鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
背の高い者でも、私の腰辺りまでしかない小柄な種族。
しかし肉厚で筋肉質な者が多く、力自慢が殆どだ。
男性は臍の辺りまで豊かな髭を伸ばしており、他種族からすると年齢を判断するのが難しい。
女性は男性より更に背が低く、ややふくよか。
顔の作りが幼く、一見すると人種の幼女のような姿をしている。
もし子の世話している様子を見ることがあれば、子どもが子どもの世話をしているようにしか見えず、何とも言い表しにくい気持ちを抱くであろうことが容易に想像出来る・・
そんな巌窟人の職人たちに水竜討伐の策へ手を貸して貰うため、彼らが寝泊まりする宿泊場に傍仕えを伴い訪れた。
王国からの客人ということで、直ぐに纏め役の者のところへ案内され今に至る。
「んで?ワシらに何の用だって?冒険者の兄ちゃん」
「地底湖の水竜討伐の為、1つ手を貸して貰えないだろうか?」
「水竜~?ワシら「ギ」の氏族は地中や地上なら兎も角、水中の魔物なんぞ相手に出来んぞ?」
そう言って、髭を一本の太い三つ編みにしている纏め役の巌窟人は太い両腕を組むと片眉を上げ、怪訝そうに続けた。
「魔物討伐の助けになるのは武器作りが得意な「ガ」の氏族の方だと思うが?」
「武器なら間に合っている。必要なのは地中での活動に精通している者たちだ」
「はん。そんならワシらのとこで正解だ。で?その策ってのは?」
一本髭の巌窟人は依頼に興味が出て来たようで、ずいと身を乗り出して問う。
そこで傍仕えが「ではわたくしの方から」と説明役を買って出た。
「巌窟人の皆さまに、大きく頑丈な水路を掘って頂きたいのです」
そう言って、策について詳しく話し始める。
水竜が居ない間に地底湖の水流を止める為、上流と下流の水脈を探し出して閉じる。
止めた水流が他に影響を及ぼさないよう地底湖を迂回する形で水路を掘り、下方の水脈へ繋げる。
そうして水竜が現れたら、閉じていた下方の水脈を解放して地底湖の水を全て抜いてしまおう。という内容だ。
「おいおい・・そんな大掛かりな仕事をワシらだけで、しかも数日でやれってぇのか?」
「穴掘り舐めてんのか?」と青筋を立てて怒りを顕わにする一本髭に対し、傍仕えは何食わぬ声で「ええ。お願いできますでしょうか?」と答える。
と、一本髭はそれまでの怒りの表情を一転させ、獰猛に笑って言った。
「はっはぁ!いいねぇ!こんな無茶振りは久々だ!腕が鳴るぜぇっ!!兄ちゃん!報酬は期待して良いんだろうな?!」
身を乗り出し、殆ど怒鳴るような勢いで問われたが、隣の傍仕えが「前金になります」と金貨の詰まった革袋を目の前のテーブルに置くと満足そうに姿勢を戻す。
革袋の中でジャラリと鳴る音を聞いて、一本髭は片眉を上げて言った。
「随分気前が良いじゃねぇか!兄ちゃんらは職人の扱い方ってモンが良く解ってるみてぇだな!金払いの良い客は大歓迎だぜ!」
上機嫌で笑う一本髭が革袋を手に取る前に、傍仕えは「そしてこちらも」ともう一つの対価を取り出す。
それは勿論
外側に巻かれた装飾の紙と、柔い金属製の封に書かれた文字や模様を削り取った透明なガラス容器の内側で、とぷり。揺れる琥珀に、一本髭の眼がスッと細くなった。
「
「こちら、大変希少なお酒となります。こちらも前払いとしてお持ちください」
目の前に置かれた酒瓶へ、睨め付けるように視線を注いだまま無言で固まる一本髭・・
たっぷりと時間をかけて外観を眺めた後、そっと酒瓶に手を伸ばし慎重に持ち上げる。
「ふむ・・うむ・・」
手の中で酒瓶を優しく傾け、あらゆる角度で観察して時折小さく唸るような声を出した。
あまりに真剣なその様子に、私を含め誰も声を掛けることが出来ずに、ただひたすら待つ。
ガラスの表面に刻まれた模様に指を這わせ、封の金属に触れた指先を鼻に近づけ・・
かと思えば、その指先を舐めるなど一本髭はあらゆる方法で異世界の酒瓶を確かめていた。
