鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
ショコラモンスター・クリスこと、アド君の実姉である
「「るー」で作られた「かれー」は貴族を中心に絶大な人気を博しておりますわ。けれど、刺激的な香りを避ける方々が一定数いらっしゃいますの。主に女性や、辛い物が食べられない子どもたちですわね。「かれー」そのものが苦手でなくても、お茶会などの女性中心の社交場には少々似つかわしくない、という事もありますわ」
「成程・・」
『ぽわわん』と想像してみる。
お庭のガゼボ的な場所で扇子片手に「おほほ」と笑い合う淑女たちからカレーの匂いがしたら・・・・
うん。それはちょっと違うね。
「そこで「ちょこれいと」ですわ!深く豊潤な香りに蕩けるような甘さ・・その甘さも控えめから濃厚な物まで選べるとあって、女性だけでなく一部男性の方々にも大好評でしてよ!」
ふんす!と鼻息荒く胸の前で両拳を握るお姉さまの横で、イケボ騎士が頷いた。
「お酒や煙草と一緒に楽しむらしいね。色々と試して、好みの味と香りの組み合わせを見つけるのが流行ってるって、騎士隊でも話題になってたよ」
「無論、それだけではないぞ?実は外交の場でも非常に役立っていてな」
イケオジ国王様によると、チョコを使って色々なアレンジスイーツを作り出し、外交でのお茶会や食事会で出したところ、これが大当たり。
チョコを切っ掛けに様々な国や種族と有意義な交渉が進められ、今では「オレグラント王国にチョコあり」的な感じに国外で認識されているらしい・・
えぇ・・
何時途切れるか分らん異世界からの輸入品を、そんな大事な場に出して大丈夫なんか?・・
てかチョコ人気すげぇな。逆に引くわ。
チョコのポテンシャルに引いていると、お姉さまが「実は「ちょこれいと」についてもご報告がありますの!」と素晴らしい笑顔で言った。
「「ちょこれいと」の元となる素材は豆・・植物の種子と窺っておりましたので、「かれー」に使われる香辛料と合わせて広く捜索していたのですが、なんと少し離れた国で似た物が見つかりましたの!」
「えっ。それは凄いですね!なら私はもうお役御免ですか?」
チョコを売る必要が無くなるのか?と思ってそう訊いてみたら、お姉さまは「いいえ、とんでもない!」と立ち上がる勢いで否定する。
「素材は見つかっても「ちょこれいと」への加工はまだまだ研究途中ですもの!まだ暫くの間は買わせて頂きたいですわ!勿論、ゆくゆくはわたくし共の手だけで「ちょこれいと」を作れるようになるのが一番なのですけれど」
「うむ。見つかったという素材も、入手するのに中々手間が掛かっていると報告を受けている。入手方法や加工の研究が進み、ある程度安定して生産出来るようになるまでは、アヤ嬢と取引は続けてさせてもらいたい」
「はぁ・・成程です」
考えてみれば『そりゃそうだよね』と納得できる話だ。
こっちのチョコは農家さんに始まり、流通に携わる人やパティシエ(ショコラティエ)。食品企業が何十年と研究と研鑽を積んで、めっちゃ頑張ってくれたから、今はある程度安価で美味しく食べられるんだもんね・・
そんな簡単に再現されちゃったら、チョコに関わって来た方々の立つ瀬が無くなっちゃいますがな。
『食品の開発って一朝一夕には出来ないもんね!』
内心で深く頷いていると、隣で静かに話を聞いていたアド君が驚きを隠せずに言った。
「アヤは、姉上を通じて菓子の販売までしていたのか?」
「うん。なんか成り行きでね」
「「るー」に加えてとなると、苦労も多いのではないか?」
「まぁ、そこまでは。品物を右から左に動かすだけだし・・でも確かに、ちょっと部屋が手狭になったりとかは、あるかなぁ・・」
ちら、と部屋の奥の方に視線を向ける・・
そこでは段ボールに荷物を詰め込んで無理矢理開けた空間がぽっかりと。
はい。カレールーとチョコの在庫置き場ですね。
今は空の段ボールが山と積まれております。
実は地味にこの段ボールの処理に困ってるんだよね。
嵩張るし。この辺では段ボールの回収は毎週じゃないんだよ。
「色々とアヤ嬢には負担を掛けてしまい申し訳ない限りです。しかし、今の話ですと品物の取引量を今以上に増やすのは難しい・・という事ですよね?」
「え?足りてないんですか?」
イケボ騎士の質問に驚いて訊ね返すと、その隣でお姉さまが申し訳なさそうに「ええ」と頷いた。
「先程話ました通り、「かれー」と「ちょこれいと」。どちらも人気が天の光に届くが如くといった勢いで・・可能ならば5倍・・少なくとも今の2倍の数をお願いしたいですわ」
お姉さまの言葉に思わず「ひぇ」と驚愕の声が漏れる。
マジか。どんだけ人気なんだよカレーとチョコレート!
