鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
低いテーブルの上に上半身を投げ出し、今にも溶け出しそうな様子で脱力している愛しい婚約者に、そっと声を掛ける。
「すまない。気を揉ませてしまったな」
「あ~。いんや~。謝らないでくだせぇ・・ほら。私ってば異性にモテるタイプではないし?なのに更にアド君より一回りも年上だなんて「バイバイされてもしゃーなし」と勝手にマイナス思考に走った自業自得と言いますか・・」
尚ももごもごと言葉を続けようとしたアヤに「その事だが」と口を挟んだ。
「我が国では近年異種族婚も珍しくない為、年齢差は重要視されない傾向にある。故に、外見が人種基準の年齢では噛み合わない事も多い」
「へ~」
「こちらでは年齢差を問題視する者が多いのか?」
「ん~・・。個人的には互いを想い合ってるのなら、歳の差を気にする必要ないって思ってるよ?でも世間一般の大多数の人は重要視してる・・というイメージが強いかな~?」
「そうか」
「アド君は気にしてないんだよね?」
未だに不安を払拭できぬようで、私の反応を窺う視線には怯えの色が交じっている。
これは、由々しき事態だ。
アヤに不安を齎しているのは彼女自身の劣等感だと察するが、それは私からの好意に疑問を持ってしまうほど強いもののようだ。
彼女を「変えてみせる」などと、傲慢な事を言うつもりはない。
ただ、もっと私に愛されていると自覚して、決して離れる事はないと・・
信頼してもらえるようになりたい。
その為に私は、唯只管彼女に愛を注ぎ、守り労わるとしよう。
その結果として、彼女の劣等感が薄れる事もあるかもしれない。
かつて幼い私が、家族や傍仕えに守られ落ち着いたように。
そうなったら良いと、強く思う。
返答するまでの短い間に決意を固め、アヤに安心してもらえるように微笑を返す。
「勿論気にならない。アヤの年齢が私より上だろうと下だろうと、私は貴女だから好いている」
膝の上で固く握られていた手を、そっと両手で包んで持ち上げた。
「ふぇへっ?!」
身を固くして妙な声を上げた彼女に、言葉を用いて好意を示す。
「私が至らぬばかりに、アヤを不安にさせてしまって申し訳ない限りだ。今後はそんな思いをさせる事がないように努めよう」
「へ?いや、至らぬと言うなら私の方がっ?!」
すり、と。包んだ手の甲を親指で擦ると、アヤは飛び上がらんばかりに驚き、言葉を失くして頬を染めた。
目線が下がってしまう前に、じっと視線を絡めて留め置く。
「私が、どれだけアヤを想っているか・・少しずつでも伝えさせてくれ」
「あ・・う・・」
じわじわと赤みを増していく婚約者に、胸の内から溢れる熱よ届けと願いながら言葉を紡いだ。
「アヤの優しさに、私がどれだけ救われたか・・寄り添い労ってくれた事が、どれほど励ましとなったか、貴女は気付いていないだろうと思う・・」
初めて魔法を正しく発動出来た、あの時・・
凝った魔力が原因で苦しんでいた、あの瞬間・・
この手で、優しさを与えてくれた。
感謝と、愛しさを込めて。アヤの手の甲に唇を寄せる。
ちゅ。と小さく音を立て、少しばかり長い口付を終えると。視線を上げた先でアヤは赤々と染まり切っていた。
戦慄く、僅かに開いた唇と、潤んだ瞳。上気した頬に心臓をきゅうと絞られたような感覚に陥り、思わず「可愛い」と言葉が零れる。
「ひぇ・・」
「愛しい人。私の唯一。どうかこの私の愛を―「す、ストップストップ!」」
溢れる想いのままに紡いだ言葉は、アヤのもう片方の手で口を塞がれ途切れてしまった。
しっとりとした手の平で口元を覆われたまま、僅かに首を傾げてみせる。
「あの。もう分かった、から・・どうかそのくらいでご勘弁を・・」
汗を掻き、赤い顔で視線を合わせようとせずにそう言ったアヤの、年下のような狼狽ぶりに嗜虐心を擽られた。
私の愛を示すには到底足りえないが、可愛らしい顔を見せてくれた事に免じて今は引き下がるとしよう。
軽く頷いて了承を伝えると、抑える手の圧力が緩んだ。
その隙に、舌を伸ばしてぺろりと手の平を舐める。
うむ。少しばかり塩味。
「ひぁっ?!」と驚きの声を上げて引き戻した手を胸元に抱えるアヤに、意識して優雅な笑みを披露した。
「了解した。これ以上は言うまい。今日の所は、な?」
「~~~っ!!アド君っ!楽しんでるでしょ?!」
「あぁ。とても」
アヤとの直接交流に浮足立っている自覚はある。
心からの肯定に、何か言いたげだった彼女は突然がっくりと項垂れて、小さく「後で覚えてろよ・・」と反撃の意志を示した。
ふむ・・・それは、何とも楽しみだ。
そう思い。期待を込めて笑みを返した。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
『こんっのっ!』
ニコニコ笑顔のイケメンが小憎たらしくて腹立たしいっ!好きっ!
