※この作品はR-18です。

鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~   作:もすもす。

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お待たせしました。


【190】黒鍔帽からの提案。

 

「栄光への導き手」副リーダー。

黒鍔帽が目立つ冒険者。アクトと握手を交わす。

 

指先の出た黒皮のグローブ越しに握った手は力強く、戦いを知る者であることが伝わって来た。

直ぐに手は離れたが、そのままじっと視線を向けられる。

 

こちらの状況を知っていたらしく、静かに「魔力過多の対処は?」と問われた。

 

「・・派手な魔法が使用制限されているからな。上手く行っていない」

「あぁ。水竜を刺激しない為か。・・ふむ。空の魔石くらいならばいくらか提供出来るが、要るかね?」

「いや。魔石に吸わせた程度では排出が追いつかないのでな。その気遣いだけ頂こう」

 

「そんなにも多いのかね?」とやや驚いた様子を見せた黒鍔帽に頷きで答えると、何やら思案した後に提案される。

 

「ならば一度、あそこに居る鬼人。シグレに診せてみてはどうかね?」

 

黒鍔帽の言葉に、黒髪も「あっ!それは良い案だと思います!」と同意して、こちらに笑顔を向けて来た。

 

「シグレに?彼は解決策を知っているのか?」

 

『医術の心得でもあるのだろうか?』と思い訊ねると、黒鍔帽は「いや」と否定した後に続ける。

「彼は「符術(ふじゅつ)」使いなのだよ。符術は鬼人固有の術で、魔術陣に近い物である」

「俺らが使う魔術陣とは微妙に違うらしいけど、もしかしたら魔術陣には無い解決法が符術にはあるかもしれないぜ!?」

 

あぁ、成程。

確かにそれは良い考えだ。

 

ふむ。と内心で納得して、鬼人の男性が会得する符術について記憶を引き出した。

 

鬼人の女性は筋骨隆々で怪力を誇る。

棍棒や斧といった近接、投擲出来る武器を操り、里で暮らす子と男性を守るのが役割だ。

一方男性は里の中で家事や農作業、子の世話などをするが、かと言って戦闘能力が無い訳ではない。

 

鬼人男性は特殊な製法で作り上げた紙に、己の血を溶いたインクで彼らにしか読めぬ文字や記号を書き込んだ「符」を媒介にして日常生活は勿論、戦闘にも役立つ様々な術を行使する。

 

私たちが魔術陣で魔法を使うのと同じようなものだと聞くが、似ているだけで全く違うのなら、こちらが知らぬ方法があったとしても何ら不思議はない。

 

「訊くだけなら直ぐだし、早い方が良いだろ?移動中なら時間あるしよ」

「リックの言う通りであるな。馬車の中で話してみるとよい」

 

2人の提案に「そうだな」と頷いて、言葉を続けようとした。

その時。

ガシャン!とひと際大きな音が大穴の底に響き、つられて音の方へと視線を向ける。

 

そこには荷台に積まれた鉄の檻にもたれ掛かる、襤褸を纏った男が居た。

 

『そういえば、降りる時に見たな』

 

上から飛び降りた際に、壁沿いの通路を降りて行く荷車があった事を思い出す。

大きな音がしたことで貴族の周りには緊張が走り、私を含めた護衛の冒険者たちがそれとなく身構えた。

 

と、今度は男の声で罵声が上がる。

 

「何をやっているっ!王国の方々がいらしているというのに!」

「へぇ。ですが急ぎだと聞いてますが」

「ちっ。ならばさっさと人魚(マーメイド)どもに引き渡せ!」

「へぇ」

 

皇国の案内人との会話から察するに、どうやら人魚への報酬である奴隷が届いたらしい。

発情期が近いということで、急ぎ用意したのだろう。

 

配達人らしき男が檻から襤褸男を引きずり下ろし、無理矢理立たせて歩くように指示した。

のろりと動き出した襤褸男を確認したところで、どうやら危険は無さそうだと警戒を緩めそれとなく注意するに留める。

 

その時、こちらも移動の用意が出来たということで、集合の合図があった。

私も傍仕えと共に乗り込むべく馬車に近寄ったところ、唐突に悲鳴が上がる。

 

見れば、配達人の男が顔を掻きむしって倒れていた。

隣には人魚が1名、同じように倒れ甲高い悲鳴を上げて転げまわっている。

 

そして、近くに佇むのは、襤褸男らしき黒い影。

 

そこまで確認した瞬間、影がぐにゃりと歪み、枝葉を伸ばすように四方八方へ広がった!

