※この作品はR-18です。

鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~   作:もすもす。

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お待たせしました。

※あとがきにお知らせがあります。


【215】討伐へと傾く。

 

冒険者たちが飛び出し、水竜の注意を引き付けていたその時。

手元に集められた魔石全てに魔力を充填し終えた私は、傍仕えと共に岩棚の浅い洞窟へと移動していた。

 

入り口近くに魔力結晶があったお陰か、崩れた箇所もなく難なく身を隠せている。

 

『始まったな』

 

魔力と気配を抑え、高所から見下ろした先には薄赤い鱗を持つ水竜が冒険者らに絶え間なく攻撃魔法を放っていた。

 

連携し、互いを庇いつつ合間に攻撃を仕掛けながら逃げ回る皆の技量に胸が熱くなる。

いくら回復薬で傷を癒やし、半精霊の結界や人魚(マーメイド)の歌による恐怖の緩和があろうと、直ぐ目の前に迫る「死」を。

本能的に忌避し、恐れを抱く水竜を相手に感情を制御して、笑みさえ浮かべて戦いに身を投じるその勇ましさが眩しくて目が離せない。

生きるために。例えその行動を選択せざるを得なくとも、実際に動ける冒険者たちに強い尊敬の念が募る。

 

生きるか死ぬかという境界線上で足掻く懸命な姿に、私自身も勇気づけられ「やってやる」という気にさせられた。

 

少しでも水竜の気を引き、陣の解析を助け・・可能なら討伐する為に、動く。

 

何時でも使えるように、魔法鞄(マジックバック)から「にさんかたんそ」の入れ物を取り出し静かに置いた。

 

そうして先に倒した水竜の時と同じように・・いや、それ以上に慎重に慎重を重ねて。

出来うる限り、最大限の速さで静かに水の蔦を伸ばす。

 

じりじりと過ぎていく時間。

自身に「焦りは禁物」と言い聞かせ、気配を抑えながら精密な魔力操作を行う。

精神を削り落とすような行為で全身に汗が滲み、雫が額から目の横を伝い落ちた。

 

冒険者たちに気を取られているお陰で、なんとか水蔦の先端を水球に触れさせた、その時。

水竜から流れ込んだ膨大な情報量に一瞬で頭が沸騰する。

 

人には到底辿り着けぬ魔力量。

猛烈な吐き気と頭痛を堪え、その魔力操作に伴う動きを把握、理解しようと―

 

瞬間。視界に映ったのは薙ぎ払われた冒険者たち。

一瞬遅れて襲ってきた水竜に対する恐怖と情報量に、堪らず胃の中身を吐き出した。

 

隣から呼び掛ける傍仕えに、反応を返す余裕が無い。

 

水蔦の接続は魔力操作が不安定になり切れてしまった。

だが、水竜の攻撃がどの様なものだったかは理解するに至る。

 

水を、小さく小さく圧縮してその一部を僅かに緩め、圧に耐え切れず飛び出した水の勢いで切断したのだ。

 

恐ろしい。

恐慌状態に近い思考の中で「水」とは、こんなことも可能なのかと戦慄した。

 

「アド様っ!」

 

切羽詰まった、それでも抑えた傍仕えの声にはっとして顔を上げる。

 

視線の先で、再び水竜が先程の攻撃を放とうと多くの水球を生み出しているっ!

 

駄目だ。ダメだ。その行いは、許容しないっ!!

 

震える腕を伸ばし、置いていた「にさんかたんそ」の入れ物に手が触れると、考えるより早くそれを掴み上げていた。

恐怖を振り払い、無理矢理に体を動かして。

ぎこちないながらも、水竜に向けて投げ付ける!

 

ひょうと落ち行く入れ物が切断され、瞬く間に広がる白煙。

それに紛れて太い水蔦を勢いよく伸ばし、無理矢理引き千切るようにして水球から大量の水を奪う!

 

途端、白煙越しに飛んでくる攻撃魔法!

 

「っ飛びますっ!」

 

水球に水蔦を接続した状態では半精霊による移動は不可能と判断した傍仕えが、私を抱えて洞窟から飛び降りた。

 

ほぼ同時に、粉塵と轟音が背後から襲い来る!

