鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
木の異形から呪いを受けたアド。
呪いを祓うには霊薬が必要となるが、いくつかある素材の内「月の雫」が不足していた。
「月の雫」は月の魔力のみで満たされた夜露を集め、煮詰めて作られる。
つまり、「月の雫」を作るには月の魔力以外の魔力が存在しない場が必要となった。
月の魔力は高い場所程濃くなる。
となれば、近隣で一番高い山。その頂上付近が夜露を集めるのに最適だろう。
あとは邪魔な魔物をその近辺から排除すればよい。
そんな訳で、冒険者の中から体外に魔力を放出せずに戦える者たちの協力が求められた。
参加を決めたのは「栄光への導き手」より虎の耳と尾を持つリーダーのバーグ。
同じく巌窟人(ドワーフ)の血を引く丸盾(バックラー)を携えた戦棍(メイス)使いのミュレ。
「不屈の砦」より盾使いのリーダー、ミリアーナ。
同パーティーのフラウリィーラは、三つ編みの斧槍(ハルバード)使い。
そしてアドの護衛である「面布のカルセ」
今回は半精霊を伴わず、己の力のみで魔物を排除する。
そしてもう1名、協力を求められたのが「不屈の砦」の虫人のモウロ。
呪いの対処が出来る鬼人のシグレは、集まった参加者の前で「じゃ、話し合いを始めるべ」と切り出した。
「一応、最初から説明すっぞ。霊薬の素材の「月の雫」を作る為には、一晩月明かりを浴びた夜露を集めなきゃならね。但し、月の魔力以外、おらたちや魔物の魔力が混ざっちまったら駄目だ。だから夜露を集める範囲から魔物を完全に追い払わなきゃなんね」
そこで全員の顔を見回したシグレは、皆が理解した様子なのを確認して続ける。
「魔物は殺しちまったらその場に魔力が漏れ出て染みついちまう。だから殺さず、追い払うだけにするだ。範囲外でなら構わねっけど」
「1つ、よろしいでしょうか?」
すっと片手を上げて発言の意思表示をしたカルセに、シグレは「ええど」と頷いて続きを促した。
「夜露を集める範囲内でも、魔物の魔力が残らなければ問題ない、という認識で良いですか?」
「んだ」
短く肯定したシグレに「でしたら」とカルセは1つの案を語り出す。
「倒した魔物の魔力が周囲に拡散する前に吸収してしまう、というのは如何でしょう?」
カルセが続けた内容は次の通り。
魔物を殺さず追い払う、というのは非効率的で確実性も低い。
それならば殺してしまっても、魔力が残らないように全て魔道具で回収してしまえばよいのではないか?
月が昇るまでに排除を終えれば、範囲内に月の魔力だけが満ちるだろう。
「そんな魔道具があるだか?いくつ用意出来るんだべ?」
「7つ程」
「んだれば、魔法使いにも声を掛けて参加させるべさ」
人数が増えればその分効率が上がる。
そう考えたシグレの発言を、カルセは首を振って却下した。
「周囲の魔力を
「メンバーに変更は無し、という事だな」
敢えて言葉にして確認したバーグに、シグレが「だべな~」と腕を組んで頷く。
「しかし正直、魔物を殺しても問題ないというのは助かる」
「っスね!気にせず倒す方が楽っス!」
バーグの言葉にミュレも同意するが、そこへ「でも~」とフラウリィーラが口を挟んだ。
「それだとやっぱり
そう言って頬に手を当て小首を傾げたフラウリィーラに、カルセは「それも問題ありません」と懐から葉に包まれた小さな包みを取り出して見せた。
「これは魔物を引き寄せる魔物誘引剤です。あぁ、ご心配なく。しっかりと封印処理してありますから、開けるまで効果は現れません。これをわたくしの使役する精霊たちに持たせ、範囲の外を囲むように配置すれば漏れの心配も無いかと」
「魔物誘引剤」は一歩間違えると魔物を大量に引き寄せる危険な薬物な為、取り扱いには厳重な注意が必要となる。
正確には冒険者等級が3級以上。かつ冒険者組合と薬師組合の取り扱い許可状が必須となっているが、無論カルセはこれを所持。
時折起こる魔物誘発剤が起因となった事故や犯罪を連想し、反射的に身構えた周囲の者たちへしっかりと説明して安心させた。
