鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
「で、あの酒は「とある希少種族が作った」ってか?んで次はいつ手に入るかも分からねぇと?」
「そうなる。機会に恵まれればまた手に入るかもしれんが、確約は出来ん」
「ふんっ!エライ代物寄越しやがって!そんなら酒の精霊様に祈るかねぇな!」
「
木や鉄、宝石や素材にも、それぞれを司る精霊が存在する。
職人として様々な素材で物作りをする彼らは、出来栄えを良くしたいと精霊に祈ることをしない。
自らの腕のみで最高の物を作り上げる。
それが、彼らの最も大切にしてきた誇りだからだ。
故に、巌窟人の作で精霊の祝福や付与がある物は、完成品を気に入った精霊が勝手に付加したものになる。
まぁ、精霊が気に入る程の物というと、その殆どが巌窟人の作なのだが・・
そんな己以外の力を排除して仕事に向き合う彼らだが、ある精霊にだけは祈る事がある。
それが酒の精霊。
彼らの一番の娯楽、嗜好品である酒は精霊の力に左右されやすい品だ。
精霊の気まぐれ一つで美味くも不味くもなる。
それ以前に、美味い酒に出会えるかどうかという事からして精霊頼りだ。
良い酒と出会えた事に感謝を。
またその酒と巡り合えるようにと願いを込めた祈りを。
辛い事や苦しい気持ちを酒で洗い流せますようにと。
喜ばしいことや嬉しい出来事があれば、祝福の想いを酒とともに歌に乗せて。
普段意識して祈らない分、様々な願いを酒に絡めて祈りへと繋げるのが、巌窟人の文化なのだ。
彼らにとって祈りとは些細なものから切実なものまで、精霊に本気で願う時にのみ行う。
つまり、
・・酒の精霊に異世界の酒を知れば・・いや、既に知っていてもおかしく無いが、もし世界を形作り支える存在である精霊が本気で異世界の酒を欲したら・・
少々どころではなく大変な事になるのでは?
・・念のため、異世界の酒はこれ以上手を付けずに残して置くとしよう。
「大層なもんを貰っちまったからな、さっさと仕事で返したいんだが、一体どの案に決まったんだ?」
「あぁ。大穴掘りが推していた案になった」
「おぉ!そうかっ!ありゃ金は掛かるが、早く水を抜くには一番の案だぜ!」
「水の排出に関してはカルセの使役する半精霊にも手を貸して貰う手筈になっている」
そう話し、隣で軽く頭を下げた傍仕えを目にした一本髭は「なんと!」と驚きの声を上げ、三つ編みにした髭を撫でる。
「精霊様まで出張ってくるたぁえらい事だ!ワシらも一層気合を入れにゃならんの!」
「早速工事の手配だ!」と、二の腕を叩いて意気込みを述べた一本髭は足早に走り去った。
『あの様子なら、予定より早く工事を終えてしまうかもしれないな』
そんな期待を胸に、眼鏡貴族に現状の報告をするべく宿泊箱へと足を向ける。
いよいよだ。
水竜を倒し、姉上が転移の魔術陣を完成させられるように、自分が出来る事は何でもやって解析の手助けをする。
その後は待つことしか出来ないのが歯痒いが・・その段階まで進んでしまえば、待つ時間もそう長くはない、筈・・
いや。恐らく今か今かと耐える時は、気が遠くなる程長く感じるに違いないなと確信してしまい、苦笑が漏れた。
そんなこちらの様子に気付いた傍仕えに「アド様?」と声を掛けられたが、「何でもない」と流して宿泊箱を警護してる騎士に取り次ぎの為片手を上げて挨拶をするのだった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
工事に必要な素材を手配している間に、必要な人員が集められる。
準備が進む中、水竜の行動をより詳細に調べる為に
半精霊を使役している傍仕えは色々な面で引く手数多な為、常に忙しくしている。
本来なら私の護衛の任を優先するのが正しいのだろうが、その私が無理を言って手を貸して貰っているのだ。
