鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
何やら嗅ぎ慣れない匂いがして、瞬きをするように目を開ける。
焦点が合うと、眼前には眉間に皺を寄せ儚げで美しい顔を台無しにしている鬼人が。
「アド。起きて早々悪いけんども、今どんな感じがするか口に出して言うてけろ」
唐突な要求に、ぱち。ぱち。とまた瞬きを繰り返し、言われた事を反芻する。
『どんな感じ・・?』
そこで気付く。
首から下が、動かない。
横になっている事以外、自分の置かれた状況が分からず混乱した。
「体が、動かない・・」
震えそうに・・いや。
実際少し震えながら伝えた言葉は「そりゃあぐるぐるに縛ってるからの」とけろりと返され、予想外の答えに少々気が抜ける。
「縛る?・・何故?」
「えぇから。ほれ。今どんな気分だべ?何がしたいとかしたくないとか、とりあえず何でもいいから言っでみろ?」
畳みかける様にそう詰め寄られ、何が何だか分からないままに口を開く。
「気分は・・悪くない、と思う。したい事・・水が欲しい」
何故か口の中に妙な味とザラつきがあって、一先ず口内をさっぱりさせたかったのでそう答えたのだが、その様子をじっと観察していた鬼人はふぅと息を吐いて言った。
「・・・よし。問題なさそ「アド様っ!!」うだ、べ・・」
見上げていた鬼人が横に押し退けられたかと思うと、入れ替わりに傍仕えが現れてこちらを覗き込む。
面布を付けている為、認識阻害の魔術陣で表情は見えないが、その取り乱し様からかなり心労を掛けてしまった事が窺えた。
傍仕えの様子に引きずられ、記憶の蓋が順々に開いて自分の状況を何となく把握する。
と同時に、周囲の者たちへの申し訳ない気持ちと、この後に起こるであろう傍仕えからの説教を想像して気分がずずんと落ち込んだ。
・・・だがまぁ。己の不甲斐なさから目を逸らす訳にもいくまい。
心配と迷惑を掛けたであろう皆には、落ち着いてから詫びの品を持って謝罪して回るとしよう。
しかし先ずは・・
「ずっと眠っておられたのです。一先ずお食事に致しましょう。既に天幕で用意してございますのでご案内いたします」
幅広の布で拘束されていた体を解し、先導する傍仕えの後に続く。
前を行く、幾らか落ち着きを取り戻したらしい傍仕えにちら、と視線を向けた。
こうして歩いている間に、じわじわと上がり続ける前方からの圧。
疚しい気持ちがある所為か、窺う傍仕えの背中から怒りに満ち満ちた様子が読み取れてしまい、やや尻込みする。
だが、ふと視線を下げれば、体の脇で両の手が軽く握り、開きと動いているのに気付いた。
・・私の傍仕えが本来得意とする戦闘は半精霊を使役しての魔法攻撃だが、彼自身が戦えない訳ではない。
疲れから無意識に動かしているらしいその動きを見て、相当に暴れたのであろう事が窺えた。
傍仕えは、私を守り切れなかった事で自身を責めただろう。
その様子が容易に想像出来てしまい、申し訳なさで更に神妙な心持ちになるのだった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
〖あっ、あっ、好き・・す、きぃっ!!〗
〖うん。俺、も。すっごく、好き・・〗
《ぎっぎっぎっぎっぎっ》
《じゅくっ、じゅぽっ、ぐじゅっ、じゅっ!》
〖あっ、も、だめ。だ、めになるぅっ!〗
〖ん。イって。ほら、奥に。ぎゅ~っ〗
《ぐちゅっ!ぐ。ごりゅりゅっ!》
〖あ゛っ!深ぁっ?!あ゛ぁ~っ!!〗
〖ふっ。俺、もっ・・〗
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・ぱたり。
ふぅ。
満足の溜め息を吐いて、戦利品の薄い本を閉じる。
そのまま目を閉じ、煌々と照らすライトを瞼の裏に感じながら作家様へ感謝の念を飛ばしまくった。
「大変素晴らしい作品でした・・」
ありがとう、本っ当にありがとうっ!
お陰でまた寿命がもりりっと伸びました!
いや~。ドキがムネムネしちゃうね!
やっぱ愛あるえちちは素晴らしいっ!
こう、見てるこっちも幸せのお裾分けを貰って胸がきゅ~ってなって、じわじわ~っとイイ感じの何かで満たされていく感じがっ!ねっ!?
イイよねっ?!
YESハピエン!NО不幸っ!
世界よ!ハピえちでもっと幸せにな~ぁれっ!
