鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
私の成人式で、父さんと母さんと。
3人で写真を撮った1週間後。
私は、独りぼっちになった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
事故だった。
ずっと働き詰めで、2人が旅行なんて何年も行けてないの知ってたから。
わりと近場に新しく温泉宿が出来たって聞いて。「夫婦水入らずで一泊してきたら?」って。
投稿した漫画の懸賞金でプチ旅行をプレゼントした。
その帰り道。
両親が乗った車は、玉突き事故に巻き込まれた。
運悪く、前後が大型車両だった所為で両親の乗っていた軽はひとたまりもなく。
病院で説明された時に、「苦しむ事は無かっただろう」と聞いて。
そこだけは、「良かった」と思えた。
両親とも、体はボロボロだったけど、顔に傷は殆ど無くて。
首から上だけなら寝てる様に見えた。
泣いて。泣いて。
泣き明かして。
動く気力も無くてボーっとしてたら、見知らぬ老人がやって来た。
『霊安室って一家族ずつ案内されるんじゃないんだ』なんて。
今思えば呑気な事を考えていたと思うけど、あの時は心に全く余裕が無かった。
「最後まで面倒をかけおって。死んで清々したわ」
そんな風に、死人に鞭打つような酷い言葉を吐いた老人は踵を返して一言「運び出せ」と口にして。
直後に真っ黒なスーツを着た男の人たちが何人も入って来て、父さんと母さんを運び出されてしまった。
混乱しながら止めようとしたけど、私も両脇を固められ無理矢理連れ出された。
結論を言うと、老人は父さんの父親だった。
つまり、私の祖父に当たる人。
けど、コイツは「祖父」だなんて呼ぶに値しない、とんだクズ人間だった。
いや、人間かどうかもすらも怪しい。
会話は出来るけど意思疎通は出来ないみたいな。思考がズレて歪んでる感じが酷かった。
拉致されて、そこそこ高そうなホテルに2日ほど監禁された。
と言っても、食事は普通に3食出たし、テレビは見放題。
ただ、スマホは取り上げられ、部屋に電話は設置されてなかった上にテレビもネットに繋がらなかった。
つまり。外との連絡手段が無かった。
両親が死んで。何でか監禁されて。
そんな状況で普通にお腹が空く自分が信じられなくて。
メンタルぐらぐらしてる状態で急に解放された。
父さんと母さんはどうなったのか。
それが一番心配で気になって。
解放された時、黒スーツの人に聞いたけど、何も答えてくれなかった。
呆然としたけど、仕方ないから歩いて家に帰った。
解放されたのは自宅近くだったから助かった。
財布も無かったし。
けど、自宅に帰ったら鍵が開いてて。
いや。鍵も無かったから開いてて助かりはしたんだけど、そんな事どうでも良くなるくらいの状況で。
普通の、3LDKのマンションなんだけど。
父さんと母さんの部屋も。
私の部屋も。
台所もリビングも。
何ならトイレや台所も。
本当に塵ひとつ残っていなかった。
父さんが大事にしてた変な置物は?
母さんが作ってくれた唐揚げは?
私のPCとペンタブは?
