※この作品はR-18です。

鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~   作:もすもす。

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お待たせしました。


【207】水竜討伐、開始。

 

眼鏡貴族自身の水竜討伐への参加が決定事項として伝えられたその夜。

討伐を明日に控える中、思念伝達の魔道具が入った小袋を手に呼びかける。

 

〈ストークス卿。起きているか?〉

 

反応は僅かに遅れたものの、直ぐに〈はい、殿下〉と返事があった。

 

〈夜分遅くにすまないが、討伐の件だ。話せるか?〉

〈勿論です〉

〈単刀直入に問おう・・卿が討伐への参加を決めたのは・・私が、参加するからか?〉

 

そう。貴族が荒事を行うなど、普通なら他国や他領との争いくらいのもの・・

それ以外で貴族が自ら動くなど、聞いた事が無い。

理由があるとすれば、王族であるこの身を守る為・・それが一番納得出来る。

 

〈無論。殿下をお守りする為・・ですが、それだけではございません〉

〈どういう事だ?〉

〈あの場でお話した遺跡を守る為、というのも本当ですし。いざという時に殿下をお守りする為でもあります。そして、我が開発した結界魔道具を実戦で使用出来る機会であり・・なにより、冒険者らの本気の戦闘を間近で観察出来る恐らく生涯一度きりの機会ですし、隙があれば開発した攻撃用魔術陣を水竜に試してみたい、というのもあります〉

〈・・それが目的か?〉

〈いえ。一番は殿下をお守りする事です。他はついでですね〉

 

・・ついで、という割には本気の雰囲気が伝わって来ているのだが・・

研究職というのは得た情報を実際に見聞きする事が何より楽しく、最高の糧、であるらしい。

姉にも似たような所があるが・・流石に姉は自身に危険が及ぶような事はしない。

何より竜人の義兄が絶対に許さないだろう。

 

〈・・一応、話は分かった。だが、護衛対象である卿が傍に居ると確実に冒険者たちの戦闘に支障をきたす。何とか思い留まってはもらえないか?〉

〈お断り申し上げる。どうしても、と仰るならば、殿下も参加を断念して我らと共に水竜討伐をお待ち頂きたく〉

〈それは・・〉

 

勿論、それが王族として正しい行動なのだろう・・

水竜討伐に参加する者たちの力量を信じていないわけではない。

だが、もし何か予想外の事態が起き戦力が必要になった時、私が現場に居るのと居ないのとでは、被害の程度に大きな差が出る。

 

自惚れではなく、私の力はそれ程の影響がある。

人的被害を最小限にする為に・・勿論水竜を確実に討伐する為にも、戦闘には絶対に参加したい。

 

〈・・分かった〉

〈ご決断頂けて良かった。では、明日は共に・・〉

〈いや、討伐には参加する〉

〈殿下・・〉

 

届く思念から苦慮する様子が滲み伝わる。

我が儘に付き合わせている自覚もあり、先の戦闘でも心配を掛けた為罪悪感が募るが・・

 

漸く、ここまで来た。あともう少しなのだ。

諦める訳には、いかない。

 

〈その為に「水竜討伐で受けた被害の責を冒険者に問わない」と精霊契約を交わしてもらいたい。無論、卿の守りをより強固なものにした上でだが〉

〈・・そうまでして討伐に参加されたい、と?〉

〈悪いが、その通りだ〉

 

暫しの沈黙の後、こちらが引く気が無いと理解したらしい眼鏡貴族は、思っていたよりは軽い調子で〈分かりました〉と了承した。

 

〈殿下の初めての願いです。無碍には出来ませんね〉

 

どこか楽し気な雰囲気に、『これは乗せられたか』と察する。

 

恐らく、最初からこちらの要望を通す算段だったのだろう。

私の提案次第では修正案を出しただろうが、それが無かったという事は提案自体に納得した上なのだろうな・・

 

今まで碌に交渉の経験が無かった事もあるが、やはり私のような若輩者では相手にもならない。

対人経験に差があり過ぎて、「さもありなん」と納得しかなかった。

 

その後、直ぐに精霊契約を交わし、現場では眼鏡貴族の護衛として傍仕えの半精霊が一体着くことが話し合いにより決定する。

 

そしていよいよ討伐当日。

 

不安そうにしていた冒険者の前で精霊契約した事を告げ「一切の気遣いや忖度は不要だ」と眼鏡貴族が明言した。

更に証拠として魔術契約を司る精霊を皆の前で(異世界(あちら)の菓子を対価に)呼び出し、「契約は成された」と発言してもらった事で冒険者たちから不安気な気配が消える。

