種の特徴の表れかもしれない。
一方、若兵と人魚は「「間の子」?」「なに?・・」と首を傾げている。
「あぁ。こちらでは「混ざり者」といいましたか?種族の違う両親からそれぞれの特徴を受け継いだ子どもの事です」
説明を受け、驚きに目を見開く若兵は「ロアーナが?・・」と言ったきり言葉を失くした。
皇国で人種以外の地位が低い・・その中でも最底辺に位置付けられているのが「混ざり者」だ。
異種族間から生まれて来る子は、父の種族。母の種族。そして両親の種族の特徴を持って生まれた「混ざり者」のどれかで生まれて来る。
皇国では「間の子」と呼ばれ、複数の種族が共に暮らす村などでも1人か2人は居るものだが、皇国で「混ざり者」は人種の貴族にとって、異種族以上に迫害の対象だ。
人魚は良く解っていない様子だが、若兵は顔色を悪くし、勢いよく人魚の肩を掴んで「大変だ!」と声を上げる。
「ロアーナ!急いで王国に行こう!もし他のヤツに・・貴族に「混ざり者」の疑いをかけられたら何をされるか!」
「え・・あちし、人魚じゃないの?」
きょとんと首を傾げる人魚に、なんとか説明と説得をしようとする若兵だが、焦りから「人魚だけど人魚じゃなくて!」と空回るばかりだ。
「人魚からは人魚しか生まれない」というのが常識なので、ロアーナが理解出来ないのも仕方が無いが・・これでは埒が明かないので仕方なく口を挟む。
「落ち着けリーク。ロアーナは鱗の色以外、他の人魚と変わった所があるようには見えない。現状「そうかもしれない」という程度の事だ。今焦って妙な動きを見せると、周りの者から余計な詮索をされるぞ?」
「彼女が理解出来るまで説明するのは後からでも良いだろう?」と締めくくると、「そうですね」と一応の落ち着きを見せた。
「まぁ、まだ可能性の話ですよ。王国に来られるなら早いに越したことはないでしょうけど」
「そうだな。しかし今更だが、リークはこんなに話し込んでいて大丈夫なのか?」
「監視するのが任務だろう?」と問えば、「本当に今更ですね!」と笑いながら答える。
「他の奴らはロアーナたちとはあまり一緒に居たがらないんですよ!俺が昔交流があったって言ったら「ならお前は話する担当な」って押し付けられました!」
「まぁ役得なんで文句はないですけどね!」と笑う若兵。
「隊長の前では控えてますけど、他のヤツらの前では普通に話したりもしますよ!俺が居なくなると困るヤツらばっかりなんで、告げ口される心配もないです!それにアドさんたちは問題行動も無かったですし、安心して「何も無かった」って報告出来ます!」
と、明るく言った若兵は「でも確かに、そろそろ戻らないとですね!」と横に置いていた皮兜をかぶり直した。
「じゃあなロアーナ!あとで夕食持ってくるから、それまでゆっくりしてろよ!脚、怪我してんだから無理して動かないようにな!」
「ん~?よくわからないけど、わかった~・・リーク大好き。ありがとうね~?」
「えへへぇ」と柔らかく笑う人魚に、若兵は顔を赤くして「俺も大好き!」と叫ぶようにして返す。
かなりの声量だが、流石に『人魚と色恋沙汰に発展した事が周囲に漏れると良くないのでは?』と心配になり、天幕内にも関わらずつい視線を巡らせた。
と、こちらの様子に気付いた傍仕えがそっと「遮音魔法を発動済みです」と耳打ちする。
私が指示するまでもなく、既に半精霊に頼んで対策していたらしい。
『流石、頼りになる』と感謝と了解の意味を込めて軽く顎を引き頷いた。
「では、確認したかった事も聞けたし、私たちも戻るとしよう」
「何か困った事があれば相談してくれ、力になる」と付け加え、人魚を残して3人で天幕を後にする。
その後馬車は全て出てしまっていたので、またしても半精霊に頼み飛んで移動する事となり、今まさに迎えに出発しようとしていた馭者と操っていた馬を大層驚かせてしまうのだった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
その日の夕方。
大穴の近くにもともとあった野営場から少し離れた位置に、新たに王国から来た者たち用に野営場を設営した。
最初は大穴の近くを切り開いた場所を指定されたのだが、そこは元々作業する
案内人である皇国側の遺跡調査の責任者は「はぁ・・ではそのように」と釈然としない様子で頷いたので、眼鏡貴族は本当に好きなようにした。
「全く‥わたくしは護衛であって、土木作業員ではないのですが・・」
そう言いつつ、私を介して眼鏡貴族からの指示を受けた傍仕えは半精霊たちに魔石を与え、指示を出す。
するとものの数分で岩が露出していた山の斜面の一部を埋め立て、優に馬車5台は止められる広場を作り出してしまった。
これには何事かと物見に集まっていた工夫や巌窟人の職人らもポカンと目を丸くして固まり、彫像のようになってしまう。
しかしそれも徐々に湧き上がった歓声で解除され、集まったものたちは口々に半精霊による魔法と、そんな半精霊を従えている傍仕えを称賛するのだった。
興奮冷めやらぬ巌窟人たちからは、やれ「酒だ、山菜だ、肉だ」と贈り物が届けられ、これを断るのは巌窟人らの矜持を傷つける行為となるため、今後の付き合いの可能性も踏まえて受け取る以外の選択肢が無かった。
お陰で、今夜は
しかし、旅の間ですっかり異世界の味付けに慣れてしまったこの身は物足りなさを訴えており、『それならせめて飲み物だけでも』と眼鏡貴族との話し合いに異世界の酒を持ち込む事にした。
夕食後。招かれた宿泊箱の室内にはテーブルが用意され、沸々とした泡が目立つガラスのグラスが人数分並ぶ。
そこへ魔法で作り出した球状の氷の塊を落とすと、コロンと澄んだ音がした。
続いて布で覆い隠したガラス瓶の口を塞ぐ栓に切れ込みを入れ、専用の器具で引き抜くと中身をトクトクと注ぎ入れる。
照明の魔道具の光で、透き通った飴色の液体が蠱惑的に揺らめいた。
「・・これは、本当に酒なのか?」
一見すると煮出した茶葉のような色合いに、小太り貴族が当然の疑問を口にする。
「・・とある筋から入手した秘蔵の酒だ。酒精が強いため一気に飲むものではなく、少しずつ口に含んで楽しむもの・・らしい。確か・・「ういすきー」とかいう酒だ」
さて。貴族にとって嗜みの1つである酒だが・・気に入ると良いがな。
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