 

「なっ!何だこ―ぎゃあぁぁあああ!!」

 

案内人が影に触れられた瞬間、顔・・いや、頭を抱えて倒れ込む。

その頃には貴族の護衛である騎士を始め、冒険者らも警戒態勢に入り各々武器を構えていた。

 

「馬車と皆に結界を!」

 

傍仕えに指示を出すと、「直ちに」と返事があり、半精霊らによって強力な結界が張られる。

と、丁度そこへ黒い影が飛んできた!

 

バチッ!と結界で弾かれた影は、諦めるという事を知らぬように何度も何度も結界を打ち据える!

 

「地上まで退避!各自馬車を守れ!」

 

護衛騎士の言葉に「応っ!」と皆が声を上げ、地上に戻る道へと動き出した馬車を守る為に陣形を整える。

 

結界のお陰で余裕が生まれ、動きながらも状況を確認出来た。

 

この状況を作り出した影はもはや人の形をしておらず、地に根を張る樹木のような有様で周囲に伸ばした黒い枝を縦横無尽に振り回している。

 

その近くには、倒れた3名が捨て置かれていた。

 

今は貴族を無事退避させる事が優先。

倒れた者たちがどうなっているのか、気にならない訳では無いが・・

 

ちら、と馬車の方に視線を向け、護衛は十分足りているのを確認。

今どう動くべきか、判断を下す。

 

救える者は出来るだけ救わなければ。

自分と、傍仕えが向かえば助けられる見込みはある!

 

動くと決めると、直ぐに胸元に忍ばせた魔道具を介した思念で眼鏡貴族に離脱する旨を伝えた。

 

〈ストークス卿!護衛は足りている!私は下へ行く!〉

〈殿下?!お待ちを!〉

〈すまないが後々の周りへの説明は任せた!〉

〈殿下!!〉

 

呼び止める眼鏡貴族の思念を無視して、傍仕えに「救出に向かう!ついて来い!」と途中まで登っていた壁沿いの道から飛び降りた。

 

「アド様?!危険過ぎます!お戻りを!」

 

後を追って飛び降りた傍仕えの声が、耳元で鳴る風音に紛れつつ届く。

 

「お前が居てくれるなら問題ない!」

「その信頼は嬉しく思いますがっ!」

 

強化した脚で着地。衝撃を逃がして前方へ転がり起きた。

後を追ってきた傍仕えも、すぐ後ろに音もなく降り立つ。

 

「問答は後だ!行くぞ!」

 

そう言って剣を抜き、地を蹴って駆け出した!

背後から「後でしっかり反省して頂きますからねっ!」と小言が飛んでくるが、付いてきてくれている現状につい頬が緩む。

 

ぐんっと近づいてきた黒い木のような異形に、緩みかけた気持ちをぐっと引き締めた。

すっと静かに吸った息を吐き出し、襲い来る影の枝を避けて影本体へと刃を下から斜めに走らせるっ!

 

が、剣は虚空を凪いだようでまるで手応えが無かった。

勢いがついた剣を引き戻そうとした瞬間、真横から黒い枝が襲う!

 

咄嗟に腕と脚で受けるも、実際には結界が先に反応。

攻撃は防いだものの、その衝撃は逃がせずに体が真横に飛ぶ!

 

背中からドンッ!と壁に衝突。

ある程度の衝撃はあったが、怪我1つない。

 

「アド様!?」

「大丈夫だ!問題ない!」

 

無事を訊ねる声音に返事をして、剣を構え直した。

 

黒い木の異形は勿論健在。

よくよく見れば、その根本には布のような物が纏わりつくようにして落ちている。

 

『あれは・・』

 

それが何か気付いた瞬間、この異形が元は人であった事を確信した。

 

布のような物は、皮だ。人の皮。

 

根本に張り付く一部に、顔だった部分が残っている。

裂けるように捲れた口と目だった所から真っ黒な液体を垂れ流し・・

まるで嗤っているかのように見える、顔だった。

 

どんな理由があったのかは解らないが、そんな姿で命を散らした者へ同情の念を抱く。

 

その時、上から落ちて来た水が顔を濡らした。

つられて見上げれば、石壁から身を乗り出す人魚の姿が。

 

『ぶつかったのは人魚の水槽か?!』

 

「セレーナ!セレーナ!返事して!」

「危険だ!下がれ!」

 

声を上げる人魚に注意をしたところで、木の異形の動きがピタリと止まった。

その反応に不穏な物を感じ、警戒度を上げた瞬間。

 

真っ黒な異形はぐんっと幹を伸ばし、枝という枝をこちらに向かって伸ばして来た!

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。
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