脳内で適当な似非魔法少女にステッキを振らせていると、お手洗いに行っていた親友が戻って来た。
「ただいま~って。何、当たりの本だったの?」
テーブルに置いた本に感謝の礼拝をしていたのでそんな風に言われてしまう。
「うん。流石は壁サー。これはオタク界・・いや、人類の至宝ですわ・・防火箱に入れて地下シェルターに永久保存するべくクラファンを立ち上げても良いレベル・・」
「癖に突き刺さったって事ね。あたしもそれ読んでいい?」
「勿論!あ、なら次。そっちの読み終わったヤツ読んでもいい?」
「いいよ~。はい、じゃあ交換」
親友に薄い本を渡し、代わりの本を「ありがとう!」と受け取って早速開く。
おっほ!
表紙と同じく中身も美麗!
後はストーリー・・うむ。うむ。良い感じ!
濡れ場は・・・もうちょい濃い方が好みですが、これはこれで良きです!
そんな感じで、イベント後の戦利品観賞会INカラオケ店は大盛況でございます。
自宅に帰るまで我慢できなかったオタクあるあるですわ。
てかフツーにめっちゃ疲れてるから。
くそ重い荷物持ってバスと電車乗り継ぐのマジきっついから。
ちと休憩して
は~。20代前半の頃はフツーに直帰出来てたんだけどなぁ。いやホントホント。
注文したメロンソーダのストローを咥えてちゅーっと一飲み。
そしたら空になったので、ちらりと親友の飲み物を確認すると残り少し。
ならば追加だと親友の分も注文すべくタブレットを手に訊ねる。
「追加注文するけど、次何にする~?」
「ん。ありがと・・糖分欲しい気がするからケーキセットのガトーショコラと紅茶のホットで」
「良いね~。私も甘いの行くかな・・アップルパイのバニラアイス添え美味しそうだからこれと、飲み物は私も紅茶にしよ♪」
よし!ぽちぽちっとな!
注文が終わったら手元の一冊を残して積んである薄い本の山を紙袋にIN!
一般人の目に触れて良いものじゃないからね!
配慮は大事!
テーブルがすっきりしたところで、水分を求めてグラスに残った氷を1つ口に入れてゴリる。
幾らか小さくなっていた氷をガリゴリと噛み砕き、何となくタブレットの注文画面を流し見していると、読み終わった本を紙袋に仕舞った親友が「で、久々のイベントどうだった?」と訊いてきた。
「楽しかったよ!やっぱりあの熱気と一体感は良いね!オタクしかいない空間って「帰って来た」感があるけどワクワクそわそわでずっと心臓バクバク言ってたよ!久々だったのもあると思うけどね~」
「緊張もしたしやっぱ気疲れしちゃった」と続ければ親友も「解るっ!」と重々しく頷く。
「会場では脳汁どぱーで麻痺ってるからテンション高めで行けるんだけど、出た瞬間にどっと疲れがクるっ!」
「それっ!コスしてる時も疲れは感じ無いんだけど、衣装脱いで帰宅までの道のり考えると急にダルくなってもぅ・・」
そこで2人して「「若いときはさー」」と台詞が被り「あはは!」と笑い合った。
「んでも多分、5年後10年後も同じような事言ってる気がするわー」
「解りみ~それな~」
そのまま今日のイベントでの事を話したりしている内に、注文したケーキセットが届く。
退出する定員さんに礼を言って見送った後、「美味しそうだね」とそれぞれケーキの乗った皿を引き寄せた。
ん~♪良い香り♪
フツーに冷凍をチンしただけだろうけど、温かいアップルパイと冷たいバニラアイスは最高の組み合わせなんよな~♪
鼻歌交じりにフォークを手にして、早速ケーキの先端をサクッと切り取る。
先ずはひと口。そこにすかさずバニラアイスもひと口。
舌の上でほんのり香るシナモンと、温かいリンゴとカスタード。
土台のアーモンドプードル生地がまたサクッとしてて美味しっ!となったところに、バニラアイスの冷たさと甘さが合わさるともう最の高!
咀嚼して飲み込んだところに湯気が立つ紅茶をふーと冷ましつつ少しだけ口に含み、こくりと嚥下すれば今度はふわりとバニラの余韻が膨らんで、思わず満足の溜め息が零れる。
はー美味しい。
『今度アド君にも・・』
異世界で旅に出ているす、好きな人(多分)の事が脳裏に過ったタイミングで、親友が「そう言えばさ」と切り出した。
「アド氏っていつ頃戻って来るんだっけ?」
「ふえっ?!」
あまりにタイムリーな話題に思わず変な声が出て、カップの紅茶が揺れ零れて手元を濡らす。
「あっつ!?」
「大丈夫?!ほら、拭いて拭いて!」
少々行儀悪く音を立ててカップを置き、反射的に濡れた手を振って冷した。
親友が手元のおしぼりを渡してくれたので、有難く受け取って琥珀色の雫を拭き取る。
「もぅ。あたしそんな変なこと言ってないと思うけど?何に驚いたのよ。気を付けなさいよね」
「ははは。いやいや。ちょっちね~・・」
言えるか。
異世界の美青年にこ、こ、、恋しちゃってるかも、なんてっ!
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。