鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
泣きそうな顔で微笑む愛しい婚約者を、今すぐこの腕に抱きしめたい。
本当はそのまま人目の無いところへ連れ込んで、延々と睦み合っていたい・・
だが、忙しい合間を縫い、こうして3人で面会してくれた兄姉の苦労を蔑ろには出来ない。
心配を掛けてしまったし、兄姉に謝意を伝えたい気持ちもある。
故に
気付いたアヤは軽く頷くと「あの、こちら宜しければお納めください」と浅い箱に詰められた焼き菓子を差し出す。
「アディードさんと選びました。凝った物でなくて恐縮なのですが、お茶請けにでもして頂けたら・・」
「おぉ。これは有難い。以前頂いた冷たい菓子も大変美味であったからな!これも直ぐに食すとしよう」
そう長兄が答えると、横から鋭利な雰囲気の侍従が現れて一礼し、箱を下げた。
そして直ぐに茶と、小皿に盛った菓子を各々の前にサーブする。
私とアヤの分はこちらから差し出した盆に乗せてもらい、全員の前にカップが揃ったところで長兄が最初に菓子を口にした。
「ほぅ。なんとも美味い。香ばしくもしっとりとして・・しかし重くはない・・」
「こちらは軽い食感ですが、香りが豊潤でお茶との相性が最高です」
「あら。こちらの黒いものは「ちょこれいと」の香りが・・まぁ!やっぱり!「ちょこれいと」風味の焼き菓子!なんて素敵なんでしょう♪」
口にした菓子を絶賛する兄姉に、アヤは緊張が解けてきたようで、強張っていた肩が少し下がる。
アヤは店で菓子を選ぶときに「コンビニ菓子を王族に出すのは果たして・・」と随分悩んでいる様子だったが、私に言わせてもらえればこちらの食べ物はどれもこれも本当に美味なので「アヤの味覚を信頼しているので問題ない」と伝えた。
美味ければ価格なぞ気にする必要はないのだ。
それに、毒など害ある物を判別する魔道具も使用している。
余程突飛な物でない限り、問題にはならないだろう。
実際、侍従が皿に盛ってくれた菓子を口にするとバターの香りが強く、最初に一瞬サクッとするが、舌で潰せるほど柔らかく・・素晴らしく美味い。
・・何という菓子なのか、後で必ずアヤに確認しよう。
和やかな茶会といった空気の中、アヤがゆっくりとカップを置き、徐に「1つ、お話ししなければならない事があります」と言った。
「何だろうか?」
長兄が続きを促し、皆がカップを置いて話を聞く姿勢となり暫し間が開く。
言い淀み、落とした視線を彷徨わせていたアヤは意を決し顔を上げると、震える唇を開いた。
「・・私の、年齢について、です。あの・・アディードさんとはかなり差があるのですが、問題になりますか?」
「アヤ。それは・・」
気にする必要はないと言ったが、やはり信用には足らなかったか・・
「ごめん。やっぱり確認しておきたくて」と、申し訳なさそうに眉尻を下げたアヤに、何も言えなくなる。
一方、問われた長兄は顎の髭を撫で「ふむ・・」と何やら思案した後で質問を返した。
「差があるというが、如何ほどかな?」
予測していたであろう問に、アヤは真っすぐに長兄を見つめてはっきりと答える。
「12です。私は、今年30になりました」
明瞭な声とは裏腹に、膝の上でぎゅうと握られた拳が震えていた。
アヤの不安に思う気持ちに寄り添いたくて、固く握られた白い拳にそっと手を重ねる。
瞬きの間空気が固まり、直後に姉の「なんて事でしょう!!」という甲高い叫び声があちらとこちらの部屋を揺らした。
「魔女さま?!いいえアヤさんっ!その若さの秘訣を是非あたくしにご教授くださいませっ!」
「姉さん・・」
「クリス、お前・・」
兄と双子の弟からの呆れた眼差しに、姉は「だって!」と強い口調で続ける。