そして白煙を突っ切り、降り立ったのは水竜の攻撃範囲内。

 

これだけ派手に動き回れば動きを察知されるのは至極当然。

降ろす余裕なく傍仕えに抱えられたまま移動する間も、迫りくる無数の攻撃魔法がそれを無慈悲に証明してくる。

 

「こっのっ!」

 

水竜から奪った水を必死に操作して、分厚い氷の盾を空中に展開!

僅かに防ぐことが出来た射線を辿り、傍仕えは何とか魔力結晶の影へと滑り込む!

 

「アド様っ!ご無事ですか?!」

「あぁ!何とかな!」

 

叫び問う傍仕えにそう応えたが、実のところあまり無事ではない。

体に怪我は無いが、精神的にはかなり辛いものがある。

 

ぐい、と胃液で汚れていた口元を手の甲で拭い、頭痛と不快感で飛びそうになる意識を、下唇を噛み破る痛みで繋ぎ止めた。

 

地に落ちた氷の盾が水竜によって砕かれ用を成さなくなったので、直ぐに水に戻して近くに引き寄せる。

 

すると当然水竜の注意を引いてしまい、攻撃が集中!

 

怒涛の勢いで放たれる魔法に、魔力結晶の力場すら押し負け削られ、身を隠していた遮蔽物がどんどん小さくなっていく!

 

立つことの叶わぬ凄まじい地揺れ。

頭上から降り注ぐ砕かれた魔力結晶の欠片。

割れ飛び散る石片で体のあちこちに傷が生まれていく中・・

 

胸中を満たすのは後悔でも、諦めでも、自棄でもなく。信じる気持ち。

そして絶対に生きるのだという決意と希望。

 

耐えろ。焦るな。反撃の機会は、必ず来る!

 

逃げる事無く隣に留まり続けている傍仕えと共に、半分以下になった魔力結晶の影で体を赤子のように伏せ縮こまらせ、その時を待った。

 

体感では気が遠くなる程長く、だが実際にはほんの僅かな時が経ち、それは訪れる。

 

途切れた、微かな攻撃の空白を突き、限界まで魔力を込め待機させていた氷の鏃を水竜に向けて解放!

 

100や200ではない。その10倍の数の鏃を僅かな時間差でばら撒いた。

 

空気を切り裂きキュキュキュ!と甲高い音を置き去りにした鏃の群れが一斉に水竜に迫り、その身を守り包んでいる水球の一部を吹き飛ばし飛沫に変える!

 

だが水竜も一方的に攻撃を受ける筈がなく、即座に反撃を飛ばした!

 

立ち上がり、一番近い魔力結晶へと走り始めていたこちらをギロリと睨む視線に背筋が寒くなった瞬間、背後から傍仕えが勢いよくぶつかる!

 

縺れるようにして前方へ体が投げ出され、偶然振り向くように身を捩った事で目に入った光景は、一瞬前に通り過ぎた地面があの「線」で断ち削られた瞬間。

 

ざざざっ!と庇った傍仕えを下にして滑る間も、『止まれば確実に死ぬ』という事実に無我夢中で体を動かした。

 

体の下で僅かに跳ね上がった傍仕えの小柄な体を抱え、ぐるりと位置を入れ替える!

その勢いで背中が地に付く瞬間に合わせ、軸足で傍仕えの胸の中心を高々と蹴り上げた!

 

跳ね上げられ、こちらに伸ばした手越しに面布がはためく。

 

心の内で傍仕えに謝りながら、組み立てていたこの後の動きを実行に移し―

 

「ぎっ?!」

 

最初、音は無かった。

ただ衝撃だけが体を襲って、一瞬遅れて豪熱と共に鼓膜を劈く。

 

「アド様ぁぁ!!」

 

傍仕えの悲鳴と、右足首から全身を突き抜ける電撃にも似た感覚。

反射的に伸ばした手に触れたのは、足ではなくぬるりと温かい感触で。

 

確かめようと向けた視線の先に、ころりと嘘のように転がっている足首から先を確認して、思い出したように激痛が足首から全身を貫き暴れ回った。

 

「おのれぇっ!!」

 

全身から濃い霧状の魔力を吹き上げた傍仕えが、憤怒に染まった絶叫と共に腕を振るう!

途端、水竜に向かって縦横無尽に走るのは半精霊が灯した光源に煌めく「糸」!

 

いつの間にか再開していた人魚の歌の効果もあってか、「糸」に合わせてあちこちから牽制の攻撃が飛ぶ!

