鏡の国の変態王子様 ~アラサーオタクな私の鏡。繋がった先は異世界でした~ 作:もすもす。
一日でも早く日常が戻ってきますように。
レトロなドアベルがカロロンと鳴って、背後でドアが閉まると直ぐに「いらっしゃ~い」と渋い低音ボイスが出迎える。
「あら!ヨリちゃん?!まぁまぁ!とんでもなくスッキリしちゃって!」
「こんばんはです。黒峰さん」
いつの間にか呼び名が頼子ちゃん→ヨリちゃんになるくらい頻繁に通わせて頂いている喫茶「
またの名を「総合異能互助組合第10区。8番支部」に、私は足を踏み入れた。
異世界面談を終えた日の夕方。
夕暮れ時の店内はいつも通りに落ち着いたコーヒーの香りと、甘い焼き菓子の気配を優しく溶け合わせて心地よい雰囲気を漂わせている。
軽く店内を見回すと、人影はなし。
都合の良い状況だと内心頷いた所で、オネェな店長がカウンターの向こう側で頬に添えた手の小指を立てて言った。
「でもちょっと急に落とし過ぎじゃない?霊力がまた増えてるし、無茶したんじゃないでしょうね?」
「いえいえ。そんな無理は・・・」
答えながらふと思い至る。
『あれ?・・丸1日以上ぶっ通しでのセクロスは無茶になる・・かも?』
思わず目を泳がせる私に、オネェさまが声を低くして「ヨリちゃ~ん?」と圧を掛けて来た。
一瞬で分が悪いと判断した私は慌てて来店目的を口にする。
「そ、そうそう!今日は大事な相談があって来たんですよ!今お時間ありますか?!」
「相談~?」
じとーっとした目で問い返され、こくこくと高速で頷いて必死さをアピール!
数秒間チベスナ状態を維持したオネェさんは、前傾姿勢を解除して『しょうがない子ねぇ』と言った感じでふうとため息を吐くと「時間は大丈夫よ」と腕を組んで答える。
「但し。相談事の後で最近の生活について、みっちり聞かせてもらうわよ」
「・・ぅひぇい・・」
情けない返事をする脳内は「言いにくい事をどう伝えよう」と「心配が有難嬉しい」のと、単純に「オネェさまの圧が怖いンゴ」といった感情が複雑なマーブル模様を描いていた。
そんなこんなでオネェさまの了承をもらい、外で待ってもらっていたアド君を呼び込む。
突然現れたどう見ても外国人な青年を前にしても、オネェさまはオネェさまだった。
アド君を紹介するまでは。
「・・ごめんなさいヨリちゃん。アタシ、ちょっと疲れてるのかしら・・聞き間違えちゃったわ。もう一度ご紹介頂ける?」
気苦労を掛けている事を申し訳なく思いながら頷いて、一瞬前に伝えた事を再度伝える。
「こちら、異世界からやってきたアド君です」
「・・ヨリちゃんの婚約者?」
「そうです」
「・・王族って聞こえたけど・・」
「現国王様の実の弟さんです」
「・・・一瞬だけ、ちょっとごめんなさいね」
そう言って、オネェさまはふらりとバックヤードに消えた。
「・・アヤ、何か問題が?」
こてりと首を傾げて問うアド君に「いや~・・多分そういうのじゃないと思う」と返して、立ったままなのもどうかと思い、カウンターの席に並びで座りオネェさまを待つ。
3分程して、オネェさまが戻って来た。
パリッとした佇まいだけど、隠しきれない疲れが目元に現れている・・マジ申し訳ない。
「お待たせしてごめんなさいね?改めて、ようこそ地球の日本へ。オレグラント王国からの来訪者さん。アタシは異能力互助組合、第10区8番支部の支部長を任されている黒峰裕二郎よ」
「オレグラント王国王弟、アディード・オレグラントだ。「アド」と呼んでくれて構わない」
アド君が立ち上がり、カウンター越しに、互いに右手を差し出してシェイクハンドして(意外な事に異世界でも握手は友好の意味だった)オネェさまも呼び名を言う。
「アドさんね。アタシの事は「黒峰」と苗字で呼んでくださいな。それと、アタシの対応で不快に思わせていたらごめんなさいね?来訪者の方々には最低限の礼儀は尽くすけど、相手の立場によって態度を変えないのが組合の方針なのよ」
眉を下げて申し訳なさそうに言うオネェさまに、アド君は頷いて「構わない」と答えた。
「こちらとしても大仰な態度で接せられるよりは今の方が好ましく思う。そちらを困らせるつもりもないので問題は無い」
「あら、ご理解頂けて嬉しいわ♪話が解る方は大歓迎よ~」
「そうか。なら警戒度も下げてくれると有難い。先程から首の後ろがピリピリして落ち着かん」
「うふふ。本当に話の解る方だわ♪でもごめんなさいね?アタシもこんなに強い人が近くに居て落ち着かないのよ~」
「・・慣れるしかないという事か」
「そうね~。お互いに、ね?」
初対面で互いの見えない所を理解しているような会話に、アド君の隣で疑問符を浮かべて首を傾げる・・
魔法とか異能力が絡む話かな?
『だとしたら私にはちと難しい話だ・・』
何だか疎外感を感じて『しょも・・』としていると、オネェさまが「何はともあれ、先ずはお祝いね!」と明るく宣言した。
「ヨリちゃん、アドさんと婚約したのよね?!なら組合として組合員のお祝いをするのは当然だわ!勿論、友だち個人としてもね♪」
「え。あ、ありがとうございます」
驚きペコリと頭を下げると、オネェさまは益々にっこりとして言う。
「相談事はお茶の後でも大丈夫かしら?」
「それは、はい。大丈夫です」
「なら良かった♪そうだわ!ケーキは低カロリーのものもあるけど、折角だしがっつり目に行っちゃう?」
甘い誘惑に思わず目を輝かせると、こちらが何か言う前に「うふふ♪お祝いチートデイね!」とオネェさまは楽し気にお湯を沸かし始めた。
うむ。怖いくらいに体重が落ちた後なので、少しくらい食べても問題ない・・筈。
リバウンド?・・はて。ちょっと知らない言葉ですね・・
警鐘を鳴らすイマジナリー自分を叩き伏せて、オネェさまの「飲み物は何になさいます?」との質問に「甘めなすっきりフレーバーのお任せで!」と元気に答える。
「アドさんは何が良いかしら?」
「・・「こーひー」で頼む」
「あら。コーヒーをご存じ?味はどんなのがお好みかしら?酸味が強いの、渋いの、甘めやコクが深いのと色々あるわよ?」
「ではクセがなく、飲みやすい物でお勧めの物を」
「は~い。了解よ♪」
そうして私とアド君の前には可愛らしくデコられた特製ケーキ盛り合わせと。
ほんのりお花の香りがする紅茶と湯気立つコーヒーがサーブされてきた。
「表にお休みの看板も出したし、アタシも休憩タイムにしちゃう♪一緒に座ってもいいかしら?」
ちら、とアド君に視線を向けて問うと頷いてくれたので、了承と受け取り「是非に」とテーブル席に移動した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の予定です。