鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
木の異形が完全に燃え尽き崩れ落ち、最後まで見守っていた冒険者らも自然と集まってきた。
そんな中、アドの呪いを祓う為に必要な素材が鬼人のシグレより明かされる。
それは「月光魔力純水」
またの呼び名を「月の雫」
一晩、月明かりを浴び続けた夜露を集め、魔力が含まれない火で煮詰めて完成させる、月の魔力で満たされた純水。
「それって、手に入りづらい物なのか?」
シグレの話を聞いて首を傾げたセドリックの後頭部を、隣に立っていたフラウリィーラが軽くぺしりと叩いた。
「いてっ」と反射的に声を上げたセドリックが目にしたのは、震える程綺麗に微笑む想い人。
思わず顔を赤らめつつも、その無言の圧力にぶるりと背筋を震わせて大人しく口を噤む。
「・・「月の雫」を手に入れるのは、条件さえ整えばそう難しい事ではありません。問題は時間が無い、ということです」
「んだべな。アドが
「今すぐ場を整えたとして・・間に合うかどうか・・」
「・・だけんども、やるしかねぇべや」
シグレの重々しい言葉に俯き、沈黙したカルセは面布の下で唇を噛み締めた。
しかし直ぐに顔を上げると「その通りですね」と力の籠った声で答える。
そして集まっている面々に向けて腰を曲げ、深々と頭を下げて懇願した。
「・・冒険者の皆さま。どうか力をお貸しください。対価はわたくしが用意できる範囲内であれば、ご希望に添えるように致します・・アド様をお救いする為にどうか、どうかお願い致します」
普段殆ど感情を見せる事無く淡々としているカルセのこの態度に、大小の違いはあれど、皆内心で驚く。
だがその驚きが過ぎ去ると、沸き立ったのは「
そして冒険者として当然の「仲間を救わねば」という義務感。
頭を下げ続けるカルセの願いに最初に応じたのは、黒髪のセドリック。
「勿論だぜ!アドを助ける為に出来る事があるっつーなら、俺は何でも協力するぜ!」
続いて応えたのは三つ編みのフラウリィーラ。
「わたしも協力するわ~。アドさんは大事な仲間だもの~」
2人を筆頭に次々と協力を申し出る冒険者たちの声に、カルセは顔を上げて感謝を伝えた。
「皆さま、ありがとうございます」
「何。冒険者同士、協力するのは当然のことだ。だが我らは仕事を請け負っている身。依頼主に状況の説明と了解を取らねば動けん」
「栄光への導き手」のリーダー。バーグの言葉に「勿論です」と頷いたカルセは直ぐに半精霊を呼んで依頼主である貴族に先ぶれの連絡を頼み、続いて移動の用意を始める。
呪いに詳しいシグレに確認しながらアドを大きな布で巻き、首から下が身動きできないように固定した。
続いて、捩じった布を口に噛ませて舌を噛むのを防ぐ。
半精霊や、その魔法による移動はアドへの魔力負担が大きくなる為、馬車に乗せて地上まで移動することとなった。
大穴から離れた宿泊場へと退避していた依頼主である貴族は半精霊の先ぶれによって冒険者らを待ち構えていた。
貴族の下へと集まったのは穴底で木の異形と対峙した面々と、貴族と直接やりとりする為に同席した二等級のバーグ。
状況の説明と、今後の動きに伴う護衛の一部離脱の許可を求める。
「・・状況は理解した。離脱も許そう。それで、その呪いを受けた冒険者の容態は?」
「今は呪いの方も落ち着いていますが、意識があると自傷行為に及ぶかもしれないため、眠らせてあります」
説明を聞いた貴族にちら、と視線を向けられたカルセは、微かに顎を引いて肯定した。
その様子に眉根を寄せ、僅かに焦りが滲んだ声音で告げる。
「冒険者と言えど、我との契約中に呪いを受けたとなれば後々厄介な火種になりかねん。早急に回復させるよう全力を尽くせ」
「分りました。最大限尽力いたします」
畏まって頭を下げたバーグに続いて集まっていた冒険者らが礼の姿勢をとった。
その間に眼鏡の貴族は宿泊箱の中へと戻り、傍に控えていた小太りの貴族が残した「閣下の期待を裏切るでないぞ」との忠告じみた言葉に、冒険者らは一段と気を引き締め顔を上げる。