「そりゃあ名案だべ!追い立てた魔物ば取り逃がすっと、余所に迷惑ば掛けちまうべ?ちと心配しとったが、その案だれば安心だ!」
「そうね~。精霊様が手伝ってくださるのなら~。わたしたちの負担も減るだろうし~良いと思うわ~」
皆が首肯して同意を示す中、「ところでさ」と「不屈の砦」リーダーのミリアーナが話の流れを変え、疑問を口にする。
「うちのモウロの役割は何だい?戦闘には参加させなくて良いんだろ?」
「おっとっと。そうだったべ。モウロには大事な仕事を頼みてぇだよ」
名指しされ、触覚をぴるぴると震わせたモウロは「おしごト?」と顔を傾けて聞き返した。
「んだ。モウロは魔力ば使わずに飛んでるんだべ?」
「そうだヨ!」
「したらば、夜露を回収してきて欲しいだ!そんで集め終わったらば、おらのとこさ持って来て欲しいんだべ!」
そう仕事の内容を告げるシグレに、ミリアーナは首を傾げたモウロに代わって質問を重ねる。
「あんたが集めるんじゃないのかい?」
「いんや、おらは霊薬作りで動けね。それに、「月の雫」は煮詰めて直ぐ霊薬にしねぇとあっちゅう間に月の魔力が抜けちまうだよ。飲ませるのも早い方が良いだ。飛べる者(もん)が居(お)るんなら任せた方が良いべ。アドの方ば運んでっちゅうのは話しにもならんべさ?」
確かに、夜露を集める場にアドを連れて行きそこで霊薬を完成させて飲ませるよりも、安全な所に集めた夜露を運ぶ方が都合が良いだろう。
皆で納得したところで、モウロも「モウロやるヨ!」と元気よく4本の腕を高く掲げて引き受けた。
「がンばって集めル!アド助けル!」
ふんす!と鼻息荒くやる気を見せているモウロに、シグレもニッと笑みを浮かべ「頼もしいべ!」と持ち上げた。
そうして、魔物の排除は誰がどの方角を担当するかなどを話し合い、カルセがベルトの形をした魔道具を配る。
ベルトの表には質が高い魔石がぐるりと縫い付けられており、その価値を察した数人が顔色を悪くした。
だが、気付いたカルセに「故意に壊さなければ大丈夫ですよ」と圧の籠った声音で先回りされてしまい、皆は顔を引きつらせつつ何とか頷き腰に巻くなどして身に着ける。
ベルトの魔石は透明で今は残量が空であることを示しているが、魔力が蓄積されていくと徐々に濁っていくのだ。
皆の用意が整ったのを見計らい、ミリアーナが「よし!」と気合を入れて立ち上がる。
「皆、いいね?さっさと魔物どもをすり潰しに行こうじゃないさ!!」
「あと3時間もしない内に天の光が地に沈む。それまでに魔物の排除を完了しよう」
リーダーの2人の掛け声に各々「応!」と声を上げたり、武器を掲げるなどして答えた。
「夜露を集める場所まではおらも行くだよ。場の真ん中に目印ば立てて、夜露を集める折り布ば広げたらすぐに退散するだ。魔物ば寄ってきたら台無しになっちまうでな」
そう言って、シグレは背負った布の塊をミリアーナに示し、モウロには「おらが戻っても時間まではここで待ってるだ」と待機を指示する。
それに対し、モウロは「うん!デラたちと一緒に居ル!」と残るメンバーの名を上げて答えた。
「では、早速移動しましょう。範囲の近くまでなら精霊に任せても問題ないですね?」
「んだ!そこは頼らせてもらえると有難ぇだ!」
そう言って頷いたシグレに続き、他の者も緊張をほぐすかのように会話を始める。
「今となれば、縦穴で飛行を経験していて正解だったな」
「だねぇ。分かっていても、あれは肝が冷えるからね」
「あーし、飛ぶのは苦手っす・・足元に何もないのって、怖くないっスか?」
「あら~。なら目をつぶっていたら良いんじゃないかしら~?着いたら教えるわよ~?」
「・・や。折角なんで、今度は景色を目に焼き付けるっス!」
弾む会話を尻目に、カルセは半精霊を2体呼び出して言った。
「皆さん、用意はよろしいですね?」
カルセは全員が頷いたのを確認して、半精霊に出発の指示を出す。
冒険者らは天の光が地平線に近づきゆく中、空を行く。
大切な仲間を、救う為に。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。