鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
洗浄の魔法で身綺麗になっていたとはいえ、お風呂も数日ぶりとなればあちこち念入りに洗いたくなるこの頃。
みなさんは如何お過ごしでしょうか?
私はお湯を浴びながら頭の中を整理中でございます。
お風呂って割と作業だよね。
だからつい色々と考えちゃうんだけど・・
きゅっとお湯を止めて、髪を絞って水を切りながら呟く。
「訊きたいことが、次々出て来るなぁ・・」
疑問がいっぱいあり過ぎて、幾つか漏れもありそう・・
でも一先ず「これだけは」ってのを忘れずに確認するぞ!!
ふんす!と気合を入れて体を拭いたタオルを胸で巻き、髪を乾かして一纏めにしたら脱衣所のドアを開けて、お風呂上がりをアド君に知らせる。
「アドくーん。今から服を取りに行くから、ちょっと目を閉じるなりしててもらえますかね~?」
「分かった。なら私は洗面所にいよう。着替え終えたらまた知らせてくれ」
返って来た言葉に「ありがとね~」と返して一旦ドアを閉める。
それから、アド君が隣のお手洗いに入ったのを確認して廊下に出た。
部屋に戻りクローゼットから下着と薄手の長袖と、足首まであるロングのスカートを引っ張り出して着用。
そのまま『お茶でも淹れるか』と湯沸かしケトルに水を入れてスイッチОN。
濡れたタオルを手にして、「アド君。もういいよ~」とお手洗いに向けて声をかける。
部屋に戻って来たアド君と入れ違いに様に「これ置いてくるね」と伝え、脱衣所で濡れタオルと交換でタオルケットを回収。
・・手にしたタオルケットをふんふんと嗅いでみるも、とくにアウトな匂いはしなかったのでそのままベッドに戻すべく持って戻った。
部屋に入ると、アド君はこちらに背を向けて硝子越しに窓の外を眺めている。
けど、すぐに私の気配に気づき振り返って言った。
「夜なのに、随分と明かりが灯っているな」
「見せて貰った「がぞう」の通りだ」と続いた言葉に頷きを返して、タオルケットをベッドに置き、そのまま隣に並んで何となく一緒に外を眺める。
「寝てる人が殆どだけど、私たちみたいに起きてる人も居るし、防犯の意味でも外の明りを付ける人は多いからね。道を照らす街灯もあるし」
「そうか・・」
体は窓に向けたまま、ちら・・と盗み見した横顔は、室内の照明の影になっていてもはっきりとわかるくらいに整っていて、『このきれいな人から本当に告白されたのか』と、現実感が遠のく・・
今、自分の部屋で。
こうして、隣に立っているこの瞬間が、本当は夢、で・・
現実の私はいつも通りに、ベッドで寝こけているんじゃないか・・
そんな考えが浮かんだけど。
拳一つ分しか離れていない隣からは、なんか、胸の奥がぎゅってなるいい匂いがするし。
お腹・・下腹部、に。ずしっと重たい余韻が残ってるのも、現実であることの証拠だ。
外から吹き込んだ風が頬を撫でて、その肌寒さにぶるりと震えたところで。ケトルから「カチッ」と沸騰を知らせる音がした。
はっとして、思考の海から現実に引き戻される。
「あ、あぁ。そうそう。お湯を沸かしてたんだった。お茶でも淹れようかと思って」
「何か飲む?」と見上げて訊ねると、少し考えたアド君は「ではアヤと同じ物を」と返した。
「了解。じゃあ緑茶にしようかな~」
「その「りょくちゃ」とはこの料理と合うか?」
そう言って、アド君はまた袋?からにゅるりとお盆ごと中身入りの器を取り出して見せた。
「うわびっくりしたっ!その袋も魔法かなんか?」
「あぁ。「
「はぇ~・・魔法って凄いねぇ・・あ。これがさっき言ってたご飯?」
アド君の手元のお盆には素材不明の器に入った・・何だろ。とろりとした・・スープ?
「前にも似たような物を出したと思うが、野菜をくたくたになるまで煮て、濾した病人食になる。姉上が「これなら無理せずに食べられるだろう」と・・・」
言いながら、後半頬を染めていくアド君の様子から、既に
「あ、あ~・・ナルホド・・き、気を遣ってくれたんだね~」
「アハハ」と乾いた笑いで気まずい空気を誤魔化す私に、アド君も「うむ・・」と言葉少なに頷いて同意した。
―――っのおおおおおおうっ!!
