鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
「アド君。先に確認なんだけど、今体調はどう?怠かったり眠気があったりとかしない?」
先まで寝てた私と違って、アド君は起きて半日経ってるって言ってたしね。
眠怠い人を話に付き合わせるのは申し訳ないのでからして。
「いや。問題ない。寧ろアヤの魔力で満たされたこの部屋に居るだけで、体調が整って
「私の魔力ってアド君にそんなバフかけられるんだ?」
「「ばふ?」効果のことか?アヤの魔力は私にとって凝った魔力を排出する助けとなる。お陰で魔力操作が緻密になり結果、魔法制御と威力が上がった。他にも魔力排出を促す催淫効果もあって・・」
「え、待って。私の魔力って媚薬になるってこと?!」
それってすげぇ傍迷惑な存在じゃない?!
魔力増えたらしいし、これから先、引き籠って生きていくしかないんか?!
がびんっ!とショックを受けていると、アド君が「いや、そこまで気にする必要はない」と首を横に振る。
「私に対してそういう効果がある、というだけだ。他の者とは相性次第だから何とも言えないが、通常ここまで影響を受けることは稀だからな。問題無い筈だ」
アド君の説明に「そっか・・」と一瞬ほっとしたものの、アド君に催淫効果があるのなら、私の存在はどちらにしろ迷惑なのでは?
そう思い至ったら、ずんと気分が沈む。
落ち込みつつ、何とか声を絞り出して質問。
「あの、それなら私は・・アド君に、近づかない方が―「その必要はない」」
「いいのかな?」と続けようとした言葉は、アド君の有無を言わさぬ強い口調で止められた。
「え、けど・・」
「・・余程切羽詰まっていなければ、軽く疼く程度で済む」
そう言って、すっとテーブル越しに伸ばされた手。
視線で促され、上を向いた手の平にそっと自分の手を乗せた。
私の手をぎゅっと握り込んで「な?問題など無い」と。きっぱり言い切ったアド君に圧されて、こくりと頷く。
「えと・・はい」
・・そっか。触れても良いのか・・
『へへ。嬉し』
勝手に頬が緩む。
アド君も優しく微笑んでくれて、またしてもほわほわとした空気が辺りを包んだ。
「それで?何か話したい事があるのではなかったか?」
「あっ。うん。あのね・・」
一度触れ合うと離れがたくて、テーブルの上で手を繋いだまま思いつくままに質問する。
「どうしてこっちの世界に来れたの?」
「推測の域を出ないが・・地底湖の魔術陣によって渡って来た可能性が高い」
「何で
「恐らく飽和状態の魔力を排出する為に、
「どうして魔力が飽和状態に?」
「・・水竜の魔力を限界以上に摂り込んだ事で、魔力操作が制御不能に陥った。水竜討伐に必要な事だった」
「人魚の魔法薬って・・?」
「人魚は主に海に住む種族で女性しか居ないのだが、子を産むには繁殖期に他種族の雄から種を貰う。その雄は「種役」と呼ばれ、強制的に精を搾り取られて最終的に腹上死する。その精を多量に出させる薬をそう呼ぶ」
続けざまに疑問を投げたのに、アド君は嫌な顔をせずに答えてくれた。
受け取った情報を噛みしめ飲み下して、頭に馴染ませる。
うぅ~ん。情報過多・・
「・・・いろいろと納得だよ。でも、本当に竜と戦ったなんて・・無事で良かった」
触れている手を、両手で包んだ。
心配していた気持ちが伝われば良いと思って、ぎゅっと力を込める。
「アヤのお陰で、生き延びた。貴女と会うまで死ねない・・そう思っていたから、足掻けた」
私の手の上から、より広い手の平が包み込んだ。
思わず上げた視線が絡んで、熱を孕んだその眼差しにどきりとする。
「こうして今触れ合うことが出来て、私は幸せだ・・」
くい、と引き寄せられた手の甲に唇が触れて、ちゅ。と小さくリップ音が鳴った。
反射的に飛び出そうとした悲鳴が喉の奥で潰れてつっかえ、息が止まる。
慣れないスキンシップレベルに照れと羞恥でぷちパニックに陥り焦る私とは対照的に、アド君は余裕綽々で何だか悔しい。
こんな風に恋愛的な意味でリードされた経験が皆無の為、どういう態度を取るのが正解か分からなくて、場の雰囲気を変えようと急ぎ次の質問を口にした。
「あ、あのさ!これだけは確認しないとって思ったんだけど・・・」
勢いよく切り出したものの、内容が内容なだけに不安から言葉が尻すぼみになる。
握り合う手から視線だけを動かし、ちらとアド君を見ると優しい微笑みを返してくれた。
何だか、励まされたような気になって。
じんわりと灯った勇気を胸に、質問を続ける。
「・・アド君ってお貴族様なの?」
緊張と不安で一瞬の間が長く感じられ―・・
アド君の「違う」との返答に思わずほぅ~っと深い溜め息を吐いた。
「だ、だよね~。前聞いた時もそんな事言ってたし!いやさ。「王位」とか不穏な単語を聞いた気が―「正確には貴族ではなく王族だ」・・」
割り込むようにして告げられた内容に思考が停止する。
オウゾク・・おうぞく?・・王族っ?!