そうして直ぐに行動を起こすべく、バーグが中心となりその場で今後の動きが話し合われた。
「シグレ。「月の雫」を手に入れる最良の方法を教えてくれ」
先ずは呪いの対応が可能なシグレへとバーグが質問する。
「まんず、魔力を外に出さねぇで魔物を退けられる者が最低でも5名必要だべ」
「となれば魔法使いは除外。それと魔法武器を使う者もだな」
頷いたバーグに続き、フラウリィーラが確認の為に声を上げた。
「さっき下でしてもらったみたいに~。精霊様の魔法で属性付与してもらうのは良いのかしら~?」
「いんやそれもなんね。順に説明すっとだな、「月の雫」は月の魔力以外が混じると使い物にならねぇんだべ。だから材料の夜露を集める範囲から魔物ば追い出さにゃならん。そん時に魔力が残るような攻撃ばしたら、魔物を追い出す意味も無くなっちまうんだべ」
「成程。となれば、身体強化のような体内で魔力を消費する分には問題無い訳だな?」
シグレが「んだべ」と頷いたのを確認したバーグは、「では俺らのパーティーからは俺とミュレが出るのが良いだろうな」と結論を出す。
「俺の剣は魔法武器ですもんね・・しゃあねぇーか。そんじゃ、ミュレのヤツ呼んできます」
セドリックは悔しそうに別の場所で待機しているメンバーを呼びに走っていった。
その背を見送っていたフラウリィーラが「それじゃぁ~」と切り出す。
「その条件だと~。うちのパーティーなら多く参加出来そうだわ~。でも~。そちらから2名参加するのなら~こちらは3名で良いかしら~?」
「必要なのは5名なのよね~?」と小首を傾げたフラウリィーラに、カルセが待ったをかけた。
「いえ。わたくしも行きますので、そちらからは2名でお願いします」
「あら~。カルセさんはてっきりアドさんに付いているものだとばかり~」
「んだ。それにさっきも言ったけんども、魔物の排除に魔法は使っちゃならねぇぞ?精霊様の魔法なんてとんでもねぇべ!」
2人の言葉に胸に手を当てたカルセは「ご心配なく」と気負わぬ様子で答える。
「アド様の事は精霊たちがしっかりと見ていてくれますし、こう見えてもわたくし、精霊の助けがなくとも戦えますので」
「魔法無しで、だべか?」
「ええ。問題なく」
「そう見えませんか?」と、僅かに顔を傾けて続けたカルセに、シグレは困り顔で「んだなぁ・・」と頷いた。
仕方なく、戦える事を証明すべく行動しようとしたカルセだったが、バーグが「カルセなら問題ないだろう」と口を挟んだ事で中断する。
「シグレはカルセの話を耳にしたことがないか?」
「ん~?おらこの頃ようやっと皆の言葉がちゃんと解るようになってきたところだもんで、そげな話は聞いた覚えがね。おら頑張ってこっちの言葉ば覚えて来たんに、皆の話す言葉と違うとこが多ぐてな・・」
「・・あぁ、そうだったな。なら知らないのも無理は無いか」
シグレが生まれた里で覚えて来たというこちらの言葉は、恐らく二世代ほど古いものだ。
今でも王都から遠く離れた農村などで使われてはいるが、田舎の感が強い。
それ故、大体の者は聞き取れはするものの、使う者はまずいないのだ。
「とにかく。カルセなら精霊様の助けが無くとも問題なく戦える。心配は無用だ」
「リーダーがそこまで言うんなら、おらも反対はしねぇ」
「んだれば・・」と、シグレは指折り数えながら続けた。
「そっちのパーティーから参加できっのは2名だべな」
シグレの言葉に頷き、了解を示したフラウリィーラは誰を参加させるべきか、リーダーと話し合う為に踵を返した。
近くでそわそわと落ち着きなく体を揺らし、話し合いが終わるのを待っていたモウロもその後に続く。
しかしシグレに「あ、ちと待っちくれ」と呼び止められ、足を止めて振り向いた。
「実はモウロには手伝ってほしい事があるだよ」
シグレの突然の言葉にこてんと首を傾げたモウロは、片方の触角をぴぴっと軽快に震わせた。
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