「よくよく見てくださいましっ!丸いお顔につるりときめ細かいお肌!どう見繕ってもあたくしと同年齢か少し下ですわよ?!」
「まぁ、俺も年上とは思わなかったが・・」
「それは確かにそうですね。俺もてっきり年下だとばかり・・」
アヤの実年齢に驚き、取り乱して騒ぐ姉に触発される形で言葉乱れる2人の兄。
そんなあちらの様子にこちらも驚き、声を掛けられないでいると手の平の下でアヤの手がゆるりと開かれた。
ちら、と横目で確認すると、唖然としたアヤがぽつり呟く。
「憂いには、ならない?」
直後、小さな声を耳ざとく聞きつけた姉がこちらにぐるんっ!と顔を向けて「勿論ですわ!」と声を上げた。
「長命な種族の血が混じる等で見た目が若い人種など沢山居りますもの!アヤさんがそこまで不安に思う理由は存じませんが、わたくし共からすれば羨ましいと思いこそすれ、厭うことなどあり得ませんわ!」
鼻息荒く捲し立てた姉に、兄2人も同調して言う。
「そうですねぇ。若々しいのは良い事です」
「うむ。余りにも幼ければ問題になるだろうが、アヤ嬢の場合はアディよりやや年上、か?と思う程度であるしな。歳の差については気にせずとも良かろう」
同意して、大きく頷く姉を見たアヤは漸く安心出来たのか、ほぅ~と大きく息を吐いた。
労わりの気持ちから、アヤの背中を優しく撫でる。
しかし私は、長兄の言い回しから察した憂いを確かめずには居れず、口を開いた。
「ゼクス兄上・・別の問題があるのですね?」
「そうだ」
即答した長兄に「え・・」と固まったアヤを励まし、安心させる為に微笑んで頷くと、視線を戻して予測した答えを伝える。
「アヤの身分・・後ろ盾、ですか?」
殆ど確信を持って口にした内容に、長兄は「うむ」と首肯した。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
「身・・分?」
歳の差ばかりに気を取られていた私は、イケオジ国王様の頷きにカチリと固まる。
考えるまでもなく、それは当然の話だ。
だって、アド君は王族。現国王の実弟。
本人が望まないとしても、その生まれはダントツに高い位地にある。
そう。
思い至った無視できない問題に、喉が引き攣ってひゅっと鳴った。
滲む嫌な汗はしかし、国王様の次の言葉で落ち着きを見せる。
「若しくは後ろ盾だ。なに。安心してよいぞアヤ嬢。貴女は既に我が国に十分な利益を齎しているからな。その功績を持って侯爵家の養女になるなど、やり様は幾らでもある」
「・・功績、ですか?」
私、何かしたっけ?・・え。もしかしてでっち上げ?
それは・・流石によろしくないのでは?
功績とやらに身に覚えが無く、まさか『権力による捏造か?』と眉間に皺が刻まれる寸前、
「先ずは、「るー」の販売ですわね」
「え。ルー?・・カレー?」
「うむ。料理人による研究も進み、使われている素材も粗方判明した。様々な香辛料が使われていたが、何とその殆どが我が国に存在したことが分かったのだ」
「主に薬として産地のみで消費されていた物ばかりだったのですが、調味料として使える事が分かりましたので、新たな事業として複数の領地が生産に乗り出しました」
「つまり、アヤさんの「るー」が切っ掛けで、我が国に新たな産業が生まれたのですわ!」
長男イケオジ国王様、次男イケボ騎士、そしてお姉さまの順で説明してくれたけど・・
いまいちピンと来ずに首を傾げた。だって私はカレールーを売っただけだぜ?
「次に甘味・・「ちょこれいと」の販売ですわね!」
何故かドヤ顔で胸を張るお姉さまにますます首が傾いでいく。
えぇ・・・高々チョコで、今度はどんな影響が?
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。