鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
連載再開です。
周囲から集め掌握した魔力をもって、水竜から奪い取った水を染め上げる。
身の内から溢れるのも構わずに集め取り込んだ魔力は、はち切れそうな危うい感覚を孕みつつどうにか制御下に収まっていた。
首をもたげた水竜は冒険者らの攻撃によって体を赤に染めながら、ぎらぎらと殺意に満ちた目をこちらに向ける。
水竜がこちらを認識した次の瞬間。
視界を埋め尽くした攻撃魔法に、反射的に魔法を放って対応した。
「アド?!」
水竜の魔法に私の魔法がぶつかり打ち消す度、洞窟内に衝撃が走り全体が揺れる。
もしかしたら崩れるか?
半精霊たちの結界は洞窟が崩れたくらいでは問題ないだろうが、私の持つ結界魔道具は水竜の攻撃に耐えられなかった。
半精霊の結界はより強固とはいえ、あの攻撃には長くは持たないかもしれない。
今は周りに気を配る余裕がない。
より魔法の操作に集中する為、私に向かって焦り呼ぶ人魚に「全員、下がれ!死ぬぞ!」と短く伝えた。
「わ、わかった~!けど、アドも死んだらダメだからね~!!」
心配する声には応えず、暴風雨が優しく思えるくらいに激しく続く攻撃魔法を捌くことに集中する。
周囲から魔力を搔き集める。
取り込む。
放つ攻撃魔法に込めるのと同時に空間にも大きく広げて、掌握領域に入って来た攻撃魔法に対し半ば自動で魔法を飛ばして相殺した。
攻撃の悉くを打ち消された水竜はこの状況に我慢がならない様子を見せ、攻撃の密度はそのままに頭上に水球を浮かべ始める。
ならばこちらも同様に。
鏡合わせのように、同じ数だけの水球を生み出し圧を掛けてその時を待つ。
込められた圧が限界を迎え、先に向こうの水球から目にも止まらぬ速さで切断の力を持った水が放たれた!
殆ど同時に、こちらも圧を掛けた水を解放して死の気配を纏う線の勢いを殺す!
水の線と線がぶつかり辺りに盛大に水しぶきを散らす中、私を両断しようと向けられた線はこちらの放った線によって僅かに目標から外れ、周囲の硬い岩盤に浅い筋を幾つも刻んだ。
当たれば死ぬ。
魔法が途切れたら死ぬ。
魔力操作を誤れば死ぬ。
背筋を冷たく撫でる死の気配を遠ざけようと、必死で魔法に魔力を込めた。
しかし、ごりぞりと神経を削りおろすような逼迫した状況は続き、魔力操作にも限界が見え始める。
この、ままで・・は。
絶望感が喉元までせり上がり、焦燥が身を焼き始めたその時。
急激に水竜からの勢いが衰えた。
そして耳に届く声。
「アド!水竜の魔力を陣で吸い取った!」
「今なら攻撃に回す余裕は無い筈です!」
「アド様!防御を崩す一手を!」
叫ぶようにボサ髪、眼鏡貴族、傍仕えの順で届いた言葉に奮い立つ。
今、ここで倒しきる為に・・
限界を越えろ。
最初から決められていた手順をなぞり辿るように。
世界がゆっくりと動く中、私は意識の底で頑なに閉じていた扉の鍵を。
解き、解放した。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
仕える主との魔力の相性が悪い事を、これ程呪ったことは無い。
微に入り細を穿ち、どんなに魔力操作に気を配ろうともお傍に居るだけで主を不調へと傾ける呪われた我が身でお仕えするには、常日頃から魔力を抑える必要があった。
お仕えしたいという望みを叶えるためならば、魔力封印の1つや2つ、どうという事は無かったのだ。
「自身を大切にする」と交わしたばかりの約束を反故にして。
従者である自分を庇った主は、こちらを遠く投げ飛ばした。
「アド様ぁぁ!!」