「アヤ嬢。どうだろう。増量は可能かな?」
「えぇっと・・」
イケオジ国王様からの確認に、即答出来ずに言い淀んだ。
う~ん。やってやれないことは無い。けど・・
正直、そろそろメンドクサイが勝ちそうなんだよなぁ・・
『十二分に稼がせて頂いたし、まるっと全部どっかに丸投げしたい・・』
なんて事を考えていると、アド君が「アヤの為に、更なる功績が必要という事ですか?」と国王様に訊いた。
「いやいや!功績は既に十分揃っている」
「そうなのですか?食品の取引と産業の発掘だけでは、不足に思えますが・・」
そう首を傾げるアド君に、3人は鏡の向こうで意味深に目配せし合い・・
直ぐに説明役を引き受けたらしいイケオジ国王様が、口元をにんまりとさせて言う。
「アディ。アヤ嬢の功績はこれだけではないぞ?一番の功績はな、「紙の製造方法を伝えた」事だ」
「なっ?!」
腰を浮かして驚きに声を失ったアド君は、バッ!と私に振り向いて肩を掴むと、揺さ振りそうな勢いで捲し立てた。
「何故そんな危険な事を!!国の最重要機密に当たる情報を他国に明かすなんて、自殺でもするつもりかっ!!」
大きな声に反射的に首を竦めたけど、私を心配しての事と解っているので怖くはない。
逆に、興奮気味のアド君を落ち着かせようと、ワザとあっけらかんと口を開く。
「平気だよアド君。こっちでは子どもでも知ってる事だし、全く問題ないない!」
「・・は?紙の、製造方法・・が?」
「うん。学校の授業でも取り扱うくらいだし、別にいいかな?って」
キレイな目を真ん丸にしたアド君は、浮かしていた腰を椅子に戻して深々と息を吐いた。
「・・なんて、非常識な・・」
「ま、世界が違うんだから仕様がないね!」
「・・はぁ・・懐かしいやり取りだ・・」
「ね~?」
確かに。出会って直ぐの頃にも似たような会話をしましたな!
「思えば遠くに来たもんだ」とは、こういう時に使うのかな?
『まさかの行き成り「異世界交流」だもん。そっから本当、色々ありましたワイ』
流れで、ここ数か月の事を脳裏につらつらと思い出し描く。
鏡越しに出会って、あんなことやそんな事があって。
命を救われたりお狐様を譲り受けたり。
離れてる間にこっちの世界にもファンタジーが実在するんだと知ったり・・・
そこまで思い出して至り、思わず「あ」と声が出た。
「どうした?」
「いや。ちょっと待ってね。少し考える」
声を掛けてくれたアド君に一言断って、自分の思考に沈む。
そうだ。そうだよ!
あるじゃん!取引まるっと引き受けてくれそうなところが!
それに後ろ盾の件も、ひょっとしたらこっち側の国として何かしら動いてくれる可能性も・・
「ある・・かも?」
顔を上げ、隣のアド君。次いで、口を挟まずに待っていてくれた鏡の向こうのお三方に視線を巡らせ・・
背筋を伸ばし、言葉を紡ぐ。
「幾つか、ご相談したい事が」
自分の中でも纏まり切っていない話を根気強く聞いてくれたアド君とそのご家族は、最後にこくりと頷いてGOサインを出してくれたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。