※この作品はR-18です。

鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~   作:もすもす。

210 / 247
お待たせしました。


【210】討伐。そして・・

 

傍仕えの同意に、勢いのまま口を開く。

 

「それならばっ!」

 

とある可能性に思い至った事で興奮して、思いの外大きな声になってしまった。

なんとか途中で自制して、そこからは小声で続ける。

 

「つまり、水竜の魔力を操作出来れば・・無理矢理魔力を消費させ、回復出来なくなったところでアヤから譲り受けた「にさんかたんそ」を使えば・・!!」

「はい・・上手く行けば、そのまま倒せるかも知れません」

 

もしそれが成功すれば、これ以上の損害を受ける事無く討伐出来るかもしれない・・!!

 

「もしかしたら」「かもしれない」と、希望的観測が過ぎるようにも思うが、被害が少なく討伐出来るに越したことは無いだろう。

私の魔力による空間把握と水操魔法ならば、姿を隠しながらでも水竜に水蔦を接続出来る。

推測が正しく、私と水竜の魔力の質が似ているとすれば、気づかれる可能性も低い筈だ。

 

「・・試してみるか・・」

「畏まりました。では周囲への警戒と補助に半精霊たちを最大限配置致します」

 

頷き答えた傍仕えの背後に、面布の色だけが違う傍仕えの姿を写し取った半精霊たちが現れ、揃って腰を折り礼の姿勢をとる。

 

「よし・・では戦闘中の「栄光への導き手」の邪魔にならぬように試すとしよう」

「はい。ですがくれぐれも・・」

「あぁ。分かっている。無理はせず、少しでも危険を感じたら下がる。護衛として精霊も同行させ、防御の結界魔道具も使用する」

 

慎重な行動を取ると説明すれば、傍仕えは「それならば危険は少ないでしょう」と頷いた。

 

「よし。では行こう」

「畏まりました。「F」と「G」はわたくしたちの護衛を。他は引き続き冒険者の補助と、治療が必要な時は手助けをしなさい」

 

傍仕えが指示を出すと、すっと頭を下げた半精霊たちが姿を消し、「F」と「G」と書かれた面布を付けている半精霊が私たちの背後に回る。

その間に防御用の結界魔道具を魔法鞄(マジックバック)から取り出し、ベルトに取り付けて起動した。

 

一目見ただけで冒険者が持つには高価な品だと解る物の為、本当は人目に晒すつもりの無かった品だ。

しかし今は偽装を優先している場合ではない。

出所を問われた時には、眼鏡貴族から借りたとでも誤魔化すとしよう。

 

ふわりと柔らかく光る帯飾りに1つ頷き、傍仕えの「では移動します」との言葉にぐっと身構えた。

 

瞬間、「G」の魔法で傍仕えと2人、影に沈む。

 

一瞬の浮遊感の後、靴底が地に着いた感覚と共に体の重さが戻って来た。

目を開けると周囲は暗く、数歩先にぼんやりとした魔力結晶の光が見える。

 

近づくと、どうやらここは浅い洞窟だったようだ。

下の方から戦闘音がするので、気配を抑え岩棚になっている端からうつ伏せでそっと顔を覗かせる。

 

水竜は遥か下。ここは完全な死角で、隠れて動くのに打って付けの場所だ。

また、暗い影の中のため、退避する時は一瞬で「G」の影移動の魔法が発動するだろう。

 

・・よし。やってみよう。

 

同じように隣で伏せる傍仕えに目配せをし、返って来た頷きに同じように顎を引いて応え視線を水竜に戻した。

 

そろりそろりと魔力を広げ、周囲の空間を掌握していく。

水気の多い洞窟内の壁や空気中から水分を集め、手元から水の蔦を作り垂らした。

 

しゅるしゅると静かに、しかし確実に伸びる細い水の蔦。

 

その先端が、暴れ動く水竜の背中付近に触れる。

 

反射的に息を呑んで身構え、状況の変化に備えた。

 

頭の中で数を数え・・50を超えたあたりで傍仕えと視線で確認し合う。

顎を引いて頷きを交わし、水蔦で触れた水竜の魔力に意識を集中した。

 

成程、確かに私の魔力に似ている・・僅かな違和感を除けば、私の魔力そのものと言ってもおかしくないくらいには。

 

ゆっくり、少しずつ、少しずつ。

水竜の魔力と同調していく・・

 

長いようで短い時間が経ち、その時は訪れた。

 

『繋がった!』

 

ぶわりと自分の体が拡張されたような感覚に陥る。

細い水蔦を通して、水竜の魔力を己の物のように把握した。

 

水竜が体を動かす度、魔法を使う毎に動く魔力の流れは凄まじく、感じ取るだけでも魔力酔いで眩暈がしそうだ。

 

じっと横で様子を窺っていた傍仕えが、こちらの変化を感じ取って静かに訊ねる。

 

