鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
呼び出された半精霊に運ばれて、足元に広がる緑の海原に6つの影が伸びる。
やがて予定していた場所に着くと、僅かに途切れた木々の間から皆ゆっくりと地面に降り立った。
途端にべしゃりとミュレが崩れ落ち、落ち葉の積もった地面に泣きながら頬ずりを始める。
「土っ!地面っ!大地って素晴らしいっスー!」
がさがさと葉を掻き分ける音が盛大に響くが、皆「致し方なし」といった風に突然の奇行を止めずに周囲を警戒し始めた。
魔物などの危険が近くに無い事を確認して、未だ地面にうつ伏せるパーティーメンバーに「大丈夫か?」と声を掛けたバーグだったが、当の本人はぴくりとも動かない。
待つこと僅か10数秒。「申し訳ないっス」と土と葉に塗れた体を起こしたミュレは顔色が悪いまま立ち上がり、体に付いた葉を払った。
「もう落ち着いたんで、大丈夫っス!」と明らかに無理をしている様子に、フラウリィーラが気遣わし気に話し掛ける。
「移動中ずっと叫んでたし~。やっぱり目は閉じてた方が良かったんじゃないかしら~?」
「・・見えないと、それはそれで別の怖さがあるんスよ・・」
「難儀だべなぁ」
「・・・飛んで移動する仕事を何れ受ける事もあるだろう。これは戻ったら訓練だな」
「お、良いねぇ。そん時はうちの者も混ぜとくれ」
「嫌っス!なんて、言ってらんないっスよねぇ・・」
「でもやっぱり嫌っス~!!」と、引っ込んだばかりの涙を再び滲ませ、イヤイヤと首を振るミュレをカルセを除いた一同で微笑まし気に笑ったところで、ピリリと空気が引き締まり皆の警戒度が上がった。
ざわざわと木々を揺らす風に不穏な物を感じ取った冒険者らは、油断なく視線を周囲に巡らせる。
「・・これは、想定していた以上の大物が居ますか・・」
面布の下で眉根を寄せて言ったカルセの言葉に、風に乗って流れて来た魔物の匂いを嗅ぎ取ったバーグが同意して続けた。
「まだ遠いな。今のうちに上まで移動しよう」
場の全員で頷き、シグレの誘導に従い無言のまま道なき道を駆ける。
全員で身体強化を使い風よりも早く移動した結果、10分もしないうちに目的地である山の頂上付近に到着した。
やや開けた場所を見つけると、シグレは地面に大きく円を描き、その中を十字で区切った線を引いた。
そうしてその中央に、匂い玉を破り置く。
匂い玉には虫人が好む香料が含まれており、これを目印にモウロがやって来るという寸法だ。
続いて広場に棒を立てると、寝台ほどの大きさのつるりとした布を何枚か広げて設置する。
棒の先端から地面に向かって斜めに張られた布は一番低い角に握りこぶしほどの袋が取り付けられており、そこに夜露が集まる仕組みとなっていた。
皆で手分けして張ったため作業は直ぐに終わり、荷物を括っていた紐を仕舞ったシグレは一同を見回して告げる。
「それじゃあ、後は頼んだべ」
「分った」「任せな」とリーダーの2人が答え、一歩前に出たカルセが手短に言った。
「シグレ。どうかアド様を頼みます」
「任されただ。大丈夫だ。アドは呪いなんぞに負けるような男ではなかべ?そっちこそ、怪我なんぞこさえずに皆で無事に戻るだよ?」
「えぇ。もちろん」
その言葉に満足そうに頷いたシグレは「じゃ、また下での!」と笑顔と共に駆け出す。
カルセが白い髪が翻る背中に「途中、精霊が迎えに参ります」と伝えると、片腕を上げて答えた影は木々が生い茂る暗がりに消えた。
足元に広がる丈の低い草がさわさわと風に揺れ、僅かな沈黙を経てカルセが口を開く。
「それでは皆さま。引き続き、手筈通りにお願い致します」
そう言って改めて頭を下げたカルセに全員が頷き、口々に「任せろ」と頼もしい言葉を返すと、各々割り当てられた方角に向かって走り出した。
冒険者の気配が遠ざかると、天の光が完全に地に沈み月の支配する闇の時間が始まる。
夜露を集める場から少し離れた木々の間で、深く静かに呼吸を繰り返し佇むカルセ。
空気の温度がじわじわと下がり始めている中、普段閉じている目を面布の下で薄っすらと開き、抑えていた存在感を解放して魔物を誘った。
森中の魔物が気付きざわつく感覚に、底冷えするような笑みが浮かぶ。
「来なさい。今宵のわたくしは手加減の一切を放棄しておりますが」
下草から飛び出した蛇形の魔物が縦割りにされたのを合図に、カルセに向かって四方八方から魔物が飛び掛かった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