ずっと3人で暮らして来た家の中のありとあらゆる物が全部全部ぜんぶ・・
無くなっちゃった・・
・・・どうして、なんて。考えるまでも無い。
あの糞ジジイがやったんだ。
そこから、とりあえず警察に行った。
身分証も何も無かったから、被害届を出すのも大変だった。
結局は身内の諍いって事で、受理してもらえなかったけど。
民事不介入ってこういう時クソだと思う。
父さんと母さんがどうなったのか凄く心配で不安だったけど、自分の世話がままならない状態で気にしている余裕は無くて、一先ず目の前の事を1つずつ片付けていった。
諸々の再発行が出来たら、両親の保険の手続きやら銀行やらの処理。
ある程度纏まったお金が手に入るまでは、大学の友人たちから少しずつお金を借りて過ごした。
空っぽの家を見た友人の殆どが「大変だね」と快く貸してくれたのは有難かった。
勿論、銀行の通帳が使えるようになったら直ぐに返したけど。
2ヶ月くらいバタバタして、荷物も無いからと引っ越しもして。
漸く落ち着いてきたところで、休学してた大学に通い始めたんだけど。
そこで友人たちに打ちのめされた。
「保険金でスマホ買い直したの?いいなー」
「事故起こした相手からも貰えるのラッキーじゃね?」
「ちょっと分けてよ」
「お金貸してあげたよね?だから奢って~」
「皆でパーっと遊びにいこうぜ!」
「な。俺たち付き合わね?」
「親いないなら遊び放題じゃん!泊りで騒ごうよ!」
友人だと思っていたのは、どうやら私の一方通行な思い込みだったらしい。
呆れ返る程の激変。
人間、ここまで明け透けに金、金と欲望丸出しに出来るのかと。
そのうち接点の無い自称彼氏や自称親友が湧いて出て。
どこから嗅ぎ付けたのか見知らぬ団体から寄付金のお願いや宗教の勧誘までやって来たりして。
何もかもが嫌になったところに、従妹と名乗る女性が現れた。
「従姉って話だけど、本当に綾小路の血を引いてるのか怪しいくらいの不細工ね」
第一声からしてとんでもなく失礼な従妹だった。
確かに、自称従妹は目元パッチリで高身長のモデル体型で10人が10人とも「美人」だと断定するであろう容姿だったけども。
今だったら「初対面の人に何暴言吐いてんだ性格ブス」くらいなら言ったかもしれない。
けど、当時の私はボロボロのメンタルに引きずられて体調もあまり芳しくなく、本当に余裕が無かった。
こっちの状態は無視して、「おじい様が呼んでいるから来なさい」なんて言われて。
係わりたくなかったけど、父さんと母さんがどうなったのか知る機会だと思ったから、付いて行った。
分かりやすい高級車に乗せられて。
分かりやすい豪邸に連れて行かれて。
分かりやすいゴテゴテした部屋に通されたら。
分かりやすい状況に少し呆れた。
『昭和の漫画かよ』って。
それから、その部屋に居たこの前の老人に色々言われたけど、理解出来たのはもう父さんと母さんの遺骨は散骨されてしまって、どうにもならないという事。
・・持ち物が1つも残ってなくても。お墓を立てられるだけのお金もある、し。
だから、父さんと母さんの・・2人の為に、まだ出来る事があると、思ってたのに。
そう小さく零れた言葉を耳聡く拾って、自称親戚の2人は宣う。
「その
「親の命その物を啜ってしか生きて行けないなんて、とっても哀れだわ~」
「とうの昔に絶縁した無価値な息子から生まれた無価値なお前にも、この儂の血が流れているのだ。忌々しいが、一族の名を貶めるような真似だけはするでないぞ」
「おじい様。調べたところ、
「なんだとっ?!そんな下賤な
憤怒の表情で詰められても、もう割とどうでも良くなっていた私は、言われた事を右から左に聞き流していた。
ギリギリで保っていた精神が、両親の件で折れて千々に砕けてしまっていた。
それだけ、遺骨の事がショックで。
何か言われて、適当に頷いて。
ごちゃごちゃ書かれた紙にサインして、血判を押した。
自称従妹は最後に「今後お金が無くなったからって、擦り寄って来たりなんてしないでよ?」なんて、やたらスッキリした顔で言って来て。
老人は老人で皺だらけの顔を醜悪に歪めて「儂の与り知らぬ所で野垂れ死ね。二度とその顔見せるな」なんて、そっちから呼び出しておいて好き勝手にほざきやがった。
もう用はないと豪邸の裏口から掃き出すようにして放り出されて、タクシーが拾える大通りまで歩きながら考えた。
私はもう、両親にしてあげられることは何も無いのか。
これから先、手を合わせる心の拠り所すら無く。
独り虚無を抱えて生きて行かねばならないのか・・
通常からは程遠い精神状態でまともな思考が出来る筈もなく。
合わないピースを無理矢理嵌め込んだように。私は歪な目標を心の拠り所とした。
両親の保険金は、確かに両親の命そのものと言えるだろう。
使い潰す?そんな事、する訳が無い。
両親が応援してくれた漫画家を諦める?
そんな事、有る訳が無い。
あんなクズ共のいう通りになど、絶対になってやるものか。
決めた。
遺産?
今後は1円たりとも使わない。
漫画家?
なってやる。絶対に。
この先いつか、両親に会えた時に。
「アイツらのいう事全部否定してやったよ!」って、笑って報告出来るように。
・・・・ま。
結果はご覧の通り、惨敗したワケなんですけどね!
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。