「アド様・・如何ですか?」

「・・繋がった。試しに少し魔力を放出させてみよう・・」

 

そう告げ、水竜が操作する魔力の動きを阻害せぬよう、その流れに僅かに上乗せしてみた。

結果、目論見は上手く行き、ほんの少量ではあるが魔力を余計に消費させることに成功する。

 

「・・よし。このまま少しずつ消費量を増やしてみよう」

「慎重にお願い致します」

「勿論だ。だが気付かれたら直ぐに退避できるよう備えだけは頼む」

「畏まりました」

 

ぼそぼそとそんなやり取りの後、水竜の魔力を動かした。

そうして危なげなく魔力を消費させていくうち、どんな時ならば大きく動かしても気付かれないか理解する。

 

以降は魔力の消費速度も格段に上がり、それに合わせて水竜の動きも徐々にぎこちなくなって行った。

冒険者らは水竜の不調を見逃さず、僅かに体勢を崩したのを好機と捉えここぞとばかりに猛攻を仕掛ける。

 

「勝機!動ける者は全員攻撃!」

 

咆哮にも似た虎耳の呼び掛けに、待機していた面々が「おう!」と応える。

 

最初に状況をより有利に傾けた一手は、褐色肌の魔法矢。

 

重さを変化させる魔法が仕掛けられていたらしく、矢が到達した首後ろを引きずられるようにして、水竜は横転した。

 

そこに殴打、斬撃、電撃、爆発、ありとあらゆる攻撃が殺到する。

 

私は状況を後押しすべく、水竜が回復しないように魔力の動きを阻害。

ここまで来れば、魔力操作に気付かれても危険は少ないと判断。

一気に魔力を奪い、出来るだけ再吸収させない為に大量の空の魔石へ充填した!

 

そして今、水竜を仕留めるべく最後の一手を放つ。

 

「「にさんかたんそ」を出す!防御結界を展開!」

「はっ!」

 

腰の魔法鞄から緑色の円筒形の物体を取り出し、丸い栓を勢いよく捻った!

瞬間、ブシュウっ!と吹き出す真っ白な煙。

すかさず、吹き出し口に水蔦を突っ込んで直接「にさんかたんそ」を引っ張り出す。

膨らみ広がろうとする「にさんかたんそ」を水蔦の内に無理矢理留めたまま、水竜のエラへ向けて勢いよく伸ばした!

 

向こう側(異世界)の劇物の効果は絶大で、切り落とされ、血が噴き出す尾を振り回し暴れていた水竜はビクリと大きく痙攣した後、長く後引くような耳鳴りを引き起こし・・

 

力なく頭を地に打ち付け沈んだ。

 

水竜が倒れ込んだ衝撃で大きな振動が起きた後、辺りに沈黙が広がる。

 

皆が警戒を緩めずに見守る中、黒鍔帽を連れた虎耳が静かに水竜の首辺りに近づき・・

鉤爪状の武器で大きく喉を切り裂いた。

 

吹き出した血は一瞬で勢いを失くし、水竜が確実に死んでいると確信した虎耳はゆっくりと血濡れの武器を掲げて宣言する。

 

「我ら、水竜を討ち取ったりっ!!」

 

僅かに間を置き、洞窟を揺らさんばかりの歓声が沸き上がった。

 

「やった!勝った!倒したぞ!」

「勝ったー!」

「いよぉぉぉぉっしっ!!」

 

水竜討伐を成し遂げた者らは喜びを爆発させ、騒がしくも健闘を称え合う。

そんな冒険者たちを見下ろしながら、余らせた「にさんかたんそ」を筒に押し戻した。

栓を閉め、魔法鞄に劇物を仕舞い終えると、漸くほぅ~と大きく息を吐き立ち上がる。

 

良かった。

 

漸く。漸くだ・・これで彼女(アヤ)に会える可能性への道が大きく開け・・・・

 

 

ぞわり。

 

 

自分自身の存在が塗り潰される恐怖が湧き上がるのに合わせ、近くの壁から生えるように伸びた魔力結晶の光が強くなって行く。

 

駄目だ。危険だ。

恐ろしく怖い危ない命が良くない怖いとてもとても恐ろしい怖い危険危ない逃げ逃げ早く早く早くし、しししししししししししし

 

死

 

「み゛・・みんな

 

にげろっ」

 

引き攣り、潰れた喉を無理矢理震わせて叫んだつもりの声は、目が開けていられない程に強く光を発した魔力結晶の圧に呑まれて、誰にも届くことなく擦れ消えた。

 

強烈な閃光が引けば、そこにあ(・)っ(・)た(・)のは「絶望」

 

「すい、りゅうの・・成体・・」

 

誰かの呟きが、異様な静けさに包まれた洞窟内に・・不思議と鮮明に響いた。

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。
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