 

これで皆、憂いなく実力を発揮できることだろう。

 

既に水竜が根城にしている地底湖からの排水は始まっている。

後は眼鏡貴族と小太り貴族(なんと付いて行くと言って同じように精霊契約までした)が半精霊の護衛と共に底にある遺跡に先行。

 

その時点で水竜に侵入が気付かれるため、すぐさま半精霊たちに排水を完了してもらい、戦闘に入る。

パーティー同士の連携も完璧とは言えないが、全員それなりの猛者だ。

互いの行動の邪魔はしない程度には動ける。

 

いよいよだ。

 

この水竜討伐を終えれば、彼女と対面するという目的に大きく近づく事が出来るだろう。

 

『絶対に成功させる!』

 

強い決意を胸に、私は潜水する貴族らを見送った。

 

 

〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

 

 

何か来た。

時折感じる強い魔力の塊のような存在。

精霊だ。

でも、あれらはこちらを決して害しない。

心配することはない。

ない、はずなのに。どうしてこんなにも鱗が逆立つのだろう。

 

 

半精霊の「C」を護衛に、貴族が地底湖の遺跡に降り立ち、結界魔道具を発動させた。

途端、水が押し退かされ、遺跡全体が空気の泡に包まれたようになる。

 

同時に、半精霊の「A」と「J」が協力して地底湖に残る水を排出した。

ものの数分で水竜の姿が顕わになり、僅かに残った水の中でとぐろを巻いて縁に立つこちらを見上げ威嚇する。

 

「予定通り、最初は遠距離攻撃からだ!用意出来次第、各自の判断で放て!」

 

一応の纏め役として「栄光への導き手」リーダーのバーグが号令を出し、遠距離攻撃が可能なセドリックが魔剣を使って電撃を放ち、リルベルが詠唱を経て火球を放つ。

人魚(マーメイド)たちも、水を纏った攻撃魔法を飛ばした。

その合間に、私は氷の鏃を打ち出す。

普通に凍らせただけでは水竜の鱗を貫けない為、目一杯の水を圧縮した特別頑丈なものだ。

 

一方、水竜もされるがままではいない。

 

排水が終わっても、水竜の身体が浸る程度に水が残っているのは水竜の仕業であろうし、実際水竜はその水を使ってこちらの攻撃を防ぎ、反撃してきた。

 

首の辺りに水を纏わせた水竜の、耳のように広がるヒレが震える度、伸び上がった水の膜に火球は掻き消され、電撃は受け流され、水魔法と鏃の勢いは削がれる。

そして飛び出した水弾が縁に立つこちらの近くに次々と着弾し始めた。

 

密集していては的になるだけだと判断して、巌窟人(ドワーフ)と冒険者はパーティー毎に固まって散る。

陸上で動くのが苦手な人魚はそのまま縁から援護だ。

 

皆が降り立った地底湖の底付近はすっかり水が抜け、水竜の下の窪みにのみ残っている。

半精霊の「A」と「J」が少しずつ水の支配権を奪って排出し続けていたお陰だ。

 

これならば、皆問題なく動ける筈。

 

「一番手は俺らに任せてもらうぞ!援護を頼む!」

 

そう言って飛び出したのは重そうな防具を身に着けた巌窟人たち。

全身を包む防具をものともせず、己の肩幅を優に超える大きさの戦斧を掲げて素早く水竜に駆けて行く!

 

水竜が近付けさすまいとヒレを震わせる度、私やリルベル、セドリックの攻撃が魔法の発動を防いだ。

だが巌窟人らが近づいても、丸太を束ねたような太さの巨体が身じろぎするだけで戦斧は弾かれ、なかなか傷を与えることが出来ない。

 

「むうっ!どうにかして動きを止める事は出来ぬか?!」

 

その呼びかけに、私を守っていた傍仕えに目配せをして許可を出した。

頷いた傍仕えは現れた半精霊と護衛を交代して前に出る。

 

無造作に、両腕がふわりと広がり手首が翻った。

すると一瞬の間を置き、水竜が不自然に固まる!

 

驚きの声が上がる中、傍仕えは握った拳を震わせながら「重いっ長くは持ちません!」と声を張り上げた。

同時に、水竜に巻き付いた糸が魔力の反発で激しく震え明滅する!

 

「よくやった小僧!」

「わたくしは小僧ではありませんっ!」

 

軽口の応酬の間に、飛び掛かった巌窟人らの戦斧が傍仕えの糸を避け、動けぬ水竜の体に勢いよく振り下ろされた!!

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。
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