鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
一瞬。激しく飛び散る血を幻視したが、予測とは裏腹に
「ちぃっ!やっぱ魔力を削らねぇと通らねぇかっ!」
舌打ちをした巌窟人が飛び退るのと入れ替わりに、水竜にぶつかっていく人影。
その数5つ!
「ならば俺たちが手を貸そう!なぁ皆!」
「「「「応っ!」」」」
野太く気合の籠った声に、鈍く重い打撃音を重ねたのは「剛腕の誓い」のメンバー。
鍛え上げた筋肉を盛り上げ晒し、各々が「一点集中!」とばかりに拳を振るう!
「えぇいっ!」
「おりゃあ!」
「そいっ!」
「とりゃあ!」
「ぬんっ!」
身動き出来ぬ水竜を「これでもか!」と殴る!殴る!殴るっ!
ドゴドゴバコバコと鈍い音が響き、汗が飛び散り筋肉が躍動するっ!
その勢いたるや、巌窟人らが呆気にとられて動きを止めるほど。
しかし直ぐにはっとして「俺らも負けてられねぇぞ!」と勢いを取り戻し、戦斧を振り回し始めた。
「ちっとでも魔力を削れ!」
「おうともよ!」
勿論、他の面々もただ見ているわけではない。
水竜に張り付いている者たちに当たらぬよう、頭や尾に向けて遠距離攻撃を放つ!
攻撃音と魔法の着弾による爆発音が幾重にも重なり、束の間地下空間を揺らした。
「いよしっ!一応の面目は立った!儂らは暫く下がるぞ!」
長いようで短い時が経ち、巌窟人らが疲れ切る前にと後退し始める。
「あいよ!なら次はウチらの出番だねっ!」
皇国の面目を保つ為に先行した巌窟人の声に応えたのは「不屈の砦」のリーダー、盾役のミリアーナ。
「剛腕の誓い」のメンバーは引き継ぎの合間を警戒して留まった後、「不屈の砦」と入れ替わりに「少しの間任せた!」と眩しい笑顔をキラッ!と残して下がった。
ミリアーナは「皆!ヤツが動けない内に畳みかけるよっ!」とメンバーに指示を飛ばし、自らも体を覆い隠せる程大きな盾を構えて飛び出す!
後に続いたメンバーの内、盾役を追い越し最初に水竜へ到達したのは副リーダーである赤髪のデラ。
地を蹴り、未だ明滅する傍仕えの糸を避けて水竜の体へ降り立つと、頭部へ向けて駆けあがりながら双剣を振り回す!
だが水竜の体に剣が通った様子は無く、ただ剣戟にも似た硬質な音が途切れずに続き、水の滴る広々とした地下空間へと反響した。
頭部に辿り着いた赤髪は一際激しく剣を躍らせた後、一度離脱する為に水竜を蹴って大きく跳躍。その時。
「危ないっ!」
傍仕えが叫んだ瞬間。拘束していた糸が緩みでもしたのか、空中の赤髪に向かって水竜が顎を開き迫る!
思わず息を呑んだが、すんでのところで水竜の頭部が爆発!横にブレた。
見ると、四枚翅を震わせた虫人のモウロが広がる煙を割き現れる!
どうやら爆発する薬品か何かを投げて赤髪を庇ったらしい。
ホッとする間もなく、傍仕えが「拘束が解けました!同じ手は使えません!」と皆に注意を促す。
ぶるぶると身を震わせた水竜は体の自由を取り戻し、憤怒の目で睥睨しながら大きく伸び上がった。
瞬きの間睨み合い、「行くよっ!」と号令をかけた盾役だったが、その言葉尻がどんっ!という凄まじい爆音で掻き消される!
発生源は一本の長い三つ編みを揺らしたフラウリィーラ。
一時の間が空き、響き渡ったのは水竜の声なき絶叫。
―――――――――――ッッ?!!
場の全員に耳鳴りが起こり、強い影響があったらしい
「耳障りな悲鳴ね~。次はその喉潰そうかしら~?」
言葉と共に引き上げた
初めて水竜に刃を沈めてみせた三つ編みは、どこか楽し気に微笑み斧槍を大きく振りかぶった!
「よそ見してる暇ないわよ~?」
既に血は止まり傷もすっかり回復している水竜だが、痛みに慣れていないのか完全に怯んでいる。
そんな隙を冒険者たちが見逃す筈も無く、三つ編みが水竜の注意を引き付けている間に特大の攻撃魔法を構築していた。
「――故に我は希う。この身に宿る想いと力を糧にして。汝、美しき死よ。今、ここに。出でよ・・」
ボサ髪の魔法使い、リルベルが盾役の背後から飛び出し、詠唱を完成させる!