手を伸ばした先で赤色が弾け、傷ついた主を目にした瞬間。
激しい動揺によって緩んだ封印の一部が弾け飛ぶ。
そして可視化できる程に濃い魔力が全身から吹き上がり、魔力の増大により使用可能となった「糸」を引き出した。
「おのれぇっ!!」
あれほどの出血。
早急に手当てをしなければならない。
だというのに、傷ついた主の傍に寄ることは出来ぬ。
その苛立ちを「糸」に込めて振るった。
常時ならばまだしも、傷を負った主は魔力操作が不安定になっているだろう。
そこへ自分が近づけば、相性の悪い魔力の所為で回復を阻害するだけでなく、余計に体力を消耗させてしまう。
主が自ら引き起こした結果とはいえ、怪我を負うのを許してしまった自分自身への苛立ちもあって、やや大振りとなった「糸」は他の冒険者の支援攻撃と共に憎き水竜の纏う水球へと到達した。
だが予想に反し、「糸」は水球に弾かれる事無く水竜の体へと触れる。
瞬間、水竜が「にさんかたんそ」に侵され深刻な変調をきたしていると察した。
この機を逃すまいと周囲へ向け叫び伝える。
「今ですっ!」
呼び声に応じて、多種多様な攻撃が水竜へと飛ぶ。
「剛腕の誓い」により水球が吹き飛び、体の殆どが晒された水竜を「糸」で抑えつけた。
しかし直ぐに主が水の蔦を伸ばしたのを見てぎりぎりの所で糸を引き、噴き出た魔力を極力集めて身の内に納める。
傍にも寄れぬ今の自分に出来る事は、少しでも早く水竜を排除出来るように動くこと。
それには・・
「「G」。陣の解析をしている所までお願いします!」
半精霊に頼み、魔術陣の解析を進めている現場に移動する。
そこは一見無人に見える空間だったが、貴族と魔法使いの2人が姿を隠している筈だと声を掛けた。
「どちらに居ますか?!水竜はこちらに構う余裕はないので「隠形」を解除してください!」
するとすぐに「ここに居る」「何があった?」と魔法使い、貴族の順で姿を現した。
「時間がないので手短に。アド様が手傷を負ったまま水竜と単身魔法の打ち合いをしています」
「何だと!」
立ち上がり、動揺のままこちらを問いただそうと口を開きかけた貴族に、片手を上げてそれを制する。
「今は拮抗していますが、何かの切っ掛けで直ぐに崩れるでしょう。それまでにアド様の手助けとなるよう動いて頂きたいのです」
「可能ですか?」と問えば、2人は頷いた。
「可能だ。魔法使い。起動準備を終えた1番から5番の陣の魔石を外して回るぞ!」
「了。同時に魔力の供給源を水竜に1番近い陣へと書き換える」
「そうだ。分かっているではないか!そうすれば魔術陣は水竜から魔力を吸い取り状況も有利になる筈だ。一先ずこの陣から始めるぞ!」
そんなやり取りをして、2人は足元の魔術陣に嵌め込んでいた魔石を外しだす。
作業の邪魔はしたくなかったが、何をするでもなく待つことに耐えられそうもなく話し掛けた。
「何かお手伝い出来ることは?」
「勿論ある。今頼むところだった」
「精霊魔法でここからここまでの術文をこれに書き換えてくれ」
そう言って貴族から差し出された紙を受け取り、「C」を呼んで指示を出す。
遺跡の床に直接刻まれた魔術陣の一部を指示通り書き替えてくれた「C」に魔石を与え、次の移動先での作業が効率よく進むように1番から5番とやらの魔術陣の場所を確認して、半精霊たちを先行させ魔石の取り外しなどの指示を出した。
そうして半精霊の力を借りながら作業を進め、予定していた陣の書き換えを終えるとすぐに起動。
2人と共に主に影響を与えないと思しきぎりぎりの位置に転移し、状況を伝えるに至った。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日です。