鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
靄が晴れたように、唐突に姿を現したのは白き角持つ鬼人。
一見、儚げで胸の豊かな美女に見えるが、歴とした男性だ。
「どうやって、いつの間に・・」
「ん?こん建物の近くば隠れてたんだけんど、アドらの姿ば見えたで。合流した方が良えかと思うてな。いんや~、カルセにはすんぐ気付かれたみてぇで驚きだべ」
「流石だべな」と笑いながら、鬼人は腰に下げた小袋を取り外して傍仕えに手渡す。
「ありがとうございます。そちらこそ、近づくまで全く気配が読めませんでした。それも「符術」ですか?」
「んだべ。気配を抑えて姿を隠す「隠形」の符だべさ。声ば出したら解けるけんども、足音なんかもぜーんぶ隠してまう便利な術だべ!」
その説明を聞き、傍仕え、眼鏡貴族とそれぞれに目を見合わせ、互いに頷いた後で私の方から鬼人に訊ねた。
「シグレ。魔石の提供感謝する。それと、その「隠形」の術は他の者でも使えるか?」
「もちろんだべ!符は後4枚はあるでよ。符の枚数分だけ付与できるべさ!」
「けど、何でだ?」と腕を組んで首を傾げた鬼人に、魔術陣の解析が水竜排除に繋がると説明して協力を求めた。
「陣ば調べるて・・そげな古いもん、すぐに終わるんだべか?」
そう不安そうに問う鬼人に答えを返すべく、眼鏡貴族とボサ髪に向かって「どうだ?」と訊ねたが、2人は「わからない」と首を横に振る。
「ここにある陣が一番大きくて重要なのは確か。でも使うには最低でもあと4つの陣が必要」
「今までに発見、解析してきた物との類似点も多い。起動させるだけならば離れた位置にある陣を解析、接続するだけで出来る。制御は難しいだろうが」
「起動さえ出来れば水竜を移動させる事は可能か?」
肝心の所を訊ねると、それぞれ「たぶん」「恐らくは」と曖昧ながらも頷いた。
「・・試す価値は、ある。か・・。ストークス卿、リルベル。すぐにその別の陣の解析に向かって貰えるか?起動に必要な魔力は、私がなんとかしよう」
「半精霊を護衛につけましょう。シグレの「隠形」と合わせればかなり安全になる筈です」
2人は頷いたが、それに異を唱える者が1人。
「閣下!危険過ぎますぞ!遺跡の外の陣の解析には冒険者の者だけで良いではないですか!」
「それでは時間が掛かり過ぎる。こうして問答している間も外では他の者が危険に晒されている」
「では我が代わりに出ましょうぞ!外の者も、ここに呼び集めれば問題ありますまいっ!」
「いえ、それは止めた方が良いでしょう」
必死に説得する小太り貴族の提案に、傍仕えは否を告げた。
「今は攻撃対象が分散しているから持っていますが、ここに攻撃が集中してしまえば結界がどこまで耐えられるか分かりません。それに、ベラルドルダ卿はストークス卿と同じ早さで解析を進められるのですか?」
「いや、部下は我には遠く及ばん」
「閣下?!」
「弁えろヒンヒ・ベラルドルダ。お前は
諭され、ぐっと言葉に詰まった小太り貴族は絞り出すような声音で「分かりました。申し訳、ございませぬ」と頭を下げる。
続いて私にも頭をさげそうな気配を察し、視線でそれを制した。
先程ストークス卿に「殿下」呼びを許してしまったし、今更ではあるがな。
ちら、と周囲を窺ったが、事情を知らぬ鬼人と
一方ボサ髪はというと、床に広げた羊皮紙に齧りつくようにして書き込みを続けており、こちらを気にする余裕は無さそうである。
どうやら私の事を気にする者は居ないらしい・・
若しくは、察していて素知らぬふりをしてくれているのかもしれないが・・
『今はこの状況を「良し」とするしかないな・・』
そっと息を吐き、懸念は懸念として認識しつつ意識を現状に集中させる。
眼鏡貴族が小太り貴族に何やら指示をし、ボサ髪の用意が整うまでの間に、傍仕えは人魚に他の者らの状況を確認。
陣の解析をする間、水竜の気を逸らすために協力を要請している。
「攻撃は無理でも、動き回って気を引くように伝えてください」
「わかった~」
チッチッ。チチッチッチチ。と、弾むような音を発した人魚はすぐに返事を受け取ったようで「みんな、むりって言ってる~」と答えを返した。
「ならば半精霊が守りにつくと。必要ならば回復薬も提供すると伝えなさい」
「わかった~」
その後は良い返事を貰えたらしく、半精霊の「G」に回復薬を持たせて送り出す。
作戦、という程の物でもないが、それなりに段取りもつき、用意は整った。
ギラギラと目を輝かせ、新しい魔術陣に触れられた興奮で鼻息の荒いボサ髪。
それとは対照的にすっかり落ち着きを取り戻した眼鏡貴族は、小太り貴族にあれやこれやと世話を焼かれ出発の準備を何とか終えたようだ。
小太り貴族が名残惜しそうに下がったところで、傍仕えが連絡方法を伝える。
「細かいやり取りは難しいですが、何かあればこちらに半精霊を通して伝わりますので」
「分かった。何か伝えたい事があれば書いて渡す」
「あぁ。それはよろしいですね」
確かに、筆記魔道具を使えば時間も然程必要なく、正確に情報を伝えられるだろう。
内心で頷き、今度は私が眼鏡貴族へと近づいた。
「シグレが提供してくれた魔石に魔力を込めた。何かあれば使ってくれ」
そう言って、傍仕えから預かった小袋ごと魔石を渡す。
眼鏡貴族は頷き、「感謝する」と一言礼を言うと、受け取った魔石を
「んならば、「隠形」を付与するだ。2人は互いの姿ば見えるようになってるけんど、他の者からは見えね。声ば出したら解けてまうで、そこんとこ気ぃつけてな。」
眼鏡貴族が「うむ」と頷き、ボサ髪も「了解」と答えた。
「よし!」と気合を入れた鬼人が2人の背後に回り、鬼人の言葉で何やら唱えてそれぞれの背中に触れた。
途端。2人の姿が空気に溶けるように曖昧になって消え、気配が限りなく薄くなる。
「凄いな。こうして見ていても、何処にいるのか分らん」
「「J」2人の護衛をお願いしますね。認識は?・・出来ているみたいですね」
ふわりと浮かんだ傍仕えの姿を写し取っている半精霊は、頭上で〇を作り、大きく頷いた後でふっと姿を消した。
「・・行ったな。無事に解析を終えてくれる事を願おう」
「ええ。ですが、わたくしたちも出来る限りの事をしませんと」
「勿論だ。こんな状況でただじっと待つのは愚か者でしかない」
「流石アド様です」
面布の奥でにっこりと微笑んでいるだろう傍仕えに頷きを返して、先ずは結界魔道具に魔力を再充填すべく近づく。
その後、場の者ら全員の手持ちの魔石全てに、容量ギリギリまで魔力を注ぐのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今年最後の更新でした。
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次回の更新は月曜日の予定です。