覆いかぶさるように両腕を広げ押さえつけようとする熊型の魔物の横面を、鋭い爪で貫いたバーグ。
手甲から伸びるかぎ爪状の武器を引き抜き、血糊を振って飛ばすと背後から襲い掛かる魔物を回転して振り上げた踵で迎える。
蹴り砕いた勢いで、また赤黒い線が曲線を描き地面に落ちた。
襲撃の僅かな隙間を突き、頂上付近から魔物を引き離すべく走る。
その時、ざわついた魔物に釣られ、ある方向へ視線が引き寄せられた。
「・・お手並み拝見と行きたいところだったが・・」
飛ばされた毒液を避け、手甲の爪で蛍光色の
「またその内、機会も巡るだろう」
粗方の魔物を屠ると、次の団体を引き連れてバーグは更に下へと移動を開始した。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
「おらおらおらおらぁっ!!」
密集していた魔物に向かって盾を構えて突っ込み、大木との間に挟んで押し潰したミリアーナ。
空いた背後を囲まれる前に盾を引き剥がして振り回し、血糊と共に盾の縁で
「小物ばっかでつまらないねぇ!ウチの盾を満足させられるヤツはいないのかいっ!?」
挑発に乗った訳ではないだろうが、今度は
頭上斜めに構えた盾で弾き飛ばすも、その後ろからもう1頭が飛び掛かり盾にがっちり食らいつく。
盾を押さえられ、一瞬動きを止めたミリアーナ。
そこへ「今が勝機」とばかりに周囲の魔物たちが群がった。
が、盾を持つミリアーナの腕がミチリと盛り上がると、食らいついた森狼ごと振り回して寄って来ていた魔物らを弾き飛ばす。
そして出来た僅かな時間。
ミリアーナは腰の後ろに手を回して手斧を掴むと、食いついたままの森狼の首を切り落とした。
ぎりぎり繋がっていた体を盾ごと振り、にじり寄っていた魔物に向けて叩き飛ばす。
「ははっ!まだまだぁ!どいつもこいつも付いてきな!」
構えた盾を手斧でガシン!と叩き、何度目かの挑発をしたミリアーナは魔物を引き連れて山を駆け下りた。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
1、2、と。頭の中で数えながら
赤い口をくわっと開き、今にも飛び掛かりそうな大蜥蜴の魔物の頭を叩き潰した。
今ので最後。見える範囲に生きている魔物は居ない。
周囲に点在する魔物の死体を見回し、素材を剥ぎ取る時間が無い事を残念に思いつつ頬に飛んだ血を手の甲で拭った。
「大蜥蜴の皮はそこそこ金になるんスけどねぇ・・」
呟いたところで、またしても近づいてくる魔物の気配を察知。
「あぁもう!何でこんなに多いんスか!やっぱこの辺異常っス!」
予想以上の魔物の多さに辟易しながらも、ミュレは魔物がこちらを見失わない程度に距離を測りながら、緩やかな下り坂を駆け下りて行く。
「こうなったら、カルセに思いっきり報酬弾んでもらうっスよー!」
やけくそ気味に叫ばれた言葉は、暗い森の木々に反響して消えた。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
ふぉん。ふぉんと、軽く空気を割く音がした直後、それとは対照的にゴトっゴトっと重い物が地面に落ちて、どこか虚しい音を奏でる。
振り回していた
包囲網をじりじりと狭め、次々と染み出すように姿を現す魔物の群れ、群れ、群れ。
「あら~。これは切りがないわ~」
この数は拙い。自分の処理能力を超えている。
ならばここで倒すより、精霊が待ち構えている外側まで引っ張り出す方が合理的だと判断したフラウリィーラは、路を開くべく山を下る方向の魔物へと斧槍の先端を向けた。
「ちょっと派手に行くわよ~」
えい。と気が抜けるような雰囲気で振り下ろされた斧槍が、地面に接する。
瞬間。割り砕かれた地面から土と石塊がごばっ!と吹き出して、その延長線上にいた魔物らに容赦なく降り注いだ。
出鼻を挫かれまごつく魔物らの間を縫うように移動したフラウリィーラが足を止める。
と、揺れた三つ編みが背中に落ちたところで、魔物らの身体が次々と割れ裂け、崩れ落ちた。
「は~い。こっちよ~付いて来てね~」
惨劇に動きを止め、固まっていた魔物らにのほほんとした声を掛け、にこりと微笑む。
煽られ、再び動き出した魔物らは狂った魔力に突き動かされ、本能の赴くままフラウリィーラを追って駆け出すのだった。
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次回の更新は月曜日の予定です。