既に、家族に、知られて、いるとはっ!
『次どんな顔して会えばいいんだぁぁぁぁっ!!』
本日何度目かの脳内パニック劇場。開幕っ!!
土下座したり暴れたりスコップで墓穴を掘ったりと忙しい頭の中ではありますが、アド君の前で醜態を晒したく無いので、血反吐を吐いても奇行は脳内で完結させます。
長年培ってきた擬態スキルが唸るぜっ!オタクなめんなよっ!!
「ありがとう。これは暖かいのと冷たいの、どっちがお勧め?」
「温かい方が美味いが・・器を湯で温めるか?」
「いんや。ここは文明の利器に頼りましょう!」
アド君からお盆ごとポタージュ的なお料理を受け取りまして、シンク横の作業スペースで耐熱の深皿に中身を移します。
ラップをしましたら、冷凍庫から炊いたもち麦ごはんのブロックを取り出しまして、一緒に電子レンジにGО!
レンジに頑張ってもらっている間にポットで緑茶を淹れたら、マグカップに注いでアド君に「はい。緑茶です」と手渡した。
「熱いから気を付けて・・あ、今テーブル出すね」
うっかりうっかり。
立たせたままなのが申し訳なく、急いで足を畳んだローテーブルを引っ張り出してラグの上に設置。
ささっと天板を拭いてから「どうぞ座って~」と着席を促す。
「これは・・このまま床に座れば良いのか?」
「うん。あ、座りづらい?椅子使う?」
座卓は慣れてないだろうと鏡台の椅子を示すも、アド君は「いや、構わない」とそのままラグの上に腰を下ろした。
「大丈夫そ?」
「あぁ。問題ない・・視界が低いので違和感があるが、直ぐに慣れるだろう」
「そっか。でも無理しないでね。椅子を使うテーブルが良ければ新しく買ったって良いんだしさ」
伝えながら『緑茶にはこれだろう』と、ひと口羊羹を包装されたまま小皿に入れて出す。
・・スナック菓子やチョコは今は控えていますんで、販売取引分は別として自分用は在庫を置いておらんのですよ・・
い、いーんだよっ!
小豆というか和菓子は他のお菓子より脂質が少なめなんだからっ!
アイスクリームやチョコやケーキなんかよりよっぽどダイエット向きなんだよっ!!
いいかい?
甘味の一切を排除したら気が狂う生き物って実在するんだよ・・そう。ここにね!
「はい。お茶請けにどうぞ~」
「ありがとう・・これは、どうやって食べるのだ?」
「あ、こっちから押し出すように力を入れたら反対側から出て来るよ。甘く煮詰めた豆を固めたお菓子なんだ~」
「成程」と頷いたアド君は早速羊羹を開けて袋のギミックに驚き。
ひと口食べると目をキラキラさせて「美味いな!」と喜んでくれた。
「お。気に入った?こっちの伝統的なお菓子の1つで「羊羹」って言うんだ~」
「「ようかん」・・歯触りが面白い菓子だな。なんとも繊細で、この「りょくちゃ」とよく合う」
「ね~。合うよね」と同意した所でレンジに呼ばれ、異世界料理ともち麦ごはんをトレイに乗せてアド君の向かいに座った。
「いただきます」と手を合わせてスプーンで器の中身を軽くかき混ぜ、ちょっと掬ってぱくり。
うん。少し甘めのお芋?のポタージュ?な感じ。
ちゃんとコクがあって美味しいです。
お茶碗に開けたもち麦ごはんもね。
この食感が良いよね。
もちもちぷちぷちで食べ応えがあるから好き。
歯で潰す感覚が面白くて延々噛んじゃう。
ポタージュ。もち麦。ポタージュ。もち麦。
そして時々緑茶。
ん~。お腹が食事で満たされて行くこの感覚・・好きぃ~
お互い無言で食べて、飲んで。
少しアド君を待たせてしまったけど、食事を終えて食器を片付けたらお互いのマグカップに緑茶を満たして。
改めて。ちゃんと話をするために。私は、アド君の正面で居住まいを正した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日です。