やがて眉間に皺を寄せたまま静かに瓶を置くと、平坦な声音で「開けても良いか?」と問う。
「そちらは既にお渡しした物でございますので、どうぞご自由に」
「そうか・・」
静かに答えた一本髭は一転、「おい「ダ・ガラス吹き!」」と誰かを大声で呼ぶ。
「急いでこっち来いや!やべぇモンがあるぞ!」
酒瓶から一切目を離さずにそう呼んだ声に、隣の壁向こうから「はいよ!」と答えがあった。
そして直ぐにとたたた!と軽い足音共に小柄な女性が現れる。
「何だい何だい?!何だってんだい?!」
「おう。コレ視て見ろや」
両腕を組んだ姿勢のまま、一本髭は顎をクイとしゃくって酒瓶を示して言った。
ぷくぷくとした小柄な女性は酒瓶に気付くなりガバッ!とテーブルの端に飛びつき、酒瓶と視線を平行にして、クリクリとした目を見開いた。
「はぁ?!こ、これは!・・」
眼球が飛び出すのではないか?と心配になる程、限界以上に見開かれた目でじぃっと酒瓶を見つめた巌窟人の女性は、先程の場面を繰り返すように、一本髭と同じく酒瓶を確認し始める。
一通り確認すると、音を立てる事無く静かに酒瓶をテーブルに戻した巌窟人の女性はふぅ~~と大きなため息を吐き、「何だいこりゃ・・」と小さく零した。
「だろ?やべぇよな?」
「やばいなんてモンじゃないよアンタ。歪みが一切ない。型の繋ぎ目もない。泡もない。こんなまっさらでないない尽くしのガラスは初めて見たよ・・しかも何だいこの模様!素晴らしいねぇ!」
「これを作った職人は精霊か、それに近い存在に違いないよっ!」と興奮を隠せない様子の女性は、初めてこちらに視線を向けたかと思えば怒涛の勢いで話し出す。
「お前様たちがこのガラスを持ち込んだんだね!一体全体コレをどこから手に入れたんだいっ?!いや、それを聞く前にコレの凄さを教えてあげるよ!全く、どいつもこいつも澄ました顔してからに!何も知らないんだね?!いいかい?こいつは吹きガラスで作られてるが恐ろしい程に整い過ぎてる代物だ!厚みが気が狂いそうなくらい均一だから歪みが一切ない!コレは型に吹き込んで作られたと推測するけどね!普通は前後で合わせる型だとその繋ぎ目が出来るもんなんだよ!でも型の作りが良いんだろうさコレにはそれが一切見られないね!そして不純物の無い、丁寧に選別した素材を使って製造過程でも泡が入らないよう細心に細心を重ねて作られた物だよ!ほらご覧!あぁ・・なんて美しさだい!」
顔を赤らめ、熱っぽい息を吐きながらつつと指先で酒瓶の肩を撫でる女性・・
つまり、異世界のガラス製造技術は巌窟人の職人から見ても卓越しているということだな。
『やはりそうか』と内心で頷く。
彼女の所で見たグラスも恐ろしく整った代物だったしな。
しかしこれは予想外の反応だ。
てっきり酒の方に夢中になるかと思っていたのだが、まさか入れ物の方にこうも注目するとは・・
今にも嘗め回しそうな雰囲気の女性を止めもせず、寧ろ喜ばし気に目を細めて見守っている一本髭。
そこへ、傍仕えが気遣う事無く淡々と話し掛けた。
「・・それでは、前金には納得して頂けた。という事でよろしいでしょうか?」
「うん?あぁ。そうだな。そういう話だったな。勿論納得だ。仕事はきっちりやらせてもらうぜ。しかし地底湖の水を抜くには水路だけじゃちと難しいな。幾つか案を出すからそっちでも検討してくれねぇか?」
「分かりました。穴掘りの事は穴掘りの専門家にお任せします。よろしくお願いいたします」
「おう。任されたぜ!」
その後一本髭はすぐに3通りの案を出し、それぞれの特徴や作業期間、掛かる費用などの説明をする。
それら全ての内容を書き留めた傍仕えを伴い、今日中に検討結果を伝えると約束して宿泊場を後にした。
昼過ぎには眼鏡貴族らとの話も纏まり、予定通りに宿泊場を訪ねる。
と、今度は「あの酒は何だ!」と酒瓶の中身である「ういすきー」について、事細かに質問されるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。