「え・・王族って・・あの王族?!国一番の権力者!王様の一族で合ってる?!」
「その王族だな」
「だな」っておまいはん・・・
ケロリと軽い調子で伝えられた重大情報に、がっくりと肩を落とした。
「うそつきぃ~・・貴族じゃないって言ってたじゃ~ん・・」
「嘘ではない。貴族と王族とでは責任や立場など何もかもが違うからな」
・・そうじゃない・・そうだけど、そうじゃないヨ・・
『まさかアド君が貴族の更に上の王族・・誰か、嘘だと言ってぇ~・・』
予想だにしなかった事実に打ちのめされて、視界が揺れる・・
いやいやいやいや。待って。マジ待って・・
え。何。私ってばリアル王子様にあぁ~んなコトや、こぉ~んなコトを・・
アカンアカン。ガチでヤバイて!
これはもうマジで
ぐるぐると混乱した頭で、今まで生きて来た中で一番ってくらい必死に思考を巡らせる。
最初は『腹を切って詫びを・・』なんて、マイナス思考が脳内を埋め尽くしたけど。
アド君の傍に居ない自分を想像しただけで、背筋が凍り頭を掻きむしりたくなった。
駄目でしょっ!死んでどーすんのっ!
今、ここで足掻かないとでしょ私っ!
絶対。絶対にっ!
面白おかしく。2人で一緒に、この先を歩むんだ!
責任の取り方は、今はどうしたら良いのかわからないけど。
アド君から身を引くってのは無し!あり得ない!
アド君にずっとこちら側に居てもらうことが出来たらワンチャン・・
でも異世界に家族が居るんだし、私の事もちゃんと認めてもらいたい!
使えるものは何でも使って、出来ることは全部やって!
それでもどうしても異世界側と衝突、決別してしまったその時は・・
一緒に、こちら側で逃げてくれるように頼もう。
取引で儲けた分、贅沢しなければ生きてけるだけのお金はある!
どうしても足りなくなったら遺産を使わせてもらおう!
父さんと母さんも、娘のこ・・こ・・。恋人の為、なら。許してくれるよね!
自分の中での方向性が定まった所で、アド君が繋いだ手にぎゅっと力を込めて来た。
はっとして視線を上げると、酷く不安そうに揺れる瞳と目が合って、息を呑む。
「アヤが貴族・・王族を面倒だと思っているのは理解している・・つもりだ。だが私は王位継承位こそ三位と高位だが、王である兄には既に王子が生まれているので、王冠を頂く可能性は低い。それでもアヤが安心出来ない。不安が拭えぬと思うのなら、私の王籍を外してもらうよう、王に具申すると誓う」
「あ、アドく―「だから!」」
突然大きく割り込んだ声にビクリと肩が揺れたのを怯えと捉えたのか、握る手に更にぎゅうと力を込め、必死な様子で懇願してきた。
「どうか・・どうかこの先もずっと・・私と、共に居てくれないだろうか・・」
「アド君・・」
ただ傍に居たい。
そう願う気持ちが自分と同じなのだと知って、胸の中心からじんわりと歓喜の熱が広がる。
「もちろん・・勿論だよアド君。私たちは生まれた世界も、人種も、立場も。何もかも違うけど・・それを一緒に居ない理由にはしない。したくない」
「アヤ・・」
「色々と乗り越えないといけない事が沢山。本当に、山のようにあると思う・・けど」
今は笑おう。
あり得ない出会い方をして恋をした、この奇跡に精一杯の感謝を込めて。
「アド君と一緒に居られるなら私、何だって乗り越えちゃうよ」
笑顔で言い切ると、アド君は不安から一転。感極まった様子で眩しそうに目を細め、震える唇で「ありがとう」と感謝を口にした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日です。