そのイケメンフル活用での満面の笑顔ヤメろや!
何だよ!コロす気かっ!
ドキドキさせてコロす気か?!
さっきからよー!
心臓がばっくんばっくんで汗もヤバイしよー!
何か色々キャパオーバーです!
イケメン王子様ムーブはマジ、程々でお願いしますっ!!
死ぬんで!下手したら死ぬんで!精神的にっ!
くっそーっ!
その余裕綽々なツラ、直ぐにグズグズにしてやっかんな!
覚えてろーっ!(ノД`)・゜・。(戦略的撤退!)
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
さてはて。そんなこんなで陽は登り。
新しい朝が来ましたわおはようございますっ!
ずっと起きててお腹が空きましたねって事で、なんとアド君同伴で早朝コンビニお買い物なう。
う~ん・・どうしてこうなった・・
いや、最初は「待ってて」って言ったんだよ?
でも「外に出てみたい」って懇願されちゃってさ・・
まぁ、早朝って事で、人の少ない時間帯だし、いいかな~って・・
『思った私が軽率でした・・』
コンビニ内でちょっと目を離した隙に、夜のお仕事上がりらしいお化粧濃いめのおねぇさんに絡まれてるアド君を発見です。
「ねぇねぇ、時間あるんでしょ?アタシめっちゃ暇してるし、これからどう?ばっちりサービスするからさ~」
「結構だ」
「いいじゃん。そんな事言わないでよ~。てかお兄さんめっちゃ日本語上手いね!勉強できる人ってステキ!コスプレも凄い本格的だし~」
なんて言いながら、七分袖のカーディガンから伸びる白い腕をアド君の腕に絡めようとして―・・するりと躱されたおねぇさんは、勢い余ってたたらを踏んだ。
「ちょっと!」と、非難を上げる声をまるっと無視したアド君は、私に気付くと隣にぴたりと寄り添い、腰の上辺りに手を添えて「行こう」と移動を促す。
アド君の誘導に従いながら、私も自然を装って「買うの決まった?」なんて、話しかけた。
「あぁ。同じ物で頼めるか?」
「はいな。じゃあこっちだよ」
移動を優先しようとするアド君の意図を汲み取り、近くのおにぎりコーナーに向かう。
そこに背後から浴びせられる声。
「なによ!そっちよりアタシの方が絶対イケてるじゃん!目ぇ悪いの?!」
それを聞いて、ピタリと歩みを止めたアド君に「いいから、行こうよ」と声を掛けた。
けど、ちょ。この人ビクともしないな!?
結構強めに押したのに、根っこでも生えたか?ってくらいに動かないアド君に焦る。
と、流れるように腕の中に庇われて『あれ?』と思った時には頭上から冷え冷えとした声が聞こえてきた。
「その口、閉じろ」
瞬間、店内の温度が一気に下がったような感覚に襲われる。
良く解らない圧力のような何かに、体が緊張で強張った。
しんっと静まり返った店内に、広告の音だけが空虚に響く。
永遠のような時間が流れて、「行こう」と促すアド君の声に、ようやく体が動きを取り戻した。
そのまま、何も買わずにコンビニを出る。
互いに無言のまま少し歩いた所で、アド君が「すまない」と謝罪を口にした。
「大人しく待っているべきだったな・・」
しゅん、と申し訳なさそうな様子に、私は慌てて「そんな事ないよ!」と否定する。
「さっきのは絡んで来たあっちが悪いんだし!私こそ、すぐに気付かなくてごめんね?フォローしないといけなかったのに・・」
「いや、この恰好が目立つのを失念していた私が・・」
そこから互いに「いやいや私が」と自分の所為だと譲らずにいた所、私のお腹がきゅう~と鳴って、言い合いは中断。
「・・別のコンビニ行こっか」
「・・そうだな」
うむ。腹が減っては何とやらです。
反省と改善案は、お腹を満たしてから考えるとしましょう。そうしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。