何せ精霊の力は強大で、手伝って貰わなければ工事の期間は今の倍どころでは済まなくなるだろう。
護衛である傍仕えの負担を減らすべく眼鏡貴族の近くに居る内、冒険者側に貴族崩れと思われている事もあってか、自然と貴族と冒険者間のやり取りを任されるようになった。
その為、護衛の仕事は「栄光への導き手」と「不屈の砦」の面々に頼ることになり、少々心苦しく思っていたが、「栄光への導き手」からは「傍で見ているだけで勉強になる」と。
「不屈の砦」からは「貴族の相手をしないで済むのは助かる」と、懸念とは裏腹に双方から感謝された。
要するに、適材適所という訳だな。
「それならば」と、少しでも状況が効率よくなるように動く事に。
王国の貴族と皇国側の貴族、人魚や巌窟人、冒険者といった者たちとのやり取りの手助けをした。
全てが順調だった・・
が、突如として頭の痛い問題が発生する。
「発情期?」
「そ~なの~」
護衛の半精霊を連れて連絡に訪れたところ、人魚のまとめ役である「セレーネ」に間延びした声で言われる。
「まだ時期てきに余裕あるはずなんだけど~まわりに男が多いせいかね~?若い子たちがうずうずしてきててね~。このままだとまずいかも~?」
見上げる、用意された岩の水槽から身を乗り出した紫色の鱗を持つセレーネに、こてりと小首を傾げられ内心頭を抱えた。
次に水竜が姿を消した隙に工事を完了する手筈となっており、作業もいよいよ大詰めという段階だ。
工事作業もだが、水竜討伐の際には人魚らの力は必要になる。
人魚が不在ともなれば、計画が大幅に遅れてしまう。
いや、最悪頓挫する可能性も・・
「それは・・仕事に支障のないようにする事は出来ないのか?」
「ん~・・方法は~。なくはない、かな~?」
にたり。
見下ろし、言葉を区切って哂うセレーネの顔にゾワッと鳥肌が立った。
捕食者の顔だ。
まるで生きた心地がしない。
自分が喰われる立場である事を押し付けられたようで、危険を察知した半精霊の背に庇われるまで無意識に呼吸を止めていた。
「方法~。きかない~?」
水槽の縁に肘を付き、唇の端をにいと持ち上げ哂うセレーネ。
庇われた影から半歩横にずれ、動こうとする半精霊を片手で制しながら問いかけに答える。
「・・聞こう。その方法とは?」
「んふふ~。それはね~。あなたの種を~「それは無理だ」・・」
言葉の途中で反射的に拒否すると、セレーネは「わかってるよ~」と笑いながら続けた。
「も~。かわいいんだから~せっかちさ~ん。もちろん種役になれないのは知ってるよ~。わちが言いたいのは「種」そのものが欲しいってこと~」
セレーネが言うには、人魚の発情を落ち着かせるには番うのが一番。
種役には水の気配に満ちた魔力持ちの男性が選ばれるのだが、性交以外で発情を鎮める方法として、強い水の気配の魔力に満ちた種・・精液を取り込む事で一時的にではあるが発情が抑えられる、らしい・・
「それは・・つまり私との子を身籠ると?」
「あ~。ちがうちがう~。取りこむのは種の魔力ね~?ま~種をちょくせつ股にぬり込む子はいるかも~?しんぱいだったらわちらが取りこむ時にかんしでもつければ~?」
にたにたと哂うセレーネに「どうする~?」と問われ、少し考えて訊ねた。
「・・・他に鎮める方法は?」
「そんなつごうの良いこと、あるわけないよね~。たいかの男たちは海のほうに送っちゃったしさ~。ふつ~にあたらしく種役のどれいをつれてくるか~。それか・・」
「あなたがなってくれても良いよ~?」と、『寧ろそれが良い』とでも言うように提言され・・・
悩みに悩む事暫し。
かなりの不本意。不承不承とした態度を隠す事無く、監視を付ける事を条件に自分の精液を譲る事を約束、した・・
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。