 

矢が、魔法が、剣が拳が。僅かに怯んだ水竜に襲い掛かった!

 

水竜は一瞬でもたじろんだ事実を即座に否定。

寧ろ混ざり込んだ恐れを怒りへと転化させ、膨大な魔力を一気に動か―

 

ぐらり。急に揺れる景色。

何だ?見ているものが。離れて溶けていく・・

 

水竜は知らない。

自身を蝕んでいるモノが、我が子を殺した物と同じモノだという事を。

 

傍仕えの放った「糸」が水球に触れる!

だが、誰もが弾かれると予想していた「糸」は難なく水球を通過して、水竜の体へと到達した!

 

水竜の現状を、私と傍仕えだけは察する!

 

「今ですっ!」

 

誰も彼もが、傍仕えの言葉の意味を正しく理解した。

今、この好機を逃せば討伐の可能性は無くなると。

 

最速で、果敢に飛び出したのは「剛腕の誓い」の面々。

 

身幅ほどの間隔を置き、横一列に並んだまま水球に到達した彼らは、一糸乱れぬ動きで拳を振り上げ雄叫びを上げる!

 

「「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」」

 

全く同時に突き出された拳が水球に当たり、一瞬の間を置いて鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が起こった!

凄まじい圧を伴った感覚は容赦なく足の傷に響いて、飲み込んだ悲鳴が喉奥で潰れ捩じれる。

 

吐き出すように赤色を溢れさせている足首をぎゅうと手で圧迫しながら、目にした結果は一目瞭然。

 

残っていた水球の前方と倒した水竜の体の一部を吹き飛ばし、薄赤い水竜の体の大部分を空気に晒していた。

 

「筋っ!」

「肉っ!」

「大っ!」

「爆っ!」

「発っ!」

 

びしっ!とそれぞれ筋肉を強調して魅せる「剛腕の誓い」に構う事なく、冒険者たちは水竜に肉薄して追撃を仕掛ける!

 

合わせて、人魚の歌の質も変化した。

恐怖の緩和から、戦闘意欲の増強へと!

 

怒涛の攻撃が行われる中、今の私にも出来る事はないかと思考する。

そうして残った水を水竜から剥ぎ取ってやろうと思い付き、必死に魔力を操作して水蔦を伸ばした。

 

そこへ、よたよたとした動きで寄って来たのは人魚のロアーナ。

 

「アド~!生きてる~?!」

 

気遣う言葉に応えようとしたが、声を出せば傷に響きそうで頷きだけを返す。

 

「あ~!これは大変~!今すぐ血を止めないと~!」

 

そう言ったかと思えば、人魚はすぐ脇に座り込んで赤く染まりつつある服をびいっ!と腕力に任せて引き裂き千切り取った。

そうして軽く捩じって簡易的な紐を作り、傷より少し上に宛てがいぎゅうと強く縛る。

 

簡易紐が皮膚にぎちりと食い込むのと同時に上げた悲鳴を、今は恥じる余裕もない。

それでも擦れた声で「助かった」と短く礼を伝え、途切れた集中を搔き集め再び水蔦を生み出した。

 

先程よりも素早く水蔦を操作出来ているのは、間違いなく応急処置のお陰だろう。

 

「アド~!薬持ってる~?!これ薬使わないとぜったいダメだよ~!!」

 

心配そうに回復薬所持の有無を訊ねる人魚に、首を振って答えた。

 

「ある、が。治すとき、魔力・・つかう。今、は。だめ、だ・・」

 

短く、途切れ途切れにしか発せない言葉から意図を汲み取った人魚は「なら~後ろいこ~?」と、私を移動させようと手を伸ばす。

 

その時。

 

注視していた水竜の体が動く予兆を察知。

 

力なく、子に覆いかぶさる形で倒れていた水竜が首を持ち上げるより早く。

反撃の時を待っていたと思しきその動きを潰すべく、これまでとは桁違いの速度で水蔦を伸ばした。

 

己の魔力操作の力量に頭の何処かで驚きつつ、水竜が魔力を魔法として発動させる一瞬前に。

残っていた水の大半を、私の魔力で染め上げ奪った!!

 

 

 




※お知らせ※

リアルが忙しいので、暫く更新をお休みします。
更新再開は3月に入ってからの予定です。

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