「・・業火の黒蝶!我が眼前の竜を打ち破れ!!」
鋭く突き出された
空間に浮かぶ薄若葉色の陣の、年輪のように層になっている縁の列がガチリ、ガチリと左右に回ると、模様が組変わる度に新たに小さな陣が大きな陣を囲む形で現れ・・
唐突に点へと収束した直後、そこには人の顔ほどの大きさの蝶が。
ひら、と舞う何の変哲もない虫に、水竜は「取るに足らぬ」といった様子で無造作に水弾を放って撃ち落とした。
・・撃ち落とした、筈だった。
しかし黒き蝶はそこに
水竜は小さき生き物程度が発した魔法が、魔力が、自身の魔力で打ち消せぬ筈はないと躍起になって次々と水弾を放つ!
だが水弾が当たる度、蝶は消えるどころか逆に増えていった。
2が4になった。4が8に、16が32に、128が256に・・
気が付けば、数え切れぬ程の黒蝶に取り囲まれていた水竜は苛立ちに任せ、蝶の群れを一掃すべく大きく顎を開く!
喉奥で圧縮された魔力が煌いた瞬間、意識の隙間を縫い、優しくすら感じる程軽く、ひょん。と、1本の矢が飛び込んだ。
途端、走る紫電!
口を開けたまま、バヂヂィッ!と明滅と共に痺れ固まった水竜は、再び耳鳴りを伴う絶叫を上げる!
何処から矢が飛んできたのかと視線を巡らせれば、今まで気配を抑えて隙を窺っていたらしい褐色肌のキーラが、岩陰で次の矢を油断なくつがえている姿を見つけた。
恐らく、ボサ髪の魔法が込められた魔石を鏃にして攻撃したのだろう。
短弓であの距離を、しかも水竜の意識の隙を突いての一矢とは恐れ入る。
凄まじい腕前に『感心より先に、呆れが来てしまうな』と本人に伝えれば怒りそうな感想を抱いている間に・・
ひら、と頼りなく舞う1匹の黒蝶が、水竜の鱗に触れ、「ぢゅん」と微かな音を立てて消えた。
触れた箇所を、綺麗な円形に抉り燃やし尽くして。
痛みに暴れそうな気配を察した盾役が「退避!巻き込まれるよ!」と叫ぶように注意を促した時には、メンバーは既に動き出していた。
――――――――――――――っ!!!
予想通り、今までで一番の絶叫を上げて水竜が激しく身を捩る!
だがその行動は悪手だ。
周りには、まだ無数の黒蝶が舞っているのだから。
水が上から下へと流れ落ちる様に、当然の流れとして、次々に黒蝶は水竜に当たる。
ぢゅん。ぢゅん。ぢゅぢゅん。ぢゅぢゅぢゅん。ぢゅ!どぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅ!!
焼失の音が上がり連なって、1つの音のように聞こえた。
そうして作り上げられたのは、無数の穴が開いた様相へと変じた水竜。
普通の魔物ならば疾うに絶命していてもおかしくは無いが、竜種の中で最弱と言っても竜は竜。
穴だらけになり、片目となろうとも、残された目に憎悪を宿してこちらを睨めつける。
その時、エラ付近に纏う水が不自然に増大した。
ぞわり、と走った悪寒に逆らうことなく地へと這いつくばり、身を伏せる!
直後、頭の直ぐ上辺りを何かが高速で通り過ぎた!
「?!防ぎっ!」
「あっ!」
「きゃあ!」
「ガっ!」
「ちぃっ!」
「モウロっ?!」
大した予備動作もなく放たれた水竜の攻撃は、狙い通り冒険者らを傷つける事に成功する!
盾役は構えた盾を貫通した何かに肩を抉られ、赤髪、三つ編み、褐色肌、ボサ髪も負傷!
そして、翅を折り貫かれたらしい虫人が機動力を失って落下を始めた!
「不屈の砦」の面々は動けない、ならばっ!
咄嗟に飛び出そうとしたが、「なりません!」と傍仕えに肩を掴んで止められる!
問答の時間はないとその手を振り解いた瞬間、前を向いたその先で。
何かが光り。
傍仕えの背面が視界に広がって。
薄暗いその輪郭が、一部弾け歪む。
「ジャスっ?!」
音が消える中、自身の喉から出た筈の叫び呼ぶ声は水を通したようにくぐもって、遠く聞こえた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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